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第五草

36・ウィル

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「また俺の獲物をとるつもりか!!」
「いやいや、これを返しにきただけだから」
「いや、返しにってお前それ食べてるじゃねーか!」

 あ、しまった。つい新種の草だったもんでほんの少し食べてしまった。

「いや、食べてないぞ?」
「……そこ」

 唇の横を指摘される。どうやら草の汁がついていたらしい。オレはさっと腕でぬぐった。

「食べてないぞ」
「嘘つけ!!」

 ヨキを腰にくっつけて、鳥男が叫んでいる。

「つーか、こいつ離れろよ」
「ダメー。ユーリがいいって言うまでは捕まえておくの」

 待て、なぜオレの命令になってるんだ。

「それはもうお前らにやるって言ってるだろ。俺に構うな!!」
「ヨキ、離せ」
「はいっ」

 イライラがたまってヨキに怪我をさせられては困る。

「あの……あなたのお名前は?」

 チャミちゃんが鳥男に何か言おうと話しかけた。

「……ウィルだ」
「ウィルさんですね。私はチャミ。この子がヨキで、草を少し食べてしまったのがユーリです」

 なんて、紹介だ。いや、ほんとすみません。つい、癖で。

「ウィルさんは、お姉さんの為に草を集めてるんですか? 一緒に集めた方がはやく終わっていいと思うのですが?」

 ウィルはふぅとため息をついたあと首を掻いていた。

「あのな、俺がぼろぼろになって何も持って帰らないのがあいつらには楽しいんだよ。物は姉さんが採って帰ってるから……。俺はオマケなんだ。採ってくりゃラッキー程度なんだよ。でもだからって邪魔するなよ!」

 そう言ったあと、ウィルはまた走り出した。

「あ、またにげた!」
「ヨキ、いい」

 これ以上ウィルの邪魔をするのは良くないと思った。わかっているなら、アイツの好きにさせてやるほうが。

「ユーリ、他の草を探しますか?」
「あぁ。まずは良くしゃべる草トークマウスから行こう」

 あれならもう食べてるからつまみ食いしなくてすむ。

「もしまたみかけて、怪我してたら治すか」
「……でもそれじゃあ」

 ぼろぼろになったほうが楽しいだったか。いったい、アイツは何をさせられているんだ。

「ヤバそうだったらだよ」
「……もどかしいですね」
「ねぇ、そんな事よりお腹空いた。ユーリ。これ食べていい?」
「はぁ、ヨキ。拾い食いは……」

 長い耳を持つ緑色の小動物を手に持ちながらヨキは聞いてきた。

「あ、ヨキちゃん。それは」
「ん?」
「それ、よく見ろ」

 まさか、こんなにはやく見つけられるとは。
 音に反応する草ヒアーイヤー。なんだか、最初うさぎの頃のオレ達みたいな見た目。

「え、これ草なの!?」

 ヨキが驚いたところを緑色の小動物(いや、小植物?)は見逃さなかった。体をよじって拘束から逃げ出した。

「あ、逃げた!」
「追いかけよう!」
「はい!!」
「待てぇぇ!! ボクが捕まえたヤツー!!」

 小さいのを追ってオレ達はウィルと違う方向へと進みだした。
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