痩せる決意をした聖女と食べてやると宣言する竜の王子〜婚約破棄されちゃったけど気になる人に愛されたいからダイエット頑張ります〜

花月夜れん

文字の大きさ
上 下
23 / 135
第一章 聖女と竜

第23話 私にかけられているもの?

しおりを挟む
 
 神殺しのテュルファング。
 手にした者にチカラと引き換えに絶望の呪いを与える漆黒の剣。
 これを腰に差して、わたしはギャバナのライト王子のもとへと向かう。
 お願いして呪染対策チームを派遣してもらった手前、最低限の説明責任は果たしておこうと考えての行動。あとお世話になった以上は、きちんとお礼を言っておかなければね。
 わたしは基本的にちゃんとしたえらい人には媚びへつらこともじさない女。
 だから菓子折りを持っての表敬訪問。

「……話はだいたいわかった。そいつの所有権も認めよう。というかそんな物騒な品を置いて行かれてもこちらとしては迷惑だしな」ライト王子は言った。「それにしても健康スキルに思わぬ使い道が発覚したな。呪いの影響をまるで受けないのだから、そっち系統のアイテムを使い放題じゃないか」

 呪いの武器、呪いの鎧、呪いの仮面、呪いの指輪、呪いのネックレスなどなど、各種呪いのアイテム。
 この手の品々は高性能な反面、使用者に多大なリスクを負わせる。
 だいたい調子がいいのは初めだけ。最終的には、とーっても悲惨な結末が待っているのがお約束。
 しかしわたしであればリスクを負うことなく、全身を呪いグッズでコーディネートしたところで、心おきなく使用できるというわけさ。
 はははは、ちっともうれしくないや。わたしはもっと普通のおしゃれの方がいい。

「とはいえ剣なんて扱えるのか? 撃つ殴る蹴る漁るが専門のおまえに」

 せっかくの名刀も素人が握れば、その辺の木の枝とかわらない。
 だからこそのライト王子のこの言葉。
 そしてわたしの場合、剣は完全に門外漢。それは自分自身が重々承知をしている。

「そのへんのことも踏まえて、ちゃんと戦い方は考えてあるよ」

 敵とテュルファングを手にして対峙。
 カンカンカンとしばらく打ち合えば、相手も「あれ? 剣はやたらと立派だけど、こいつ、へっぽこ剣士だぞ」と気がつく。
 頃合いを見計らってうっかり剣を手放すわたし。あわてて拾おうとするも自分のつま先にてこつんとカーリング。大事な相棒が敵の方へと向かい「あぁ、しまった!」
 足下に転がってきた得物を見た敵。

「へっへっへっ、とんだマヌケめ」

 これ幸いと武器を奪おうとする。
 だがそれこそが恐ろしいトラップ。
 なにせ神殺しの剣には手にした途端に発動する呪いがあるのだから。
 うっかり手をのばしたが最後、すかさず人生坂をごろごろと転げ落ちていく。バッドエンドに向かって一直線。
 ……といったような使い道を得得と説明したら、ライト王子は「なんてイヤらしい戦法なんだ」「戦うことになる相手が気の毒すぎる」と顔をしかめる。

「でもそれだけ悲惨な目にあったら、逆に自棄になって暴れたりしないか」

 辛すぎて人生に悲観。絶望のあまりキレて凶行に走ることを懸念するライト王子。
 その心配はごもっともながら、やはり問題なし。
 なぜなら暴れたくとも腰がぎっくり状態にて、まともに動けやしないからだ。うっかり剣を手にリキもうならば、とたんにお尻の爆弾が破裂する。
 なによりウツウツした気分のせいでやる気が出ない。「もう、なんか、どうでもいいや」と投げやりになり無気力にて万年床でグッタリ。そして枕元の抜け毛の多さに恐れおののく。
 うん。改めて口に出して説明してみると、じつにヒドイ話だな。なんという負のスパイラル。
 神殺しの呪い、おそるべし。

「もういい、わかった。だからとりあえずソイツをこっちに近づけんな」
「心配しなくてもだいじょうぶだよ。テュルファングにはわたしの許可ナシには呪いを発動しないようにと、よーく言い含めてあるから」

 呪いの使用制限。
 それこそわたしが神殺しのテュルファングに課した降伏の条件。
 ちなみにルーシーが課した条件は研究協力。
 なにせいろいろと問題がある剣ではあるものの、激レア素材の神鋼造りであることにはちがいない。青い目のお人形さんは貴重なサンプルとしておおいに役立てるつもりのようだ。「べつにきさまが生きてようが死んでようがワタシはどちらでもかまわない」とルーシーに言われて、テュルファングが「ひぃぃ」と悲鳴をあげる。これにより序列が完全に確定した。
 彼の加入によって飛躍する魔導科学。
 リンネ組はますますの発展を遂げることであろう。
 そんなことをぽわぽわ妄想していたら、ライト王子がある提案を口にする。

「それはともかくとして、なんならウチが所蔵している呪いの品を見てみるか? 気に入ったのがあったら適当に持っていってかまわんぞ。保管していても百害あって邪魔なだけだし。有効利用できる者がいるのならば、そいつが活かすべきであろう」

 タダでいいぞとか、めずらしく太っ腹なこと仰る王子さま。
 これさいわいと面倒なお荷物をわたしに押しつける気だ。
 だがみんなにとっては邪魔な品でもわたしにとってはそうではないので、ここはお言葉に甘えてみることにした。



 ギャバナの王城敷地内、隔離された区画にある半地下の倉っぽい建物。
 ここがいわくつきの呪いの品を集めた専用の倉庫。
 ライト王子の好意? によってここに足を運んだわたしとルーシー。
 陽炎のごとくゆらめく妖気。建物全体に何重にも呪染対策がみっちり施されているという話だが、わたしの目にはむしろ建物自体が収蔵品の影響を受けて、呪われてしまっているかのように映る。

「ある意味、そういうことなのでしょう」
「?」
「呪いを弾き返す呪い。呪いを封じる呪い。方向性がちがうだけで、中味は同じようなものですから」

 ルーシーの説明に「うーん」と首をかしげつつも、わたしは建物の扉の取っ手を掴む。
 横にスライドする大扉。けっこうな重さにて、おもわず「うんとこどっこいしょ」と言ってしまった。
 建物内部には薄っすらと表面にホコリが積もったショーケースが整然と並んでおり、中には短剣、長剣、指輪に冠、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリー類に、宝石がごてごて付いたベルトやら小物入れなどがずらり。
 壁沿いのケースには鎧や鎖帷子、ドレスに調度品などの比較的大きな品が陳列されてある。
 どいつもこいつもいわくありげのドヤ顔にて、じつに堂々たる呪われっぷり。
 すべての品にはご丁寧にも説明書きが添えられてある。これはありがたい。

「はてさて、なにか使えそうな品はあるかなぁ。えーと、この短剣はモテるけどどこまでいってもいいひと止まりか。こっちの髪飾りはダイエット効果が期待できるけれども背中に毛がわさわさにて耳毛も生えてくると、なんか処理がたいへんそう」
「絶交のイヤリングなんてものもありますよ、リンネさま。なんでも異性にモテモテだけれども同性から蛇蝎のごとく嫌われるみたいです。女同士の友情か男との愛情か、これはとてもデリケートなところをついてきますね」

 主従にて目を皿のようにして品物を物色すること三時間。
 ろくでもないエピソード満載なグッズの数々。その中から最終的にわたしが選んだのは、細いチェーンにてネックレスのように首から下げられる指輪。
 なんら装飾が施されていないシンプルな造りの銀製品。
 これは、身につけていると金運がちょっぴりアップするかわりに、恋愛運がダダ下がりするというシロモノ。大人しそうな見た目に反して、愛と金の二択を迫るとか地味にえぐい。
 何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。
 いささか交換レートに首を傾げるものの、対価を支払うという観点は至極真っ当なような気もする呪法の世界。
 とはいえ、やたらと恋愛運を犠牲にする品が多いような気がするのだけれども……。

「いつの世も色恋絡みの悩みは尽きないということなのでしょう。もっとも身近にて強烈な呪力が発生しやすい案件ですので」とルーシーさん。

 青い目のお人形さんから、ためになるようなならないような、そんなお話を拝聴しつつ倉庫漁りは終了。
 最後にライト王子に挨拶してから引き上げるかと、城内の廊下をトテトテ歩いていたら、前方の床にて何やらキラリと光るものを発見!
 すかさず近寄ってみたらコインが落ちてたよ。さっそく呪いのアイテムの効果発動。なんてこったい、すごい効き目じゃないか。これさえあれば一生、小銭に不自由しないですむぞ。
 拾ったコインを手に、「うひょー」と浮かれるわたしを尻目にルーシーがぷつぷつつぶやく。

「コイン一枚拾得するのに支払う対価。推定にておおよそ恋愛運十。ちなみに最大値百ですので交換レートとしては、かなりのぼったくり」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

処理中です...