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三人の女の子
ヨウの笑顔
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想像していたのとはだいぶ違うお風呂だった。
一つのテントの中に用意されていて、少し大きなお湯をいれる入れ物と小さな入れ物が二つ並んでる。あとは体を拭くための布が置いてあった。
「移動中はこんな感じになるんだって」
結愛がそう言いながら、使い方を教えてくれる。お湯に布を浸して、顔に当てるとほかほかして、すごくほっとした。
◇
「何で一緒に入ってくれなかったんだ」
「え、ヨウ、男の子だよね?」
「すずと一緒が良かったのに」
「えっと、だから、ヨウ男の子だよね?!」
すごくむっとした顔で抗議をしてくるヨウ。
あのあとすぐ、振り返って戻ってきたクナに連れて行かれ男性用のお風呂? に連れて行かれたらしい。
「すずぅぅぅっ!!」って、泣きそうになりながら引きずられていく様は、少しだけ可哀想だった。
「鈴芽様、置いていくなら今のうちに決めておいた方がいいですよ。魔人は人の国ではどこも歓迎されません」
「え……あ、……」
「この金輪がついているかぎり、人以下のひ弱な存在ですからね。役に立つ訳でもない――」
そんな事を彼にしているんだ――。私と一緒にいると、迷惑なのかな?
「私がヨウと離れると言えば、金輪は外してもらえるんですか?」
「なっ!?」
ヨウがものすごい顔でイヤイヤしている。クナは、頭をかきながら、答えてくれた。
「あぁ、それは無理ですね。外すならば、少し弱くなりますが似た効力のある枷をはめて、閉じ込めるか、死ぬのを確認するか……。この時期に人の国に近付いてきた者ならば、おそらくこの魔人も王の候補者かその側近でしょう」
「死ぬのを……」
「酷いと思わないで下さい。我らも魔人に殺されているのですから」
そんな、状況なんだ……。
「すず、ボクはすずと一緒に行く」
「ヨウ……。でも、帰りたいって」
巻き込んでしまった。私がいなければ、彼はさっさと逃げれたかもしれないのに。
ヨウは、私の前に座ると、手をとった。
「すずの事をどうにかするのはボクだけだ。笑った顔も泣いた涙も、全部他のヤツには渡さない。だから、ボクの帰る場所はここだ」
手のひらを開けられ、そこに彼の唇が当たる。
「な……な、な、な……」
「すず」
黒い瞳がじっと見つめてくる。目をそらせない。
「はい、そこまでだよ。ヨウ」
ズベシっといい音で、ツッコミが入った。テトが、話を終えたのか、こちらのテントにやってきたのだ。
さっきまでの始終を見ていた結愛を見ると、赤く染まった頬と、驚いた顔をしていた。私も似たような顔をしているんだろうな。もっとすごいかも……。
「魅了の魔法も封じられているから、そんな事をしても無駄だよ」
「違う、ボクは魅了の魔法なんて――」
「な、なんだ……。ヨウそんな事しようとしてたの……」
「だから、ボクは魅了の魔法なんてしてないぞ! そもそも――」
ポタリと涙がこぼれた。ハッとしたヨウがまたぎゅっと私の顔を自分の服に押し付ける。
「ボクは、確かに候補にされてるけど、魔王になれる器じゃないんだ。魔法だって、全然ダメダメな、落ちこぼれなんだ……」
「落ちこぼれ……」
「ボクの使える魔法は、補助……。強化……。しかも、自分には効果がない、そんなのばっかりなんだ」
なんだか、アイドルしていた時の私みたい。ずっと、他の人の引き立て役で――。
「ヨウ、泣いてないよ。大丈夫」
「本当?」
「うん」
私は決めた。この人を守ってあげよう。殺させたくない。帰してあげたい。私みたいな、この人を――。
「ヨウ、一緒に行こう。私、何も力がない、無能力だって言われてるけど、ヨウとなら気が合いそう。一緒に帰ろう、約束」
「約束だな! ボクはすずを守ろう」
「私は、ヨウを守るね」
「「力がないどうしだけど」」
二人の言葉が重なって、顔を見合わせる。ヨウが嬉しそうに笑った顔を見て、私はホッとした気持ちになった。
一つのテントの中に用意されていて、少し大きなお湯をいれる入れ物と小さな入れ物が二つ並んでる。あとは体を拭くための布が置いてあった。
「移動中はこんな感じになるんだって」
結愛がそう言いながら、使い方を教えてくれる。お湯に布を浸して、顔に当てるとほかほかして、すごくほっとした。
◇
「何で一緒に入ってくれなかったんだ」
「え、ヨウ、男の子だよね?」
「すずと一緒が良かったのに」
「えっと、だから、ヨウ男の子だよね?!」
すごくむっとした顔で抗議をしてくるヨウ。
あのあとすぐ、振り返って戻ってきたクナに連れて行かれ男性用のお風呂? に連れて行かれたらしい。
「すずぅぅぅっ!!」って、泣きそうになりながら引きずられていく様は、少しだけ可哀想だった。
「鈴芽様、置いていくなら今のうちに決めておいた方がいいですよ。魔人は人の国ではどこも歓迎されません」
「え……あ、……」
「この金輪がついているかぎり、人以下のひ弱な存在ですからね。役に立つ訳でもない――」
そんな事を彼にしているんだ――。私と一緒にいると、迷惑なのかな?
「私がヨウと離れると言えば、金輪は外してもらえるんですか?」
「なっ!?」
ヨウがものすごい顔でイヤイヤしている。クナは、頭をかきながら、答えてくれた。
「あぁ、それは無理ですね。外すならば、少し弱くなりますが似た効力のある枷をはめて、閉じ込めるか、死ぬのを確認するか……。この時期に人の国に近付いてきた者ならば、おそらくこの魔人も王の候補者かその側近でしょう」
「死ぬのを……」
「酷いと思わないで下さい。我らも魔人に殺されているのですから」
そんな、状況なんだ……。
「すず、ボクはすずと一緒に行く」
「ヨウ……。でも、帰りたいって」
巻き込んでしまった。私がいなければ、彼はさっさと逃げれたかもしれないのに。
ヨウは、私の前に座ると、手をとった。
「すずの事をどうにかするのはボクだけだ。笑った顔も泣いた涙も、全部他のヤツには渡さない。だから、ボクの帰る場所はここだ」
手のひらを開けられ、そこに彼の唇が当たる。
「な……な、な、な……」
「すず」
黒い瞳がじっと見つめてくる。目をそらせない。
「はい、そこまでだよ。ヨウ」
ズベシっといい音で、ツッコミが入った。テトが、話を終えたのか、こちらのテントにやってきたのだ。
さっきまでの始終を見ていた結愛を見ると、赤く染まった頬と、驚いた顔をしていた。私も似たような顔をしているんだろうな。もっとすごいかも……。
「魅了の魔法も封じられているから、そんな事をしても無駄だよ」
「違う、ボクは魅了の魔法なんて――」
「な、なんだ……。ヨウそんな事しようとしてたの……」
「だから、ボクは魅了の魔法なんてしてないぞ! そもそも――」
ポタリと涙がこぼれた。ハッとしたヨウがまたぎゅっと私の顔を自分の服に押し付ける。
「ボクは、確かに候補にされてるけど、魔王になれる器じゃないんだ。魔法だって、全然ダメダメな、落ちこぼれなんだ……」
「落ちこぼれ……」
「ボクの使える魔法は、補助……。強化……。しかも、自分には効果がない、そんなのばっかりなんだ」
なんだか、アイドルしていた時の私みたい。ずっと、他の人の引き立て役で――。
「ヨウ、泣いてないよ。大丈夫」
「本当?」
「うん」
私は決めた。この人を守ってあげよう。殺させたくない。帰してあげたい。私みたいな、この人を――。
「ヨウ、一緒に行こう。私、何も力がない、無能力だって言われてるけど、ヨウとなら気が合いそう。一緒に帰ろう、約束」
「約束だな! ボクはすずを守ろう」
「私は、ヨウを守るね」
「「力がないどうしだけど」」
二人の言葉が重なって、顔を見合わせる。ヨウが嬉しそうに笑った顔を見て、私はホッとした気持ちになった。
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