28 / 82
魔法の学園
失敗?
しおりを挟む
前に見たピアノの前を通る。形は違う。でもどうすれば音がなるか何となくはわかるのに、弾ける気がしない。
じっと見ているとイソラが不思議そうに聞いてきた。
「すず? ピアノがどうかしたのですか?」
「あ、ごめんね。向こうでもピアノ弾いてたんだけど、向こうのと違うみたいで、弾けなさそうだなぁって少しがっかりしてたんだ」
「まあ、歌も素晴らしいのに、ピアノまで弾いていたんですの」
「あはは、誰か弾き方を教えてくれる人がいたら嬉しいんだけど」
「そうですわね、私は人に教えられる程の腕前ではありませんし……。先生は特別指導生徒の個別授業で忙しいでしょうし……」
そうだよね。ここは人も多いし、優先順位があるよね。
「あぁ、ピアノが必要でしたら、用意しますわ」
「え?」
「防音した部屋がたしかありましたから、そちらにいれておきますわ。教えてくれそうな人も、当たってはみます」
「あわわ、悪いよ。そこまでしてもらって」
「私が聞きたいのです」
にっこりとイソラは笑う。
「でも、まずは今日のテストですわね。先ほど歌っていて何かわかりそうでしたか? 彼女との違い」
「ゆあちゃんとの違い……」
全然わからなかった。でも、前に見た時みたいにキラキラした光は出ていなかった。
それに、今日歌ったのはこの世界の歌だったし――。
「あ!」
「何かわかりました?!」
そうだ、歌ったのは……、あの時私が歌ったのは、『SAY』の歌じゃなかった……。
それに、あの時ヨウに歌ったのは、――もしかして。
「わかったかもしれない! 試してみたい。でも、怪我してる人なんていないよね」
「あら、それなら用意しましょうか」
「いやいやいや! 駄目だから!」
「ふふふ、勘違いしないで下さい。今から怪我をさせるのではなくて、治療院から来てもらうという意味ですから」
「あ――」
恥ずかしいミスをしてしまった。
「でも、治らなかったら、しょんぼりしないかな」
「そうですね。なので、何も言わずに手伝ってくれそうな人を見繕ってきますわ」
「えーっと、そんなことが出きるの?」
「えぇ、父がしている治療院ですから問題なんてありません」
「わー……」
イソラって、実はものすごいお嬢様なんじゃないだろうか。国一番の学舎の学園長の娘で、治療院って病院のことだよね。だから、病院の先生の娘でもあると。
「さぁ、次の授業が終わりましたら自主勉強申請に参りますわよ!」
「え、え? えぇー? そんなことが出来るの?」
「もちろん」
なんだか、何でもありなイソラに引きずられ、私は次の教室へと連れていかれた。
魔法を使う為の方法、考えが合っているといいな。そう思いながら。
◇
学園の外にある、大きな木と小さな木で出来た庭。木陰に気持ちがいい風が吹く。
そこに一人の女性が連れてこられた。男性に、手を引かれ、ゆっくりとした足取りで。
「さぁ、すず。歌って下さい」
「はい!」
彼女は目に怪我を負っていて、まわりは見えていないそうだ。怪我をする前はこの学園で音楽教師の手伝いなどをしていたそうで、歌を聞いて欲しいと言うと快く引き受けてくれたそうだ。
「太陽に向かって歩いていた。あの日見つけたあなたは太陽みたいに笑う素敵な人。あと少し、伸びる影が届く。あと少し、私の手が伸びる~」
歌うのは『SAY』の歌。私達で作った歌。
女性は心地良さそうに耳を傾けて聞いてくれていた。
怪我が治りますようにと願いながら歌った。けれど、結愛のような奇跡は起きない。
違った……。最後の方はトーンが落ちてしまったせいか、女性は少し残念そうにしていた。
「とてもよい歌声でした。ただ、何か悩んでいるのかしら?」
ずばりと言い当てられ、私は小さくなってしまう。
「ごめんなさい、せっかく聞いていただいたのに」
「いえいえ、私の世界は目で見るものが無くなってしまったので、色鮮やかな歌の世界を見せて頂いてとても楽しかったです」
そう言って、彼女は来た時のように男性に手を引かれて、学園の中に歩いていった。挨拶がしたいと言っていた。
「ダメだった……」
「すず、諦めては駄目ですわ。今からもう一度練習を」
「私、やっぱり二人みたいに才能ないんだよ」
ぽたりと涙がこぼれる。
「すず」
パチンという音が響く。目の前で、イソラが手を叩いた。
「才能にこだわっているのですか? すずの個性は大事ではないのですか?」
「え?」
「すずは、きっと皆を支える力に特化しているんですよ」
「支える力……」
「そう、支援魔法。試してみないとわかりませんが、珍しいタイプですのよ。珍しいから、教えてくれる人も使える人もほとんどいません」
「えっと……それって、ヨウが言ってた」
「ふふ、そう。クロツノもとても珍しいのです。支援特化の魔人。二人は似た者同士みたいですわね」
イソラは私とヨウを交互に見て、笑っていた。
じっと見ているとイソラが不思議そうに聞いてきた。
「すず? ピアノがどうかしたのですか?」
「あ、ごめんね。向こうでもピアノ弾いてたんだけど、向こうのと違うみたいで、弾けなさそうだなぁって少しがっかりしてたんだ」
「まあ、歌も素晴らしいのに、ピアノまで弾いていたんですの」
「あはは、誰か弾き方を教えてくれる人がいたら嬉しいんだけど」
「そうですわね、私は人に教えられる程の腕前ではありませんし……。先生は特別指導生徒の個別授業で忙しいでしょうし……」
そうだよね。ここは人も多いし、優先順位があるよね。
「あぁ、ピアノが必要でしたら、用意しますわ」
「え?」
「防音した部屋がたしかありましたから、そちらにいれておきますわ。教えてくれそうな人も、当たってはみます」
「あわわ、悪いよ。そこまでしてもらって」
「私が聞きたいのです」
にっこりとイソラは笑う。
「でも、まずは今日のテストですわね。先ほど歌っていて何かわかりそうでしたか? 彼女との違い」
「ゆあちゃんとの違い……」
全然わからなかった。でも、前に見た時みたいにキラキラした光は出ていなかった。
それに、今日歌ったのはこの世界の歌だったし――。
「あ!」
「何かわかりました?!」
そうだ、歌ったのは……、あの時私が歌ったのは、『SAY』の歌じゃなかった……。
それに、あの時ヨウに歌ったのは、――もしかして。
「わかったかもしれない! 試してみたい。でも、怪我してる人なんていないよね」
「あら、それなら用意しましょうか」
「いやいやいや! 駄目だから!」
「ふふふ、勘違いしないで下さい。今から怪我をさせるのではなくて、治療院から来てもらうという意味ですから」
「あ――」
恥ずかしいミスをしてしまった。
「でも、治らなかったら、しょんぼりしないかな」
「そうですね。なので、何も言わずに手伝ってくれそうな人を見繕ってきますわ」
「えーっと、そんなことが出きるの?」
「えぇ、父がしている治療院ですから問題なんてありません」
「わー……」
イソラって、実はものすごいお嬢様なんじゃないだろうか。国一番の学舎の学園長の娘で、治療院って病院のことだよね。だから、病院の先生の娘でもあると。
「さぁ、次の授業が終わりましたら自主勉強申請に参りますわよ!」
「え、え? えぇー? そんなことが出来るの?」
「もちろん」
なんだか、何でもありなイソラに引きずられ、私は次の教室へと連れていかれた。
魔法を使う為の方法、考えが合っているといいな。そう思いながら。
◇
学園の外にある、大きな木と小さな木で出来た庭。木陰に気持ちがいい風が吹く。
そこに一人の女性が連れてこられた。男性に、手を引かれ、ゆっくりとした足取りで。
「さぁ、すず。歌って下さい」
「はい!」
彼女は目に怪我を負っていて、まわりは見えていないそうだ。怪我をする前はこの学園で音楽教師の手伝いなどをしていたそうで、歌を聞いて欲しいと言うと快く引き受けてくれたそうだ。
「太陽に向かって歩いていた。あの日見つけたあなたは太陽みたいに笑う素敵な人。あと少し、伸びる影が届く。あと少し、私の手が伸びる~」
歌うのは『SAY』の歌。私達で作った歌。
女性は心地良さそうに耳を傾けて聞いてくれていた。
怪我が治りますようにと願いながら歌った。けれど、結愛のような奇跡は起きない。
違った……。最後の方はトーンが落ちてしまったせいか、女性は少し残念そうにしていた。
「とてもよい歌声でした。ただ、何か悩んでいるのかしら?」
ずばりと言い当てられ、私は小さくなってしまう。
「ごめんなさい、せっかく聞いていただいたのに」
「いえいえ、私の世界は目で見るものが無くなってしまったので、色鮮やかな歌の世界を見せて頂いてとても楽しかったです」
そう言って、彼女は来た時のように男性に手を引かれて、学園の中に歩いていった。挨拶がしたいと言っていた。
「ダメだった……」
「すず、諦めては駄目ですわ。今からもう一度練習を」
「私、やっぱり二人みたいに才能ないんだよ」
ぽたりと涙がこぼれる。
「すず」
パチンという音が響く。目の前で、イソラが手を叩いた。
「才能にこだわっているのですか? すずの個性は大事ではないのですか?」
「え?」
「すずは、きっと皆を支える力に特化しているんですよ」
「支える力……」
「そう、支援魔法。試してみないとわかりませんが、珍しいタイプですのよ。珍しいから、教えてくれる人も使える人もほとんどいません」
「えっと……それって、ヨウが言ってた」
「ふふ、そう。クロツノもとても珍しいのです。支援特化の魔人。二人は似た者同士みたいですわね」
イソラは私とヨウを交互に見て、笑っていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる