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第一章 聖女と竜
第68話 痩せると決意する私
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空気が冷たい。頬と耳がいたい。寒さがだいぶ進んできた。
そんな中、驚くほど元気な声がルニアを呼んでいた。
「ルニアさん! こうですか!」
「ダメだ。もっと腰を落とせ」
「はい!!」
最近魔物化から人に戻った男の人がルニアにしごかれて喜んでいるところだった。
彼の名前はキルヒネア。元々はラヴェルの私兵だったのだけど……。タネシスの時と違って彼はハヘラータに帰りたがらなかった。
なぜなら、彼はルニアにひとめぼれしてしまったみたい。
横で張り合ってるオゥニィーさん。恋のライバル登場なんて、焦ってるだろうな。きっと。
でもまだまだオゥニィーさんの番はこないから、大変そうだな。ごめんね。先にしてあげられなくて……。
「こら、エマ止まってるぞ!」
「は、はい!!」
ルニアは体を鍛えるダイエットを担当してくれて、少しずつだけど確実にお肉が減っている……と思う。あと、引き締まったような気が……する。まあ、まだまだ始めたばかりだから気のせいかもしれないけれど。
やっぱりずるをして痩せてても見返したなんて言えないものね。頑張って痩せて幸せになってやるんだ。
幸せな未来を想像して頬の筋肉がつい緩んでしまう。
あのあとはもうハヘラータに行くなんて事もなく、順調にこの国の人達を元に戻しながらの日々を過ごせている。
◇
キルヒネアを人に戻して次の日の事だった。
「これから一人ずつ元に戻していく。順番は皆が暮らしていけるように重要な技術を優先していくつもりだが安心して欲しい。ボクの婚約者エマが治療にあたってくれる。ボクとともにずっとここにいてくれると誓ってくれている。だから、順番が遅くなってしまっても焦らないで欲しい。彼女はここからいなくなったりしない」
みんなの前で初めて紹介された。
なんだか色々確定されてしまっていた。婚約者を装うというのは、眠ってしまった会議で決まっていたそうだ。そういえば、何か聞かれて頷いていた。まさか、婚約者になったと言ってずっと私はここにいるから安心しろ。順番で争わないでという話に持っていくとは。
そっか、婚約者ってフリか。フリだったんだ。
「よ、よろひ……よろしくお願いします。私、全員元に戻してみせますから。時間がかかるかもしれませんが待っていて下さい」
こんないっぱいの人の前で喋るなんてすごく緊張してしまう。噛んでしまった……。こんなのじゃ、王妃なんて無理無理の無理だっただろう。だから、ラヴェルと結婚にならなくて良かったのかもしれない。ほんと、結婚してからあんな事言われてたら立ち直れなかっただろうし。
まあ、ブレイドも王子様ではあるけれど……。彼から聞いた話だと王位継承権からは外れているから、元王子様になるのかな?
いつかこの国が元通りになった日に他国に行った人達は戻ってくるのかな……。今はまだ先の事なんてわからないけれど……。
◇
「これ、あの石と同じ効果があるから。こっちの方が持ち運びやすいだろ?」
「はい?」
皆の前での披露が終わり、渡されたのは小さな宝石がついた指輪だった。
ルニアがあちゃぁという表情を浮かべている。
「ブレイド、もう少し雰囲気大事にしろよ?」
「でも、はやいほうがいいだろう?」
「あ、あの……」
これって、まさか、私の指からいなくなったあの……。
「これ、婚約指輪。ボクの婚約者になってもらえるかな」
受け取った手の中でキラキラと光る小さな指輪。
「指輪のサイズがしっかり定まるまではこれで」
華奢な鎖も渡される。準備万端すぎません?
もう、絶対にこのサイズが入るように私、頑張るっっ。
「あー、あつい。突然あついっ!!」
ルニアが走り出す。途中ひょいと顔を見せたスピアーを捕まえてそのまま走り続けていった。
「もらってくれる?」
手の中の指輪をじーっと見ながら夢見心地だった私は急いで首を縦にふった。
「もちろん。ありがとう。嬉しい」
「エマ、フリじゃなくて本当の意味でだから――」
顔が近付いてきたので、私も目を閉じた。
「好きだよ」
空気がすごく冷たいのに、私のまわりだけ火のそばにいるみたいにぽかぽかだった。
◇
今日戻すのは私がお願いして先にしてもらった人だ。
竜魔石の加工や道具作りを生業にしている職人さん。無事に人に戻して休憩に入る。お腹が空くのはどうしたって変わらない。リリーと私が作っておいたダイエットごはんを食べに向かった。
食物繊維豊富な干しきのこたっぷりいれたスープ。ブレイドがとってきたお肉の香草焼き。あとは上手に焼けるようになってきたパン。
「食べ過ぎるなよー」
「わかってる。食欲を抑える料理ってないのかなぁ」
「食べるのを抑える食べ物って……」
呆れたように笑うルニア。しょうがないじゃない。お腹は空いてしまうのだもの。
今日戻した職人さん、アルも向こうの席でふきだしてる。そんなに面白い事言ったかな。
今、瘴気の浄化はほとんどブレイドとスピアーがやってしまうから、やることが減ってしまった。その時間をあることに使いたいのだ。ダイエットとはまた別の目標。
「なぁ、どうしてまた竜魔道具なんかに興味が湧いたんだ?」
「んー?」
教えてあげたいけれど、この話は王様にしかしない決まりに触れちゃうからなぁ。
「お父さん、お母さんが竜魔道具作ってたんだ。それで、私同じ事がしてみたくて」
「ふぅん」
なんとなく言いたくないのを察してくれたのか、ルニアは次やるダイエットトレーニングメニューの話に変えてくれた。
ごめんね。気を使わせて。
私、ダイエットとは別にもう一つやりたい事見つけたの。
この国にもハヘラータみたいな装置を作りたい。その為に竜魔石や竜魔道具の扱いを知りたかったの。少しでもはやく。
いつかそれが出来れば、瘴気が減ってブレイドが自由になれるかなって思ってるんだ――――。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
一章最後までお付き合いくださりありがとうございます。
次回より第二章になります。
エマの過去や謎に踏み込んでいきます(*´ω`*)ノ
よろしくお願いいたします。
そんな中、驚くほど元気な声がルニアを呼んでいた。
「ルニアさん! こうですか!」
「ダメだ。もっと腰を落とせ」
「はい!!」
最近魔物化から人に戻った男の人がルニアにしごかれて喜んでいるところだった。
彼の名前はキルヒネア。元々はラヴェルの私兵だったのだけど……。タネシスの時と違って彼はハヘラータに帰りたがらなかった。
なぜなら、彼はルニアにひとめぼれしてしまったみたい。
横で張り合ってるオゥニィーさん。恋のライバル登場なんて、焦ってるだろうな。きっと。
でもまだまだオゥニィーさんの番はこないから、大変そうだな。ごめんね。先にしてあげられなくて……。
「こら、エマ止まってるぞ!」
「は、はい!!」
ルニアは体を鍛えるダイエットを担当してくれて、少しずつだけど確実にお肉が減っている……と思う。あと、引き締まったような気が……する。まあ、まだまだ始めたばかりだから気のせいかもしれないけれど。
やっぱりずるをして痩せてても見返したなんて言えないものね。頑張って痩せて幸せになってやるんだ。
幸せな未来を想像して頬の筋肉がつい緩んでしまう。
あのあとはもうハヘラータに行くなんて事もなく、順調にこの国の人達を元に戻しながらの日々を過ごせている。
◇
キルヒネアを人に戻して次の日の事だった。
「これから一人ずつ元に戻していく。順番は皆が暮らしていけるように重要な技術を優先していくつもりだが安心して欲しい。ボクの婚約者エマが治療にあたってくれる。ボクとともにずっとここにいてくれると誓ってくれている。だから、順番が遅くなってしまっても焦らないで欲しい。彼女はここからいなくなったりしない」
みんなの前で初めて紹介された。
なんだか色々確定されてしまっていた。婚約者を装うというのは、眠ってしまった会議で決まっていたそうだ。そういえば、何か聞かれて頷いていた。まさか、婚約者になったと言ってずっと私はここにいるから安心しろ。順番で争わないでという話に持っていくとは。
そっか、婚約者ってフリか。フリだったんだ。
「よ、よろひ……よろしくお願いします。私、全員元に戻してみせますから。時間がかかるかもしれませんが待っていて下さい」
こんないっぱいの人の前で喋るなんてすごく緊張してしまう。噛んでしまった……。こんなのじゃ、王妃なんて無理無理の無理だっただろう。だから、ラヴェルと結婚にならなくて良かったのかもしれない。ほんと、結婚してからあんな事言われてたら立ち直れなかっただろうし。
まあ、ブレイドも王子様ではあるけれど……。彼から聞いた話だと王位継承権からは外れているから、元王子様になるのかな?
いつかこの国が元通りになった日に他国に行った人達は戻ってくるのかな……。今はまだ先の事なんてわからないけれど……。
◇
「これ、あの石と同じ効果があるから。こっちの方が持ち運びやすいだろ?」
「はい?」
皆の前での披露が終わり、渡されたのは小さな宝石がついた指輪だった。
ルニアがあちゃぁという表情を浮かべている。
「ブレイド、もう少し雰囲気大事にしろよ?」
「でも、はやいほうがいいだろう?」
「あ、あの……」
これって、まさか、私の指からいなくなったあの……。
「これ、婚約指輪。ボクの婚約者になってもらえるかな」
受け取った手の中でキラキラと光る小さな指輪。
「指輪のサイズがしっかり定まるまではこれで」
華奢な鎖も渡される。準備万端すぎません?
もう、絶対にこのサイズが入るように私、頑張るっっ。
「あー、あつい。突然あついっ!!」
ルニアが走り出す。途中ひょいと顔を見せたスピアーを捕まえてそのまま走り続けていった。
「もらってくれる?」
手の中の指輪をじーっと見ながら夢見心地だった私は急いで首を縦にふった。
「もちろん。ありがとう。嬉しい」
「エマ、フリじゃなくて本当の意味でだから――」
顔が近付いてきたので、私も目を閉じた。
「好きだよ」
空気がすごく冷たいのに、私のまわりだけ火のそばにいるみたいにぽかぽかだった。
◇
今日戻すのは私がお願いして先にしてもらった人だ。
竜魔石の加工や道具作りを生業にしている職人さん。無事に人に戻して休憩に入る。お腹が空くのはどうしたって変わらない。リリーと私が作っておいたダイエットごはんを食べに向かった。
食物繊維豊富な干しきのこたっぷりいれたスープ。ブレイドがとってきたお肉の香草焼き。あとは上手に焼けるようになってきたパン。
「食べ過ぎるなよー」
「わかってる。食欲を抑える料理ってないのかなぁ」
「食べるのを抑える食べ物って……」
呆れたように笑うルニア。しょうがないじゃない。お腹は空いてしまうのだもの。
今日戻した職人さん、アルも向こうの席でふきだしてる。そんなに面白い事言ったかな。
今、瘴気の浄化はほとんどブレイドとスピアーがやってしまうから、やることが減ってしまった。その時間をあることに使いたいのだ。ダイエットとはまた別の目標。
「なぁ、どうしてまた竜魔道具なんかに興味が湧いたんだ?」
「んー?」
教えてあげたいけれど、この話は王様にしかしない決まりに触れちゃうからなぁ。
「お父さん、お母さんが竜魔道具作ってたんだ。それで、私同じ事がしてみたくて」
「ふぅん」
なんとなく言いたくないのを察してくれたのか、ルニアは次やるダイエットトレーニングメニューの話に変えてくれた。
ごめんね。気を使わせて。
私、ダイエットとは別にもう一つやりたい事見つけたの。
この国にもハヘラータみたいな装置を作りたい。その為に竜魔石や竜魔道具の扱いを知りたかったの。少しでもはやく。
いつかそれが出来れば、瘴気が減ってブレイドが自由になれるかなって思ってるんだ――――。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
一章最後までお付き合いくださりありがとうございます。
次回より第二章になります。
エマの過去や謎に踏み込んでいきます(*´ω`*)ノ
よろしくお願いいたします。
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