私が聖女っていったいどういうことですか?

花月夜れん

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46話・ありがとう

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「これ――、ありがとうございました」

 そう言って、以前貸してもらったハンカチを彼に返した。
 リードはそれを受けとると、ぺこりとお辞儀をして部屋を出ていこうとする。

「リード、守ってくれて、お話してくれて、助けてくれて、いっぱいいっぱいありがとう。これ、お礼」

 私は制服にはいっていた数少ない持ち物、小さな花が沢山咲いている模様のハンカチを渡した。

「ごめんなさい、私渡せる物は、こんなのしかなくて。でも、本当に感謝しています。リードも笑顔でいてください。私は、……私もそう願います」

 驚いたような顔と、困ったような顔をしていたけれど、渡した花のハンカチを大切そうに受け取り、リードは部屋を出ていった。

「ありがとう――」

 そして、ごめんなさい。
 私は小さく呟いた。
 私が好きなのは、タツミだから。それだけは変えられない。

 ーーー

 夜に、カトル達から、元の世界に帰れると聞かされた。
 リサさんはどうするんだろう。この世界に好きな人がいるなら、残るのかな?

 私は明日に備えて、制服とスマホを確認する。
 いよいよ、明日帰れるんだ。まずは、どうしたらいいんだろう。
 充電器にさして、すぐにタツミに連絡? あ、でもお父さん、お母さん、お兄ちゃんも心配してるよね。1ヶ月も何処にいたんだって……。
 うーん、うーんと考えているといつの間にか眠ってしまったようだった。
 気がつけば、もう朝だった。

 私は、ベッドから飛び下り、制服を身にまとった。

 コンコンといつも手伝いにきてくれる侍女さん達がきた。そういえばこんなにいっぱい手伝ってもらっていたのに、全然覚えてあげてなかった。

「今までありがとうございました」

 私はぺこりとお辞儀をすると、侍女さん達もぺこりとお辞儀をしていた。
 私、全然まわりを見てなかったな。自分のことばかり。
 もっと、ちゃんと考えなきゃ。世界は私を中心にまわってなんかない。しっかりしなきゃ。タツミにはタツミの気持ちがある。
 私が、私が! じゃ、駄目なんだ。

 用意が出来て、案内がきていると聞いた。扉をあけると、リードが待っていた。

「行きましょう、カナ様」
「はい」

 今日は、リードが前を歩いていく。
 彼が、話さないので、私も何も言えず、そのままこの世界にきた時の部屋へとたどり着く。リードは私を魔法陣の上へと連れていき、お辞儀をしてルードのいる少し離れた場所へと行ってしまった。カトル、メリエルもいた。彼らは先にこの部屋に来ていたみたい。

「カナ様」

 なんだか、急に大人っぽくなったメリエル。二人の間でどんな会話がなされたんだろう。それは私にはわからない。

「メリエルさん、お茶の時間とても楽しかったです」

 彼女はにこりと笑った。
 その横でカトルは、少し複雑そうな顔をしていた。

 後ろから、元気な声が聞こえてきた。この声は――。
 私は声の主の方にふりかえる。

「リサさん!」

 アリストと一緒にやってきた彼女に近づく。彼女にもありがとうを伝えなくちゃ。私はぺこりとお辞儀をする。

「ありがとうございました。メリエルさんや、ミュカ君、キーヒ君達に私の友達になってって言ってくれてたそうで――」
「あ、うん」
「とても、助けてもらってたんです」

 えっと、他にもいっぱいいっぱい伝えたいことが多すぎてぐるぐる考えていると、カトルが話しかけてきた。

「始めてもいいかな?」

 その言葉に考えていたこと全部、ふっとんでしまった。

「はい!」

 私は急いで返事をする。だって、ここからやっぱり駄目なんて変えられたらたまらない。
 魔法陣の上に戻って、カトルが儀式をしてくれるのを待つ。

「カナ、呼んでしまって、すまなかった」

 突然、謝られてしまった。私は、びっくりしてわたわたするけれど、夜に考えていたことを思い出しながら伝えた。

「カトル……様、国の為にと行ったことです。それに、私は彼のことがどれほど好きか、再確認出来ました。もう会うことはないと思いますが、どうかお幸せに……」

 私がはっきりと言わなかったことが駄目なことだってあったと思う。彼は彼の理由があって、それをしただけだったんだ。だから、許すことはできないけれど認めることは出来る。
 私はぺこりと頭を下げる。
 どうか、メリエルとカトルが上手くいきますように。
 過去に色々あったから、なかなか難しいかもしれないけれど、私は願う。

 カトルはそっと片方の膝をつき魔法陣に触れた。

「召喚を行いし、魔法陣よ、その役目を逆転しろ――」

 そう呟くと魔法陣から光が溢れて、私を包み込んだ。
 帰れるんだ、元の世界に、タツミのいる世界に。
 体がふわりと浮かび上がる。リードが、何か言っている気がした。あれは、さようならなのかな――。

「さようなら!」

 皆に聞こえるように大きな声で言った。そして私は気がついてしまう。

「あ、リサさん、向こうの世界に」

 ここまで言ったと思うけれど、私の視界から皆の姿が消える。向こうの世界に何か伝えることがなかったか聞くのを忘れていた。なんで、私は大切な恩人に気が回せなかったのだろう。
 失敗しちゃった――。

 もっとしっかりしなくちゃ。私は、もっと大人にならなきゃ。
 助けてもらった私に相応しい私になるんだ。

 ぎゅっと、ポケットから取り出したスマホを握って、元の世界が見えるのを待った。
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