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第二章 赤の瞳と金の瞳
第85話 逃走(元婚約者父、母視点)
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◆
「誤魔化せませんでしたか」
金色の髪の男が、隣で大きなため息をついた。
「そのようだな」
私と男が目を落としているのは見張りをしていた者からと渡された竜魔石の力がなくなっている外された拘束具。
ラヴェルにつけていた物だ。
無理に外せば血に濡れているはずのコレはまったく汚れることなく置いてあったという。つけていた本人は姿を消していた。
「恐らく妃の仕業であろう。彼女の故郷はかの軍国ルフムイアだ。すでに迎えがきて、向かっているのだろうの」
「レトー、もうやるしかないですよ」
「わかっている」
ラヴェルと同じ顔の男は仮面を脱ぎ捨ててもとの顔になる。
「すべて私が責任を持つ」
心のどこかで願っていたのかもしれない。これに付き合わせるのはあまりにかわいそうだと。
心では決めていたもののやはり息子が可愛かったのかと苦笑してしまう。
妃が逃してくれて良かったのか、悪かったのか。それを私が知ることはない。
願わくば、仲直りをしてこの国の未来を紡ぎ続けて欲しかったが……。
最後の書類をまとめ直し、ペンを置く。
「最後に継承の儀の説明だ。来てくれ」
もう一人の王がすでに国を出てしまって、どうなるかわからない国を託しても良いのだろうか。ずっと葛藤してきた。
すまない。私は約束を果たすことが出来なかった。
初代鍵の王。赤い瞳の聖女アメリアの生まれ変わり。
あなたが二人目に愛した王の作った国を私は滅びの道へと連れてきてしまったかもしれない。
◆
長旅の休憩をするために宿に入る。復路はない、片道だけの旅。懐かしい故郷の服に腕を通し、自分の姿を確かめる。
「サラ母様」
「なぁに? ラヴェル。まあとても似合っているわ」
ラヴェルももちろん着替えさせた。私に嘘をついたあの国のものなどすべて捨てて行く。黒い軍装束を着た息子は、偽物と違って気品が感じられる。ただただ、恨めしいのは何者かの呪いによって美しかった容姿を変貌されている事だ。いったい誰にこんな肥え太らせられたのか。言わなくたってわかる。あの女だ。
太らせる呪いをかけさせたあの女が、同じ手でラヴェルを――。
許さない。
「どこに向かっているのですか?」
「あなたは何も心配しなくていいの」
父にお願いすれば、何だって聞き入れて下さる。だって、私は父の言う通りにしてきた一番のお気に入りだもの。
ラヴェルの綺麗だった髪はボサボサで可哀想になってくる。頭を撫でてあげ、赤ちゃんだった頃のようにぎゅっと抱きしめてあげる。
許さないわ。あの国もあの女も、父にお願いして苦しめてやるんだから。
「誤魔化せませんでしたか」
金色の髪の男が、隣で大きなため息をついた。
「そのようだな」
私と男が目を落としているのは見張りをしていた者からと渡された竜魔石の力がなくなっている外された拘束具。
ラヴェルにつけていた物だ。
無理に外せば血に濡れているはずのコレはまったく汚れることなく置いてあったという。つけていた本人は姿を消していた。
「恐らく妃の仕業であろう。彼女の故郷はかの軍国ルフムイアだ。すでに迎えがきて、向かっているのだろうの」
「レトー、もうやるしかないですよ」
「わかっている」
ラヴェルと同じ顔の男は仮面を脱ぎ捨ててもとの顔になる。
「すべて私が責任を持つ」
心のどこかで願っていたのかもしれない。これに付き合わせるのはあまりにかわいそうだと。
心では決めていたもののやはり息子が可愛かったのかと苦笑してしまう。
妃が逃してくれて良かったのか、悪かったのか。それを私が知ることはない。
願わくば、仲直りをしてこの国の未来を紡ぎ続けて欲しかったが……。
最後の書類をまとめ直し、ペンを置く。
「最後に継承の儀の説明だ。来てくれ」
もう一人の王がすでに国を出てしまって、どうなるかわからない国を託しても良いのだろうか。ずっと葛藤してきた。
すまない。私は約束を果たすことが出来なかった。
初代鍵の王。赤い瞳の聖女アメリアの生まれ変わり。
あなたが二人目に愛した王の作った国を私は滅びの道へと連れてきてしまったかもしれない。
◆
長旅の休憩をするために宿に入る。復路はない、片道だけの旅。懐かしい故郷の服に腕を通し、自分の姿を確かめる。
「サラ母様」
「なぁに? ラヴェル。まあとても似合っているわ」
ラヴェルももちろん着替えさせた。私に嘘をついたあの国のものなどすべて捨てて行く。黒い軍装束を着た息子は、偽物と違って気品が感じられる。ただただ、恨めしいのは何者かの呪いによって美しかった容姿を変貌されている事だ。いったい誰にこんな肥え太らせられたのか。言わなくたってわかる。あの女だ。
太らせる呪いをかけさせたあの女が、同じ手でラヴェルを――。
許さない。
「どこに向かっているのですか?」
「あなたは何も心配しなくていいの」
父にお願いすれば、何だって聞き入れて下さる。だって、私は父の言う通りにしてきた一番のお気に入りだもの。
ラヴェルの綺麗だった髪はボサボサで可哀想になってくる。頭を撫でてあげ、赤ちゃんだった頃のようにぎゅっと抱きしめてあげる。
許さないわ。あの国もあの女も、父にお願いして苦しめてやるんだから。
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