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前編

聞こえません

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「滝だぁ!」
「でけぇな」

 まるでナイアガラの滝みたいな大きな滝。幻だとわかってるけどすごい。流れ落ちる水、音、はねる水滴、全部目の前にあるの。飛んでいる場所より上空から水があふれ流れ落ちていく。
 あそこから入るために、滝の真ん中にサークルポイントがある。

「いくぞ!」

 アルベルトの後を追って、滝に入る。
 大きな透明パイプのコース。水族館にある透明トンネル水槽みたいな感じのね。上から落ちてくる滝の勢いがかなり恐ろしい。現実じゃ出来なさそうな眺め。

「アルテ! そこ次カーブ」
「お、サンキュー」

 あ、ずるになっちゃうかな。このコースはこのレースのためのグリード特製だった。先読み出来るはずがないんだ。
 でも、少しくらいならいいよね。

「ここを抜けたら、最後のポイントかな」
「あ、なんだってー?」
「だーかーらー」

 ドドドという音に声がかき消されてしまう。

「ここを抜けたら、話しましょう」
「なんだってー?」

 もう、電波が遠くて繋がらない電話じゃないんだから!
 私は話すのを諦めようとアルテに伝える。まあ、どうせ聞こえないけど。

「今は話しても聞こえませんよね! はやく、コースを抜けましょう」
「何かわからんがわかった!」

 まるでコントみたいなやりとりをして、滝のコースを抜ける。

「よし、聞こえるようになったぞ! で、何だって?」
「もういいです。先に進みましょう」
「あぁ、ラストのポイントだな」
「えぇ」

 さっきのコースでだいぶ追い付いたようだ。追い付けるように、魔力を強めに調整する。
 すると、アルテは私が魔力を強めたのがわかったのか、彼自身の魔力も上げてきた。

「面倒をかけるな」
「バレてました?」
「練習でどんだけやばかったか。さんざん見てるだろ」
「そうでした」

 そんな軽口を言い合いながら、アルベルトのハイエアートにどんどん寄せていく。
 アナスタシアの黒い髪と、アルベルトの金色の髪が見えてきた。

「さすが、一国の王子ってだけはあるのか」

 いや、それはたぶんアナスタシア主人公補正が。言えないけど。

「つえーな! あっちの国のハイエアートでも勝負してみたいぜ」
「おーい、なんか違いませんかー! 今はこのレースで勝つことを考えないと!」
「そうだった」

 アルテは、かかっと笑い、アルベルト達のハイエアートを見据えた。
 出会い方とかが違えば、彼らは仲良くハイエアートレースをしたりしてたのかな。なんて、私も考えてしまったけれど。

「並ぶぞ!」
「はい」

 気合いをいれて、飛んでいく。横に並ぶと、あの【ピッ】を思い出してしまって、少しだけ思い出し笑いしたのは、ばれてないはずだ。
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