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第五章
神々の神器と呪われた女王
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英傑探しの旅に出たクロード、ユージーン、オスカーの三人は、まず初めにラディン村のゼルダに会いに行くことにした。
「ゼルダちゃんと会うのは俺達が初めて会った日以来だな」
「まさかあのうるさい女が英傑の一人とはな。未だに納得出来ない」と、クロードとユージーンがゼルダについてあれこれ言う中、オスカーは一人静かにしていた。
「オスカーはゼルダちゃんに会うのが気まずいか? 何たって、喧嘩別れしたもんな」
クロードはオスカーをあえて笑って茶化す。何故クロードが喧嘩のことを知っているのか。それは、兵士がクロードにラディン村でのことを報告したからであった。ユージーンは、またオスカーがクロードに突っかかると思って見ていたが、当の彼は「そうだな」と俯いていたままだった。
「お前が静かだと、こっちも調子狂うよ。そういえばユージーン、アイリーン様が仰っていた神器の場所、覚えてるか?」
「はい、ちゃんと覚えていますよ」
クロード達が英傑探しの旅に出る前、アルバン神殿。
「すまぬ。大事なことを伝え忘れとった」と、神殿から出ようとするクロード達を引き止める。
「大事なこととは?」
「それぞれの神器がある場所じゃ。パミラの神器、聖なる斧はラディン村の地下のカヴェルヌ洞窟の祠に。ダリルの神器、聖なる槍はリムニ湖の底の祠に。レティシアの神器、聖なる弓矢はベラハ山の頂上の祠に。そしてジーナスの神器、聖なる剣と盾は城の地下にある」
「まさか地下にそんな物が祀られていたなんて」
「城はお前の家だろう? そんなことも知らなかったのか」
「実は俺、暗い所苦手なんだよな」
笑いながら言うクロードにオスカーは大きい溜息と舌打ちをした。そんなオスカーにユージーンは殴りかかろうとしていたが、
「そなたら仲良くせぬか。本当に男はいつまでも子供のようじゃのう」とアイリーンがこれを制す。
「まあ俺はこいつらのそういうところが好きなんですがね。慣れたら楽しいですよ。さあ、そろそろ行くとしようか」
「ということで貴様、パミラ様の神器はカヴェルヌ洞窟に祀られているらしいが、どこにあるか知っているか?」
ユージーンの質問に対してもオスカーは「分からない」と一言返すだけだった。
「貴様も知らないのか。そんなのでよくクロード様にあんな口が利けたな」というユージーンの嫌味に対し
「悪いな、力になれなくて。駄目な奴だな」と今度は自分を卑下するように謝る。
「なあユージーン、早くゼルダちゃんに会った方がいいかもな。そしたらオスカーに元気が戻るかも」
「ですね。僕もあいつがあんなだと調子が狂います」
ラディン村に向かう途中、二人の後ろをオスカーがついていく感じになっていた。
村に着いたクロードとユージーンはその美しさに息を呑んだ。綺麗な緑は当然ながら、建てられている全ての家々はカラフルな淡い色調のタイルが使われていた。ちなみにラディン村は農作物が育ちやすく、城下町や王室でもそれは好まれている。
子供ができて、その子に王位を継承したらここで暮らそうかなということをクロードは考えていた。三人がぼうっと立っていると、遠くから見覚えのある栗色の髪の女が近づいてきた。ゼルダである。
「あら、お久しぶりね。オスカーも、なんか元気なさそうだけど、大丈夫なの?」
「さっきからずっとこの調子だよ。ところでゼルダちゃん、カヴェルヌ洞窟って知ってる?」
「ええ、知ってるわよ。ついてきて」
そう言うと、ゼルダは後ろを振り返り真っ直ぐ歩いていく。先を行くゼルダをクロードとユージーンは小走りで追いかけ、オスカーはその後ろをとぼとぼとついていった。暫く歩くと、ゼルダは村の奥の方にある大木の前で立ち止まる。そしてその場にしゃがみ込むと、大木の根元の取手のようになっている所を掴み上に引き上げる。すると、開いた穴から梯子が延び、その下には広くて美しい鍾乳洞のような空間が広がっていた。四人は梯子を降りていく。下に降りてみると、その場所は全体が岩で出来ており、所々には水が溜まっている。開かれた穴から光が差し、それが水に反射することによって幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「向こうにパミラ様を祀っている祠があるの。滑りやすいから気を付けて」
更に奥に進んでいくと、小さい祠があった。その祠には、パミラの大好物と伝えられたリンゴが供えられている。四人が祠に近づくと、突然祠が光だし、そこから可愛らしい少女が現れた。
「いつ英傑が現れるのかと心待ちにしていたけど。貴女だったのね、ゼルダ。あたしはパミラ。大地を司る神よ」
「あたしが英傑? 一体何のこと?」
驚きを隠せないゼルダに、クロードは魔王が復活したことからこれまでの経緯を説明していく。
「えーっと……。つまり、その魔王を封印するには四人の英傑の力が必要で、そのうちの一人があたしってことね? でも、あたしにそんな力ないわよ?」
「俺だって英傑の一人らしいけど、そんな力ないよ」
「その力は今からあたしが与える。ゼルダ以外はちょっと離れてなさい」
パミラにそう言われ、ゼルダ以外の三人は彼女達から離れる。
「神より選ばれし英傑、サザンクロスよ。我が大地の力、そなたに与えん」
パミラがそう唱え両手を天に掲げると、緑色の光の玉が現れゼルダの体内へと入っていった。そして、どこからともなく斧が現れゼルダの手に収まる。
「それはあたしが聖戦の時使っていた聖なる斧よ」
「へえ。これが神器の一つか」
「綺麗ね。流石神様が使っていただけあるわ。オスカーもそう思わない?」
ゼルダはオスカーの方を見たが、彼は「そうだな」と応えるだけ。そんな彼の様子を見かねたユージーンは口を開く。
「そういえばクロード様、ここの村人から解決してほしい問題があると言われたことを思い出しました。僕達は先に上に行きましょう」
「そうなの? 真面目なお前がそんなこと忘れるなんて珍しいな。分かった。その村人の所に案内してくれ」
二人はオスカーとゼルダを残し、梯子を上がり地上へと出ていった。
「じゃあ、あたしもそろそろ祠に戻るわ。魔王の件、頑張りなさいよ」
パミラはそう言い残し、祠の中へと帰っていく。洞窟の中は、正真正銘オスカーとゼルダの二人だけになった。沈黙が場を支配する。
一方地上では。
「なあユージーン。さっきの話、あれ嘘なんだろう? オスカーが話しやすいように邪魔な俺達があの場を離れる為の嘘。違うか? あったことを逐一俺に報告するお前が忘れてたなんて可笑しいもんな?」
「まあ、依頼を受けた話は嘘ですが、別にあいつの為ではありませんよ。ただ、今の面倒臭いあいつと同じ空間にいるのが苦痛と感じただけです」
「ふっ。可愛くない奴」
洞窟の中はまだ沈黙に包まれていた。ゼルダに何か話しかけようとチラチラと見ているが、ゼルダがこっちを見るとオスカーは目を逸らしてしまう。そんなオスカーの余所余所しさにゼルダが少し苛立っていた。何か話しかけようとするが、「あっ……」「その……」と口籠るばかりで話にならない。すると、一度祠に戻ったパミラが出てきて
「ちょっとあんた、男でしょう? 言いたいことがあるなら堂々と言いなさいよ!」とオスカーを一喝し、再度祠へと戻っていった。
「まさか神様に怒られるとはね」
ゼルダは笑ってオスカーを揶揄う。
「うるさいな。まあなんだ……、あの時は悪かったな。お前を傷つけた。村人から気味悪がられていた俺に優しくしてくれたのに」
そう謝ると、オスカーはゼルダを強引に引っ張り、優しく抱きしめた。ゼルダは突然の出来事に驚くが、
「あんたがそう弱々しいとなんか狂うわね。それに、あんた結構筋肉あるじゃない。着痩せするタイプなのね」と照れた自分を誤魔化そうと話を逸らしたが、逆に不自然じゃないかと思ったゼルダであった。
「ごめんなさい。今のは冗談。あの日のことだけど、あたしは別に怒ってないわよ? オスカーは優しいから本心で言ってるんじゃないと分かっていたし」
「本当か? あの時、兵士からお前が泣いていたと聞いたぞ?」
それを聞いたゼルダは黙ったが、また口を開く。
「見られちゃってたのね。そうよ、あたしは泣いていたの。オスカーのあんな冷たい目初めて見て……、怖くなって。でももう大丈夫よ。あんたに抱きしめられて、暖かいあんたを感じて。でもあれよね。この洞窟は少し肌寒いからこのぐらいの暖かさが丁度いいわね」
思いもよらぬ話の着地点に「なんだそのオチは」と吹き出す。そして、次に涙をポロポロと流し始める。
「でも良かった。不安だったんだ。お前に許してもらえるかどうか。いや、許してもらえなくても仕方ないとさえ思っていた。でもお前はこんな俺にいつも通りに接してくれて。ありがとう」
「ちょっと泣かないでよ! あんたらしくないわね。こっちも泣けてきちゃうじゃない……」
そう言うと、二人は暫く泣いていた。静かな洞窟の中には二人の泣き声が響く。ゼルダは泣き止むと、洞窟のことを話し出した。
「この洞窟ね、よくママと来ていたの。あの時は本当に楽しかったわ。あの頃に戻りたいけど、もうママはいないし。ねえ、オスカー。あんたさえ良ければ、ここを二人の思い出の場所にしない? あたしとあんたが仲直りした思い出の」
「セナさんとの思い出は大丈夫なのか?」
「ええ、気にしないで。ママは他の男と出ていった。ママは大好きだけど、もう思い出したくないの。ねえ、いいでしょ?」
「ああ、分かった」
二人は暫くそれぞれの出来事について話していた。オスカーは帝国での友好交流のこと、ゼルダはオスカーが村を去ってからのマルセルとラルトとの暮らしで起こったこと。
「やっぱあんたと一緒にいると楽しいわ。この時間が続けばいいのに」
「俺もそう思うが、俺達には魔王を倒すという使命がある。それが終わったら……、何でもない」
「何よそれ。でも、あんたはいつまで王家付きの魔道士として働くのかしら?」
「それは分からないが。まあいい、そろそろ地上に戻ろう」
そうね、とオスカーとゼルダは梯子を上がり地上へと戻っていった。梯子を上がりきり地面に手をつくと、クロードとユージーンが穴を見下げて待っていた。穴から顔を出したオスカーが目に入ると、
「遅かったね。もしかして、二人きりの空間でよろしくやっていたのか?」とクロードがニヤニヤしながら言う。
「申し訳ありませんがクロード様、国王らしくもう少し品のある冗談を言ってくださいませんか?」
流石のユージーンもクロードにツッコむ。
「彼の言う通りよ。いくら顔が良くてもデリカシーのない男はモテないわよ? もう国王辞めればいいのに。国民として恥ずかしいわ」
「確かに今のは俺が悪かった。でも、オスカーなら心配はいらないね」
「どういう意味だ?」
「別に? これといった意味はないよ。早くジャバル村に急ごう」
四人がジャバル村を目指す為に村の門に向かって歩いていると、途中でマルセルとラルトに出会った。オスカーが目に映った途端、二人はまた一緒に暮らせると歓喜していたが、オスカーはすぐにこの村から出ていくことを告げる。そして、姉のゼルダがこれからのことを弟達に説明するのだった。
「だからあたし達はその魔王とやらを倒すまでは村には戻れないの」
「そっか。姉さんとオスカーが帰ってきたからまた四人で暮らせると思ったんだけど。でも、我儘言ってられないよね。頑張ってね」
「お前達は強いな」
そう言ってオスカーは二人の頭をぐりぐりと撫で回す。
「ちょっと痛いよ。それに僕達はもう大人だから。弱いままじゃいられないよ」
「クリミナ城は帝国兵に乗っ取られているけど、村はまだ無事みたいだね。でも、いつ帝国の魔の手が王国全土に及ぶのか分からない。外は危険だから村から出ないように。きっとパミラ様が皆を護ってくれる」
「クロード様、ありがとうございます。姉は少々強気なところがありますが、よろしくお願いします」
「この子達は良く出来ているな」
「あたしの弟なのよ。当然でしょう?」
ユージーンの嫌味にゼルダは弟を自慢するように返す。その二人の様子を四人は笑って見ていた。そして訪れる別れの時間。マルセルとラルトは旅に出る四人を笑顔で見送った。クロード、ユージーン、オスカーの三人は片手を振るだけだったが、ゼルダは両手を大きく振って応えた。あの時ラルトは強がっていたが、見送るその目には薄らと涙が浮かんでいた。同じく、ゼルダの目にも薄らと涙が浮かんでいた。
ラディン村でマルセルとラルトと別れ、一行は二人目の英傑・ヴァレンティンがいるジャバル村へと歩みを進める。オスカーと同じくゼルダも村から出たことがなかったので、平原の美しい景色に目を輝かせていた。その姿を見て吹き出すクロードをゼルダが真顔で見つめる。
「ははは。悪い悪い、そんなに真顔で見るな。いや何、お前の顔が帝国に向かう時のオスカーにそっくりだったから」
笑いながら近付き、今度はゼルダの耳元で
「やっぱ好きな人とはそういう表情とか似てくるのかな?」と呟く。
「なっ……、なななななな何でそれを知ってるのよ⁉︎」
「そんなに動揺しなくても。お前がオスカーを見てる目を見れば分かる。で? あいつのどういうところが好きなんだ?」
「それは……。って、今はそんなことどうでもいいじゃない。早くジャバル村へ行きましょ。確かフォティアちゃんとか言ってたわよね? あたし、その子に会ったことがあると思うのよね。どこだったかしら?」
つまらないな、という表情をするクロードを他所にユージーンがこれに答える。
「貴様の頭は鳥頭か。僕がクロード様に代わって玉座の間で責務をこなしていた日、貴様が乗り込んできたあの日だ。おさげ髪の少女が来ただろう? その子がフォティアだ」
「ああ! あの可愛い子ね! またこのパーティが華やかになるわ。それで? 村にはいつ着くの?」
「ユージーンの話だとベラハ山がどうとか言っていたな。あれじゃないか?」
オスカーが指差した方を見ると、大きな山が聳え立っていた。あの大きさなら遠くからでも見えそうな気がするが、四人は話に夢中で気が付かなかったようだ。
「オスカーの言う通り。あれがベラハ山。そして、あの麓にある村がジャバル村だ」
ジャバル村。クリミナ王国に聳える活火山、ベラハ山の麓にある村。山はよく噴火し村全体を火山灰で覆ってしまい最初のうちは城の兵士達が片付けなどの応援に来ていたが、村人達もこれに慣れてくると自分達で処理出来るようになった。村全体は緩やかな傾斜になっており、その地形を活かして家畜の飼育が行われている。牛は勿論のこと、山羊、羊、鶏などもいる。ここの村人達は自給自足の生活を送ってきたのだ。また、城下町のレストランや露店でもこの村の食材が使われたり売られたりしている。そして、この食材が美味しいという噂を聞いた王室専属のシェフがジャバル村の食材を使用して料理を作り出したところ、城内では大好評。今では王国中で愛されている。
「ここの食材は美味しいんだよね。俺も城で作られたものを食べるんじゃなくて自分で一から育てて食べたいけど、よく噴火するところがね……」
クロードはふふふ、と笑いながら話している。そんなクロードの話を歩きながら聞いていると、村の門まで辿り着いた。すると、オレンジ色のおさげ髪の少女が駆け寄ってきた。少女は眩しい笑顔を彼らに向ける。
「わたしはフォティアといいます。まさか王様にお目にかかれるなんて、光栄です。ところで、こんな所まで何か御用ですか?」
フォティアは首を傾げた。村には火山灰を片付ける応援で兵士達が来ることはあるが、王とその側近が来ることはない。何故王がこんな所まで足を運んだのかと、フォティアは不安に感じていたのだ。
「まさかこんな子供が英傑とはな」と、オスカーがボソッと呟く。
「ほんとそうよね。こんな小さい子を魔王と戦わせるなんて、どうかしているわ」
「おい、そういうのはクロード様が順番に説明するから貴様らは黙っていろ」
「ごめんねフォティアちゃん、ちょっとうるさくて。でも楽しいんだよ? で、今日ここに来た理由なんだが……」
クロードは魔王復活からこれまでの経緯を説明していく。フォティアはそれを真剣な表情で聞いていた。
「そんな感じなんだけど分かった? まあ、急にこんな話されても信じられないよね」
クロードの問いにフォティアは首を横に振る。
「いえ、クロード様の説明はとても分かりやすかったです。今からレティシア様に加護を授かりに行くんですよね? レティシア様が祀られている祠は山の頂上にあります。少し暑いですが、気力で登っちゃいましょう!」
皆、フォティアの少し暑いという言葉を信じて山の頂上を目指した。だが、すぐ後悔する。暑いのは少しどころではないのだ。フォティアは慣れているのか涼しい顔で登っていくが、他の四人は溶けそうである。クロードはユージーンに支えられていた。
「もう無理。魔王と戦う前に俺死ぬかも」
「そんな弱音吐くんじゃないわよ。だらしのない男ね。フォティアちゃんを見習いなさい」
「頑張ってくださいクロード様。もうちょっとで頂上ですよ」
フォティアはもうちょっとで着くと言っていたが、まだ着く気配はない。クロードが全然着かないじゃないか、君のもうちょっとは何分あるんだ、と文句を言いながら進んでいると、ようやく頂上に着いた。頂上には火口があり、そこから数メートル離れた所に祠が建っている。
五人が祠に近づくと、祠が光だし美しい女が現れた。
「わたくしはレティシア。炎を司る神。話は全て分かっています。魔王が復活したのですね?」
「そのようです。そして、クロード様の話だとわたしが英傑に選ばれたと」
「まあ、こんな子供が。少女を魔王と戦わせるのはパミラを思い出し心苦しいですが、いいでしょう。わたくしの力を彼女に与えます」
レティシアがそう言うと、四人は彼女達から距離をとる。
「神より選ばれし英傑、ヴァレンティンよ。我が炎の力、そなたに与えん」
レティシアがそう唱え両手を天に掲げると、赤色の光の玉が現れフォティアの体内に入っていった。フォティアの手には弓矢が収まっている。
「それはわたくしが聖戦で使用していた聖なる弓矢です。フォティア、それは貴女にしか使いこなせない」
「これがレティシア様の武器。とても綺麗。ありがとうございます」
「礼には及びません。英傑に神器と力を与えるのは女神より与えられた使命ですから。それより、貴方方には時間がないのでしょう? 早くお行きなさい」
「えー。また下りるのー。俺本当に死んじゃうよ」
やはりクロードは文句を垂れる。
「クロードは先程から文句ばかりですね。……分かりました。わたくしの力で村まで帰してあげましょう」
レティシアは両手を広げ、何やら詠唱を始める。すると、五人の後ろに光の柱が現れた。
「あの柱に入りなさい。さすれば、すぐ村に着きます」
「ありがとう、レティシア様」
四人は順番に柱に入っていき、村へと戻っていく。フォティアが柱に向かって歩き出した時、レティシアが「フォティア、待ちなさい」と声をかける。
「わたくしは当時、まだ幼いパミラを守りきれなくて死なせてしまいました。パミラだけではなく、自分自身と仲間達も。貴女もまた幼い。まだ輝かしい未来がある。自分自身と、そして仲間達を大切にして。皆で生きて。死んでしまってはもう二度と大切な人達には会えないのだから」
「レティシア様はパミラ様達のことを後悔してるんですね。わたしは生き延びてみせます。そして、クロード様達と明るい未来を創っていく。見ていてくださいね、レティシア様」
フォティアは柱に向かい振り返らずに進んでいく。そして柱に入って姿が消えた時、
「ふふふ。フォティア、貴女は強い子ですね」と呟きレティシアは祠の中に消えていった。
フォティアが村に戻ると、そこは既に門の前で、他の四人が待っていた。
「レティシア様のおかげでこれ以上体力を奪われずに帰ってこれたよ」
「そうね。確かに下山も徒歩って言われたら魔王と戦う前に死んでしまっていたわ」
「確かに暑すぎたが、死ぬまではいかないだろう。それで? 次はどこに行くんだ?」
オスカーの問いにユージーンが答える。
「三人目の英傑カルマがいる地、ラーゴ村だ」
一行は三人目の英傑・カルマがいるラーゴ村へと歩みを進める。
「でも困ったものね。そのカルマに関しては何の情報も持ってないんでしょ? あんたなら覚えていそうだったけど」
「ラーゴ村には行った記憶があるんだが、カルマなんてそんな奴いたかな?」
「行ったことあるんだ。いつ行ったの?」
「は? クロード様もその時一緒にいましたが……」
ユージーンの言葉に、一同は顔を見合わせる。
「いいじゃないですか。人って自分にとってどうでもいいことはすぐ忘れるって本で読んだことがあります。つまり、クロード様にとってラーゴ村はどうでもいいんですよ。大切な民なのに……。さあ、早く行きましょう」
フォティアはルンルンとスキップしながら先頭を歩いていく。その様子を見ていたオスカーとゼルダは、
「あいつ、結構毒吐くな」
「まだ小さいし、悪気はないと思うわよ。ほら、子供って思ったことはすぐ言っちゃうし。まだ恐れや色々なことを知らないのよ」と言い合っている。
この時、クロードの歩みが若干遅くなっていたという。
村に着くと、そこには他の村々同様美しい緑が広がっていた。村の奥には森があり、森の中には湖がある。その湖の底に水を司る神ダリルを祀る祠があり、その影響なのか様々な種類の魚が生息している。そしてその魚達も城下町や王室で大変好まれている。
皆それぞれ綺麗ねー、など様々なことを言い合っている中、ユージーンは一人カルマを探していた。やがて藍色の長髪を後ろで束ねた青年を見つけると、ユージーンはその青年に話しかける。
「すまない、カルマという人物を知らないか?」
「え? 俺がカルマっすけど……。てか、クロード様じゃないっすか! お久しぶりっすね!」
「えーと……。どこかで会ったっけ?」
「覚えてないっすか? ヒュドールですよ。まあ、あの時はお前じゃないみたいなこと言われてどっか行っちゃいましたけど」
「それってラディンに来る前のことじゃない。本当にどうでもいいのね」
「最低な国王だな」
オスカーとゼルダは揃ってクロードを責める。クロードはへなへなと小さくなっていく。
「王様には振られちゃいましたけど、俺には可愛い女の子が二人もいるんで大丈夫っす」
ヒュドールはゼルダとフォティアの肩に手を置くが、残念なことに二人に振り払われる。
「ところでヒュドールさん、ダリル様が祀られている祠がどこにあるかご存知ありませんか?」
「アイリーン様の話だと、確かリムニ湖の底にあるとか言ってたな。その湖はどこにある?」
ヒュドールは分からないっす、と両手を軽く挙げ首を傾げる。すると、傍らに女を連れた男が
「湖の場所、僕知ってますよ」と話しかけてきた。
「あら本当? それなら話が早……え? ママ?」
傍らにいる女はゼルダの母親、セナであった。ということは、話しかけてきた男は神殿・遺跡好きのノア。ノアはゼルダとセナの間に流れる気まずい空気を他所に、話し続ける。
「村の奥の森の中にあるんだ。こっちです」
ノアを先頭に歩いていく後ろをセナとゼルダが並んでついていく。二人の間に流れる沈黙。まず最初に口を開いたのはセナだった。
「相変わらず貴女はオスカーと仲がいいのね。ギルガとマルセルとラルトは元気かしら?」
ゼルダは、セナが出ていった後のことを事細かに話す。母が他の男と村を出ていったことが原因で父が自殺したこと。そこから三人姉弟で暮らしてきたこと。セナはその間ずっと俯いていた。
「それは大変だったわね。ごめんなさい。今でもあたしを憎んでるかしら?」
「そうね。憎んでないと言ったら嘘になる。あの日からママのことを忘れたことはないわ。でも、ママに帰ってきてほしいとは思ってないの。三人で楽しくやっていけれてるし。だから、ママもあたし達のことなんか気にせずあの人と仲良く暮らしていてよ」
「そうするわ。あたし、もうあの村には戻りたくないの。嫌な思い出ばっかり」
分かったわ、とゼルダは一言言ってオスカーの元に駆け寄っていく。セナはゼルダの表情を見て察していた。あの子はオスカーが好きなのだと。
「あいつに恋してるのね。はあ……、本当にあの子は変わってる」
木々が生い茂る中を歩いていると、奥の開けた場所に出る。そこには美しい湖があった。覗くと様々な種類の魚が優雅に泳いでいる。
「ここがリムニ湖です。美しいでしょう? どうしようもなくなった時、よく一人でここに来ていたんです」
「そんなことは聞いていないが。案内してくれてありがとう」
ユージーンが礼を言うと、ノアとセナは村に帰っていく。皆に手を振るノアに倣ってセナも手を小さく振ったが、ゼルダと目が合った瞬間すぐに目を逸らした。
「それで、ここに祠があるのよね? まさか全員で行くとか言わないわよね? 登山は皆と喋りながら行けたから楽しかったけど、湖の中は喋れないでしょ? それに、濡れるのは嫌だからね」
「俺もゼルダと同じ意見だ。ここで待っている」
「クロード様、僕はここで帝国軍が攻めてこないか見張っています。なので、安心してダリル様に会ってきてください」
「ひょっとしてユージーンも行きたくない? 実は俺も行きたくないんだよね。参ったな」
「え? まさかの同行者なし? 困ったな。俺、一人とか寂しいんすよね」
笑いながら頭をガシガシと掻くヒュドールにフォティアは
「男ならグダグダ言わずにちゃちゃっと行ってきたらどうですか?」と後ろから押し湖に落とす。ボチャンと鈍い音を立ててヒュドールはそのまま沈んでいった。
湖に沈んだヒュドールは諦めて祠を探しに底に向かって泳ぎ始めた。早く探し出さなければ、彼の息が続かない。
暫く泳いでいると底が見え、小さな祠も見つけた。祠に近寄ると不思議なことに普通に呼吸が出来るようになった。また、地上で地面に立つかのように湖底で普通に立てている。すると、祠が光だし屈強な男が現れた。
「俺はダリル。水を司る神だ。どうやら魔王が復活したらしいな? 俺には英傑に加護を与える役目があるんだが、まさかお前みたいなチャラい奴が英傑カルマとか言わねえよな?」
「俺がカルマっすけど。何すか? その魔王とか英傑って?」
「何だ、何も教えられてねえのか? まあ、何も知らずに戦うのは流石に可哀想だな。俺が教えてやるよ」
ダリルはヒュドールに魔王が復活したこと、倒すには英傑の力が不可欠だと言うことを説明した。そんなヒュドールは最初はファンタジーの世界の話だと笑って聞いていたが、だんだん笑顔がなくなってきた。
「で、お前がその魔王と戦う英傑に選ばれたんだ」
「そうっすか。それ辞退とか出来ます? 俺、可愛い女の子と結婚して子供も作って死ぬまで平和に過ごしたいんすよね。魔王と戦ったら死ぬ可能性もあるじゃないすか。そんなことで死にたくないんすよ」
「辞退? え? 辞退? 神に選ばれたのに辞退とか初めて聞いたぜ。まあ、戦いたくねえって言ってる奴を無理矢理戦場に出させるわけにはいかねえわな。しょうがねえ。あの可愛い女の子と美人な姉ちゃんも戦うってのに」
「は? その話詳しく聞かせてもらってもいいっすか?」
「ああ、構わねえよ。少女フォティアと美人な姉ちゃんゼルダも英傑に選ばれたんだ。王国の未来は英傑と英雄に託されてるからな。二人共乗り気だったよきっと」
ダリルが話している途中ぐらいからヒュドールはブツブツと何かを考えていた。
「じゃあ、俺も英傑として戦いに赴けば? フォティアちゃんとゼルダちゃんにチヤホヤされる訳で?」
ヒュドールは深い眠りから目を覚ました。目覚めた場所は自宅のソファの上。暖炉の中で火がパチパチと燃えている。きっとこの心地よさで眠ったんだろうな。
寝ぼけた状態から覚醒したヒュドールはある違和感に気付く。何故か体が重いのだ。誰か人が乗っているような。目線を暖炉から自身の体に移すと、そこには栗色の髪の女が乗っていた。
「おはよう。やっと起きたのね」
「あー……、おはよう。えーと、君は? ゼルダちゃんだよね? どうしてここにいるの?」
「貴方が言ってくれたんじゃない。魔王を倒したら一緒に住もうって。忘れた?」
と言うことは、ここは全てが終わった世界か。だが可笑しなことに魔王と戦ったという記憶がない。でもまあゼルダちゃんがそう言うなら倒したんだろうと、ヒュドールは難しいことは考えないようにした。
「でも、よくこんな暖炉が効きすぎてる暑い所で寝れるわね。汗ダラダラだわ。脱いでもいいかしら?」
ゼルダはヒュドールの返答を待たずにブラウスと下着を脱ぐ。ゼルダの丁度良い大きさと形の胸、そして細い腰を見たヒュドールは生唾を飲み込む。
「脱いだらちょっとは涼しく感じるかも。貴方も脱いだら? 苦しいでしょ?」
「俺は別に苦しくないよ。大丈夫大丈夫、心配しないで」
「? 別に貴方の上の心配はしてないのよ。あたしが心配なのはこっち」
ゼルダはヒュドールから降りるとズボンとパンツを一気に脱がした。その反動で中で窮屈に収まっていたモノが自由を得たかのように外に飛び出してぶるんと上に反り返る。
「こんなに大きくしちゃって。凄いカッチカチ。んっ……。なんだかこれを見てるとどこがとは言わないけどキュンキュンするのよね。もう我慢出来ない。いただきます」
ゼルダはそのままヒュドールの膨張したモノを咥え舐め始めた。
「ちょ、ちょっとゼルダちゃん! 先っぽを重点的に舐めないで! そこ一番敏感だから! 出るもの出ちゃう! 俺も獣になっちゃう」
ダリルは自分の世界に入り込んでいるヒュドールを最初は笑って見ていたが、だんだんとうるさくなってきたのか咳払いをしてヒュドールを現実世界に戻した。ヒュドールはハッとした表情でダリルを見つめる。
「お楽しみのところ悪いが、もう時間はないみたいだぜ。で、どうする?」
「行くに決まってるでしょ! ここで逃げたら男じゃありませんし。それで平和になったらゼルダちゃんと……」
「何かを達成した後の目標がある方がいいよな。よし! そうと決まれば! 神より選ばれし英傑、カルマよ。我が水の力、そなたに与えん」
ダリルがそう唱え両手を天に掲げると、水色の光の玉が現れヒュドールの体内に入っていった。ヒュドールの手には槍が収まっている。
「なんかかっこいいっすね」
「当たり前だろ? 俺が聖戦の時使ってた武器なんだからな。その聖なる槍はお前にしか扱えないぜ」
「いいっすね、その特別感。ありがとうございます」
「で、そろそろお前は行くんだよな? 俺が森まで戻してやるよ」
「ありがとうございます。いやー、ここに着くまで大変だったんで助かりますよ」
ダリルが両手を広げ詠唱すると、ヒュドールの後方に光の柱が現れる。
「あの光の中に入りな。すぐあいつらの所に戻れるぜ」
「あー……、でも……」
ヒュドールは柱に向かって歩き出したが、暫くしてダリルの方を振り返る。
「ここで行ったらもうダリル様に会えない気がして。なんか寂しいっす」と悲しげな笑顔で言う。その顔を見てダリルはフッと笑う。
「何で笑うんすか。俺、なんか変なこと言いました?」
「いや、悪い悪い。お前が別れを惜しむのは女限定かと思ってな。祠に来てくれればまた会えるさ。多分な」
「あ……、マジすか。と言うことは、また湖を泳がなきゃいけない訳で……。やっぱいいです。さっきの話は忘れてください」
「何だよそれ。まあお前らしいがな。じゃあなヒュドール。魔王なんてぶっ殺しちまえ」
「ぶっ殺すだなんて、神様がそんな物騒なこと言わないでくださいよ。じゃ、行ってきます」
ヒュドールは前を向いたままダリルに手を振る。光の柱に消えていくヒュドールをダリルは笑顔で見送った。
森に転移される時、ヒュドールはふと思った。俺って自分の名前名乗ったっけ? と。まあ神様なんだからそれぐらいお見通しなんだろ、と自問自答していた。
森に着くと、聖なる槍を携えたヒュドールを見てクロードが口を開いた。
「無事にダリル様から加護を授かったみたいだな」
だが、そんなクロードの言葉を無視してヒュドールは「ゼルダちゃーん」とゼルダの元に駆け寄る。振り返りヒュドールを見つめる彼女を見て夢の中の姿を思い出すと、割れやすく繊細なガラス細工を扱うかのように優しく、だが強引に自身の元に引き寄せ
「平和になったら一緒に暮らそうね。そしたらあの続き、シようね」と髪にキスを落とし耳元で呟く。
突然の出来事にドン引くクロードとオスカー。ユージーンはというとヒュドールの少し大きくなった股間に気付き、フォティアの目を覆い隠す。ゼルダはヒュドールを引き剥がすと
「急に何言いだすのよ! あの続きって何の話だか分かんないけど、あたし達初対面じゃない!」と股間を思い切り蹴り上げる。
「はうわっ」と情けない叫び声を上げると、その場に崩れ落ち動かなくなってしまった。
「ていうか、女にあんなこと言うなんて信じられない! フォティアちゃん行きましょう」
怒ったゼルダはフォティアの手を取り村の方へ歩き始める。残された三人は恐怖で股間を押さえながらピクピク動き出したヒュドールを見下ろしていた。
「おい貴様、大丈夫か?」とユージーンが声をかける。問われたヒュドールは
「心配ありがとう。俺は大丈夫。ただ、ちょっと目覚めちまったみたいっす」と股間に残る快感の余韻に浸っていた。
もうこいつは救いようがないな、と三人は見つめ合い心の中でそう確信し、ヒュドールのズボンの股間あたりに染みが出来ていたことは放っておくことにした。
パミラ、レティシア、ダリルから加護を授かった一行。残すはジーナスの加護。それは英傑エルロンドの家の地下、つまりクロードの住むクリミナ城にある。一行は城へ向けて歩きだす。本当に魔王が復活したのかと疑問に思うくらい和気藹々と呑気にしながら歩いているが、徐々に皆に遅れだす者が一人。それは、最年少のフォティアであった。皆よりも遥かに幼いフォティアは歩幅が合わず早足になっていることが多々あった。それに、体力もあまりなく、皆の後ろをついていくことも多かった。確かに、広い王国を移動するのは子供には大変だろう。少し息が上がってきているフォティアの変化をヒュドールは見逃さなかった。ヒュドールはフォティアに歩幅を合わせ、
「フォティアちゃん、大丈夫かい?」と問う。
「心配かけてごめんなさい。わたしは大丈夫です」とフォティアは答えるが、息を整えようと呼吸が深くなっている。
「あのなフォティアちゃん、仲間に気を遣わなくていいんだぜ? 辛いんなら頼ってくれよ。乗りな」
ヒュドールはそう言うとフォティアに背中を向けしゃがみ込む。
「えっ……。でも……」
それでもフォティアは遠慮して乗りたがらない。ヒュドールは笑っているが、本当は迷惑がっていると思っているからだ。
「遠慮すんなって。それとも、おんぶよりこっち派か?」
ヒュドールは立ち上がるとフォティアをお姫様抱っこで持ち上げた。持ち上げられたフォティアはその視線の高さに目を輝かせる。
「わぁ凄い! 背が高くなった気分です!」
「喜んでくれて良かった。やっぱフォティアちゃんは笑ってる顔が可愛いよ」
「ヒュドールさんって、変態ですけど優しいですね。お兄ちゃんみたいです」
「おおう……。そういうフォティアちゃんは兄に厳しい妹みたいだな」
王都アディセルの門前に到着した。王国の端から端まで歩いたので、もう皆の脚は限界だった。様子を見てきます、とユージーンは一人王都の門を潜る。暫くして戻ってきたユージーンは、
「城下町には人の気配はありませんでした。ですが数多の建物が壊されていて、美しい景観はどこにもありません。民達は家に隠れて過ごしているものと思われます。ですが、城の前に二人の帝国兵の見張りがいました。正面突破は困難かと」とクロードに報告する。
「分かった、ありがとう。とりあえず城に向かおう。人の気配がないのなら、城までは安全に行ける筈だ」
ユージーンの報告通り、確かに人はいなかった。そして、これはクロード達がヴェンデルガルトから逃げた後のことだろう。所々が破壊されていて、美しさなど微塵も感じさせなかった。城下町を通り城に着く。扉の前には二人の帝国兵が立っており、こちらもユージーンの報告通り正面突破は難しそうだ。
「おいクロード、何か抜け道とかないのか? お前の家だろう?」
「俺は使ったことないけど、父上から地下室に続く隠し通路があるって聞いたな。確かこっちだ」
クロードは皆を率いて城の裏側へと向かった。裏側に行くと、一部だけ色が微かに違う壁があった。「どういう風だっけ」とクロードは父に教えてもらったことを必死に思い出しながら叩いたり蹴ったりする。
「悪い、全然思い出せない」と皆に謝罪するクロードに
「無理もありませんよ。聞いたのは小さい頃なんでしょう? 普通そんな昔のこと覚えてませんよ」とユージーンが慰める。
「別にクロード様を責めるつもりじゃないっすけど、どうするんすか? 見張りの帝国兵倒して正面から行きます?」
ヒュドールは壁にもたれかかる。すると、壁がググッと押し込まれヒュドールは「ああ……」という言葉を残し壁の中に消えていった。地下室に続く隠し通路の入り口は、微かに色が違う壁から数メートル離れた普通の灰色の壁を押し込むと現れたのだ。
「あの意味深な色の違いは何だったのよ」
壁に空いた穴から中に入ると、すぐ地下に続く階段があった。それを降りていくと、扉にあたる。その扉を開け中に入ると、その光はどこから差しているのか、祠を照らしていた。
「なんか神秘的ですね。美しいです」
六人が祠に近づくと、祠が光だし美しい男が現れた。
「俺はジーナス。光を司る神だ。どうやら魔王が復活したそうだな。それに、この城もヴェンデルガルトとかいう女に乗っ取られている」
「そうなんですよ。まずは城を取り戻さないと」
クロードはこの時、別のことを考えていた。それは、本当にこんなクールな方が顔を真っ赤にして照れることがあるのかということ。まああんな美しい女神様の体に触れたらどんな男でも興奮するんだろうな、と自分の中で解決していた。
「ところでクロード」とジーナスがクロードを睨め付ける。
「お前は何故地下に姿を見せない? 一回お前の父が幼いお前を連れて来たが、お前は泣き喚いて以降来ることはなかったな。どうしてだ?」
「申し訳ありませんジーナス様。実は俺、暗い所が苦手でして……。二度と地下には近寄るかって強い意志を持ってたんです」
「そういうことだったのか。あの時はもうお前に会えないのかと思っていた。寂しかった」
ジーナスの言葉を聞いた時、ゼルダは可愛い、と思っていた。
「でも今日、こうして俺の元を訪れてくれた。嬉しかった」
ゼルダはジーナスに対する可愛いという感情が抑えられないのか、悶えていた。だがこんなこと本人に言えるはずがない。神に対して可愛いと言ったら、その場で「無礼者!」と言われ始末されてしまうだろう。そんなことを考えていた矢先だった。
「お話の邪魔をして申し訳ないっす。ジーナス様の可愛さは分かりました。それで、早く本題に移りません? お城は乗っ取られているんでしょう?」とヒュドールが口を開く。こんな時、ヒュドールのこういう性格はちょっと羨ましいなと思うゼルダであった。そして、ヒュドールの言葉を合図に、クロード以外の五人がその場から少し離れる。
「神より選ばれし英傑、エルロンドよ。我が光の力、そなたに与えん」
ジーナスがそう唱え両手を天に掲げると、金色の光の玉が現れクロードの体内に入っていった。クロードの手には剣と盾が収まっている。
「それは俺が聖戦で使っていた聖なる剣と聖なる盾だ。これでヴェンデルガルトを倒し、城を取り返してくれ。そして……、魔王を封印し世界が平和になったら、またここに来てくれると嬉しい」
「分かりました。その約束を守る為にも、俺たちは今からヴェンデルガルトに挑みます。待っていてください」
「ふっ。ありがとう」とジーナスは少し微笑んだ。
❇︎
数年前、ヴァルト帝国。そして、帝国の片隅に不老不死の力を持つルーグ族と呼ばれる民族が住んでいた。それがルーグの里。この里は、女王であり騎士のヴェンデルガルト=フォルクヴァルツによって治められている。当時はこの不老不死の力を奪おうと様々な人間が里を襲ったが、ヴェンデルガルト率いる騎士団によってこれを打ち負かしていた。
里を襲う人間が減り始め平和になったと思った矢先、それは突如破られる。帝都からの客人である。その客人はたったの二人で、帝国王家に代々仕えているというリーデンベルクを名乗る魔道士の姉妹だった。
「初めましてヴェンデルガルト様。わたしはエルトリア=フォン=リーデンベルクと申します。こちらは妹のアデルです」
紹介されたアデルはペコっと頭を下げる。
「あら、帝国の魔道士がこの里にどのような御用かしら?」
エルトリアは里を襲う人間はまだ沢山いるということを説明した。だから、用心棒として魔道に長けている自分達を雇った方がいいと。だが、ヴェンデルガルトはこれを断った。
「お気持ちは有り難いですけれど、その必要はありませんわ。もう里を襲う人間などおりませんもの」
「そうですか。ですが、そのご判断、今に後悔しますよ」
そう言った時だった。数人の賊が空から現れたのだ。突然の侵入者に動揺するヴェンデルガルト。その様子を見て不敵に笑うエルトリアは、即座に闇の呪文を唱え、賊達を即死させた。
「どうですかヴェンデルガルト様? 賊の侵入に対して先程の貴方様は動揺した。それが原因で里に傷が付くのですよ? わたしがいなければ犠牲者が出ているところでした。いかがです? わたし達を雇う気持ちになりました?」
ヴェンデルガルトは側近達と相談をする。用心棒はいた方がいいんじゃないかと、でもこれまでは自分達だけで解決出来ていた、でもエルトリアの言う通り奇襲に動揺していた。
「ヴェンデルガルト様、わたしも姉上の意見に賛成です。身内だからというわけではありません。ただ、味方は多い方がよろしいかと」
アデルもそう助言する。それを聞いてヴェンデルガルトは心を決めたようだった。
「分かりましたわ。貴女方を用心棒として迎えます。一緒に里を護りましょう」
三人は握手を交わすと、側近の一人にエルトリアとアデルを城のゲストルームに通すよう命令する。
ゲルトルームに通された二人は即座に側近を追い出すと、扉の鍵を閉め話し始める。
「姉上、意外に上手くいきましたわね」
「そうですね。あの女王に断られた時は焦りましたが、彼らがいい役を果たしてくれました。彼らの死に感謝です」
先程の賊の奇襲、実はあの賊の正体は帝国の兵だった。そして、エルトリアとアデルは同盟を断られた時の為に彼らを利用した。案の定ヴェンデルガルトは賊を殺したエルトリア、アデルの説得で同盟を承諾。彼らの死が同盟の架け橋になったのだ。
「彼らの死を無駄にしない為にも、この計画成功させないとね」
「ええ、本当に。今日はゆっくり休んで明日に備えましょう」
夕食の後、お風呂に入り、「おやすみなさい」と二人の魔道士は眠りに就いた。
翌日。二人の目覚めは最高だった。計画実行の当日であり、コンディションはバッチリだ。計画成功の為、エルトリアはヴェンデルガルトの眠る寝室に向かい、アデルは里の民を城の前に集めた。
「おはようございますエルトリアさん。お早いんですのね」
「常日頃アルベルト様のお世話をしておりますので、早起きは得意なんです」
計画通りエルトリアはヴェンデルガルトを城の外まで連れ出すと、外にはもう里の民全員が集まっていた。民は何だ何だ、という顔でヴェンデルガルトを見る。
「あら? 今日は何かのイベントがあったかしら?」
そう言うと、エルトリアはヴェンデルガルトの両腕を拘束する。
「エルトリアさん? どういうつもりですの?」
「単刀直入に言うと、わたしは貴女達の不老不死の力が欲しいのです。貴女達を研究したい。体を隅々まで調べたい。いいでしょう?」
「この力は生まれ持って授かったもの。研究で手に入れられるものではありませんわよ」
「そうですか。仕方ないですね。アデル、やりなさい」
そう言われたアデルは人差し指から闇の魔術の閃光を出し、民の胸を貫く。貫かれた民はその場に崩れ動かなくなった。
「死んじゃいました? 不老不死の一族でも闇の魔力には敵わないんですね。つまらない」
「貴様ら……!」
ヴェンデルガルトの側近がエルトリアに襲いかかるが、これもアデルが闇の閃光で貫く。
「もうやめて! あたしはどうなってもいいから、どうか民だけは!」
「流石女王様。自分を犠牲に民を護る。素敵です。さあ、アデル」
「分かってるわ」
アデルは民達を次から次へと殺していく。
「エルトリア! 話が違うじゃない! 約束はどうなりましたの?」
「約束? ああ、わたしはヴェンデルガルト様のことを女王として褒めましたが、やめるとは言っていませんよ。それで? わたし達についてくる気になりましたか?」
「あたしが城についていったら民は解放してくれますの?」
「ええ、約束しますよ」
「分かりました。行きます」
「よろしい」
エルトリアは片手でヴェンデルガルトを拘束しもう片方の手を天に掲げ闇の魔力を纏った巨大な玉を作り出す。ある程度大きくなったところで手を前に出すと、闇の玉が大地を崩壊させ、それに巻き込まれた民は一瞬のうちに死んでいった。
「嘘つき……。この悪魔!」
「欲しいものを手に入れる為なら手段は選びません」
エルトリアとアデルはヴェンデルガルトを拘束したまま城に戻る。そして、地下のヴィルヘルムが眠る聖廟の片隅の牢屋に幽閉する。それからヴェンデルガルトにとっては地獄の日々が始まった。
まずは不老不死でも痛みは感じるのかという実験。手始めに近くにあった剣で腕を裂く。これには「んっ!」という声を上げてはいたが、そこからは我慢していた。不老不死でも痛覚は存在するらしい。
次は本当に心臓をひと突きしても死なないのかという実験。これも近くにあった剣で心臓を貫く。すると、聖廟中にヴェンデルガルトの叫び声が響いた。剣を引き抜くと、先程の痛覚の実験と同様、傷が徐々に塞がっていく。だが、多くの実験で痛めつけられた体は完全には治ってはいなかった。
「やはり、貴女達ルーグ族は闇の魔術でしか死ねないようですね。それに、ダメージを受けすぎると傷は完治しないのですね。ですが、何か分かったことがあります。さて、貴女はもう用済みな訳ですが、滅ぼされ誰もいない里に一人でいるのは寂しいでしょう? 特別にここに住ませてあげますよ。感謝してくださいね」
そう言うと、エルトリアは振り返らず高笑いをしながら真っ直ぐに歩いていく。アデルは少し歩いたところで振り返るが、ヴェンデルガルトが二人を睨み続けていた為前を向き直りエルトリアを小走りで追いかける。
ヴェンデルガルトが牢屋で退屈な日々を過ごしていると、ある日の夜、四人の男女が地下に下りてきた。一人の男が棺を開けると、それを合図に何かが光だす。すると、その棺を開けた男は倒れ動かなくなってしまったが、暫くすると立ち上がっていた。だが、先程の男の雰囲気とは何かが違う気がする。
「ヴィルヘルム様、貴方様の復活を心待ちにしておりました」
ヴィルヘルム……。聞いたことがある。かつて一つだった帝国は魔王ヴィルヘルムによって治められていたが、聖戦によって女神に討たれたと。だが何故死んだ筈の魔王が?
四人が何やら話していると、復活したらしい魔王が残り、あとの三人は地上へと階段を上がっていった。
魔王はずっと一人で佇んでいる。ヴェンデルガルトは彼に助けを求めようとし、
「ねえ魔王様、ちょっとこちらに来てくださる?」と声をかけた。魔王ならこんな哀れな女王を助けてくれるかもしれない、という淡い期待を胸に抱いて。牢屋の中で両手を頬に当てて待っていると、魔王がこちらに近づいてくる。牢屋の前まで来ると鎖で拘束されているヴェンデルガルトに向かい
「お前は? 随分ボロボロだな」と訊く。
「あたしはヴェンデルガルト=フォルクヴァルツ。ルーグ族の女王であり騎士ですわ」
「ヴェンデル……。名前長いな。ヴェンディでいいか? それで? 女王様がどうしてこんな薄暗い所にいるのだ?」
ヴェンデルガルトは、里での出来事を話す。それをヴィルヘルムは静かに聞いていた。
「それは辛いことがあったな」
「ええ、そうなんですの。もう死んでしまいたいのですけれど、あたしは不老不死の一族。簡単には死ねませんわ。ねえ、あたしをこの絶望から助けてくださらない?」
「ならヴェンディ、お前にいい役をやろう。吾輩はこれから王国を滅ぼし、帝国統一へと動く。だが、今の吾輩は完全ではない。そこでだ。吾輩の傀儡にならないか? お前にも吾輩の計画を手伝って欲しいのだ」
「王国滅亡と帝国統一。素敵ですわね。ですが、今のあたくしがお役に立てるでしょうか?」
ヴィルヘルムはククク……、と肩を震わせて笑い、ヴェンデルガルトに向き直る。
「吾輩の力を与えよう。なに、痛くはない。ただちょっと気分が悪くなるだけだ」
そう言うと、ヴィルヘルムは自身の胸の前まで片手を掲げると、紫色をした光の玉が現れ、徐々に大きくなっていく。そして、それをヴェンデルガルトに向かって光の玉を差し出すと、玉は彼女の体内に吸収される。すると、彼女は気を失いその場に倒れ込んでしまった。
「おいヴェンディ、生きているか?」
微かに覚醒しつつある意識の中で、ヴィルヘルムがヴェンデルガルトに呼びかける声が聞こえる。暫く意識はポヤポヤとしていたが、それは徐々にはっきりとし、完全に覚醒したヴェンデルガルトは不敵に笑い出す。
「これがヴィルヘルム様の力。素晴らしいですわ。今のあたしなら何でも出来そう」
立ち上がった彼女には健康的な肌色はなく、灰色がかった顔色をしていた。もう彼女は人間とは呼べない見た目をしている。
「いいかヴェンディ? 今から王国へと赴き、まずは国王クロードを殺すのだ。安心しろ。一人で戦えとは言わない。暫くしたらそちらに増援を送る」
「ヴィルヘルム様のお力を与えられた今、一人でも攻められると思うのですけれど、味方は多い方がいいですものね。分かりましたわ。あたくしは先に王国へと向かい、援軍をお待ちしております」
ヴィルヘルムに牢の扉を破壊してもらったヴェンデルガルトは、意気揚々とスキップをしながら地下を後にした。そんなヴェンデルガルトの後ろ姿を見て、ヴィルヘルムが呟く。
「悪いなヴェンディ、お前に謝らなければならないことがある。先程与えた力、吾輩のものではない。お前が憎んで仕方ないエルトリアのものなのだ」
❇︎
クリミナ城、玉座の間。クロード一行がそこに辿り着くと、ヴェンデルガルトが玉座に腰掛けていた。
「あら、戻ってきましたのね」
「言っただろう? 必ず帰ってくるって。俺の家、返してもらうよ」
「あんなにボロボロにされて、威勢はいいですわね。あたしの闇の力に勝てますかしら?」
ヴェンデルガルトは即座に闇の玉を放つ。それはクロード目掛けて投げつけられたが、これを聖なる盾で弾く。
「あら。そんな武器、持っていまして?」
「ジーナス様から授かったんだ。光を司る神様だよ」
「そうなんですの。ですが、いくら神の武器でもあたしに攻撃は届きませんわよ」
ヴェンデルガルトの周りを闇のバリアが覆う。
クロードは剣の切っ先をヴェンデルガルトに向けると、閃光が走り彼女を覆っていたバリアが剥がされた。
「どうして⁉︎ ヴィルヘルム様から授かったお力ですのよ?」
「本当にヴィルヘルムの力なのか? 実は誰か別人の魔力かもな」
クロードは剣を両手に構え、天に掲げる。すると、ブレードに光が纏う。それをヴェンデルガルト目掛けて振り下ろすと、光の波動がヴェンデルガルトを切り裂く。彼女からは大量の血が吹き出し、仰向けでその場に倒れる。
「そんな……。こんな簡単に……。グフっ!」
血を吐き出した。そんな彼女にクロードは駆け寄り抱き上げる。
「もう喋るな。死ぬよ」
「貴方が殺したがっていた相手ですのに、そんな人間の心配をしてくださるの? 優しい方ですね。ですが心配はいりませんよ。あたしは不老不死のルーグ族。簡単には死にません」
ヴェンデルガルトの息遣いがだんだん荒くなる。
「何故かしら、意識が遠くなってきました。まさか死ぬのかしら。貴方の腕、とても心地よいですわ」
「そう? ありがとう」
「あたしね、ルーグの女王ですの。ですけれど、あたしは民を死なせてしまった。そんな女王は長失格、ですのよね? それに、これはあたしが魔王に魂を売ってしまった末路。その時に不老不死の力は失われてしまったのね。新たな力を得るには何かを犠牲にすると言いますもの。死ぬなら、このまま貴方の腕の中で眠りたいですわ」
「長失格……。初めてお前に会った時そんなこと話したな。でも、俺は魔王に魂を売ったお前の中に何か気高いものを感じたよ。お前の一族に何があったのかは分からないが、きっと民は……」
まだ途中だったが、ユージーンは声をかける。
「話している途中申し訳ありませんが、ヴェンデルガルトはもう死んでいますよ」
「本当だ」
クロードは腕の中で眠っているヴェンデルガルトの手の甲にキスを落とす。
「おやすみ気高き女王様。さあ皆、英傑も全員揃ったことだし、アルバン神殿に戻ろうか」
「そうですね」
クロード達は、城を後にし神殿へと向かう。
「ゼルダちゃんと会うのは俺達が初めて会った日以来だな」
「まさかあのうるさい女が英傑の一人とはな。未だに納得出来ない」と、クロードとユージーンがゼルダについてあれこれ言う中、オスカーは一人静かにしていた。
「オスカーはゼルダちゃんに会うのが気まずいか? 何たって、喧嘩別れしたもんな」
クロードはオスカーをあえて笑って茶化す。何故クロードが喧嘩のことを知っているのか。それは、兵士がクロードにラディン村でのことを報告したからであった。ユージーンは、またオスカーがクロードに突っかかると思って見ていたが、当の彼は「そうだな」と俯いていたままだった。
「お前が静かだと、こっちも調子狂うよ。そういえばユージーン、アイリーン様が仰っていた神器の場所、覚えてるか?」
「はい、ちゃんと覚えていますよ」
クロード達が英傑探しの旅に出る前、アルバン神殿。
「すまぬ。大事なことを伝え忘れとった」と、神殿から出ようとするクロード達を引き止める。
「大事なこととは?」
「それぞれの神器がある場所じゃ。パミラの神器、聖なる斧はラディン村の地下のカヴェルヌ洞窟の祠に。ダリルの神器、聖なる槍はリムニ湖の底の祠に。レティシアの神器、聖なる弓矢はベラハ山の頂上の祠に。そしてジーナスの神器、聖なる剣と盾は城の地下にある」
「まさか地下にそんな物が祀られていたなんて」
「城はお前の家だろう? そんなことも知らなかったのか」
「実は俺、暗い所苦手なんだよな」
笑いながら言うクロードにオスカーは大きい溜息と舌打ちをした。そんなオスカーにユージーンは殴りかかろうとしていたが、
「そなたら仲良くせぬか。本当に男はいつまでも子供のようじゃのう」とアイリーンがこれを制す。
「まあ俺はこいつらのそういうところが好きなんですがね。慣れたら楽しいですよ。さあ、そろそろ行くとしようか」
「ということで貴様、パミラ様の神器はカヴェルヌ洞窟に祀られているらしいが、どこにあるか知っているか?」
ユージーンの質問に対してもオスカーは「分からない」と一言返すだけだった。
「貴様も知らないのか。そんなのでよくクロード様にあんな口が利けたな」というユージーンの嫌味に対し
「悪いな、力になれなくて。駄目な奴だな」と今度は自分を卑下するように謝る。
「なあユージーン、早くゼルダちゃんに会った方がいいかもな。そしたらオスカーに元気が戻るかも」
「ですね。僕もあいつがあんなだと調子が狂います」
ラディン村に向かう途中、二人の後ろをオスカーがついていく感じになっていた。
村に着いたクロードとユージーンはその美しさに息を呑んだ。綺麗な緑は当然ながら、建てられている全ての家々はカラフルな淡い色調のタイルが使われていた。ちなみにラディン村は農作物が育ちやすく、城下町や王室でもそれは好まれている。
子供ができて、その子に王位を継承したらここで暮らそうかなということをクロードは考えていた。三人がぼうっと立っていると、遠くから見覚えのある栗色の髪の女が近づいてきた。ゼルダである。
「あら、お久しぶりね。オスカーも、なんか元気なさそうだけど、大丈夫なの?」
「さっきからずっとこの調子だよ。ところでゼルダちゃん、カヴェルヌ洞窟って知ってる?」
「ええ、知ってるわよ。ついてきて」
そう言うと、ゼルダは後ろを振り返り真っ直ぐ歩いていく。先を行くゼルダをクロードとユージーンは小走りで追いかけ、オスカーはその後ろをとぼとぼとついていった。暫く歩くと、ゼルダは村の奥の方にある大木の前で立ち止まる。そしてその場にしゃがみ込むと、大木の根元の取手のようになっている所を掴み上に引き上げる。すると、開いた穴から梯子が延び、その下には広くて美しい鍾乳洞のような空間が広がっていた。四人は梯子を降りていく。下に降りてみると、その場所は全体が岩で出来ており、所々には水が溜まっている。開かれた穴から光が差し、それが水に反射することによって幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「向こうにパミラ様を祀っている祠があるの。滑りやすいから気を付けて」
更に奥に進んでいくと、小さい祠があった。その祠には、パミラの大好物と伝えられたリンゴが供えられている。四人が祠に近づくと、突然祠が光だし、そこから可愛らしい少女が現れた。
「いつ英傑が現れるのかと心待ちにしていたけど。貴女だったのね、ゼルダ。あたしはパミラ。大地を司る神よ」
「あたしが英傑? 一体何のこと?」
驚きを隠せないゼルダに、クロードは魔王が復活したことからこれまでの経緯を説明していく。
「えーっと……。つまり、その魔王を封印するには四人の英傑の力が必要で、そのうちの一人があたしってことね? でも、あたしにそんな力ないわよ?」
「俺だって英傑の一人らしいけど、そんな力ないよ」
「その力は今からあたしが与える。ゼルダ以外はちょっと離れてなさい」
パミラにそう言われ、ゼルダ以外の三人は彼女達から離れる。
「神より選ばれし英傑、サザンクロスよ。我が大地の力、そなたに与えん」
パミラがそう唱え両手を天に掲げると、緑色の光の玉が現れゼルダの体内へと入っていった。そして、どこからともなく斧が現れゼルダの手に収まる。
「それはあたしが聖戦の時使っていた聖なる斧よ」
「へえ。これが神器の一つか」
「綺麗ね。流石神様が使っていただけあるわ。オスカーもそう思わない?」
ゼルダはオスカーの方を見たが、彼は「そうだな」と応えるだけ。そんな彼の様子を見かねたユージーンは口を開く。
「そういえばクロード様、ここの村人から解決してほしい問題があると言われたことを思い出しました。僕達は先に上に行きましょう」
「そうなの? 真面目なお前がそんなこと忘れるなんて珍しいな。分かった。その村人の所に案内してくれ」
二人はオスカーとゼルダを残し、梯子を上がり地上へと出ていった。
「じゃあ、あたしもそろそろ祠に戻るわ。魔王の件、頑張りなさいよ」
パミラはそう言い残し、祠の中へと帰っていく。洞窟の中は、正真正銘オスカーとゼルダの二人だけになった。沈黙が場を支配する。
一方地上では。
「なあユージーン。さっきの話、あれ嘘なんだろう? オスカーが話しやすいように邪魔な俺達があの場を離れる為の嘘。違うか? あったことを逐一俺に報告するお前が忘れてたなんて可笑しいもんな?」
「まあ、依頼を受けた話は嘘ですが、別にあいつの為ではありませんよ。ただ、今の面倒臭いあいつと同じ空間にいるのが苦痛と感じただけです」
「ふっ。可愛くない奴」
洞窟の中はまだ沈黙に包まれていた。ゼルダに何か話しかけようとチラチラと見ているが、ゼルダがこっちを見るとオスカーは目を逸らしてしまう。そんなオスカーの余所余所しさにゼルダが少し苛立っていた。何か話しかけようとするが、「あっ……」「その……」と口籠るばかりで話にならない。すると、一度祠に戻ったパミラが出てきて
「ちょっとあんた、男でしょう? 言いたいことがあるなら堂々と言いなさいよ!」とオスカーを一喝し、再度祠へと戻っていった。
「まさか神様に怒られるとはね」
ゼルダは笑ってオスカーを揶揄う。
「うるさいな。まあなんだ……、あの時は悪かったな。お前を傷つけた。村人から気味悪がられていた俺に優しくしてくれたのに」
そう謝ると、オスカーはゼルダを強引に引っ張り、優しく抱きしめた。ゼルダは突然の出来事に驚くが、
「あんたがそう弱々しいとなんか狂うわね。それに、あんた結構筋肉あるじゃない。着痩せするタイプなのね」と照れた自分を誤魔化そうと話を逸らしたが、逆に不自然じゃないかと思ったゼルダであった。
「ごめんなさい。今のは冗談。あの日のことだけど、あたしは別に怒ってないわよ? オスカーは優しいから本心で言ってるんじゃないと分かっていたし」
「本当か? あの時、兵士からお前が泣いていたと聞いたぞ?」
それを聞いたゼルダは黙ったが、また口を開く。
「見られちゃってたのね。そうよ、あたしは泣いていたの。オスカーのあんな冷たい目初めて見て……、怖くなって。でももう大丈夫よ。あんたに抱きしめられて、暖かいあんたを感じて。でもあれよね。この洞窟は少し肌寒いからこのぐらいの暖かさが丁度いいわね」
思いもよらぬ話の着地点に「なんだそのオチは」と吹き出す。そして、次に涙をポロポロと流し始める。
「でも良かった。不安だったんだ。お前に許してもらえるかどうか。いや、許してもらえなくても仕方ないとさえ思っていた。でもお前はこんな俺にいつも通りに接してくれて。ありがとう」
「ちょっと泣かないでよ! あんたらしくないわね。こっちも泣けてきちゃうじゃない……」
そう言うと、二人は暫く泣いていた。静かな洞窟の中には二人の泣き声が響く。ゼルダは泣き止むと、洞窟のことを話し出した。
「この洞窟ね、よくママと来ていたの。あの時は本当に楽しかったわ。あの頃に戻りたいけど、もうママはいないし。ねえ、オスカー。あんたさえ良ければ、ここを二人の思い出の場所にしない? あたしとあんたが仲直りした思い出の」
「セナさんとの思い出は大丈夫なのか?」
「ええ、気にしないで。ママは他の男と出ていった。ママは大好きだけど、もう思い出したくないの。ねえ、いいでしょ?」
「ああ、分かった」
二人は暫くそれぞれの出来事について話していた。オスカーは帝国での友好交流のこと、ゼルダはオスカーが村を去ってからのマルセルとラルトとの暮らしで起こったこと。
「やっぱあんたと一緒にいると楽しいわ。この時間が続けばいいのに」
「俺もそう思うが、俺達には魔王を倒すという使命がある。それが終わったら……、何でもない」
「何よそれ。でも、あんたはいつまで王家付きの魔道士として働くのかしら?」
「それは分からないが。まあいい、そろそろ地上に戻ろう」
そうね、とオスカーとゼルダは梯子を上がり地上へと戻っていった。梯子を上がりきり地面に手をつくと、クロードとユージーンが穴を見下げて待っていた。穴から顔を出したオスカーが目に入ると、
「遅かったね。もしかして、二人きりの空間でよろしくやっていたのか?」とクロードがニヤニヤしながら言う。
「申し訳ありませんがクロード様、国王らしくもう少し品のある冗談を言ってくださいませんか?」
流石のユージーンもクロードにツッコむ。
「彼の言う通りよ。いくら顔が良くてもデリカシーのない男はモテないわよ? もう国王辞めればいいのに。国民として恥ずかしいわ」
「確かに今のは俺が悪かった。でも、オスカーなら心配はいらないね」
「どういう意味だ?」
「別に? これといった意味はないよ。早くジャバル村に急ごう」
四人がジャバル村を目指す為に村の門に向かって歩いていると、途中でマルセルとラルトに出会った。オスカーが目に映った途端、二人はまた一緒に暮らせると歓喜していたが、オスカーはすぐにこの村から出ていくことを告げる。そして、姉のゼルダがこれからのことを弟達に説明するのだった。
「だからあたし達はその魔王とやらを倒すまでは村には戻れないの」
「そっか。姉さんとオスカーが帰ってきたからまた四人で暮らせると思ったんだけど。でも、我儘言ってられないよね。頑張ってね」
「お前達は強いな」
そう言ってオスカーは二人の頭をぐりぐりと撫で回す。
「ちょっと痛いよ。それに僕達はもう大人だから。弱いままじゃいられないよ」
「クリミナ城は帝国兵に乗っ取られているけど、村はまだ無事みたいだね。でも、いつ帝国の魔の手が王国全土に及ぶのか分からない。外は危険だから村から出ないように。きっとパミラ様が皆を護ってくれる」
「クロード様、ありがとうございます。姉は少々強気なところがありますが、よろしくお願いします」
「この子達は良く出来ているな」
「あたしの弟なのよ。当然でしょう?」
ユージーンの嫌味にゼルダは弟を自慢するように返す。その二人の様子を四人は笑って見ていた。そして訪れる別れの時間。マルセルとラルトは旅に出る四人を笑顔で見送った。クロード、ユージーン、オスカーの三人は片手を振るだけだったが、ゼルダは両手を大きく振って応えた。あの時ラルトは強がっていたが、見送るその目には薄らと涙が浮かんでいた。同じく、ゼルダの目にも薄らと涙が浮かんでいた。
ラディン村でマルセルとラルトと別れ、一行は二人目の英傑・ヴァレンティンがいるジャバル村へと歩みを進める。オスカーと同じくゼルダも村から出たことがなかったので、平原の美しい景色に目を輝かせていた。その姿を見て吹き出すクロードをゼルダが真顔で見つめる。
「ははは。悪い悪い、そんなに真顔で見るな。いや何、お前の顔が帝国に向かう時のオスカーにそっくりだったから」
笑いながら近付き、今度はゼルダの耳元で
「やっぱ好きな人とはそういう表情とか似てくるのかな?」と呟く。
「なっ……、なななななな何でそれを知ってるのよ⁉︎」
「そんなに動揺しなくても。お前がオスカーを見てる目を見れば分かる。で? あいつのどういうところが好きなんだ?」
「それは……。って、今はそんなことどうでもいいじゃない。早くジャバル村へ行きましょ。確かフォティアちゃんとか言ってたわよね? あたし、その子に会ったことがあると思うのよね。どこだったかしら?」
つまらないな、という表情をするクロードを他所にユージーンがこれに答える。
「貴様の頭は鳥頭か。僕がクロード様に代わって玉座の間で責務をこなしていた日、貴様が乗り込んできたあの日だ。おさげ髪の少女が来ただろう? その子がフォティアだ」
「ああ! あの可愛い子ね! またこのパーティが華やかになるわ。それで? 村にはいつ着くの?」
「ユージーンの話だとベラハ山がどうとか言っていたな。あれじゃないか?」
オスカーが指差した方を見ると、大きな山が聳え立っていた。あの大きさなら遠くからでも見えそうな気がするが、四人は話に夢中で気が付かなかったようだ。
「オスカーの言う通り。あれがベラハ山。そして、あの麓にある村がジャバル村だ」
ジャバル村。クリミナ王国に聳える活火山、ベラハ山の麓にある村。山はよく噴火し村全体を火山灰で覆ってしまい最初のうちは城の兵士達が片付けなどの応援に来ていたが、村人達もこれに慣れてくると自分達で処理出来るようになった。村全体は緩やかな傾斜になっており、その地形を活かして家畜の飼育が行われている。牛は勿論のこと、山羊、羊、鶏などもいる。ここの村人達は自給自足の生活を送ってきたのだ。また、城下町のレストランや露店でもこの村の食材が使われたり売られたりしている。そして、この食材が美味しいという噂を聞いた王室専属のシェフがジャバル村の食材を使用して料理を作り出したところ、城内では大好評。今では王国中で愛されている。
「ここの食材は美味しいんだよね。俺も城で作られたものを食べるんじゃなくて自分で一から育てて食べたいけど、よく噴火するところがね……」
クロードはふふふ、と笑いながら話している。そんなクロードの話を歩きながら聞いていると、村の門まで辿り着いた。すると、オレンジ色のおさげ髪の少女が駆け寄ってきた。少女は眩しい笑顔を彼らに向ける。
「わたしはフォティアといいます。まさか王様にお目にかかれるなんて、光栄です。ところで、こんな所まで何か御用ですか?」
フォティアは首を傾げた。村には火山灰を片付ける応援で兵士達が来ることはあるが、王とその側近が来ることはない。何故王がこんな所まで足を運んだのかと、フォティアは不安に感じていたのだ。
「まさかこんな子供が英傑とはな」と、オスカーがボソッと呟く。
「ほんとそうよね。こんな小さい子を魔王と戦わせるなんて、どうかしているわ」
「おい、そういうのはクロード様が順番に説明するから貴様らは黙っていろ」
「ごめんねフォティアちゃん、ちょっとうるさくて。でも楽しいんだよ? で、今日ここに来た理由なんだが……」
クロードは魔王復活からこれまでの経緯を説明していく。フォティアはそれを真剣な表情で聞いていた。
「そんな感じなんだけど分かった? まあ、急にこんな話されても信じられないよね」
クロードの問いにフォティアは首を横に振る。
「いえ、クロード様の説明はとても分かりやすかったです。今からレティシア様に加護を授かりに行くんですよね? レティシア様が祀られている祠は山の頂上にあります。少し暑いですが、気力で登っちゃいましょう!」
皆、フォティアの少し暑いという言葉を信じて山の頂上を目指した。だが、すぐ後悔する。暑いのは少しどころではないのだ。フォティアは慣れているのか涼しい顔で登っていくが、他の四人は溶けそうである。クロードはユージーンに支えられていた。
「もう無理。魔王と戦う前に俺死ぬかも」
「そんな弱音吐くんじゃないわよ。だらしのない男ね。フォティアちゃんを見習いなさい」
「頑張ってくださいクロード様。もうちょっとで頂上ですよ」
フォティアはもうちょっとで着くと言っていたが、まだ着く気配はない。クロードが全然着かないじゃないか、君のもうちょっとは何分あるんだ、と文句を言いながら進んでいると、ようやく頂上に着いた。頂上には火口があり、そこから数メートル離れた所に祠が建っている。
五人が祠に近づくと、祠が光だし美しい女が現れた。
「わたくしはレティシア。炎を司る神。話は全て分かっています。魔王が復活したのですね?」
「そのようです。そして、クロード様の話だとわたしが英傑に選ばれたと」
「まあ、こんな子供が。少女を魔王と戦わせるのはパミラを思い出し心苦しいですが、いいでしょう。わたくしの力を彼女に与えます」
レティシアがそう言うと、四人は彼女達から距離をとる。
「神より選ばれし英傑、ヴァレンティンよ。我が炎の力、そなたに与えん」
レティシアがそう唱え両手を天に掲げると、赤色の光の玉が現れフォティアの体内に入っていった。フォティアの手には弓矢が収まっている。
「それはわたくしが聖戦で使用していた聖なる弓矢です。フォティア、それは貴女にしか使いこなせない」
「これがレティシア様の武器。とても綺麗。ありがとうございます」
「礼には及びません。英傑に神器と力を与えるのは女神より与えられた使命ですから。それより、貴方方には時間がないのでしょう? 早くお行きなさい」
「えー。また下りるのー。俺本当に死んじゃうよ」
やはりクロードは文句を垂れる。
「クロードは先程から文句ばかりですね。……分かりました。わたくしの力で村まで帰してあげましょう」
レティシアは両手を広げ、何やら詠唱を始める。すると、五人の後ろに光の柱が現れた。
「あの柱に入りなさい。さすれば、すぐ村に着きます」
「ありがとう、レティシア様」
四人は順番に柱に入っていき、村へと戻っていく。フォティアが柱に向かって歩き出した時、レティシアが「フォティア、待ちなさい」と声をかける。
「わたくしは当時、まだ幼いパミラを守りきれなくて死なせてしまいました。パミラだけではなく、自分自身と仲間達も。貴女もまた幼い。まだ輝かしい未来がある。自分自身と、そして仲間達を大切にして。皆で生きて。死んでしまってはもう二度と大切な人達には会えないのだから」
「レティシア様はパミラ様達のことを後悔してるんですね。わたしは生き延びてみせます。そして、クロード様達と明るい未来を創っていく。見ていてくださいね、レティシア様」
フォティアは柱に向かい振り返らずに進んでいく。そして柱に入って姿が消えた時、
「ふふふ。フォティア、貴女は強い子ですね」と呟きレティシアは祠の中に消えていった。
フォティアが村に戻ると、そこは既に門の前で、他の四人が待っていた。
「レティシア様のおかげでこれ以上体力を奪われずに帰ってこれたよ」
「そうね。確かに下山も徒歩って言われたら魔王と戦う前に死んでしまっていたわ」
「確かに暑すぎたが、死ぬまではいかないだろう。それで? 次はどこに行くんだ?」
オスカーの問いにユージーンが答える。
「三人目の英傑カルマがいる地、ラーゴ村だ」
一行は三人目の英傑・カルマがいるラーゴ村へと歩みを進める。
「でも困ったものね。そのカルマに関しては何の情報も持ってないんでしょ? あんたなら覚えていそうだったけど」
「ラーゴ村には行った記憶があるんだが、カルマなんてそんな奴いたかな?」
「行ったことあるんだ。いつ行ったの?」
「は? クロード様もその時一緒にいましたが……」
ユージーンの言葉に、一同は顔を見合わせる。
「いいじゃないですか。人って自分にとってどうでもいいことはすぐ忘れるって本で読んだことがあります。つまり、クロード様にとってラーゴ村はどうでもいいんですよ。大切な民なのに……。さあ、早く行きましょう」
フォティアはルンルンとスキップしながら先頭を歩いていく。その様子を見ていたオスカーとゼルダは、
「あいつ、結構毒吐くな」
「まだ小さいし、悪気はないと思うわよ。ほら、子供って思ったことはすぐ言っちゃうし。まだ恐れや色々なことを知らないのよ」と言い合っている。
この時、クロードの歩みが若干遅くなっていたという。
村に着くと、そこには他の村々同様美しい緑が広がっていた。村の奥には森があり、森の中には湖がある。その湖の底に水を司る神ダリルを祀る祠があり、その影響なのか様々な種類の魚が生息している。そしてその魚達も城下町や王室で大変好まれている。
皆それぞれ綺麗ねー、など様々なことを言い合っている中、ユージーンは一人カルマを探していた。やがて藍色の長髪を後ろで束ねた青年を見つけると、ユージーンはその青年に話しかける。
「すまない、カルマという人物を知らないか?」
「え? 俺がカルマっすけど……。てか、クロード様じゃないっすか! お久しぶりっすね!」
「えーと……。どこかで会ったっけ?」
「覚えてないっすか? ヒュドールですよ。まあ、あの時はお前じゃないみたいなこと言われてどっか行っちゃいましたけど」
「それってラディンに来る前のことじゃない。本当にどうでもいいのね」
「最低な国王だな」
オスカーとゼルダは揃ってクロードを責める。クロードはへなへなと小さくなっていく。
「王様には振られちゃいましたけど、俺には可愛い女の子が二人もいるんで大丈夫っす」
ヒュドールはゼルダとフォティアの肩に手を置くが、残念なことに二人に振り払われる。
「ところでヒュドールさん、ダリル様が祀られている祠がどこにあるかご存知ありませんか?」
「アイリーン様の話だと、確かリムニ湖の底にあるとか言ってたな。その湖はどこにある?」
ヒュドールは分からないっす、と両手を軽く挙げ首を傾げる。すると、傍らに女を連れた男が
「湖の場所、僕知ってますよ」と話しかけてきた。
「あら本当? それなら話が早……え? ママ?」
傍らにいる女はゼルダの母親、セナであった。ということは、話しかけてきた男は神殿・遺跡好きのノア。ノアはゼルダとセナの間に流れる気まずい空気を他所に、話し続ける。
「村の奥の森の中にあるんだ。こっちです」
ノアを先頭に歩いていく後ろをセナとゼルダが並んでついていく。二人の間に流れる沈黙。まず最初に口を開いたのはセナだった。
「相変わらず貴女はオスカーと仲がいいのね。ギルガとマルセルとラルトは元気かしら?」
ゼルダは、セナが出ていった後のことを事細かに話す。母が他の男と村を出ていったことが原因で父が自殺したこと。そこから三人姉弟で暮らしてきたこと。セナはその間ずっと俯いていた。
「それは大変だったわね。ごめんなさい。今でもあたしを憎んでるかしら?」
「そうね。憎んでないと言ったら嘘になる。あの日からママのことを忘れたことはないわ。でも、ママに帰ってきてほしいとは思ってないの。三人で楽しくやっていけれてるし。だから、ママもあたし達のことなんか気にせずあの人と仲良く暮らしていてよ」
「そうするわ。あたし、もうあの村には戻りたくないの。嫌な思い出ばっかり」
分かったわ、とゼルダは一言言ってオスカーの元に駆け寄っていく。セナはゼルダの表情を見て察していた。あの子はオスカーが好きなのだと。
「あいつに恋してるのね。はあ……、本当にあの子は変わってる」
木々が生い茂る中を歩いていると、奥の開けた場所に出る。そこには美しい湖があった。覗くと様々な種類の魚が優雅に泳いでいる。
「ここがリムニ湖です。美しいでしょう? どうしようもなくなった時、よく一人でここに来ていたんです」
「そんなことは聞いていないが。案内してくれてありがとう」
ユージーンが礼を言うと、ノアとセナは村に帰っていく。皆に手を振るノアに倣ってセナも手を小さく振ったが、ゼルダと目が合った瞬間すぐに目を逸らした。
「それで、ここに祠があるのよね? まさか全員で行くとか言わないわよね? 登山は皆と喋りながら行けたから楽しかったけど、湖の中は喋れないでしょ? それに、濡れるのは嫌だからね」
「俺もゼルダと同じ意見だ。ここで待っている」
「クロード様、僕はここで帝国軍が攻めてこないか見張っています。なので、安心してダリル様に会ってきてください」
「ひょっとしてユージーンも行きたくない? 実は俺も行きたくないんだよね。参ったな」
「え? まさかの同行者なし? 困ったな。俺、一人とか寂しいんすよね」
笑いながら頭をガシガシと掻くヒュドールにフォティアは
「男ならグダグダ言わずにちゃちゃっと行ってきたらどうですか?」と後ろから押し湖に落とす。ボチャンと鈍い音を立ててヒュドールはそのまま沈んでいった。
湖に沈んだヒュドールは諦めて祠を探しに底に向かって泳ぎ始めた。早く探し出さなければ、彼の息が続かない。
暫く泳いでいると底が見え、小さな祠も見つけた。祠に近寄ると不思議なことに普通に呼吸が出来るようになった。また、地上で地面に立つかのように湖底で普通に立てている。すると、祠が光だし屈強な男が現れた。
「俺はダリル。水を司る神だ。どうやら魔王が復活したらしいな? 俺には英傑に加護を与える役目があるんだが、まさかお前みたいなチャラい奴が英傑カルマとか言わねえよな?」
「俺がカルマっすけど。何すか? その魔王とか英傑って?」
「何だ、何も教えられてねえのか? まあ、何も知らずに戦うのは流石に可哀想だな。俺が教えてやるよ」
ダリルはヒュドールに魔王が復活したこと、倒すには英傑の力が不可欠だと言うことを説明した。そんなヒュドールは最初はファンタジーの世界の話だと笑って聞いていたが、だんだん笑顔がなくなってきた。
「で、お前がその魔王と戦う英傑に選ばれたんだ」
「そうっすか。それ辞退とか出来ます? 俺、可愛い女の子と結婚して子供も作って死ぬまで平和に過ごしたいんすよね。魔王と戦ったら死ぬ可能性もあるじゃないすか。そんなことで死にたくないんすよ」
「辞退? え? 辞退? 神に選ばれたのに辞退とか初めて聞いたぜ。まあ、戦いたくねえって言ってる奴を無理矢理戦場に出させるわけにはいかねえわな。しょうがねえ。あの可愛い女の子と美人な姉ちゃんも戦うってのに」
「は? その話詳しく聞かせてもらってもいいっすか?」
「ああ、構わねえよ。少女フォティアと美人な姉ちゃんゼルダも英傑に選ばれたんだ。王国の未来は英傑と英雄に託されてるからな。二人共乗り気だったよきっと」
ダリルが話している途中ぐらいからヒュドールはブツブツと何かを考えていた。
「じゃあ、俺も英傑として戦いに赴けば? フォティアちゃんとゼルダちゃんにチヤホヤされる訳で?」
ヒュドールは深い眠りから目を覚ました。目覚めた場所は自宅のソファの上。暖炉の中で火がパチパチと燃えている。きっとこの心地よさで眠ったんだろうな。
寝ぼけた状態から覚醒したヒュドールはある違和感に気付く。何故か体が重いのだ。誰か人が乗っているような。目線を暖炉から自身の体に移すと、そこには栗色の髪の女が乗っていた。
「おはよう。やっと起きたのね」
「あー……、おはよう。えーと、君は? ゼルダちゃんだよね? どうしてここにいるの?」
「貴方が言ってくれたんじゃない。魔王を倒したら一緒に住もうって。忘れた?」
と言うことは、ここは全てが終わった世界か。だが可笑しなことに魔王と戦ったという記憶がない。でもまあゼルダちゃんがそう言うなら倒したんだろうと、ヒュドールは難しいことは考えないようにした。
「でも、よくこんな暖炉が効きすぎてる暑い所で寝れるわね。汗ダラダラだわ。脱いでもいいかしら?」
ゼルダはヒュドールの返答を待たずにブラウスと下着を脱ぐ。ゼルダの丁度良い大きさと形の胸、そして細い腰を見たヒュドールは生唾を飲み込む。
「脱いだらちょっとは涼しく感じるかも。貴方も脱いだら? 苦しいでしょ?」
「俺は別に苦しくないよ。大丈夫大丈夫、心配しないで」
「? 別に貴方の上の心配はしてないのよ。あたしが心配なのはこっち」
ゼルダはヒュドールから降りるとズボンとパンツを一気に脱がした。その反動で中で窮屈に収まっていたモノが自由を得たかのように外に飛び出してぶるんと上に反り返る。
「こんなに大きくしちゃって。凄いカッチカチ。んっ……。なんだかこれを見てるとどこがとは言わないけどキュンキュンするのよね。もう我慢出来ない。いただきます」
ゼルダはそのままヒュドールの膨張したモノを咥え舐め始めた。
「ちょ、ちょっとゼルダちゃん! 先っぽを重点的に舐めないで! そこ一番敏感だから! 出るもの出ちゃう! 俺も獣になっちゃう」
ダリルは自分の世界に入り込んでいるヒュドールを最初は笑って見ていたが、だんだんとうるさくなってきたのか咳払いをしてヒュドールを現実世界に戻した。ヒュドールはハッとした表情でダリルを見つめる。
「お楽しみのところ悪いが、もう時間はないみたいだぜ。で、どうする?」
「行くに決まってるでしょ! ここで逃げたら男じゃありませんし。それで平和になったらゼルダちゃんと……」
「何かを達成した後の目標がある方がいいよな。よし! そうと決まれば! 神より選ばれし英傑、カルマよ。我が水の力、そなたに与えん」
ダリルがそう唱え両手を天に掲げると、水色の光の玉が現れヒュドールの体内に入っていった。ヒュドールの手には槍が収まっている。
「なんかかっこいいっすね」
「当たり前だろ? 俺が聖戦の時使ってた武器なんだからな。その聖なる槍はお前にしか扱えないぜ」
「いいっすね、その特別感。ありがとうございます」
「で、そろそろお前は行くんだよな? 俺が森まで戻してやるよ」
「ありがとうございます。いやー、ここに着くまで大変だったんで助かりますよ」
ダリルが両手を広げ詠唱すると、ヒュドールの後方に光の柱が現れる。
「あの光の中に入りな。すぐあいつらの所に戻れるぜ」
「あー……、でも……」
ヒュドールは柱に向かって歩き出したが、暫くしてダリルの方を振り返る。
「ここで行ったらもうダリル様に会えない気がして。なんか寂しいっす」と悲しげな笑顔で言う。その顔を見てダリルはフッと笑う。
「何で笑うんすか。俺、なんか変なこと言いました?」
「いや、悪い悪い。お前が別れを惜しむのは女限定かと思ってな。祠に来てくれればまた会えるさ。多分な」
「あ……、マジすか。と言うことは、また湖を泳がなきゃいけない訳で……。やっぱいいです。さっきの話は忘れてください」
「何だよそれ。まあお前らしいがな。じゃあなヒュドール。魔王なんてぶっ殺しちまえ」
「ぶっ殺すだなんて、神様がそんな物騒なこと言わないでくださいよ。じゃ、行ってきます」
ヒュドールは前を向いたままダリルに手を振る。光の柱に消えていくヒュドールをダリルは笑顔で見送った。
森に転移される時、ヒュドールはふと思った。俺って自分の名前名乗ったっけ? と。まあ神様なんだからそれぐらいお見通しなんだろ、と自問自答していた。
森に着くと、聖なる槍を携えたヒュドールを見てクロードが口を開いた。
「無事にダリル様から加護を授かったみたいだな」
だが、そんなクロードの言葉を無視してヒュドールは「ゼルダちゃーん」とゼルダの元に駆け寄る。振り返りヒュドールを見つめる彼女を見て夢の中の姿を思い出すと、割れやすく繊細なガラス細工を扱うかのように優しく、だが強引に自身の元に引き寄せ
「平和になったら一緒に暮らそうね。そしたらあの続き、シようね」と髪にキスを落とし耳元で呟く。
突然の出来事にドン引くクロードとオスカー。ユージーンはというとヒュドールの少し大きくなった股間に気付き、フォティアの目を覆い隠す。ゼルダはヒュドールを引き剥がすと
「急に何言いだすのよ! あの続きって何の話だか分かんないけど、あたし達初対面じゃない!」と股間を思い切り蹴り上げる。
「はうわっ」と情けない叫び声を上げると、その場に崩れ落ち動かなくなってしまった。
「ていうか、女にあんなこと言うなんて信じられない! フォティアちゃん行きましょう」
怒ったゼルダはフォティアの手を取り村の方へ歩き始める。残された三人は恐怖で股間を押さえながらピクピク動き出したヒュドールを見下ろしていた。
「おい貴様、大丈夫か?」とユージーンが声をかける。問われたヒュドールは
「心配ありがとう。俺は大丈夫。ただ、ちょっと目覚めちまったみたいっす」と股間に残る快感の余韻に浸っていた。
もうこいつは救いようがないな、と三人は見つめ合い心の中でそう確信し、ヒュドールのズボンの股間あたりに染みが出来ていたことは放っておくことにした。
パミラ、レティシア、ダリルから加護を授かった一行。残すはジーナスの加護。それは英傑エルロンドの家の地下、つまりクロードの住むクリミナ城にある。一行は城へ向けて歩きだす。本当に魔王が復活したのかと疑問に思うくらい和気藹々と呑気にしながら歩いているが、徐々に皆に遅れだす者が一人。それは、最年少のフォティアであった。皆よりも遥かに幼いフォティアは歩幅が合わず早足になっていることが多々あった。それに、体力もあまりなく、皆の後ろをついていくことも多かった。確かに、広い王国を移動するのは子供には大変だろう。少し息が上がってきているフォティアの変化をヒュドールは見逃さなかった。ヒュドールはフォティアに歩幅を合わせ、
「フォティアちゃん、大丈夫かい?」と問う。
「心配かけてごめんなさい。わたしは大丈夫です」とフォティアは答えるが、息を整えようと呼吸が深くなっている。
「あのなフォティアちゃん、仲間に気を遣わなくていいんだぜ? 辛いんなら頼ってくれよ。乗りな」
ヒュドールはそう言うとフォティアに背中を向けしゃがみ込む。
「えっ……。でも……」
それでもフォティアは遠慮して乗りたがらない。ヒュドールは笑っているが、本当は迷惑がっていると思っているからだ。
「遠慮すんなって。それとも、おんぶよりこっち派か?」
ヒュドールは立ち上がるとフォティアをお姫様抱っこで持ち上げた。持ち上げられたフォティアはその視線の高さに目を輝かせる。
「わぁ凄い! 背が高くなった気分です!」
「喜んでくれて良かった。やっぱフォティアちゃんは笑ってる顔が可愛いよ」
「ヒュドールさんって、変態ですけど優しいですね。お兄ちゃんみたいです」
「おおう……。そういうフォティアちゃんは兄に厳しい妹みたいだな」
王都アディセルの門前に到着した。王国の端から端まで歩いたので、もう皆の脚は限界だった。様子を見てきます、とユージーンは一人王都の門を潜る。暫くして戻ってきたユージーンは、
「城下町には人の気配はありませんでした。ですが数多の建物が壊されていて、美しい景観はどこにもありません。民達は家に隠れて過ごしているものと思われます。ですが、城の前に二人の帝国兵の見張りがいました。正面突破は困難かと」とクロードに報告する。
「分かった、ありがとう。とりあえず城に向かおう。人の気配がないのなら、城までは安全に行ける筈だ」
ユージーンの報告通り、確かに人はいなかった。そして、これはクロード達がヴェンデルガルトから逃げた後のことだろう。所々が破壊されていて、美しさなど微塵も感じさせなかった。城下町を通り城に着く。扉の前には二人の帝国兵が立っており、こちらもユージーンの報告通り正面突破は難しそうだ。
「おいクロード、何か抜け道とかないのか? お前の家だろう?」
「俺は使ったことないけど、父上から地下室に続く隠し通路があるって聞いたな。確かこっちだ」
クロードは皆を率いて城の裏側へと向かった。裏側に行くと、一部だけ色が微かに違う壁があった。「どういう風だっけ」とクロードは父に教えてもらったことを必死に思い出しながら叩いたり蹴ったりする。
「悪い、全然思い出せない」と皆に謝罪するクロードに
「無理もありませんよ。聞いたのは小さい頃なんでしょう? 普通そんな昔のこと覚えてませんよ」とユージーンが慰める。
「別にクロード様を責めるつもりじゃないっすけど、どうするんすか? 見張りの帝国兵倒して正面から行きます?」
ヒュドールは壁にもたれかかる。すると、壁がググッと押し込まれヒュドールは「ああ……」という言葉を残し壁の中に消えていった。地下室に続く隠し通路の入り口は、微かに色が違う壁から数メートル離れた普通の灰色の壁を押し込むと現れたのだ。
「あの意味深な色の違いは何だったのよ」
壁に空いた穴から中に入ると、すぐ地下に続く階段があった。それを降りていくと、扉にあたる。その扉を開け中に入ると、その光はどこから差しているのか、祠を照らしていた。
「なんか神秘的ですね。美しいです」
六人が祠に近づくと、祠が光だし美しい男が現れた。
「俺はジーナス。光を司る神だ。どうやら魔王が復活したそうだな。それに、この城もヴェンデルガルトとかいう女に乗っ取られている」
「そうなんですよ。まずは城を取り戻さないと」
クロードはこの時、別のことを考えていた。それは、本当にこんなクールな方が顔を真っ赤にして照れることがあるのかということ。まああんな美しい女神様の体に触れたらどんな男でも興奮するんだろうな、と自分の中で解決していた。
「ところでクロード」とジーナスがクロードを睨め付ける。
「お前は何故地下に姿を見せない? 一回お前の父が幼いお前を連れて来たが、お前は泣き喚いて以降来ることはなかったな。どうしてだ?」
「申し訳ありませんジーナス様。実は俺、暗い所が苦手でして……。二度と地下には近寄るかって強い意志を持ってたんです」
「そういうことだったのか。あの時はもうお前に会えないのかと思っていた。寂しかった」
ジーナスの言葉を聞いた時、ゼルダは可愛い、と思っていた。
「でも今日、こうして俺の元を訪れてくれた。嬉しかった」
ゼルダはジーナスに対する可愛いという感情が抑えられないのか、悶えていた。だがこんなこと本人に言えるはずがない。神に対して可愛いと言ったら、その場で「無礼者!」と言われ始末されてしまうだろう。そんなことを考えていた矢先だった。
「お話の邪魔をして申し訳ないっす。ジーナス様の可愛さは分かりました。それで、早く本題に移りません? お城は乗っ取られているんでしょう?」とヒュドールが口を開く。こんな時、ヒュドールのこういう性格はちょっと羨ましいなと思うゼルダであった。そして、ヒュドールの言葉を合図に、クロード以外の五人がその場から少し離れる。
「神より選ばれし英傑、エルロンドよ。我が光の力、そなたに与えん」
ジーナスがそう唱え両手を天に掲げると、金色の光の玉が現れクロードの体内に入っていった。クロードの手には剣と盾が収まっている。
「それは俺が聖戦で使っていた聖なる剣と聖なる盾だ。これでヴェンデルガルトを倒し、城を取り返してくれ。そして……、魔王を封印し世界が平和になったら、またここに来てくれると嬉しい」
「分かりました。その約束を守る為にも、俺たちは今からヴェンデルガルトに挑みます。待っていてください」
「ふっ。ありがとう」とジーナスは少し微笑んだ。
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数年前、ヴァルト帝国。そして、帝国の片隅に不老不死の力を持つルーグ族と呼ばれる民族が住んでいた。それがルーグの里。この里は、女王であり騎士のヴェンデルガルト=フォルクヴァルツによって治められている。当時はこの不老不死の力を奪おうと様々な人間が里を襲ったが、ヴェンデルガルト率いる騎士団によってこれを打ち負かしていた。
里を襲う人間が減り始め平和になったと思った矢先、それは突如破られる。帝都からの客人である。その客人はたったの二人で、帝国王家に代々仕えているというリーデンベルクを名乗る魔道士の姉妹だった。
「初めましてヴェンデルガルト様。わたしはエルトリア=フォン=リーデンベルクと申します。こちらは妹のアデルです」
紹介されたアデルはペコっと頭を下げる。
「あら、帝国の魔道士がこの里にどのような御用かしら?」
エルトリアは里を襲う人間はまだ沢山いるということを説明した。だから、用心棒として魔道に長けている自分達を雇った方がいいと。だが、ヴェンデルガルトはこれを断った。
「お気持ちは有り難いですけれど、その必要はありませんわ。もう里を襲う人間などおりませんもの」
「そうですか。ですが、そのご判断、今に後悔しますよ」
そう言った時だった。数人の賊が空から現れたのだ。突然の侵入者に動揺するヴェンデルガルト。その様子を見て不敵に笑うエルトリアは、即座に闇の呪文を唱え、賊達を即死させた。
「どうですかヴェンデルガルト様? 賊の侵入に対して先程の貴方様は動揺した。それが原因で里に傷が付くのですよ? わたしがいなければ犠牲者が出ているところでした。いかがです? わたし達を雇う気持ちになりました?」
ヴェンデルガルトは側近達と相談をする。用心棒はいた方がいいんじゃないかと、でもこれまでは自分達だけで解決出来ていた、でもエルトリアの言う通り奇襲に動揺していた。
「ヴェンデルガルト様、わたしも姉上の意見に賛成です。身内だからというわけではありません。ただ、味方は多い方がよろしいかと」
アデルもそう助言する。それを聞いてヴェンデルガルトは心を決めたようだった。
「分かりましたわ。貴女方を用心棒として迎えます。一緒に里を護りましょう」
三人は握手を交わすと、側近の一人にエルトリアとアデルを城のゲストルームに通すよう命令する。
ゲルトルームに通された二人は即座に側近を追い出すと、扉の鍵を閉め話し始める。
「姉上、意外に上手くいきましたわね」
「そうですね。あの女王に断られた時は焦りましたが、彼らがいい役を果たしてくれました。彼らの死に感謝です」
先程の賊の奇襲、実はあの賊の正体は帝国の兵だった。そして、エルトリアとアデルは同盟を断られた時の為に彼らを利用した。案の定ヴェンデルガルトは賊を殺したエルトリア、アデルの説得で同盟を承諾。彼らの死が同盟の架け橋になったのだ。
「彼らの死を無駄にしない為にも、この計画成功させないとね」
「ええ、本当に。今日はゆっくり休んで明日に備えましょう」
夕食の後、お風呂に入り、「おやすみなさい」と二人の魔道士は眠りに就いた。
翌日。二人の目覚めは最高だった。計画実行の当日であり、コンディションはバッチリだ。計画成功の為、エルトリアはヴェンデルガルトの眠る寝室に向かい、アデルは里の民を城の前に集めた。
「おはようございますエルトリアさん。お早いんですのね」
「常日頃アルベルト様のお世話をしておりますので、早起きは得意なんです」
計画通りエルトリアはヴェンデルガルトを城の外まで連れ出すと、外にはもう里の民全員が集まっていた。民は何だ何だ、という顔でヴェンデルガルトを見る。
「あら? 今日は何かのイベントがあったかしら?」
そう言うと、エルトリアはヴェンデルガルトの両腕を拘束する。
「エルトリアさん? どういうつもりですの?」
「単刀直入に言うと、わたしは貴女達の不老不死の力が欲しいのです。貴女達を研究したい。体を隅々まで調べたい。いいでしょう?」
「この力は生まれ持って授かったもの。研究で手に入れられるものではありませんわよ」
「そうですか。仕方ないですね。アデル、やりなさい」
そう言われたアデルは人差し指から闇の魔術の閃光を出し、民の胸を貫く。貫かれた民はその場に崩れ動かなくなった。
「死んじゃいました? 不老不死の一族でも闇の魔力には敵わないんですね。つまらない」
「貴様ら……!」
ヴェンデルガルトの側近がエルトリアに襲いかかるが、これもアデルが闇の閃光で貫く。
「もうやめて! あたしはどうなってもいいから、どうか民だけは!」
「流石女王様。自分を犠牲に民を護る。素敵です。さあ、アデル」
「分かってるわ」
アデルは民達を次から次へと殺していく。
「エルトリア! 話が違うじゃない! 約束はどうなりましたの?」
「約束? ああ、わたしはヴェンデルガルト様のことを女王として褒めましたが、やめるとは言っていませんよ。それで? わたし達についてくる気になりましたか?」
「あたしが城についていったら民は解放してくれますの?」
「ええ、約束しますよ」
「分かりました。行きます」
「よろしい」
エルトリアは片手でヴェンデルガルトを拘束しもう片方の手を天に掲げ闇の魔力を纏った巨大な玉を作り出す。ある程度大きくなったところで手を前に出すと、闇の玉が大地を崩壊させ、それに巻き込まれた民は一瞬のうちに死んでいった。
「嘘つき……。この悪魔!」
「欲しいものを手に入れる為なら手段は選びません」
エルトリアとアデルはヴェンデルガルトを拘束したまま城に戻る。そして、地下のヴィルヘルムが眠る聖廟の片隅の牢屋に幽閉する。それからヴェンデルガルトにとっては地獄の日々が始まった。
まずは不老不死でも痛みは感じるのかという実験。手始めに近くにあった剣で腕を裂く。これには「んっ!」という声を上げてはいたが、そこからは我慢していた。不老不死でも痛覚は存在するらしい。
次は本当に心臓をひと突きしても死なないのかという実験。これも近くにあった剣で心臓を貫く。すると、聖廟中にヴェンデルガルトの叫び声が響いた。剣を引き抜くと、先程の痛覚の実験と同様、傷が徐々に塞がっていく。だが、多くの実験で痛めつけられた体は完全には治ってはいなかった。
「やはり、貴女達ルーグ族は闇の魔術でしか死ねないようですね。それに、ダメージを受けすぎると傷は完治しないのですね。ですが、何か分かったことがあります。さて、貴女はもう用済みな訳ですが、滅ぼされ誰もいない里に一人でいるのは寂しいでしょう? 特別にここに住ませてあげますよ。感謝してくださいね」
そう言うと、エルトリアは振り返らず高笑いをしながら真っ直ぐに歩いていく。アデルは少し歩いたところで振り返るが、ヴェンデルガルトが二人を睨み続けていた為前を向き直りエルトリアを小走りで追いかける。
ヴェンデルガルトが牢屋で退屈な日々を過ごしていると、ある日の夜、四人の男女が地下に下りてきた。一人の男が棺を開けると、それを合図に何かが光だす。すると、その棺を開けた男は倒れ動かなくなってしまったが、暫くすると立ち上がっていた。だが、先程の男の雰囲気とは何かが違う気がする。
「ヴィルヘルム様、貴方様の復活を心待ちにしておりました」
ヴィルヘルム……。聞いたことがある。かつて一つだった帝国は魔王ヴィルヘルムによって治められていたが、聖戦によって女神に討たれたと。だが何故死んだ筈の魔王が?
四人が何やら話していると、復活したらしい魔王が残り、あとの三人は地上へと階段を上がっていった。
魔王はずっと一人で佇んでいる。ヴェンデルガルトは彼に助けを求めようとし、
「ねえ魔王様、ちょっとこちらに来てくださる?」と声をかけた。魔王ならこんな哀れな女王を助けてくれるかもしれない、という淡い期待を胸に抱いて。牢屋の中で両手を頬に当てて待っていると、魔王がこちらに近づいてくる。牢屋の前まで来ると鎖で拘束されているヴェンデルガルトに向かい
「お前は? 随分ボロボロだな」と訊く。
「あたしはヴェンデルガルト=フォルクヴァルツ。ルーグ族の女王であり騎士ですわ」
「ヴェンデル……。名前長いな。ヴェンディでいいか? それで? 女王様がどうしてこんな薄暗い所にいるのだ?」
ヴェンデルガルトは、里での出来事を話す。それをヴィルヘルムは静かに聞いていた。
「それは辛いことがあったな」
「ええ、そうなんですの。もう死んでしまいたいのですけれど、あたしは不老不死の一族。簡単には死ねませんわ。ねえ、あたしをこの絶望から助けてくださらない?」
「ならヴェンディ、お前にいい役をやろう。吾輩はこれから王国を滅ぼし、帝国統一へと動く。だが、今の吾輩は完全ではない。そこでだ。吾輩の傀儡にならないか? お前にも吾輩の計画を手伝って欲しいのだ」
「王国滅亡と帝国統一。素敵ですわね。ですが、今のあたくしがお役に立てるでしょうか?」
ヴィルヘルムはククク……、と肩を震わせて笑い、ヴェンデルガルトに向き直る。
「吾輩の力を与えよう。なに、痛くはない。ただちょっと気分が悪くなるだけだ」
そう言うと、ヴィルヘルムは自身の胸の前まで片手を掲げると、紫色をした光の玉が現れ、徐々に大きくなっていく。そして、それをヴェンデルガルトに向かって光の玉を差し出すと、玉は彼女の体内に吸収される。すると、彼女は気を失いその場に倒れ込んでしまった。
「おいヴェンディ、生きているか?」
微かに覚醒しつつある意識の中で、ヴィルヘルムがヴェンデルガルトに呼びかける声が聞こえる。暫く意識はポヤポヤとしていたが、それは徐々にはっきりとし、完全に覚醒したヴェンデルガルトは不敵に笑い出す。
「これがヴィルヘルム様の力。素晴らしいですわ。今のあたしなら何でも出来そう」
立ち上がった彼女には健康的な肌色はなく、灰色がかった顔色をしていた。もう彼女は人間とは呼べない見た目をしている。
「いいかヴェンディ? 今から王国へと赴き、まずは国王クロードを殺すのだ。安心しろ。一人で戦えとは言わない。暫くしたらそちらに増援を送る」
「ヴィルヘルム様のお力を与えられた今、一人でも攻められると思うのですけれど、味方は多い方がいいですものね。分かりましたわ。あたくしは先に王国へと向かい、援軍をお待ちしております」
ヴィルヘルムに牢の扉を破壊してもらったヴェンデルガルトは、意気揚々とスキップをしながら地下を後にした。そんなヴェンデルガルトの後ろ姿を見て、ヴィルヘルムが呟く。
「悪いなヴェンディ、お前に謝らなければならないことがある。先程与えた力、吾輩のものではない。お前が憎んで仕方ないエルトリアのものなのだ」
❇︎
クリミナ城、玉座の間。クロード一行がそこに辿り着くと、ヴェンデルガルトが玉座に腰掛けていた。
「あら、戻ってきましたのね」
「言っただろう? 必ず帰ってくるって。俺の家、返してもらうよ」
「あんなにボロボロにされて、威勢はいいですわね。あたしの闇の力に勝てますかしら?」
ヴェンデルガルトは即座に闇の玉を放つ。それはクロード目掛けて投げつけられたが、これを聖なる盾で弾く。
「あら。そんな武器、持っていまして?」
「ジーナス様から授かったんだ。光を司る神様だよ」
「そうなんですの。ですが、いくら神の武器でもあたしに攻撃は届きませんわよ」
ヴェンデルガルトの周りを闇のバリアが覆う。
クロードは剣の切っ先をヴェンデルガルトに向けると、閃光が走り彼女を覆っていたバリアが剥がされた。
「どうして⁉︎ ヴィルヘルム様から授かったお力ですのよ?」
「本当にヴィルヘルムの力なのか? 実は誰か別人の魔力かもな」
クロードは剣を両手に構え、天に掲げる。すると、ブレードに光が纏う。それをヴェンデルガルト目掛けて振り下ろすと、光の波動がヴェンデルガルトを切り裂く。彼女からは大量の血が吹き出し、仰向けでその場に倒れる。
「そんな……。こんな簡単に……。グフっ!」
血を吐き出した。そんな彼女にクロードは駆け寄り抱き上げる。
「もう喋るな。死ぬよ」
「貴方が殺したがっていた相手ですのに、そんな人間の心配をしてくださるの? 優しい方ですね。ですが心配はいりませんよ。あたしは不老不死のルーグ族。簡単には死にません」
ヴェンデルガルトの息遣いがだんだん荒くなる。
「何故かしら、意識が遠くなってきました。まさか死ぬのかしら。貴方の腕、とても心地よいですわ」
「そう? ありがとう」
「あたしね、ルーグの女王ですの。ですけれど、あたしは民を死なせてしまった。そんな女王は長失格、ですのよね? それに、これはあたしが魔王に魂を売ってしまった末路。その時に不老不死の力は失われてしまったのね。新たな力を得るには何かを犠牲にすると言いますもの。死ぬなら、このまま貴方の腕の中で眠りたいですわ」
「長失格……。初めてお前に会った時そんなこと話したな。でも、俺は魔王に魂を売ったお前の中に何か気高いものを感じたよ。お前の一族に何があったのかは分からないが、きっと民は……」
まだ途中だったが、ユージーンは声をかける。
「話している途中申し訳ありませんが、ヴェンデルガルトはもう死んでいますよ」
「本当だ」
クロードは腕の中で眠っているヴェンデルガルトの手の甲にキスを落とす。
「おやすみ気高き女王様。さあ皆、英傑も全員揃ったことだし、アルバン神殿に戻ろうか」
「そうですね」
クロード達は、城を後にし神殿へと向かう。
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