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第一章 聖女と竜
第50話 最悪の連絡(元婚約者視点)
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連絡を待っていた私の耳に先に入ったのは嫌な知らせだった。
「ラハナルで瘴気が噴き出し始めた」
瘴気に包まれた国のすぐそば、国境沿いの街だ。
エマがいればすぐに聖女を動かす事が出来たのに……。最悪のタイミングだ。
もう一人の派遣を願い出るしかないのか。机に置かれた私兵との連絡用道具と同じ物を手にとる。これは聖女の派遣等を願い出る時に使う、専用の連絡機。
「状況は!?」
「それが……」
報告に来た男の口が止まる。手遅れであるということだろうか。
「報告によれば竜に乗った伝説の聖女がその瘴気を消したと」
「どういうことだ?」
竜に乗った聖女? そんなものがあの街にいるというのか?
「瘴気を間近にした親子がいまして、その子どもが確かに見たと。竜に関しましては街の住人数人の目撃情報があり確かかと。ただ、危険な為その後の森への立ち入りはしておらず、瘴気の様子は不明です。急ぎ聖女の派遣を」
「わかった。連絡をいれよう。さがれ」
「はっ」
聖女に関しては王からすべて任されている。エマと婚約をしろと命じたのも王だ……。国の将来だ。私に任されているということはつまり次の王であるからで。
連絡機に付いている竜魔石に触れる。これは相互で話せる、貴重な物だ。
「一人、派遣してくれ。すぐにだ」
「…………ハヘラータ国ラヴェル王子でよろしいでしょうか?」
連絡機の向こうから鳥の美しい鳴き声のような高い声がした。
「そうだ」
「……一人すでに国の見張り役としてそちらにいらっしゃるはずですがその方は?」
瘴気の噴き出しがなくただ保険のために聖女を置く場合、かかる金は急に低くなる。
噴き出した場合跳ね上がるがナターシャと話を合わせてある。差分をすべて君に充てようと。
「もしかして瘴気が始まったのでしょうか? でしたら……、急に他の場所で瘴気が出るということはないのでゆっくり考えてからでも」
「いますぐだ」
「…………わかりました。次に送り出す聖女は見張り用ですか? それとも……」
わかってやっているのだろうか。ただでさえイライラしているのに、この高い声が癪に障る。
「そちらを瘴気に対応させる予定だ。ハヘラータとマクプンの国境沿いの街ラハナルに向かわせて欲しい」
「まぁ、一人目の方を目にかけておいでなのですね。わかりました。近くの者に連絡をいれますわ。日が変わる前には到着します。ご安心下さい」
「あぁ……」
すぐに来ることが出来る距離に聖女がいる。数人の聖女は諸国を回り確かめているのだろう。瘴気が出ていないか。嘘をついていないか――。
そのうちの一人というわけか。竜に乗った聖女もその一人だったのだろうか。金を請求してこなかったのはなぜなのか。この国を試しているとでも言うのだろうか。
「ご連絡ありがとうございました。それではまた」
また、など二度とこない事を祈りたい。連絡機を放り投げ、私は廊下に進む。
「私が直接行く」
竜に乗った聖女? そんな噂が流されては困る。私が迎え入れるのは愛するシャーリィだけなのだから。
聖女を花嫁、王妃にしろと救われた民達が声を上げては困るのだ。
「シャーリィ。行ってくる」
「いってらっしゃいませ。ラヴェル様」
最愛の人に一時の別れを告げ、瘴気の出たという街へ向かう。共に連れ行くのは用意していた騎士団の数人。
「行くぞ!!」
周辺にいると思われるエマ、ルニア、私兵に関する情報も手に入れられれば良いのだが。
外は暗く寒かった。この様な面倒事に巻き込まれ怒りの矛先をあの女へと向けたくもなる。
あの女、見つけたらただでは済まさない。私を苛つかせ、国境沿いまで足を運ばせるとは……。
日が昇る前に街にはつくだろうが、新たな聖女も出迎えねばならぬ。
ナターシャは私と共犯だ。裏切ることは出来ないだろう。
彼女に何も言わずに出た事を出立してから気がついたが私はそのまま前に進み続けた。
「ラハナルで瘴気が噴き出し始めた」
瘴気に包まれた国のすぐそば、国境沿いの街だ。
エマがいればすぐに聖女を動かす事が出来たのに……。最悪のタイミングだ。
もう一人の派遣を願い出るしかないのか。机に置かれた私兵との連絡用道具と同じ物を手にとる。これは聖女の派遣等を願い出る時に使う、専用の連絡機。
「状況は!?」
「それが……」
報告に来た男の口が止まる。手遅れであるということだろうか。
「報告によれば竜に乗った伝説の聖女がその瘴気を消したと」
「どういうことだ?」
竜に乗った聖女? そんなものがあの街にいるというのか?
「瘴気を間近にした親子がいまして、その子どもが確かに見たと。竜に関しましては街の住人数人の目撃情報があり確かかと。ただ、危険な為その後の森への立ち入りはしておらず、瘴気の様子は不明です。急ぎ聖女の派遣を」
「わかった。連絡をいれよう。さがれ」
「はっ」
聖女に関しては王からすべて任されている。エマと婚約をしろと命じたのも王だ……。国の将来だ。私に任されているということはつまり次の王であるからで。
連絡機に付いている竜魔石に触れる。これは相互で話せる、貴重な物だ。
「一人、派遣してくれ。すぐにだ」
「…………ハヘラータ国ラヴェル王子でよろしいでしょうか?」
連絡機の向こうから鳥の美しい鳴き声のような高い声がした。
「そうだ」
「……一人すでに国の見張り役としてそちらにいらっしゃるはずですがその方は?」
瘴気の噴き出しがなくただ保険のために聖女を置く場合、かかる金は急に低くなる。
噴き出した場合跳ね上がるがナターシャと話を合わせてある。差分をすべて君に充てようと。
「もしかして瘴気が始まったのでしょうか? でしたら……、急に他の場所で瘴気が出るということはないのでゆっくり考えてからでも」
「いますぐだ」
「…………わかりました。次に送り出す聖女は見張り用ですか? それとも……」
わかってやっているのだろうか。ただでさえイライラしているのに、この高い声が癪に障る。
「そちらを瘴気に対応させる予定だ。ハヘラータとマクプンの国境沿いの街ラハナルに向かわせて欲しい」
「まぁ、一人目の方を目にかけておいでなのですね。わかりました。近くの者に連絡をいれますわ。日が変わる前には到着します。ご安心下さい」
「あぁ……」
すぐに来ることが出来る距離に聖女がいる。数人の聖女は諸国を回り確かめているのだろう。瘴気が出ていないか。嘘をついていないか――。
そのうちの一人というわけか。竜に乗った聖女もその一人だったのだろうか。金を請求してこなかったのはなぜなのか。この国を試しているとでも言うのだろうか。
「ご連絡ありがとうございました。それではまた」
また、など二度とこない事を祈りたい。連絡機を放り投げ、私は廊下に進む。
「私が直接行く」
竜に乗った聖女? そんな噂が流されては困る。私が迎え入れるのは愛するシャーリィだけなのだから。
聖女を花嫁、王妃にしろと救われた民達が声を上げては困るのだ。
「シャーリィ。行ってくる」
「いってらっしゃいませ。ラヴェル様」
最愛の人に一時の別れを告げ、瘴気の出たという街へ向かう。共に連れ行くのは用意していた騎士団の数人。
「行くぞ!!」
周辺にいると思われるエマ、ルニア、私兵に関する情報も手に入れられれば良いのだが。
外は暗く寒かった。この様な面倒事に巻き込まれ怒りの矛先をあの女へと向けたくもなる。
あの女、見つけたらただでは済まさない。私を苛つかせ、国境沿いまで足を運ばせるとは……。
日が昇る前に街にはつくだろうが、新たな聖女も出迎えねばならぬ。
ナターシャは私と共犯だ。裏切ることは出来ないだろう。
彼女に何も言わずに出た事を出立してから気がついたが私はそのまま前に進み続けた。
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