花月夜れん

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陽人 ― 3

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 目の前にぼくがいる。
 静かに息をしてる。自分のは痛くていやだからこの寝てるぼくに似たヤツの頬をぎゅむとつねった。

「いたいっ!!」

 やっぱり生きてた。ぼくはパッと手を離す。お父さんと同じ目をしたソイツはぼくと似てるけどぼくじゃない。見てると嫌な気分になってくる。

「なんで生きてるんだ?」

 ここに落ちてくるのは死んでるものばかりだ。かなみももう動かない塊のひとつだ。ぼくは彼女を食べた。それが彼女の願いだったから。
 ソイツはじっとぼくをみてきた。それから口を開く。

「僕……?」
「は?」

 ぼくはここにいる。お前は誰だ。違う、知ってる。お母さんが大嫌いな……。

「ぼく? 違うだろ? ほら、こんな髪じゃない。それとお前は垂れ目だ」

 お父さんと同じ、優しい目。お母さんが大好きなお父さんの。なんでお前が持ってるんだよ。返せ、それはお母さんのもので、ぼくのもののはずなのに。

「お前、お母さんの名前は?」

 確かめなくても知っている。

「お母さんの名前?」

 生田こはる。ぼくのお父さんと同じ名字になった女。そうだろ?

「こはる」

 ぼくの目の前が真っ黒になった。お母さんが大嫌いな女の名前。恨んで恨んで、泣いて叫んだ名前。

「……ぼくは大樹。お前は?」

 とっさに近所の男の子の名前を言った。本当の名前は生田陽人。だけど、同じはるがつく名前なんて知られたくない。もしかして、お父さん、あの人からぼくの名前をつけたの?
 悲しくて苦しくなる。

「塁」

 ぼくの身体に適合するかもしれない、とお父さんが言った名前。絶対にいやだ。こいつがぼくと同じなんて、ぼくとくっつくなんて嫌だ。
 だけど、お母さんと一緒に外に出るには、手術しないと駄目なのはわかってた。だから、お父さんは女のところにお願いになんか行ってしまった。こいつがいなければ――。でも、こいつがいたから――。

「そっか。お前らのせいだったのか」

 お父さんはぼくのために、女に頼みに行った。でも、帰ってこなくなったのは捨てられたの?
 わからないよ。でも、ひとつだけはっきりしてる。

「あっちいけ! ぼくはもうすぐ、もうすぐなんだ」

 外に出て、お母さんのところに戻る。それだけは決めてるんだ。邪魔なんてさせない。
 あれ、でもかなみはなんて言ってたっけ。お山がここまで大きくなったら――。
 あれ? あれ? あれ?????

「何のこと?」
「あっちいけったら!!」

 ぼくは塁をドンっと押して川に落とした。
 ざまぁみろ。お母さん、大嫌いなアイツをやっつけたよ。だから、はやく迎えにきてよ。
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