歌うすずめとクロツノ魔王

花月夜れん

文字の大きさ
上 下
2 / 82
三人の女の子

別れの日

しおりを挟む
 小窓の外を小さな動物が走る気配を感じ、ボクは意識を取り戻した。窓から見える暗さが夜であることを知らせる。捕まって何日目だろう。腕に絡み付くかせに視線をやる。おのが力で外す事が許されないそれはひどく冷たく感じた。
 ふぅと息を吐く。外に意識をむけると小さな歌声が真っ暗な空に響いていた。
 姿が見えない声だけではげまし合う彼女の声がだんだん小さくなっていく。
「――別れが近いのかな?」と言う彼女にボクは言った。

「歌って――スズ――」

 愛してたという言葉は口から出ていかなかった。
 彼女が見ていたのは、愛していたのは、ボクとは別の赤い髪の男だったから。

 ◆

 がたりと立ち上がって、私は抗議こうぎしようとした。
 震える手をぎゅっと握りしめて、口を開く。

「待って、待ってよ!」
「はぁ、もうわかってるでしょう? すず、あなたがいるかぎり、上にいけない。だから、明日卒業して?」
「あみちゃん、ゆあは……」
「結愛は残って。私達は新しいメンバーを迎えて、さらに上を目指すのよ! その為にもう、プロデューサーは動いてくれているんだから!」

 私達は三人組のアイドルユニット、私こと、空野鈴芽そらのすずめ通称SUZU、和泉結愛いずみゆあ通称YUA、光凪麻美こうなぎあみ通称AMIがメンバー。三人の頭文字をとって、『SAY』。だったのに、今日麻美からメンバー除外通告をもらった。
 中学二年生から結成して三年。ずっと一緒に頑張ってきて、これからだっていう時なのに……。

「私、そんなに酷かった? 練習だって、頑張ったし、確かに二人より、低音だけど、それは最初からだったじゃない! 何がダメなの……、ちゃんと直すから。迷惑かけないようにするから……」
「だから、もう決まったの。それに、そこ。そういうところ。私達に遠慮して一歩下がる。下向きなのよ! 私達は、上を目指すのに、一人下向きな考えの人がいたんじゃ、やってられないの」
「……そんな」
「すずちゃん……」

 いつも優しい結愛がじっと見ている。彼女も麻美と同じ意見なのかな……。三人ずっと友達で仲良しで、頑張っていこうねって言ってたのに――。

「私――」

 泣くつもりなんてなかったのに、頬を伝って涙がポタリと机に落ちる。その場所から白い光が広がった。

「え、何これ」

 私を中心にして光は控え室の床をどんどん広がっていく。そして、すぐに麻美と結愛のいる場所まで広がった。

「すず! 何したの?!」
「ちがっ、私は何も……」
「きゃぁっ」

 底が抜けて落とされる感覚に襲われる。私だけじゃなく、麻美と結愛も。

「……真っ白」

 目の前が真っ白の空間をどこまでも落ちていく。途中、色が反転して真っ黒になった。
 二人はいる。すぐそばに。
 私は、結愛に手を伸ばす。

「ゆあちゃん!」
「すずちゃん」

 ぎゅっと二人で手を繋ぐ。それを、麻美がぎっと睨みつけてきた。

「あみちゃん」

 結愛は、麻美にも手を伸ばす。私を、『SAY』から放り出そうとしたのに……。

「結愛」

 麻美は手を伸ばさない。手を繋いだからって、どうにかなるわけじゃないって思っているんだろう。
 正直、私はほっとしてしまった。あんなに、仲良しだと思っていたのに、壊れるのは一瞬なんだなぁ。
 結愛の手を握りながら、私がそう考えているとふわりと下から風のような気配を感じた。
 とたん、真っ黒の世界が一瞬で、まったく違う世界に変わった。
 足が地面を感じとる。カツンと誰かが一歩前に出る足音が響いた。

「召喚に応じてくれてありがとう。救いの御手みて、黒髪の聖女よ」

 目の前に立つ男はそう述べると、にこりと笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

2人の幼馴染が私を離しません

ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。 私に残されたのは幼馴染という立場だけ。 代わりにもう一人の幼馴染は 相変わらず私のことが大嫌いなくせに 付き纏う。 八つ当たりからの大人の関係に 困惑する令嬢の話。 * 作り話です * 大人の表現は最小限 * 執筆中のため、文字数は定まらず  念のため長編設定にします * 暇つぶしにどうぞ

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...