花月夜れん

文字の大きさ
上 下
12 / 22

ゆめ ― 2

しおりを挟む
「あれ?」

 落ちてきた。落ちてきたけど、まだ動いてる。

「痛いよぉ」

 女の人? ゆめより大きい。なんだか大人っぽい。

「どこ、ここ? あたし、死んだんだよねぇ?」

 お姉さんの首にはぐるりと赤い模様があった。

「へー、ゆめちゃんって言うんだ?」
「うん」

 すごくいっぱい話してくるこの人は自分を『江川愛えがわあい』という名前だと教えてくれた。
 久しぶりに誰かと話す。あいは驚くほど喋る。

「あ、ごめんね。こんなに色々話されても困るよね」

 ゆめは怖くて頷く。

「あたし、喋りたいのにさ、話す相手がいなくなっちゃって……」

 あいはぽたぽたと涙を流す。何かあったのかな。でも、食べ物じゃないからわかってあげられない。

「あの、あのね」

 ぶしゃっ

 大きな食べ物が落ちてきた。

「ひぇ!! 何これ」

 あいがびっくりしてる。ゆめはいつも通り、食べようと手を伸ばした。

「ちょっ! ダメだよ。ゆめちゃん!! こんな。どう見たって、死体だよ!? 警察に言わなきゃ。あー、でもここってどこ? あたしのスマホもないし」

 どうしよう。なんて言えばいいのかな。

「あいちゃん、これ食べ物」

 あいのゆめを見る目が変わった。

 ◇

「はぁ、お前そこから飛べよ! ほら」

 男は赤く腫れ上がった腕を見た。

「どうして、こんなことするんだよ」

 まわりを取り囲む男達はにやにやと笑いながらとーべ! とーべ! といい続ける。
 腫れた腕を抱え、男は飛び降りた。

 ◇

 ぽろぽろと涙がでてくる。悔しい、悔しいと何度も頭の中に声が響く。
 この食べ物は、すごく悔しかったんだ。

「ゆめちゃん……、あたし行くから」

 気持ち悪い物を見るような視線がゆめに投げつけられる。この目は知ってる。このあと、ゆめは叩かれて、髪を引っ張られるんだ。頭に手をやる。何もせずあいは走り出した。だけどその時ゆめのお山にぶつかった。ぶつかって崩れたところがさらさらと消えた。

「かなママいなくなっちゃった」

 それだけじゃない。ゆめの話し相手だった十人位がいなくなってしまった。

「オニちゃんがお山大事にって言ってたのに……」

 消えちゃった中にオニちゃんが入ってたらやだな――。

 くちゅり

 ゆめは食べ物をまた食べだす。お山に積み上げなきゃ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

究極?のデスゲーム

Algo_Lighter
ホラー
気がつくと、見知らぬ島に集められた参加者たち。 黒いフードを被った謎のゲームマスターが告げる—— 「これは究極のデスゲームだ」。 生き残るのはただ一人。他の者に待つのは"ゲームオーバー"のみ。 次々に始まる試練、迫りくる恐怖、そして消えていく敗者たち。 しかし、ゲームが進むにつれて、どこか違和感を覚え始める主人公・ハル。 このデスゲーム、本当に"命がけ"なのか……? 絶望と笑いが交錯する、予測不能のサバイバルゲームが今、幕を開ける!

ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜

ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。 二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。 「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」 支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。 二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?

凶兆

黒駒臣
ホラー
それが始まりだった。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

神隠しの子

ミドリ
ホラー
【奨励賞受賞作品です】 双子の弟、宗二が失踪して七年。兄の山根 太一は、宗二の失踪宣告を機に、これまで忘れていた自分の記憶を少しずつ思い出していく。 これまで妹的ポジションだと思っていた花への恋心を思い出し、二人は一気に接近していく。無事結ばれた二人の周りにちらつく子供の影。それは子供の頃に失踪した彼の姿なのか、それとも幻なのか。 自身の精神面に不安を覚えながらも育まれる愛に、再び魔の手が忍び寄る。 ※なろう・カクヨムでも連載中です

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
ホラー
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

処理中です...