歌うすずめとクロツノ魔王

花月夜れん

文字の大きさ
上 下
9 / 82
三人の女の子

一緒に入ろう?

しおりを挟む
「ここはね、ファイスヴェードっていう国なんだって」
「ファイスヴェード……」

 そんな国の名前は聞いた事がない。でも、聞いた事があるのは、そう、麻美の手をとった彼が名乗った名前が……。

「リオン・ヴァン・ファイスヴェード、あの人がこの国の王子で、王様はリンシール・ヴァン・ファイスヴェードって名前なんだって。あと、リオンのお姉さんがフェレリーフ。で、すずちゃんは、ファイスヴェードって国、聞いたことある?」

 私は首を横にふると、そうだよねと彼女は苦笑した。

「ここは私達の住んでた地球とは違う場所なんだって……」
「地球じゃない……って、どういうこと」

 お茶みたいな飲み物をコップで渡される。牢にいた時に飲んでいた物とは違う香りがした。結愛はコップを受けとると、持ってきた人にありがとうと伝えていた。私も遅れて感謝を口にする。
 ヨウは、匂いをかいで嫌そうな顔をしながら飲んでいた。
 今、私達の近くには結愛が怪我を治した人、(クナさんというらしい)とヨウの二人だけが座っている。
 他の人は、テトを含め皆少し離れた場所にいる。移動式住居だろうか、テントのようなものがいくつか並んでいた。

「とても理解しがたいのだけどね、――」

 この星は地球みたいな呼び名はない。今いる場所は【ファイスヴェード】。テトはその隣国【ナグカルカ】の王子。そして、もうひとつ接する国がある。魔人の国【セキドガーグ】、たぶんヨウの帰りたい場所。
 魔人の国で今、次の王を決める争いが起きているそうで、接する二つの国は魔人の王を決める争いの的になっているということだった。陣地取り合戦だろう。どれだけ領土を広げられるか、手柄を立てれば王になれるとかそういう感じの。
 魔人は強い魔法の力があって、対抗手段はあるけれど、ただの人ではどうしても劣勢になりやすい。そこで、強い力を持つ人を召喚したというのだ。魔人が苦手とする聖なる結界を作り出し、癒しの歌で怪我を無限に癒すことができる。それが聖女と呼ばれる、異世界の乙女。
 過去に同じような争いが何度もあり、神に祈りを捧げた王達が聖女を召喚し、魔人の進行を食い止めたのだそうだ。
 今回も同じように、聖女を召喚して、何とかしてもらおうと、二つの国は合同で儀式を行ったそうなの。一つの国がそれぞれ行うよりも確実に来てもらえるようにって……。

「意味がわからないね」
「そうだよね……。迷惑な話だよね」

 二人で、ため息をつく。クナはそれをみて申し訳なさそうにしていた。ヨウは興味しんしんで耳をこちらに傾けている。たまにリスをくすぐっているのが見えた。

「ここから、とてもショックを受けると思うのだけど、伝えておくね。もとの場所、日本には帰れないんだって」
「え……」
「召喚の仕方は過去のものがあるけれど、戻る方法はないんだって」
「そんな……」

 私の目が熱くなる。また、こぼれ落ちそう。そう思っていたら、ヨウが立ち上がりぎゅっと抱き締めてきた。

「他のヤツのいるところで泣くな」

 そう言って、彼の服に私の顔を押し付ける。

「何それ、意味わかんない」

 ぎゅっと押し返して、私は結愛の方を見た。ヨウの突飛な行動で涙は引っ込んだみたい。
 ヨウは座っていた場所に戻って、何事もなかったようにまたあぐらをかく。

「すずちゃん、大丈夫?」
「……うん。ゆあちゃんは受け入れられたの?」
「……私は、まだ」
「そっか、そうだよね」
「でも、助けて欲しいって、頼られているから、彼の国に行こうって決めたの。この国はあみちゃんが担当するからって……」
「そうなんだ」
「それでね、テトにすずちゃんを一緒に連れて行きたいってお願いしてたの。テトはすぐ掛け合ってくれていたのに、返事がなくて――。というか、はやく自分の国に帰ったらどうですかって言われたんだって――」

 フェレリーフの言葉を思い出す。彼女はそんな事、一言も言っていない。

「おそらく、自国の予備として鈴芽様を置いておきたかったのでしょう。一人より二人……、数が多い方が安心しますからね。せっかく召喚した聖女を他の国に持って行かれては、と」

 クナは「よっ」と言って、片足に手をつきながら立ち上がった。

「鈴芽様がこちらにこられたのなら、これで結愛様も移動出来ますね?」
「……はい」
「湯浴みの用意をしましょう。向こうでは毎日入るのでしょう?」
「お願いします」
「かしこまりました」

 クナが皆のいる場所に向かった。

「すずちゃん、一緒にお風呂はいろう」
「うん」

 ぱっとヨウが顔をこちらに近付ける。

「ボクも一緒に入るぞ」

 そんな事を言うものだから、私と結愛は二人で目を大きくしていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

第一王女アンナは恋人に捨てられて

岡暁舟
恋愛
第一王女アンナは自分を救ってくれたロビンソンに恋をしたが、ロビンソンの幼馴染であるメリーにロビンソンを奪われてしまった。アンナのその後を描いてみます。「愛しているのは王女でなくて幼馴染」のサイドストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

処理中です...