21 / 22
白 ― 4
しおりを挟む「なるほどね。随分上手く取り入ったじゃないか。姑息なやり方で標的を手なずける……それが吸血鬼という生き物らしい」
ヴァンの目がかっと見開かれた。
その瞬間、どす黒い暗雲が立ち込めたようにして、室内の空気がにわかに重量を増す。
明るく灯っていた電燈が突然ふっと消え、辺りは薄暮に包まれた。
「貴様の生き残るわずかな可能性は、今を限りに消滅した。冥府の先で後悔するんだな。己が俺の逆鱗に触れたことを……!」
その途端、漆黒の霧のような形をした凄まじい力がヴァンの身体から放たれた。
一瞬だが、黒数珠の力が緩み、弱まる。
遥の表情から刹那、笑みが消えうせた。低く舌打ちすると、
「無駄なことをする」
再び錫杖を振り上げて、力を込めた。それで数珠は元の勢いを取り戻し、ヴァンの身体を緊縛する。
先ほどよりもずっと強い戒めに、ヴァンは顔を歪ませた。
「遊びの時間はもう終わりだ。果てない地獄で永久にさまようがいい。……無為な二百年だったな」
ヴァンの身体が薄れかかって見える。聖は首を振って喉が枯れるほどに叫んだ。
「駄目だ!やめろ!殺さないで……!」
遥は涼しい笑顔で聖の懇願を聞き流し、錫杖を掲げてヴァンにとどめの一撃を振り下ろした。
「さようなら、愚かな吸血鬼さん」
「っやめろおおおっ!!!!!!!!」
聖が自分の鼓膜が破れるほどの叫び声をあげた、そのときだった。
何か熱い塊が体を駆け抜け飛び出していったかと思うと、パリン、と澄んだ物悲しい音が響き、結界が割れて破片が四方へ飛散した。
聖はそれをヴァンがやったのだと錯覚し、そのまま彼のそばへ駆け寄る。
膝をついて、黒数珠を引きちぎろうと手をかけた瞬間、
「え?!」
数珠をつないでいた紐がぶつりと音を立てて切れ、数珠の珠が弾けるようにして床へこぼれて勢いよく散らばった。
「……」
その様子を少し離れた場所で目撃した遥は、目を見開いて驚きを浮かべ、それから剣呑な眼差しになる。
(触れただけで壊れた……何で……)
聖は戸惑いながらも、青白く生気を失った顔で横たわるヴァンを覗き込み、肩に手をかけて揺すぶった。
ヴァンの目がかっと見開かれた。
その瞬間、どす黒い暗雲が立ち込めたようにして、室内の空気がにわかに重量を増す。
明るく灯っていた電燈が突然ふっと消え、辺りは薄暮に包まれた。
「貴様の生き残るわずかな可能性は、今を限りに消滅した。冥府の先で後悔するんだな。己が俺の逆鱗に触れたことを……!」
その途端、漆黒の霧のような形をした凄まじい力がヴァンの身体から放たれた。
一瞬だが、黒数珠の力が緩み、弱まる。
遥の表情から刹那、笑みが消えうせた。低く舌打ちすると、
「無駄なことをする」
再び錫杖を振り上げて、力を込めた。それで数珠は元の勢いを取り戻し、ヴァンの身体を緊縛する。
先ほどよりもずっと強い戒めに、ヴァンは顔を歪ませた。
「遊びの時間はもう終わりだ。果てない地獄で永久にさまようがいい。……無為な二百年だったな」
ヴァンの身体が薄れかかって見える。聖は首を振って喉が枯れるほどに叫んだ。
「駄目だ!やめろ!殺さないで……!」
遥は涼しい笑顔で聖の懇願を聞き流し、錫杖を掲げてヴァンにとどめの一撃を振り下ろした。
「さようなら、愚かな吸血鬼さん」
「っやめろおおおっ!!!!!!!!」
聖が自分の鼓膜が破れるほどの叫び声をあげた、そのときだった。
何か熱い塊が体を駆け抜け飛び出していったかと思うと、パリン、と澄んだ物悲しい音が響き、結界が割れて破片が四方へ飛散した。
聖はそれをヴァンがやったのだと錯覚し、そのまま彼のそばへ駆け寄る。
膝をついて、黒数珠を引きちぎろうと手をかけた瞬間、
「え?!」
数珠をつないでいた紐がぶつりと音を立てて切れ、数珠の珠が弾けるようにして床へこぼれて勢いよく散らばった。
「……」
その様子を少し離れた場所で目撃した遥は、目を見開いて驚きを浮かべ、それから剣呑な眼差しになる。
(触れただけで壊れた……何で……)
聖は戸惑いながらも、青白く生気を失った顔で横たわるヴァンを覗き込み、肩に手をかけて揺すぶった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
究極?のデスゲーム
Algo_Lighter
ホラー
気がつくと、見知らぬ島に集められた参加者たち。
黒いフードを被った謎のゲームマスターが告げる—— 「これは究極のデスゲームだ」。
生き残るのはただ一人。他の者に待つのは"ゲームオーバー"のみ。
次々に始まる試練、迫りくる恐怖、そして消えていく敗者たち。
しかし、ゲームが進むにつれて、どこか違和感を覚え始める主人公・ハル。
このデスゲーム、本当に"命がけ"なのか……?
絶望と笑いが交錯する、予測不能のサバイバルゲームが今、幕を開ける!
ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜
ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。
二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。
「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」
支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。
二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
神隠しの子
ミドリ
ホラー
【奨励賞受賞作品です】
双子の弟、宗二が失踪して七年。兄の山根 太一は、宗二の失踪宣告を機に、これまで忘れていた自分の記憶を少しずつ思い出していく。
これまで妹的ポジションだと思っていた花への恋心を思い出し、二人は一気に接近していく。無事結ばれた二人の周りにちらつく子供の影。それは子供の頃に失踪した彼の姿なのか、それとも幻なのか。
自身の精神面に不安を覚えながらも育まれる愛に、再び魔の手が忍び寄る。
※なろう・カクヨムでも連載中です
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
ホラー
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞
第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる