痩せる決意をした聖女と食べてやると宣言する竜の王子〜婚約破棄されちゃったけど気になる人に愛されたいからダイエット頑張ります〜

花月夜れん

文字の大きさ
上 下
14 / 135
第一章 聖女と竜

第14話 また?

しおりを挟む
 その時自分でも驚くほどはやく動けたの。二人から離れなきゃいけないって。でも、意味なんてなかった。
 そのすごくはやいヤツは、私を鷲掴みにすると横方向に進路を変えて飛んだ。すごいはやさだ。
 うえぇ、な、なにか色々でそうっ。食べたお肉だけは守らなきゃ……。
 そして、ある程度距離が離れたのだろうか。いきなりポイと地面に転がされた。
 すぐに顔をあげる。目の前にいる竜は黒くなかった。少し細長い体は青く、まるできらめく水のような竜だった。

「私を食べたら、お腹壊してやるんだからっっ」

 私、何を言っているんだろう。そもそも竜って話せるの?
 その辺に転がっている石を掴む。武器になんてならないってわかってる。だけど何もしないでやられる私じゃないんだから。
 そんな様子を見ていた青竜は何事もなかったかのように口を開けてこちらに向かってきた。

「あぁぁぁぁぁ、ごめんなさい。やっぱり食べないでぇぇぇぇぇ!!」

 ピタリと口が止まる。
 え、また!?
 目の前に竜の口がある。今なら歯の数だって数えられそう。

「クサッ!! 何だこれ。うっわ。くそマズそう」

 …………ぷちっ。
 私の中で何かが切れた。

「誰があぶら臭くて不味いってぇぇぇぇぇ」

 持ってた石に私の全力をこめて鼻っ柱を打った。

「聖女の一撃(ver石)っっ」
「な゛っ。んなこといってな――」

 いい位置に当たったようで竜の顔が後ろに下がっていった。
 勝った。私は石をかかげ勝利のポーズをする。
 竜相手に勝ったもなにもないのだけど、その時はそうポーズしてしまったの。

「いってー!!」

 だって、ブレイドの時みたいにこの青竜ももんどりうってるんだもの。
 それから、それから……あっ…………。

 青色のつややかな長い髪、空を映す透き通った湖面のような瞳……の裸の男があらわれた。

 倒しますか?
 →YES
 →NO

 って、またかーーーー!!!!
 今日は投げつけるものがない。ものがないのよっ!!
 温泉とお肉で体がぽかぽか温まっていた私はマントをシルのところに置いてきていた。

「あぁぁぁぁ、隠しなさいよ。前っ」
「ん、おぉー」

 おぉーじゃなくて、もう何ポーズしてるのよ。
 こ、今回は倒れたりしないんだから。決して見慣れたとかではなくっ。お肉食べたあとだからお腹すいてないからだからっ。

「すっげ。竜化強制解除とか、アンタなにもん?」

 見た目に似合わないすごく軽薄そうな話し方をする男だった。だって、口を開かなければどこかの王子様でも通用しそうなんだもの。

「あなたこそ、何者よ」

 青い竜だっていうのはわかってる。わかってるけど、一応聞いてみる。

「ふぅん、赤い瞳。同じ感じがしたんだけどなぁ。オレがわかんないということは……っと」

 視線が私から外れる。私も青い男と同じ方向を見ると体の一部、背中の翼だけを竜化したブレイドが飛んでくるのが見えた。

「ブレイドっ」

 同じ食べられるなら、彼に食べられたい。それで少しはお礼になるよね……。私は必死に彼に手をのばす。

「あー、面倒くさいのがきてもたか。またもう一回くるわ」

 青い男が後ろでそう言ったのが聞こえた。
 ちょうどブレイドの手と私の手が繋がった時だった。

「エマはボクが先に見つけたんだからな」

 あ、えーっと、やっぱりどっちにも食べられたくないです。

「今日は諦めといたるわー」

 青い男が竜化しようと……した? 男の姿が消えそこには青い体の……、あれ?

「んー、あれ? なんでやぁ?」

 むこうも戸惑っていた。だって、目の前にいるのは先ほどの大きな竜ではなくて、抱き抱えられるぬいぐるみほどの大きさの丸い竜だったから。
 えーっと? なんだか、可愛い。これも私のあれのせいだったりします?

「しかも飛べないやと!! ええぃ、こうなったら人型でってあぁーーーー!?」

 青い丸い竜が叫び続ける。

「竜化がとけねぇぇぇぇだとぉぉぉぉ!?」

 ブレイドと私は顔を合わせる。
 笑っていい場面なのかわからないけれど自然に笑みがこぼれてしまった。

「エマ、立てるか?」
「うん」

 優しく手を引かれて立ち上がる。ドキドキする。元婚約者に指輪をもらった時よりもずっと強いドキドキ。こんな気持ちになるなんて私、この人のこと好きになってしまったのかな。

「どこか噛みつかれたりしてないか?」
「ぷっ、あははははは」

 聞くところ、そこなの? 食べられてないかの心配かぁ。
 私は思わず笑ってしまった。さっきまでの緊張が一気にとけた。

「あのね、ブレイド。私、食べられるなら他のは嫌だな。その時はちゃんと食べてね」

 だからだろう。ぽろっとこんな事を言ってしまうなんて。

「もちろん。言っただろ。どんな姿だろうとボクはエマを食べてやるってさ」

 それは、喜んでいいのか。悲しめばいいのか。
 どんな姿でもかぁ。私はでも、どうせなら自分が一番きれいだと思える姿で彼の瞳に映りたい。

「あ、でも食べられそうな時だから、えーっと、だからね……」

 やっぱり食べられたくない。だって、食べられてしまったらこうやって横にいることができないから。
 やっぱり私、ダイエット頑張るわ!! えーっと、食べられないように?

「おい、お前、聞いてんのか? さっきのヤツもう一回オレにしろよっ!! 今すぐだ!!」

 私が一生懸命悩んでいる最中、丸い竜がずっと何か叫んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...