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36話・あなたの
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「カナ様」
「……リード?」
リードの声が聞こえて、私はゆっくりと目を開けた。霞む視界に彼の心配する顔が見えた。
「…………私、どうしたんだろう」
体を起こし、頭を押さえる。リードは、ふぅと安堵の息をついてからスッと立ち上がった。
「お返事がなく、確認のため部屋に入ってしまいました。申し訳ございません」
そう言って頭をさげていた。返事? そうだ、私――。
「あ、ごめんなさい……。私……」
何かがあったと思うのだけど、覚えていない。とても、恐ろしいことがあったような気がするのだけれど。
「ご無理はなさらずに。では、私はこれで」
もう一度お辞儀をして、リードは出ていこうとする。
「何か、用事があったんじゃないですか?」
ピタリと足が止まる。けれど、彼はこちらを振り向くことなく「いえ」と、だけ言って外に行ってしまった。
◇◇◇
「魔法の練習は久しぶりですね」
「はい」
リードが常に横にいることを条件に私はやっと魔法の練習を許可してもらえた。
猫屋敷へは、まだ行けていない。皆、元気かな。
「リードは、カトルの信頼が厚いんですね」
彼はふっと笑う。何か遠いものを見るようなそんな顔をして。
「私は、付き人になる時に裏切らないという契約を魔法で結んでいますから――――だと思います」
「えっ……」
「前にも言いましたが、私の意思も命もカトル様が、握っています。それが、私達兄弟で優れていた方に課せられた決まりでして――。――っ?! カナ様?」
私はポロポロと涙を流してしまった。だって、彼もまた私のように契約で縛られた人間だと、知ってしまったから。
空を飛べて、自由だって思ってた。全然、自由なんかじゃなかったんだ……。
「泣かないでください。私は、この契約に不満を持ったことはありません。私に、自由はありませんが、弟は私が契約したことで、自由でいられる。それが私の、彼への贖罪なのです」
「贖罪?」
「えぇ、彼を守ってあげられなかった幼い頃の私の罪の――」
普段、あまり表情を出さない彼が慌てている。
「すみません、こんな話をするつもりはなかったのですが、何故、私は――」
「ありがとうございます」
私は、彼にお礼を言った。ぺこりとお辞儀されて、リードはとても驚いていた。
「カナ様?」
「だって、カトルを裏切ったら危ないんですよね。なのに私を手伝ってくれるって……。無理はしないでください。私のせいでリードが死んだら嫌だから、もう手伝わないで下さい」
それを聞いた彼は、今度は優しく笑った。
「死にはしませんよ。ありがとうございます。私の身を案じていただいて。カナ様はやはり、お優しいですね」
早とちりだったのだろうか。私は恥ずかしくなって、赤くなってしまった。
話題を変えたくて、空をみる。今日はきれいな青い空が広がってる。
「あの、空を飛ぶ魔法をもう一度見せてもらえませんか?」
「空を?」
私が頷くと、彼も頷き返して手を出す。
「失礼します」
すっと、抱き上げられ、風の精霊を呼び彼は空へとかけ上る。この世界でステキだと思うこと。魔法の力で空が飛べること。
空を飛ぶって、こんなに気持ちがいいんだ。
「笑ってください、カナ様」
「え?」
私が風を感じていると不意に、リードが言った。
「泣いている顔よりも笑っている顔の方がステキですよ」
「――ありがとう」
それはいつか、タツミに言ってもらった言葉だった。
泣き顔よりも笑った顔が見たいって――。
「さぁ、戻りましょう。時間内に戻らなければカトル様が、心配してしまいます」
「そうですね――」
この世界にも、優しい人はたくさんいることを知った。けれど、私はこの世界にいたいとは思えない。
タツミと出会っていなければ、また違った風にこの世界を見ることが出来たのかな。
ぷるぷると顔を振り、私は空を見上げた。
「……リード?」
リードの声が聞こえて、私はゆっくりと目を開けた。霞む視界に彼の心配する顔が見えた。
「…………私、どうしたんだろう」
体を起こし、頭を押さえる。リードは、ふぅと安堵の息をついてからスッと立ち上がった。
「お返事がなく、確認のため部屋に入ってしまいました。申し訳ございません」
そう言って頭をさげていた。返事? そうだ、私――。
「あ、ごめんなさい……。私……」
何かがあったと思うのだけど、覚えていない。とても、恐ろしいことがあったような気がするのだけれど。
「ご無理はなさらずに。では、私はこれで」
もう一度お辞儀をして、リードは出ていこうとする。
「何か、用事があったんじゃないですか?」
ピタリと足が止まる。けれど、彼はこちらを振り向くことなく「いえ」と、だけ言って外に行ってしまった。
◇◇◇
「魔法の練習は久しぶりですね」
「はい」
リードが常に横にいることを条件に私はやっと魔法の練習を許可してもらえた。
猫屋敷へは、まだ行けていない。皆、元気かな。
「リードは、カトルの信頼が厚いんですね」
彼はふっと笑う。何か遠いものを見るようなそんな顔をして。
「私は、付き人になる時に裏切らないという契約を魔法で結んでいますから――――だと思います」
「えっ……」
「前にも言いましたが、私の意思も命もカトル様が、握っています。それが、私達兄弟で優れていた方に課せられた決まりでして――。――っ?! カナ様?」
私はポロポロと涙を流してしまった。だって、彼もまた私のように契約で縛られた人間だと、知ってしまったから。
空を飛べて、自由だって思ってた。全然、自由なんかじゃなかったんだ……。
「泣かないでください。私は、この契約に不満を持ったことはありません。私に、自由はありませんが、弟は私が契約したことで、自由でいられる。それが私の、彼への贖罪なのです」
「贖罪?」
「えぇ、彼を守ってあげられなかった幼い頃の私の罪の――」
普段、あまり表情を出さない彼が慌てている。
「すみません、こんな話をするつもりはなかったのですが、何故、私は――」
「ありがとうございます」
私は、彼にお礼を言った。ぺこりとお辞儀されて、リードはとても驚いていた。
「カナ様?」
「だって、カトルを裏切ったら危ないんですよね。なのに私を手伝ってくれるって……。無理はしないでください。私のせいでリードが死んだら嫌だから、もう手伝わないで下さい」
それを聞いた彼は、今度は優しく笑った。
「死にはしませんよ。ありがとうございます。私の身を案じていただいて。カナ様はやはり、お優しいですね」
早とちりだったのだろうか。私は恥ずかしくなって、赤くなってしまった。
話題を変えたくて、空をみる。今日はきれいな青い空が広がってる。
「あの、空を飛ぶ魔法をもう一度見せてもらえませんか?」
「空を?」
私が頷くと、彼も頷き返して手を出す。
「失礼します」
すっと、抱き上げられ、風の精霊を呼び彼は空へとかけ上る。この世界でステキだと思うこと。魔法の力で空が飛べること。
空を飛ぶって、こんなに気持ちがいいんだ。
「笑ってください、カナ様」
「え?」
私が風を感じていると不意に、リードが言った。
「泣いている顔よりも笑っている顔の方がステキですよ」
「――ありがとう」
それはいつか、タツミに言ってもらった言葉だった。
泣き顔よりも笑った顔が見たいって――。
「さぁ、戻りましょう。時間内に戻らなければカトル様が、心配してしまいます」
「そうですね――」
この世界にも、優しい人はたくさんいることを知った。けれど、私はこの世界にいたいとは思えない。
タツミと出会っていなければ、また違った風にこの世界を見ることが出来たのかな。
ぷるぷると顔を振り、私は空を見上げた。
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