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44話・暗闇の中
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「シェイド」
リサさんが叫ぶと、私をぐるりと闇が覆った。けれど、この闇は恐怖を感じない。それどころかどこか優しさを携えていた。
「オカアサン、いやだ」
「……私は、あなたのお母さんじゃない」
「消えたくない――」
「私は、消えて欲しい」
「そんなに、ボクのこと……嫌いなの?」
あの子の声が小さくなっていく。はやく、私の体の自由を取り戻さないと。
リサさんは、私だけに魔法を使った。伝えなきゃ。ライトにもあの子の半分が――。
ライトは側にいるの? 返事がないからわからない。
「オカアサン……なんて……嫌いだ」
真っ暗な世界に少し光がさした。
「この国も聖女も皆、嫌い。……こいつだって……すました顔で……黒いこと考えているのに……。裏切ってるくせに……」
こいつ? 誰のことを言ってるの?
「知ったら、オカアサンも裏切るのかな――。それも面白いね。この魔法使いのオニイサン、オカアサンのことが好きなんだよ」
「え…………、でも――――。彼はいないって……」
「アハハ、馬鹿だなぁ。嘘に騙されて……。人間はすぐに嘘をつくし、裏切る。やっぱりいなくなっちゃえ――」
そこで、あの子の声は聞こえなくなった。ブツンと何かが途切れるように。
もしそうだとしても私は、――――。
私の意識も一緒に途切れようとした時、誰かがぎゅっと抱き止める感覚とうっすらと目の前に心配そうに見つめる黄色い瞳が見えた。
私は、タツミが好きだから……。
ーーー
「カナ」
「……ライト?」
「僕はもう契約が果たせなくなる」
「契約?」
「カナは、精霊の花嫁じゃなくなるんだ。契約した僕が精霊じゃなくなるからね。これで、自由だよ――」
私は自分の指を見た。指輪にパリンとヒビが入り、粉々になって消えた。
「待って、魔法は? どうなるの」
まだ、予言の魔物が終わっていないのに、私はただの女子高生になってしまったの? それじゃあ、この世界の好きになった人達を――、リサさんを助けられなくなってしまう?
「契約は、聖女を捕らえるこの大きな結界をはるのを手伝うだけだ。大丈夫、カナ自身の力で、魔法は使えるよ。さぁ、目を開けて。魔物がくる。リサが危ない」
「私の力で――」
「それじゃあまたね、カナ」
「……ライト?」
私は、体に力をいれる。自分の意思で動く感覚が戻ってきた。
私の力で、助けるんだ! そして、帰るんだ。私の世界に!
ぎゅっと、一度目を閉じて、今度は本当の目を開く。
その視界にうつったのは、黄色い瞳ではなく、緑色のカトルの瞳だった。
「カナ!」
まるで迷子の子供が、母親をみつけた時のような、今にも泣き出しそうな目をしていた。
「カトル」
私は、カトルの腕の中にいたみたい。それに、これは――、リサさんの結界?
起き上がり、まわりを見るとリサさんと、アリスト、そしてルードが並んで何かを話しているのが見えた。
ライトはリサさんが危ないと言っていた。私はリサさんから上空へと視線を移す。
私がやることがわかった。
私は自身に結界をはって、リサさんの結界のそとにでた。そしてすぐに、結界をとく。
「カナ様!」
リードに名前を呼ばれ、びくりとしたが、私は前を見続けた。
(リサさんを守って)
本当に、私の力だけで、まもれるのかな? でも、やらなきゃ。
「ライト!」
私の願いは叶って、彼女を守る魔法を使うことが出来た。
契約しなくても、魔法は使えたんだ……。これが、私の力。
リサさんがこちらを見た。伝えなきゃ、本当の気持ちを。
「リサさん! 私は、帰りたい、タツミのいる世界に! リサさんなら、叶えてくれるって、ライトが!!――お願い!」
彼女はにこりと笑って頷くと、前を向き、沢山の言葉を紡いでいく。誰かの名前だろうか?
一つ目の言葉を口にすると、光が空一面に広がっていった。
二つ目の言葉を口にすると、まるで一斉に飛び立つ青色の蝶々のように炎がきらめく。
三つ目の言葉を口にすると、ぽつりぽつりと暖かな雨が降りだした。
四つ目の言葉を口にすると、急にビュゥと風が吹いた。
五つ目の言葉を口にすると、まわりに沢山の植物が生えてきて、葉や花びらが風と一緒に舞い踊っていた。
六つ目の言葉を口にすると、ズンと突き上げられるような衝撃と地響きが走った。
七つ目の言葉を口にすると、さっき私を包んでいたような闇が最初の光のあとを追いかけながら溶け合うように広がっていった。
きれい――――。
大きな大きなキャンバスに沢山の色を次々においていくみたいに、そして完成した美しい一枚の絵画を見ているみたいに――。
その美しい絵画の真ん中で、三人が凛と立ち並ぶ様子をただただ、私は見ていた。
リサさんが叫ぶと、私をぐるりと闇が覆った。けれど、この闇は恐怖を感じない。それどころかどこか優しさを携えていた。
「オカアサン、いやだ」
「……私は、あなたのお母さんじゃない」
「消えたくない――」
「私は、消えて欲しい」
「そんなに、ボクのこと……嫌いなの?」
あの子の声が小さくなっていく。はやく、私の体の自由を取り戻さないと。
リサさんは、私だけに魔法を使った。伝えなきゃ。ライトにもあの子の半分が――。
ライトは側にいるの? 返事がないからわからない。
「オカアサン……なんて……嫌いだ」
真っ暗な世界に少し光がさした。
「この国も聖女も皆、嫌い。……こいつだって……すました顔で……黒いこと考えているのに……。裏切ってるくせに……」
こいつ? 誰のことを言ってるの?
「知ったら、オカアサンも裏切るのかな――。それも面白いね。この魔法使いのオニイサン、オカアサンのことが好きなんだよ」
「え…………、でも――――。彼はいないって……」
「アハハ、馬鹿だなぁ。嘘に騙されて……。人間はすぐに嘘をつくし、裏切る。やっぱりいなくなっちゃえ――」
そこで、あの子の声は聞こえなくなった。ブツンと何かが途切れるように。
もしそうだとしても私は、――――。
私の意識も一緒に途切れようとした時、誰かがぎゅっと抱き止める感覚とうっすらと目の前に心配そうに見つめる黄色い瞳が見えた。
私は、タツミが好きだから……。
ーーー
「カナ」
「……ライト?」
「僕はもう契約が果たせなくなる」
「契約?」
「カナは、精霊の花嫁じゃなくなるんだ。契約した僕が精霊じゃなくなるからね。これで、自由だよ――」
私は自分の指を見た。指輪にパリンとヒビが入り、粉々になって消えた。
「待って、魔法は? どうなるの」
まだ、予言の魔物が終わっていないのに、私はただの女子高生になってしまったの? それじゃあ、この世界の好きになった人達を――、リサさんを助けられなくなってしまう?
「契約は、聖女を捕らえるこの大きな結界をはるのを手伝うだけだ。大丈夫、カナ自身の力で、魔法は使えるよ。さぁ、目を開けて。魔物がくる。リサが危ない」
「私の力で――」
「それじゃあまたね、カナ」
「……ライト?」
私は、体に力をいれる。自分の意思で動く感覚が戻ってきた。
私の力で、助けるんだ! そして、帰るんだ。私の世界に!
ぎゅっと、一度目を閉じて、今度は本当の目を開く。
その視界にうつったのは、黄色い瞳ではなく、緑色のカトルの瞳だった。
「カナ!」
まるで迷子の子供が、母親をみつけた時のような、今にも泣き出しそうな目をしていた。
「カトル」
私は、カトルの腕の中にいたみたい。それに、これは――、リサさんの結界?
起き上がり、まわりを見るとリサさんと、アリスト、そしてルードが並んで何かを話しているのが見えた。
ライトはリサさんが危ないと言っていた。私はリサさんから上空へと視線を移す。
私がやることがわかった。
私は自身に結界をはって、リサさんの結界のそとにでた。そしてすぐに、結界をとく。
「カナ様!」
リードに名前を呼ばれ、びくりとしたが、私は前を見続けた。
(リサさんを守って)
本当に、私の力だけで、まもれるのかな? でも、やらなきゃ。
「ライト!」
私の願いは叶って、彼女を守る魔法を使うことが出来た。
契約しなくても、魔法は使えたんだ……。これが、私の力。
リサさんがこちらを見た。伝えなきゃ、本当の気持ちを。
「リサさん! 私は、帰りたい、タツミのいる世界に! リサさんなら、叶えてくれるって、ライトが!!――お願い!」
彼女はにこりと笑って頷くと、前を向き、沢山の言葉を紡いでいく。誰かの名前だろうか?
一つ目の言葉を口にすると、光が空一面に広がっていった。
二つ目の言葉を口にすると、まるで一斉に飛び立つ青色の蝶々のように炎がきらめく。
三つ目の言葉を口にすると、ぽつりぽつりと暖かな雨が降りだした。
四つ目の言葉を口にすると、急にビュゥと風が吹いた。
五つ目の言葉を口にすると、まわりに沢山の植物が生えてきて、葉や花びらが風と一緒に舞い踊っていた。
六つ目の言葉を口にすると、ズンと突き上げられるような衝撃と地響きが走った。
七つ目の言葉を口にすると、さっき私を包んでいたような闇が最初の光のあとを追いかけながら溶け合うように広がっていった。
きれい――――。
大きな大きなキャンバスに沢山の色を次々においていくみたいに、そして完成した美しい一枚の絵画を見ているみたいに――。
その美しい絵画の真ん中で、三人が凛と立ち並ぶ様子をただただ、私は見ていた。
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