歌うすずめとクロツノ魔王

花月夜れん

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魔法の学園

失敗?

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 前に見たピアノの前を通る。形は違う。でもどうすれば音がなるか何となくはわかるのに、弾ける気がしない。
 じっと見ているとイソラが不思議そうに聞いてきた。

「すず? ピアノがどうかしたのですか?」
「あ、ごめんね。向こうでもピアノ弾いてたんだけど、向こうのと違うみたいで、弾けなさそうだなぁって少しがっかりしてたんだ」
「まあ、歌も素晴らしいのに、ピアノまで弾いていたんですの」
「あはは、誰か弾き方を教えてくれる人がいたら嬉しいんだけど」
「そうですわね、私は人に教えられる程の腕前ではありませんし……。先生は特別指導生徒の個別授業で忙しいでしょうし……」

 そうだよね。ここは人も多いし、優先順位があるよね。

「あぁ、ピアノが必要でしたら、用意しますわ」
「え?」
「防音した部屋がたしかありましたから、そちらにいれておきますわ。教えてくれそうな人も、当たってはみます」
「あわわ、悪いよ。そこまでしてもらって」
「私が聞きたいのです」

 にっこりとイソラは笑う。

「でも、まずは今日のテストですわね。先ほど歌っていて何かわかりそうでしたか? 彼女との違い」
「ゆあちゃんとの違い……」

 全然わからなかった。でも、前に見た時みたいにキラキラした光は出ていなかった。
 それに、今日歌ったのはこの世界の歌だったし――。

「あ!」
「何かわかりました?!」

 そうだ、歌ったのは……、あの時私が歌ったのは、『SAY』の歌じゃなかった……。
 それに、あの時ヨウに歌ったのは、――もしかして。

「わかったかもしれない! 試してみたい。でも、怪我してる人なんていないよね」
「あら、それなら用意しましょうか」
「いやいやいや! 駄目だから!」
「ふふふ、勘違いしないで下さい。今から怪我をさせるのではなくて、治療院から来てもらうという意味ですから」
「あ――」

 恥ずかしいミスをしてしまった。

「でも、治らなかったら、しょんぼりしないかな」
「そうですね。なので、何も言わずに手伝ってくれそうな人を見繕ってきますわ」
「えーっと、そんなことが出きるの?」
「えぇ、父がしている治療院ですから問題なんてありません」
「わー……」

 イソラって、実はものすごいお嬢様なんじゃないだろうか。国一番の学舎の学園長の娘で、治療院って病院のことだよね。だから、病院の先生の娘でもあると。

「さぁ、次の授業が終わりましたら自主勉強申請に参りますわよ!」
「え、え? えぇー? そんなことが出来るの?」
「もちろん」

 なんだか、何でもありなイソラに引きずられ、私は次の教室へと連れていかれた。
 魔法を使う為の方法、考えが合っているといいな。そう思いながら。

 ◇

 学園の外にある、大きな木と小さな木で出来た庭。木陰に気持ちがいい風が吹く。
 そこに一人の女性が連れてこられた。男性に、手を引かれ、ゆっくりとした足取りで。

「さぁ、すず。歌って下さい」
「はい!」

 彼女は目に怪我を負っていて、まわりは見えていないそうだ。怪我をする前はこの学園で音楽教師の手伝いなどをしていたそうで、歌を聞いて欲しいと言うと快く引き受けてくれたそうだ。

「太陽に向かって歩いていた。あの日見つけたあなたは太陽みたいに笑う素敵な人。あと少し、伸びる影が届く。あと少し、私の手が伸びる~」

 歌うのは『SAY』の歌。私達で作った歌。
 女性は心地良さそうに耳を傾けて聞いてくれていた。
 怪我が治りますようにと願いながら歌った。けれど、結愛のような奇跡は起きない。
 違った……。最後の方はトーンが落ちてしまったせいか、女性は少し残念そうにしていた。

「とてもよい歌声でした。ただ、何か悩んでいるのかしら?」

 ずばりと言い当てられ、私は小さくなってしまう。

「ごめんなさい、せっかく聞いていただいたのに」
「いえいえ、私の世界は目で見るものが無くなってしまったので、色鮮やかな歌の世界を見せて頂いてとても楽しかったです」

 そう言って、彼女は来た時のように男性に手を引かれて、学園の中に歩いていった。挨拶がしたいと言っていた。

「ダメだった……」
「すず、諦めては駄目ですわ。今からもう一度練習を」
「私、やっぱり二人みたいに才能ないんだよ」

 ぽたりと涙がこぼれる。

「すず」

 パチンという音が響く。目の前で、イソラが手を叩いた。

「才能にこだわっているのですか? すずの個性は大事ではないのですか?」
「え?」
「すずは、きっと皆を支える力に特化しているんですよ」
「支える力……」
「そう、支援魔法。試してみないとわかりませんが、珍しいタイプですのよ。珍しいから、教えてくれる人も使える人もほとんどいません」
「えっと……それって、ヨウが言ってた」
「ふふ、そう。クロツノもとても珍しいのです。支援特化の魔人。二人は似た者同士みたいですわね」

 イソラは私とヨウを交互に見て、笑っていた。
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