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29話・迷子の王子様
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「大切なもの?」
「はい、あの方は幼い頃に婚約者を病気でなくしてしまいました。私の妹のマナエルですわ」
一度目を伏せてから、メリエルは続ける。
「そんな――」
「そして、その記憶を、聖女召喚の代償として失いました。あの方は、マナエを二回失ったのです……」
「召喚の代償?」
「えぇ、愛した者の記憶と引き替えにして召喚を行うことができるそうです。そう、聞きましたわ。もしかしたら、カトル様はカナ様に、失ったマナエを見ているのかもしれませんわ」
私は思い出す。カトルが、私じゃない誰かを見ていたことに。
そっか、あの瞳が探していたのはマナエルだったんだ。
「教えてあげたら、駄目なんですか?」
「えぇ、すでに試されているそうですが……。マナエだけがすっぽりと抜け落ちてしまうそうですわ。それが代償なのでしょうね」
「何故、そうまでして!」
「国の為ですわ」
ピシャリと、メリエルは言う。
「王とは、国なくしては王ではなくなる。国があるからこそ王なのです。国民すべてを守り支える。それこそが王の使命。カトル様は次期王ですから」
なんとなくわかる。カトルはずっと仕事をしていた。ずっとずっと。自ら、国を支えるために頑張ってること……。
けれど、その為に、愛した人の記憶をなくすなんて――。
「でも、なくしたのはマナエルさんの記憶なんですよね? なら、何故メリエルさんと婚約しているのに、私に?」
「似ているのです。カナ様がマナエルに…………」
似ている? 私が?
「話していて、わかりましたわ。瓜二つではありませんが雰囲気がよく似ています」
「そんな――」
知らない誰かを私に重ねられても困る。
「カトル様は、もう二度と失いたくないという思いがあるのかもしれません……」
「私は……」
「カナ様は、想い人がいらっしゃるのでしょう?」
「はい。彼に会いたいです。だから――」
カトルを支えることなんて私には出来ない。
コンコンとノックの音がする。
「大丈夫ですわ」
メリエルがそう言うと、リードが中に入ってきた。
「カナ様、お任せくださいな。私も、頑張りますわ」
「メリエルさん」
私はぺこりとお辞儀した。皆、何かを抱えてる。私だけじゃない。人はそれぞれ考えてるんだ。そして、その道を歩いてる。
「私も頑張ります」
にこりとメリエルが笑ったので、私も一緒に笑った。
あと、何日なのかわからない。だけど、絶対に負けない。元の世界に戻るのを手伝ってくれる人がいるんだから。
私はずきずきと痛む胸を押さえた。
(ねぇ、タツミも大人だったから、仕事に責任とか持ってたんだよね。私はまだ高校生だから、よくわかってなかったけど。きっと、すごく頑張って時間を作ってくれてたんだよね――。だったら、ありがとうも伝えなきゃ……)
「はい、あの方は幼い頃に婚約者を病気でなくしてしまいました。私の妹のマナエルですわ」
一度目を伏せてから、メリエルは続ける。
「そんな――」
「そして、その記憶を、聖女召喚の代償として失いました。あの方は、マナエを二回失ったのです……」
「召喚の代償?」
「えぇ、愛した者の記憶と引き替えにして召喚を行うことができるそうです。そう、聞きましたわ。もしかしたら、カトル様はカナ様に、失ったマナエを見ているのかもしれませんわ」
私は思い出す。カトルが、私じゃない誰かを見ていたことに。
そっか、あの瞳が探していたのはマナエルだったんだ。
「教えてあげたら、駄目なんですか?」
「えぇ、すでに試されているそうですが……。マナエだけがすっぽりと抜け落ちてしまうそうですわ。それが代償なのでしょうね」
「何故、そうまでして!」
「国の為ですわ」
ピシャリと、メリエルは言う。
「王とは、国なくしては王ではなくなる。国があるからこそ王なのです。国民すべてを守り支える。それこそが王の使命。カトル様は次期王ですから」
なんとなくわかる。カトルはずっと仕事をしていた。ずっとずっと。自ら、国を支えるために頑張ってること……。
けれど、その為に、愛した人の記憶をなくすなんて――。
「でも、なくしたのはマナエルさんの記憶なんですよね? なら、何故メリエルさんと婚約しているのに、私に?」
「似ているのです。カナ様がマナエルに…………」
似ている? 私が?
「話していて、わかりましたわ。瓜二つではありませんが雰囲気がよく似ています」
「そんな――」
知らない誰かを私に重ねられても困る。
「カトル様は、もう二度と失いたくないという思いがあるのかもしれません……」
「私は……」
「カナ様は、想い人がいらっしゃるのでしょう?」
「はい。彼に会いたいです。だから――」
カトルを支えることなんて私には出来ない。
コンコンとノックの音がする。
「大丈夫ですわ」
メリエルがそう言うと、リードが中に入ってきた。
「カナ様、お任せくださいな。私も、頑張りますわ」
「メリエルさん」
私はぺこりとお辞儀した。皆、何かを抱えてる。私だけじゃない。人はそれぞれ考えてるんだ。そして、その道を歩いてる。
「私も頑張ります」
にこりとメリエルが笑ったので、私も一緒に笑った。
あと、何日なのかわからない。だけど、絶対に負けない。元の世界に戻るのを手伝ってくれる人がいるんだから。
私はずきずきと痛む胸を押さえた。
(ねぇ、タツミも大人だったから、仕事に責任とか持ってたんだよね。私はまだ高校生だから、よくわかってなかったけど。きっと、すごく頑張って時間を作ってくれてたんだよね――。だったら、ありがとうも伝えなきゃ……)
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