歌うすずめとクロツノ魔王

花月夜れん

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魔法の学園

娘と父

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「我が娘ではないな」

 着いた先で黒髪の白い角を持つ男から投げかけられたのはそんな言葉だった。

「だがロウはそこにいるではないか」

 静かだけど威圧感がするその魔人はヨウへと視線を向けた。

「スズはどこに行った? この場所を探したが見当たらなかったぞ」

 そうヨウに問いかける。

「――すずは……」
  
 ヨウが話そうとした時、リーンが前に出た。彼女の頬には冷や汗が流れていた。

「私達はここにいた者達の――、仲間を救う目的で参りました。テト様はどこに」
「ロウ、スズはどこだ?」

 男は取り合うつもりはないようだ。

「すずはここにいる。ほら、父さん。よく見て」

 私の前に立ちながらヨウが答えると、魔人は目を閉じた。

「そうか、連れていかれてしまったのか。愚かな娘だ。こちら側にいたからだろうな。しかたあるまい。興味を持つなと言っておいたのを聞かなかったのはスズだからな――」
「あの、テトさんは、無事なんですか?」

 この前見た魔人のように怖い感じがなくて、私は聞いてみた。

「スズ――。お前はまた、……戻ろう、我の記憶まで改ざんしようとするか、――――神を名乗る者は」
「待って下さい! テトさんは」
「ここにいた人間は生きているならすべて牢の中に自分から入っている」

 魔人は冷たく言い放つ。まるで私から遠ざかろうとするかのように。

「我は続きをするだけだ。欠けた駒は拾ったからな。行くぞ、ジョーカー出ろ!」

 大きな窓の外に奇妙な獣が現れる。

「ロウ、お前は戻らないのか?」

 振り返りヨウに話しかける魔人の目は優しい。

「ボクは戻れません。すずがここにいると言っているから」
「その気持ちは神が植え付けた偽の記憶のせいであってもか?」

 ヨウが首をふり私の顔を見た。彼の切なそうな顔を見ると、悲しくなってしまう。ヨウが見てるのは私じゃないすず。

「すずはすずだから」
「……子を捨てる国だというのに」

 そこまで言うと、魔人は獣の上に乗った。

「娘は我が取り戻す。魔王選定の時は近い。いくぞ」
「はい」

 窓の外にもう一人、ヨウみたいな黒色の角の魔人がいた。
 赤い、テトみたいな髪色の男の人だった。でも瞳の色が違う。緋色の目が真っ黒に染まっていた。それに角もある……。
 けれど、ドキンと心臓がなる。あれは、あの人だと誰かが言っている気がした。

「今度のヤツの選んだ娘は失敗のようだな。恐ろしい力をまったく感じない。我らの領土、大きく増やさせてもらうぞ」

 ヒーーンと馬のいななきに似た声をあげ大きな翼で獣は飛び立った。

「なんだ、アイツ」
「怖くて何も出来なかった……」

 クランと結愛がハァハァと必死に息をしていた。
 リーンとイソラはこくりと頷きあい、動き出した。

「ヨウ、すず、申し訳ないのですが、牢の場所はわかりますか?」
「ボクが覚えてる」
「教えてもらえますか?」
「……わかった」
「鈴芽君はここにいるかい?」
「大丈夫です。テトさんの無事を確認しないと」

 二人は私が捕まっていたことを知ってるから、気を使ってくれているんだろう。だけど、いまはあの時みたいな何の力もない私じゃない。麻美と向き合える自信を皆からもらった。

「ヨウ、もし怪我をしてる人がいたら、お願い」
「なんで、すずがそんなこと」
「お願い」
「……わかった」

 麻美も結愛も出来ないなら、私がしないと。だって、私達、三人で『SAY』なんだ。あの日、誓った。三人で一番になろうって――。それに私、麻美の歌も、結愛の歌も、大好きなんだ。だから三人でもう一度戻りたい。あの光の中に――。
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