上 下
27 / 82
魔法の学園

ファイスヴェードにて◆別視点

しおりを挟む
 リオンは思った。人選を誤ったかもしれない。が始まったのは、他の少女二人がいなくなった日だった。

「魔法の力が弱くなった?」
「はい。麻美あみ様の聖女の魔法が日に日に弱くなっています。このままでは――」
くなってしまうと?」
「わかりません。ですが、この国から同時に二人がいなくなった日からですので、もしかしたら引き離してはいけない存在であったのかもしれません」

 リオンは報告に来た魔法使いの男に、下がるよう伝える。

「リンシール陛下、如何いかが致しましょう」
「もう一人の少女は見つかっていないのだろう? 隣に捕らえていた魔人の仲間がともに連れていったのかもしれないな」

 リオンの父、リンシールは、長い髭をいじりながら考えている。ふと、違う事が気になったのかある人物の名前が出てきた。

「フェレリーフはどうしている?」

 リオンと王位継承を競いあう女の名前。フェレリーフの母の方がリオンの母より身分が上で、その母親の庇護のもと、わがままをたくさん通していた。

「いつも通りです」
「そうか……」

 長い長いタメ息をついた後、リンシールは目を閉じた。

「もう一人の聖女と交換とはいかんだろうなぁ。そうだ、もう片方の聖女はどうなのだ?」
「彼女は、テトが気に入ったそうで、難しいでしょうね。力がどうなっているか、使者を送りましょう」
「そうしてくれ」

 大きくもう一度息をつき、リンシールは話を終える。
 リオンは、ゆっくり頭を下げて、その場から離れた。

「何故こんなことに……、いや、もしかしたら彼女はただ疲れているだけかもしれない」

 リオンは一人、そんな事はないとわかりながらもそうであればいいと願っていた。
 いつものように、麻美のもとへと向かう。顔に出さないよう注意を払いながら、ドアをノックする。

「おはよう、アミ。さぁ、今日も力を目覚めさせるために頑張ろう」

 出てきた麻美の表情は、出会った時の美しさがどこかに行ってしまった様にかたく険しかった。

「リオン、私の歌、なんだか寂しいの――」

 わからないと頭を振る麻美。リオンはゆっくりと乱れた髪を直す様に麻美の頭を撫でる。少し落ち着いた麻美がじっと見上げてくる。瞳にはほんの少しの恐怖の色。何に怯えているのだろう。

「大丈夫、今その話をしてきたところだよ。もしかしたら、一人で寂しいからかもしれない。ユアに会いに来てもらおうか?」
「お願い――」

 心が弱っている。麻美のもとになった人物はとても弱い人だったのかもしれない。この世界に馴染みだして、元になった人の性格が出てきているのだろうか。
 もとの人間はファイスヴェードの者だったのだろうか。
 いまだ調べはついていない。こちらも同時に調査を進めなければいけないだろう。
 リオンは麻美の手を引いて、部屋から連れ出した。
 これが、あの時自ら前に出た彼女なのだろうか。
 おどおどとしながら、麻美はリオンの後ろをついて歩いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...