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第二章 赤の瞳と金の瞳
第115話 森の中、元婚約者と出会う
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「瘴気なんてないよね……」
クロウを上手くまいたのはいいのだけれど、ブレイドが魔法を使いすぎて今森の中で休憩中だ。
彼は完全に寝入ってしまっている。
指輪を持ってるから近くまでならウロウロしても大丈夫だろうと、私は彼のいる場所から少し離れて探していた。
竜が魔法の力を回復するのに必要な瘴気がないかを。
スピアーみたいに瘴気が噴き出す場所や時間がわかればいいのに。そうすれば、すぐにだってブレイドを……。
瘴気を食べないまま飛び続け探しにきてくれた。だから、なんとかしてあげたいのだけれど、私が出来るのは傷の治療、瘴気の浄化、空を短距離だけ飛ぶ。ブレイドの魔法の力を回復させるような力はない。
「瘴気がないと竜は魔法が使えないのかぁ」
完全に使い切ってしまった時にどうなるのか。嫌な感じがして私はぶるりと震えた。
アメリアを食べたブレイドは自身を炎で焼いた。すべての魔法の力を使って? もしかしてすべての力を使い切ると竜は竜魔石になってしまうのでは……。そんな想像が浮かび、慌てる。
どこかで瘴気が出ていないか。少しでも――。
願ってはいけない願いを口にして私は呆然とした。
「エマっ!!」
「え!?」
腕を掴まれた。まさか、クロウに捕まった?
違う、この声は……。
思い出したくない、元婚約者に似ているが少しかすれた声。
「だ……れ……?」
濃い紺色の衣装をまとった恰幅の良い男が立っていた。元婚約者ラヴェルと同じ髪色と瞳を持つその男は逃げられないようにするためだろうか、ガッチリと痛いくらいの力で掴んでいる。
「誰……か。わからなくて当然だ。こんな姿なのだから」
「あの、手を放してもらえませんか?」
「駄目だ。もうエマを放さない。やっと君の大切さを理解したんだ」
この口振り、やはりこの人は私の元婚約者。そうなれば今の状況はマズい。ブレイドは眠ってしまっている。フレイルがそうだったように竜は人の姿であれば簡単に殺せてしまうのよね……。
慎重にいかないと――。今、ブレイドの元に戻っては危険だ。
一人で戦うしかないけれど、目の前にいる大きな男の力に手が震える。外したくてもどうにも出来ない。
「震えなくて大丈夫だよ。今度はエマのこと大事にするから。さぁ、行こう」
「今さらそんな事言われたって信じられません!」
やはりラヴェルだ。強い力で引っ張られる。
「私はこの姿になって、エマの苦しみを知った。今ならやり直せるはずだ。すまなかった、ずっとずっと頑張ってくれていたんだな」
「……ラヴェ……ル?」
婚約破棄を言い渡してきた日のような冷徹な視線はなく、ただただ静かな目をしていた。何があったのかは知らないが、彼は何か変わったのだろうか。
「謝ってもらったって、もう遅いです。貴方には新しい婚約者だっているのでしょう。あんなにも愛を私の目の前で語り合っていたじゃないですか」
「もう彼女とは終わったんだ! 今の私は以前のラヴェルではない。エマ、もう一度やり直そう!」
ラヴェルの腕の中に囚われる。指輪、風の魔法はまだブレイドにかけ直してもらっていない。
どうやって逃げよう……。まわりに兵はいない。彼一人でこんな場所にいるなんて考えられない。きっと近くにいっぱいいる。今逃げなきゃ、また籠に閉じ込められてしまう――。
キッとラヴェルを睨みつけ首を横にふる。もう一度なんて絶対にない。だって、私が好きなのはブレイドなのだから!
「さっき、赤い竜もいたね。キミをさらった悪い竜退治をしないと」
「違う、彼は!!」
もしかして、兵が見えないのはブレイドのところに行かせているから?
その考えがよぎった瞬間、私は大きく口を開けた。
クロウを上手くまいたのはいいのだけれど、ブレイドが魔法を使いすぎて今森の中で休憩中だ。
彼は完全に寝入ってしまっている。
指輪を持ってるから近くまでならウロウロしても大丈夫だろうと、私は彼のいる場所から少し離れて探していた。
竜が魔法の力を回復するのに必要な瘴気がないかを。
スピアーみたいに瘴気が噴き出す場所や時間がわかればいいのに。そうすれば、すぐにだってブレイドを……。
瘴気を食べないまま飛び続け探しにきてくれた。だから、なんとかしてあげたいのだけれど、私が出来るのは傷の治療、瘴気の浄化、空を短距離だけ飛ぶ。ブレイドの魔法の力を回復させるような力はない。
「瘴気がないと竜は魔法が使えないのかぁ」
完全に使い切ってしまった時にどうなるのか。嫌な感じがして私はぶるりと震えた。
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どこかで瘴気が出ていないか。少しでも――。
願ってはいけない願いを口にして私は呆然とした。
「エマっ!!」
「え!?」
腕を掴まれた。まさか、クロウに捕まった?
違う、この声は……。
思い出したくない、元婚約者に似ているが少しかすれた声。
「だ……れ……?」
濃い紺色の衣装をまとった恰幅の良い男が立っていた。元婚約者ラヴェルと同じ髪色と瞳を持つその男は逃げられないようにするためだろうか、ガッチリと痛いくらいの力で掴んでいる。
「誰……か。わからなくて当然だ。こんな姿なのだから」
「あの、手を放してもらえませんか?」
「駄目だ。もうエマを放さない。やっと君の大切さを理解したんだ」
この口振り、やはりこの人は私の元婚約者。そうなれば今の状況はマズい。ブレイドは眠ってしまっている。フレイルがそうだったように竜は人の姿であれば簡単に殺せてしまうのよね……。
慎重にいかないと――。今、ブレイドの元に戻っては危険だ。
一人で戦うしかないけれど、目の前にいる大きな男の力に手が震える。外したくてもどうにも出来ない。
「震えなくて大丈夫だよ。今度はエマのこと大事にするから。さぁ、行こう」
「今さらそんな事言われたって信じられません!」
やはりラヴェルだ。強い力で引っ張られる。
「私はこの姿になって、エマの苦しみを知った。今ならやり直せるはずだ。すまなかった、ずっとずっと頑張ってくれていたんだな」
「……ラヴェ……ル?」
婚約破棄を言い渡してきた日のような冷徹な視線はなく、ただただ静かな目をしていた。何があったのかは知らないが、彼は何か変わったのだろうか。
「謝ってもらったって、もう遅いです。貴方には新しい婚約者だっているのでしょう。あんなにも愛を私の目の前で語り合っていたじゃないですか」
「もう彼女とは終わったんだ! 今の私は以前のラヴェルではない。エマ、もう一度やり直そう!」
ラヴェルの腕の中に囚われる。指輪、風の魔法はまだブレイドにかけ直してもらっていない。
どうやって逃げよう……。まわりに兵はいない。彼一人でこんな場所にいるなんて考えられない。きっと近くにいっぱいいる。今逃げなきゃ、また籠に閉じ込められてしまう――。
キッとラヴェルを睨みつけ首を横にふる。もう一度なんて絶対にない。だって、私が好きなのはブレイドなのだから!
「さっき、赤い竜もいたね。キミをさらった悪い竜退治をしないと」
「違う、彼は!!」
もしかして、兵が見えないのはブレイドのところに行かせているから?
その考えがよぎった瞬間、私は大きく口を開けた。
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