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三人の女の子
別れの日
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小窓の外を小さな動物が走る気配を感じ、ボクは意識を取り戻した。窓から見える暗さが夜であることを知らせる。捕まって何日目だろう。腕に絡み付く枷に視線をやる。己が力で外す事が許されないそれはひどく冷たく感じた。
ふぅと息を吐く。外に意識をむけると小さな歌声が真っ暗な空に響いていた。
姿が見えない声だけで励まし合う彼女の声がだんだん小さくなっていく。
「――別れが近いのかな?」と言う彼女にボクは言った。
「歌って――スズ――」
愛してたという言葉は口から出ていかなかった。
彼女が見ていたのは、愛していたのは、ボクとは別の赤い髪の男だったから。
◆
がたりと立ち上がって、私は抗議しようとした。
震える手をぎゅっと握りしめて、口を開く。
「待って、待ってよ!」
「はぁ、もうわかってるでしょう? すず、あなたがいるかぎり、上にいけない。だから、明日卒業して?」
「あみちゃん、ゆあは……」
「結愛は残って。私達は新しいメンバーを迎えて、さらに上を目指すのよ! その為にもう、プロデューサーは動いてくれているんだから!」
私達は三人組のアイドルユニット、私こと、空野鈴芽通称SUZU、和泉結愛通称YUA、光凪麻美通称AMIがメンバー。三人の頭文字をとって、『SAY』。だったのに、今日麻美からメンバー除外通告をもらった。
中学二年生から結成して三年。ずっと一緒に頑張ってきて、これからだっていう時なのに……。
「私、そんなに酷かった? 練習だって、頑張ったし、確かに二人より、低音だけど、それは最初からだったじゃない! 何がダメなの……、ちゃんと直すから。迷惑かけないようにするから……」
「だから、もう決まったの。それに、そこ。そういうところ。私達に遠慮して一歩下がる。下向きなのよ! 私達は、上を目指すのに、一人下向きな考えの人がいたんじゃ、やってられないの」
「……そんな」
「すずちゃん……」
いつも優しい結愛がじっと見ている。彼女も麻美と同じ意見なのかな……。三人ずっと友達で仲良しで、頑張っていこうねって言ってたのに――。
「私――」
泣くつもりなんてなかったのに、頬を伝って涙がポタリと机に落ちる。その場所から白い光が広がった。
「え、何これ」
私を中心にして光は控え室の床をどんどん広がっていく。そして、すぐに麻美と結愛のいる場所まで広がった。
「すず! 何したの?!」
「ちがっ、私は何も……」
「きゃぁっ」
底が抜けて落とされる感覚に襲われる。私だけじゃなく、麻美と結愛も。
「……真っ白」
目の前が真っ白の空間をどこまでも落ちていく。途中、色が反転して真っ黒になった。
二人はいる。すぐそばに。
私は、結愛に手を伸ばす。
「ゆあちゃん!」
「すずちゃん」
ぎゅっと二人で手を繋ぐ。それを、麻美がぎっと睨みつけてきた。
「あみちゃん」
結愛は、麻美にも手を伸ばす。私を、『SAY』から放り出そうとしたのに……。
「結愛」
麻美は手を伸ばさない。手を繋いだからって、どうにかなるわけじゃないって思っているんだろう。
正直、私はほっとしてしまった。あんなに、仲良しだと思っていたのに、壊れるのは一瞬なんだなぁ。
結愛の手を握りながら、私がそう考えているとふわりと下から風のような気配を感じた。
とたん、真っ黒の世界が一瞬で、まったく違う世界に変わった。
足が地面を感じとる。カツンと誰かが一歩前に出る足音が響いた。
「召喚に応じてくれてありがとう。救いの御手、黒髪の聖女よ」
目の前に立つ男はそう述べると、にこりと笑顔を見せた。
ふぅと息を吐く。外に意識をむけると小さな歌声が真っ暗な空に響いていた。
姿が見えない声だけで励まし合う彼女の声がだんだん小さくなっていく。
「――別れが近いのかな?」と言う彼女にボクは言った。
「歌って――スズ――」
愛してたという言葉は口から出ていかなかった。
彼女が見ていたのは、愛していたのは、ボクとは別の赤い髪の男だったから。
◆
がたりと立ち上がって、私は抗議しようとした。
震える手をぎゅっと握りしめて、口を開く。
「待って、待ってよ!」
「はぁ、もうわかってるでしょう? すず、あなたがいるかぎり、上にいけない。だから、明日卒業して?」
「あみちゃん、ゆあは……」
「結愛は残って。私達は新しいメンバーを迎えて、さらに上を目指すのよ! その為にもう、プロデューサーは動いてくれているんだから!」
私達は三人組のアイドルユニット、私こと、空野鈴芽通称SUZU、和泉結愛通称YUA、光凪麻美通称AMIがメンバー。三人の頭文字をとって、『SAY』。だったのに、今日麻美からメンバー除外通告をもらった。
中学二年生から結成して三年。ずっと一緒に頑張ってきて、これからだっていう時なのに……。
「私、そんなに酷かった? 練習だって、頑張ったし、確かに二人より、低音だけど、それは最初からだったじゃない! 何がダメなの……、ちゃんと直すから。迷惑かけないようにするから……」
「だから、もう決まったの。それに、そこ。そういうところ。私達に遠慮して一歩下がる。下向きなのよ! 私達は、上を目指すのに、一人下向きな考えの人がいたんじゃ、やってられないの」
「……そんな」
「すずちゃん……」
いつも優しい結愛がじっと見ている。彼女も麻美と同じ意見なのかな……。三人ずっと友達で仲良しで、頑張っていこうねって言ってたのに――。
「私――」
泣くつもりなんてなかったのに、頬を伝って涙がポタリと机に落ちる。その場所から白い光が広がった。
「え、何これ」
私を中心にして光は控え室の床をどんどん広がっていく。そして、すぐに麻美と結愛のいる場所まで広がった。
「すず! 何したの?!」
「ちがっ、私は何も……」
「きゃぁっ」
底が抜けて落とされる感覚に襲われる。私だけじゃなく、麻美と結愛も。
「……真っ白」
目の前が真っ白の空間をどこまでも落ちていく。途中、色が反転して真っ黒になった。
二人はいる。すぐそばに。
私は、結愛に手を伸ばす。
「ゆあちゃん!」
「すずちゃん」
ぎゅっと二人で手を繋ぐ。それを、麻美がぎっと睨みつけてきた。
「あみちゃん」
結愛は、麻美にも手を伸ばす。私を、『SAY』から放り出そうとしたのに……。
「結愛」
麻美は手を伸ばさない。手を繋いだからって、どうにかなるわけじゃないって思っているんだろう。
正直、私はほっとしてしまった。あんなに、仲良しだと思っていたのに、壊れるのは一瞬なんだなぁ。
結愛の手を握りながら、私がそう考えているとふわりと下から風のような気配を感じた。
とたん、真っ黒の世界が一瞬で、まったく違う世界に変わった。
足が地面を感じとる。カツンと誰かが一歩前に出る足音が響いた。
「召喚に応じてくれてありがとう。救いの御手、黒髪の聖女よ」
目の前に立つ男はそう述べると、にこりと笑顔を見せた。
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