48 / 49
46話・ありがとう
しおりを挟む
「これ――、ありがとうございました」
そう言って、以前貸してもらったハンカチを彼に返した。
リードはそれを受けとると、ぺこりとお辞儀をして部屋を出ていこうとする。
「リード、守ってくれて、お話してくれて、助けてくれて、いっぱいいっぱいありがとう。これ、お礼」
私は制服にはいっていた数少ない持ち物、小さな花が沢山咲いている模様のハンカチを渡した。
「ごめんなさい、私渡せる物は、こんなのしかなくて。でも、本当に感謝しています。リードも笑顔でいてください。私は、……私もそう願います」
驚いたような顔と、困ったような顔をしていたけれど、渡した花のハンカチを大切そうに受け取り、リードは部屋を出ていった。
「ありがとう――」
そして、ごめんなさい。
私は小さく呟いた。
私が好きなのは、タツミだから。それだけは変えられない。
ーーー
夜に、カトル達から、元の世界に帰れると聞かされた。
リサさんはどうするんだろう。この世界に好きな人がいるなら、残るのかな?
私は明日に備えて、制服とスマホを確認する。
いよいよ、明日帰れるんだ。まずは、どうしたらいいんだろう。
充電器にさして、すぐにタツミに連絡? あ、でもお父さん、お母さん、お兄ちゃんも心配してるよね。1ヶ月も何処にいたんだって……。
うーん、うーんと考えているといつの間にか眠ってしまったようだった。
気がつけば、もう朝だった。
私は、ベッドから飛び下り、制服を身にまとった。
コンコンといつも手伝いにきてくれる侍女さん達がきた。そういえばこんなにいっぱい手伝ってもらっていたのに、全然覚えてあげてなかった。
「今までありがとうございました」
私はぺこりとお辞儀をすると、侍女さん達もぺこりとお辞儀をしていた。
私、全然まわりを見てなかったな。自分のことばかり。
もっと、ちゃんと考えなきゃ。世界は私を中心にまわってなんかない。しっかりしなきゃ。タツミにはタツミの気持ちがある。
私が、私が! じゃ、駄目なんだ。
用意が出来て、案内がきていると聞いた。扉をあけると、リードが待っていた。
「行きましょう、カナ様」
「はい」
今日は、リードが前を歩いていく。
彼が、話さないので、私も何も言えず、そのままこの世界にきた時の部屋へとたどり着く。リードは私を魔法陣の上へと連れていき、お辞儀をしてルードのいる少し離れた場所へと行ってしまった。カトル、メリエルもいた。彼らは先にこの部屋に来ていたみたい。
「カナ様」
なんだか、急に大人っぽくなったメリエル。二人の間でどんな会話がなされたんだろう。それは私にはわからない。
「メリエルさん、お茶の時間とても楽しかったです」
彼女はにこりと笑った。
その横でカトルは、少し複雑そうな顔をしていた。
後ろから、元気な声が聞こえてきた。この声は――。
私は声の主の方にふりかえる。
「リサさん!」
アリストと一緒にやってきた彼女に近づく。彼女にもありがとうを伝えなくちゃ。私はぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございました。メリエルさんや、ミュカ君、キーヒ君達に私の友達になってって言ってくれてたそうで――」
「あ、うん」
「とても、助けてもらってたんです」
えっと、他にもいっぱいいっぱい伝えたいことが多すぎてぐるぐる考えていると、カトルが話しかけてきた。
「始めてもいいかな?」
その言葉に考えていたこと全部、ふっとんでしまった。
「はい!」
私は急いで返事をする。だって、ここからやっぱり駄目なんて変えられたらたまらない。
魔法陣の上に戻って、カトルが儀式をしてくれるのを待つ。
「カナ、呼んでしまって、すまなかった」
突然、謝られてしまった。私は、びっくりしてわたわたするけれど、夜に考えていたことを思い出しながら伝えた。
「カトル……様、国の為にと行ったことです。それに、私は彼のことがどれほど好きか、再確認出来ました。もう会うことはないと思いますが、どうかお幸せに……」
私がはっきりと言わなかったことが駄目なことだってあったと思う。彼は彼の理由があって、それをしただけだったんだ。だから、許すことはできないけれど認めることは出来る。
私はぺこりと頭を下げる。
どうか、メリエルとカトルが上手くいきますように。
過去に色々あったから、なかなか難しいかもしれないけれど、私は願う。
カトルはそっと片方の膝をつき魔法陣に触れた。
「召喚を行いし、魔法陣よ、その役目を逆転しろ――」
そう呟くと魔法陣から光が溢れて、私を包み込んだ。
帰れるんだ、元の世界に、タツミのいる世界に。
体がふわりと浮かび上がる。リードが、何か言っている気がした。あれは、さようならなのかな――。
「さようなら!」
皆に聞こえるように大きな声で言った。そして私は気がついてしまう。
「あ、リサさん、向こうの世界に」
ここまで言ったと思うけれど、私の視界から皆の姿が消える。向こうの世界に何か伝えることがなかったか聞くのを忘れていた。なんで、私は大切な恩人に気が回せなかったのだろう。
失敗しちゃった――。
もっとしっかりしなくちゃ。私は、もっと大人にならなきゃ。
助けてもらった私に相応しい私になるんだ。
ぎゅっと、ポケットから取り出したスマホを握って、元の世界が見えるのを待った。
そう言って、以前貸してもらったハンカチを彼に返した。
リードはそれを受けとると、ぺこりとお辞儀をして部屋を出ていこうとする。
「リード、守ってくれて、お話してくれて、助けてくれて、いっぱいいっぱいありがとう。これ、お礼」
私は制服にはいっていた数少ない持ち物、小さな花が沢山咲いている模様のハンカチを渡した。
「ごめんなさい、私渡せる物は、こんなのしかなくて。でも、本当に感謝しています。リードも笑顔でいてください。私は、……私もそう願います」
驚いたような顔と、困ったような顔をしていたけれど、渡した花のハンカチを大切そうに受け取り、リードは部屋を出ていった。
「ありがとう――」
そして、ごめんなさい。
私は小さく呟いた。
私が好きなのは、タツミだから。それだけは変えられない。
ーーー
夜に、カトル達から、元の世界に帰れると聞かされた。
リサさんはどうするんだろう。この世界に好きな人がいるなら、残るのかな?
私は明日に備えて、制服とスマホを確認する。
いよいよ、明日帰れるんだ。まずは、どうしたらいいんだろう。
充電器にさして、すぐにタツミに連絡? あ、でもお父さん、お母さん、お兄ちゃんも心配してるよね。1ヶ月も何処にいたんだって……。
うーん、うーんと考えているといつの間にか眠ってしまったようだった。
気がつけば、もう朝だった。
私は、ベッドから飛び下り、制服を身にまとった。
コンコンといつも手伝いにきてくれる侍女さん達がきた。そういえばこんなにいっぱい手伝ってもらっていたのに、全然覚えてあげてなかった。
「今までありがとうございました」
私はぺこりとお辞儀をすると、侍女さん達もぺこりとお辞儀をしていた。
私、全然まわりを見てなかったな。自分のことばかり。
もっと、ちゃんと考えなきゃ。世界は私を中心にまわってなんかない。しっかりしなきゃ。タツミにはタツミの気持ちがある。
私が、私が! じゃ、駄目なんだ。
用意が出来て、案内がきていると聞いた。扉をあけると、リードが待っていた。
「行きましょう、カナ様」
「はい」
今日は、リードが前を歩いていく。
彼が、話さないので、私も何も言えず、そのままこの世界にきた時の部屋へとたどり着く。リードは私を魔法陣の上へと連れていき、お辞儀をしてルードのいる少し離れた場所へと行ってしまった。カトル、メリエルもいた。彼らは先にこの部屋に来ていたみたい。
「カナ様」
なんだか、急に大人っぽくなったメリエル。二人の間でどんな会話がなされたんだろう。それは私にはわからない。
「メリエルさん、お茶の時間とても楽しかったです」
彼女はにこりと笑った。
その横でカトルは、少し複雑そうな顔をしていた。
後ろから、元気な声が聞こえてきた。この声は――。
私は声の主の方にふりかえる。
「リサさん!」
アリストと一緒にやってきた彼女に近づく。彼女にもありがとうを伝えなくちゃ。私はぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございました。メリエルさんや、ミュカ君、キーヒ君達に私の友達になってって言ってくれてたそうで――」
「あ、うん」
「とても、助けてもらってたんです」
えっと、他にもいっぱいいっぱい伝えたいことが多すぎてぐるぐる考えていると、カトルが話しかけてきた。
「始めてもいいかな?」
その言葉に考えていたこと全部、ふっとんでしまった。
「はい!」
私は急いで返事をする。だって、ここからやっぱり駄目なんて変えられたらたまらない。
魔法陣の上に戻って、カトルが儀式をしてくれるのを待つ。
「カナ、呼んでしまって、すまなかった」
突然、謝られてしまった。私は、びっくりしてわたわたするけれど、夜に考えていたことを思い出しながら伝えた。
「カトル……様、国の為にと行ったことです。それに、私は彼のことがどれほど好きか、再確認出来ました。もう会うことはないと思いますが、どうかお幸せに……」
私がはっきりと言わなかったことが駄目なことだってあったと思う。彼は彼の理由があって、それをしただけだったんだ。だから、許すことはできないけれど認めることは出来る。
私はぺこりと頭を下げる。
どうか、メリエルとカトルが上手くいきますように。
過去に色々あったから、なかなか難しいかもしれないけれど、私は願う。
カトルはそっと片方の膝をつき魔法陣に触れた。
「召喚を行いし、魔法陣よ、その役目を逆転しろ――」
そう呟くと魔法陣から光が溢れて、私を包み込んだ。
帰れるんだ、元の世界に、タツミのいる世界に。
体がふわりと浮かび上がる。リードが、何か言っている気がした。あれは、さようならなのかな――。
「さようなら!」
皆に聞こえるように大きな声で言った。そして私は気がついてしまう。
「あ、リサさん、向こうの世界に」
ここまで言ったと思うけれど、私の視界から皆の姿が消える。向こうの世界に何か伝えることがなかったか聞くのを忘れていた。なんで、私は大切な恩人に気が回せなかったのだろう。
失敗しちゃった――。
もっとしっかりしなくちゃ。私は、もっと大人にならなきゃ。
助けてもらった私に相応しい私になるんだ。
ぎゅっと、ポケットから取り出したスマホを握って、元の世界が見えるのを待った。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。


好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる