花月夜れん

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「まるで夢みたいだな」
「え?」
「あ、オレの事ね。ほら起きたら忘れてるってさ」
「ゆめは起きたら忘れられちゃうの?」

 手紙を読んだ後、そう言うと彼女は悲しそうに呟いた。

「夢ってそういうものだよな?」
「そうなんだ……」

 悲しそうにする名前も知らない彼女。もしかして、もう何度も話したことがあるのだろうか。

「今回はあなたは食べるのかな」
「え?」

 べしゃりと何かが落ちてきた。それは真っ赤な切れ目が焼く前の肉みたいだった。

「うっわ。何これ」
「どうしたら、いいかな」
「ん?」
「あのね……」

 彼女はオレにこいつを食べてそこに積み上げろと言ってきた。

「え、生で? 焼いたりとかしないの? ってか、何肉だよ。これ……」

 どう見てもこれは人間だよな。

 ◇

「誰かいませんかー!」

 男は叫ぶ。だれもここにこないとわかっている。

「もう、諦めるかぁ」

 ぶつぶつと男は言うと歩きだした。

「これ以上苦しみたくない。ならいっそ」

 目を閉じて、男は飛んだ。

 ◇

「はー、空って飛ぶと気持ちいいかもだけどヒュッてなるな」

 食べ終わったものを積み上げていく。彼女も横で同じ事をしていた。なのに、彼女の積んだ場所はなぜか変わらない高さだった。どうなってるんだ? そう思ったが彼女はかまわずにそこに積み続ける。
 オレが積んだ場所に目を戻すと地面に小石が並んでいた。ひらがなのように見える。

「ゆ、め?」

 なぜ、ゆめと小石が並んでいるんだろう。ここは夢の世界とでも言いたいのだろうか?

「何?」

 名前も知らない彼女が首を傾げていた。

「ここに小石が並んでるんだ」

 彼女はこちらにくると、それを見て頷いた。

「二人目のあなたが作ったんだよ」
「オレが? このゆめって何だ?」
「……さぁ」

 ゆっくりとした仕草で彼女はまた食べ物のところに戻っていく。

「オレが作った?」

 忘れないために? 忘れたくないから?
 ここには書くものなんてない。だから、ここでの事をオレは忘れてしまう。
 オレも小石を探して少し離れた場所に文字を作った。
 見たところで思い出せないのが少し寂しいな。
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