痩せる決意をした聖女と食べてやると宣言する竜の王子〜婚約破棄されちゃったけど気になる人に愛されたいからダイエット頑張ります〜

花月夜れん

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第一章 聖女と竜

第3話 覚醒しちゃった?

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 それにしても異様に疲れた……、自分でも神経がすり減っているのを感じる。会場を出てからも、妙に頭の中が騒がしくて、こんな時は強めの酒で、記憶を消し去りたい気分になる。

「どうする? 須藤の車置いてく?」
「あー、そうだな、うちまで行くか」

 先に誠人の家へ寄り、車を駐車場へ止めると長谷部の車へ乗り込んだ。
「それにしても、この辺りいいよね」と周辺に空きの土地は無いのかと尋ねて来るのを聞き。

「やめてくれ、俺の店を潰す気か」
「この辺りならケーキショップもいいかなと思ってさ」
「ま、悪くはないな」

 確かに、この辺りは美容院やネイルサロンなど、女性を中心としたショップが多いので、長谷部の言うように、ケーキショップなどあれば流行るだろう。
 目の付け所は悪くないな、と感心していると、ふと笑みを零して、長谷部は誠人の方へ頭を少し傾けた。

「それに、昔は喧嘩ばかりだったけど、今なら上手く付き合っていけると思わない?」

 そんな風に言われて、確かに、今ならお互いの距離を上手く量れるだろうし、妙な勘繰りや下手な駆け引きもしないだろう。きっと、それは恋愛とは呼べないが仕事仲間の延長として、やっていける気がした。

「お前なら、いくらでも良い男捕まえられるだろ、何も中古品に手を出さなくても」
「ンー、中古の方が価値があって高いの知らないの?」
「人をヴィンテージ扱いするなよ」

 くつくつと誠人は微笑した。それに釣られることなく、長谷部は真剣な表情と口調で「失わないと価値に気が付かないもんなんだよな……」と呟く。

「俺さ、須……、誠人と別れてすぐ、違う男と付き合って、あー、こいつじゃない、って、すぐに別れて、それの繰り返しだったよ」

 昔のように、『誠人』と下の名を呼ぶ長谷部に、別れを切り出したのは長谷部からだったことを思い出して、少しだけ胸がざわつく。
 承諾したのはお互いのためだったし、今更、思い出して後悔するような出来事には感じなかったが、二度と同じ思いはしたくないと思う。

「過去は過去だろ、今はその日が楽しければいい」
「……そう思ってたけど、なんかなぁ……、あの子を見て取られたくないって思った」
「いやいや、取る取らないじゃなくて、そもそも海翔の方だって、その日限りを楽しむタイプなんだよ」
「あ、知らないフリするんだ? あんなのどう見たって俺を見て嫉妬してたのにな」

 長谷部の言っていることを認めたら、自分の中のブレーキが壊れそうで嫌だった。それをズバズバ言われて、誠人は一気に面白くない気分になる。
 軽く舌打ちして「他の男の話するなんて余裕だな?」と長谷部の太腿に手を置いた。びくっと一瞬、筋肉が硬直するのが分かり、そのまま上へと手を這わせ腰骨を撫で上げた。

「ちょ、運転中! 事故る」
「余計な話しするからだろ、ほら、しっかり前見てろ」
「あの子の代わりに抱こうとするから、ちょっと意地悪したくなったんだよ」
「……代わりなんて扱いするわけないだろ」

 長谷部の拗ねた様な言葉を聞いて、海翔の代わりなんているわけがない、と思わず本音を零しそうになる。
 少し間が空き、その間に誠人はホテルに予約を入れた。今日は休日で、しかも長谷部が相手なら、泊りがけになることを想定して、慣れ親しんだシティホテルへ予約を入れた。

「あそこのホテルなら、あとでカツサンド食べたい」
「あー、あれな」

 昔からルームサービスで、よく頼んでいた食べ物の話題に、ほっこりしながら、目的の場所に辿り着くと、長谷部を駐車場に残して誠人が先にフロントへ向かう。
 金子の所で働いていた頃は、よくここのホテルロビーで待ち合わせをしていたので、少し懐かしい気分になった。
 まだ駆け出しの料理人で、貧相な家に住んでいたから、声も出せず不完全燃焼なセックスになりがちだったことから、結果、ホテルを使うようになった。
 取った部屋はダブルベッドの中層階の部屋で、先に部屋に入ると、長谷部に部屋番号のメッセージを送った。ほどなくしてインターホンが鳴る。

「先にシャワー浴びていいぞ」
「……部屋開けるなり、それ?」
「ヤリに来たんだから当然だろ」
「違いない」

 長谷部は「じゃ、お先に」と言ってバスルームへ移動した。少々不満な様子だったのを察して誠人は、ルームサービスでシャンパンを頼んだ。
 長年の付き合いから分かる僅かな表情の変化を見て、ご機嫌を取る方法を実行した。シャワーを終えて長谷部がバスルームから出て来る。
 シャンパンが乗ったワゴンが見えた瞬間、満面の笑みを浮かべてグラスを手に取ると「やった」と子供のように喜ぶ。

「それ飲んで待ってろ」
「うん」

 素直な返事を聞き、誠人もシャワーを浴びることにした。慣れないスーツを着たせいか、首当りに汗がこびり付いてる気がして、何度も首を擦る。
 シャワーを終えて部屋へ戻れば、浮かない顔した長谷部に「電話鳴ってた」と言われ、着信を確認する。

「あー……、徹か、珍しい……」
「なに、なに、何処かの子猫?」
「違う、そっちじゃない方……」

 誠人は確認だけするとポンと携帯をテーブルの上に置いた。

「いいの?」
「どうせ大した用事じゃない、そんなことより、美味いか?」
「美味しいよ、誠人も飲めば?」
「ああ――」

 渡されたグラスを取ろうとしたが、誠人の携帯が鳴り画面を確認すると徹だった。

「は……、しつこいな……」
「出てあげたら? って言うか、そんなに頻繁に連絡取る仲?」
「いや、滅多に取らないな」

 それなら、急用なんじゃないの? と指摘されて、それもそうだなと誠人も思う。それでも、長谷部の潤んだ瞳を見れば、既に昂り始めているのは明らかで、身体を満たしてからで良いのでは? と欲望を先行させようと、頬に手を伸ばした。
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