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第二章 赤の瞳と金の瞳
第130話 浄化したら反動がある、かな?
しおりを挟むリュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
あまりにも対照的な双子。
それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
そしてその度にこう言われるのだ。
「あー、おまえ、ダメな方か」と。
物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
光と影ですらない。
光と道端に落ちてる石ころ。
ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。
この先もずっとそんな日常が続くのか……。
絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
ギフトはタワーマスター。
これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
スキルは宝物錬成。
何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。
異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
リュウジはそう考えていた。
だが現実はちがった。
召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
戦えないごくつぶし。
いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。
「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」
ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
その塔の内部はリュウジの世界。
タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。
勇者リュウジくんのわりと長いお話。
これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。
「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」
わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。
「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」
せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。
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