痩せる決意をした聖女と食べてやると宣言する竜の王子〜婚約破棄されちゃったけど気になる人に愛されたいからダイエット頑張ります〜

花月夜れん

文字の大きさ
上 下
104 / 135
第二章 赤の瞳と金の瞳

第104話 赤い瞳が見る先は(ミリア視点)

しおりを挟む
 
 深い井戸のような、長いトンネルのような真っ暗な場所を、猛烈な勢いにて引っ張られるようにして落ちていく。
 遠ざかる入り口はすぐに点となって見えなくなった。
 ここで景色が一変。
 急に視界がひらけたと思ったら、そこは空の上。
 眼下に広がる真っ赤な大地へとスカイダイビングの真っ最中。
 そんなわたしのカラダにのびてきたのは富士丸くんの手。
 彼はそっとわたしの身をつかむと、すぐさま背中のロケットを点火。
 おかげでことなきを得たわたしたちは、そのまま地表へと降り立つ。
 見渡すかぎりの赤さび色の荒涼地帯。土も空気も風も、何もかもが乾いている。
 雰囲気がどことなく富士丸の亜空間に似ている。
 天を見上げるも自分たちが落ちてきたとおぼしき箇所はどこにも見当たらない。
 おそらくはあの石のヒョウタンの中にとり込まれたのだろうけれども……。

「どれ、人形召喚! おいでませ。たまさぶろう」

 ちょっと格好よく言ってみたけれども、反応はなし。
 富士丸にも自分の亜空間へ行けるか試してもらったけど、こちらもダメ。
 まいったね、こりゃあ。どうやらここは外部から完全に隔絶された場所らしい。
 となると、ルーシーたちとわたしとの間のエネルギー供給回線がどうなっているのかが気になるところ。抜け目のないルーシーのことだから、不測の事態に備えて備蓄はしているだろうけれども、それとてもいつまでもつかわからない。
 わたし発電のクリーンエネルギーにて回っているリンネ組やその周辺にとって、歩く電源であるわたしの身柄こそが肝要。
 青い目をしたお人形さんもつね日頃から「リンネさまは余計なことはしなくていいから、ただ健やかでいて」と口をすっぱくして言っていたっけか。
 ムムム、これはマズいね。急いで外に帰る算段をつけないと。もたもたしていたら怒られちゃうよ。
 珍しく己の脳細胞を使い、うんうん唸っていたら富士丸がある方向を指し示す。
 荒野を渡った先にある山。
 そこには城らしきものの姿が見えている。

「建物があるってことは、ここには何者かがいるってことか。とりあえず行ってみようか」

 富士丸くんの手の平にのって、ギューンとお空をゆく。
 ずんずんと近寄って来る山のお城。岩肌を削ったりくりぬいて作ったような野趣たっぷりな造り。

「あら、けっこう大きな山城。おーい、誰かいませんかー」

 わたしが声をかけたら奥から聞こえてきたのは、カサカサという音。
 その音を耳にしたとたんに、背中にゾクリと悪寒が走る。
 これは……、なにやら聞き覚えがあるような。
 台所の片隅とか、お風呂場の片隅とか、部屋の片隅とか。
 見つけた人を阿鼻叫喚へと誘うは黒くテカるボディ。
 不快度指数と血圧を急上昇させる憎いあんちくしょう。

「ちっ、よもやこんなところで『Gの戦慄』と遭遇するハメになるなんてね」

 昆虫型のハイボ・ロードがいる以上、その可能性が十分にあり得ることにはとっくに気がついていたさ。でもあえて考えないようにしていたんだ。
 もちろん相手がいかにソレからの進化系であろうとも友好的な種族であれば、わたしは偏見を捨てて手をとりあって誼を結ぶ所存であった。
 だが城の中からゾロゾロと溢れ出てきた連中からは、品性の欠片すらも認められない。
 それどころか念話にてこちらの脳裏に届くは「喰いたい」という一念のみ。
 なんとも旺盛な食欲にて本能全開。
 あー、これは意志の疎通は無理だね。
 しかも鬼メイドのアルバよりも一回りデカい「Gの戦慄」とか、とんだ悪夢だよ。
 映画公開されたら失神者続出にて、即上映禁止処分をくらうであろう大迫力の光景。
 健康スキルによる神鋼精神でなかったら、わたしとてどうなっていたことか。
 まぁ、だからこそ何者かの手によって石のヒョウタンの中に封じられていたのかもしれないけど。

 ついに辛抱たまらんとばかりに、連中がワラワラと向かって来たので、わたしは左人差し指型マグナムをズドンと放ち、先頭の一匹の脳天を打ち抜く。
 車が派手に横転するかのごとくカラダがはずみ、黄色い体液が血飛沫となりて舞い散る。
 これが開戦の合図となって、これより地獄の大乱戦が幕を開けた。
 はじめは空の上から一方的に射撃を展開しようかとおもったけれども、連中にもツバサがあることを思い出してヤメる。
 ぶーんとこっちに向かってくる姿はちょっと見たくないもの。
 富士丸の眼がピカっとして光線が一閃。爆発大炎上する大地。吹き飛び爆散する無数の敵影。だがそれでも怯まずに突っ込んでくる連中を、富士丸の肩の上からわたしがバンバン右の中指マシンガンで掃射し、左腕から発射されるロケットランチャーで蹴散らす。

「遠慮はいらないよ! 存分にやっちゃって、富士丸」
「ウンガー」

 日頃は何かとチカラを抑えることを強要されてばかりいる異形の巨人。
 しかしここでは遠慮は無用だろう。いちおう隔絶された空間みたいだし、きっと大丈夫。
 だから「好きにやっちゃえ」と許可を出す。
 嬉々としてロケットパンチを放つ富士丸。なんだかよくわらないが金色に輝く拳が飛んでいき、バチバチの火花とプラズマが大量発生。視界を埋め尽くし、敵勢力をなぎ倒し粉砕していく。ついでに大地もゴリゴリ削れていく。
 そしてわたしもこれまで「こいつはちょっとヤバすぎてダメかなぁ」と考えて、使用を自主的に控えていた武器を解禁。
 左膝を立てる形にてしゃがみ込むと、膝の頭がパカンと開いてジャキンと姿をあらわしたのは小型の砲塔。見た目はちょっとずんぐりむっくり。それこそいつの時代の兵器だよと言いたくなるようなレトロ具合。しかしその実態はわたしの魔力を攻撃へと転化して放つ魔導砲なる武器。ちなみに連射こそはできないけれども、魔力を込めれば込めるほどに威力が増していく。

「エネルギー充填はえーと、とりあえず三十ぐらいにしておくか。では、ファイヤー」

 ほんの様子見にて初弾は軽くすませるつもりだった。
 だけれどもいざ攻撃を放とうとした瞬間に「あっ、これマズい」と本能が警鐘をガンガン鳴らしたもので、わたしはすぐさま「富士丸っ、しっかり押さえて!」と叫ぶ。
 あわてて富士丸がわたしの体をその大きな手で器用に掴み支える。
 ほぼそれと同時に放たれた一撃は、神の怒りか、悪魔の咆哮か。
 世界を破滅させるに足る禍々しい蒼光が敵勢もろとも、背後の城、山、それどころか大地に空をも割って、ついには次元の壁をもパリンとぶち抜いた。

 リンネが魔導砲をぶっ放したのと同時刻。
 岩山から発掘されたナゾの巨大ヒョウタン。その内部にのみ込まれたとおぼしき富士丸とリンネの身を案じて、対象の調査検分をしていたルーシーと分体たちは、何やらイヤな気配を感じて、総員が即座に現場を離脱。
 直後にヒョウタンの表面に無数の亀裂が入ったかとおもえば、内部からとんでもないエネルギー量の光線が飛び出してきたからたまらない。
 斜め上空へと突き抜けていった光の奔流。
 空の厚い雲を突破、風穴を開け消し飛ばし、更に飛んで、ついには星の海へ。三千世界の彼方にてキラリ一番星となる。
 一方地上の発射現場はまるで一度に何十ものロケットをまとめて発射したかのような灼熱の風が吹き荒れ、稲妻の嵐が轟々と渦をまき、しっちゃかめっちゃか。
 それがようやく収まったあと。
 ごっそりすり鉢状に抉れた穴の中心部。
 半ば瓦礫に埋もれるような格好にて、コテンとひっくりかえっていたのは、富士丸とわたしことアマノリンネ。
 わたしたちの姿を見つけて駆け寄って来るルーシーズ。
 ムクリと起きて、それをぼんやりと眺めながらわたしが「魔導砲は封印だね」とつぶやくと、富士丸が小刻みに震えながら、コクコク頷いて同意した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

処理中です...