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犬の忠誠心は素晴らしいものでございますよ

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…お電話ありがとうございます。けもけもネットワークでございます。

御客様、当店はピザ屋ではございません…大変申し訳ございませんが、お手持ちの電話帳でご確認を…あ、はい、そうですね、今はスマホでございますね、でしたら今一度、そちらのピザやさんの電話番号をご確認の上、再度電話なされることをお薦めいたします。

…はい、失礼いたします…

お電話いただき、誠にありがとうございます、けもけもネットワークでございます。

お客様、いかがなさいましたか?無理をなさらずともようございます。当方、お客様のお心を読むことには長けておりますので…言葉などなくとも、大抵のご要望は理解できます。ご安心ください。

…なるほど…死に別れた飼い犬と再会したい、でございますか…

これはまた少々難易度の高いご依頼でございますね。

ええと…ご説明いたしますと…

こちらの世界では、輪廻というものがございまして。

魂はぐるぐると、生と死を繰り返しながら、その輝きを磨き上げていくものなのでございます。

生まれ出る度に、何をなしていくかを自らに課していきながら、経験を磨き上げる…

生まれるたびに、その数値が上下するのです。

そして、また生まれていく世界や、種族などを定めながら廻っております。

お客様のお会いしたいわんちゃんですが、気の早い魂ですとすでに生まれ変わっている可能性がございまして…

新しく生まれている場合、お客様のご要望を応えるとなると、かなりの強制力が必要となります。

基本的に魂は、死したときにすべての記憶を失って次の場に向かうものですからね…

もしくは、新しく生まれなおした際には前世の記憶は失うものです。負荷がかかりすぎますからね。

記憶とは、楽しいものばかりではございませんから…下手をすると、今生に良くない影響を及ぼす場合も多々ございますので…

”そういうふう”に、こちらの世界では取り決められているのです。…誰がお決めになられているか?

…私どもからは、申し上げられません、とだけ。

時折記憶をお持ちになられた方も居られますが…こちらのチェックが甘かったか、その方が記憶を持つに値すると判断されたか、でございますね。

まずは、お会いになりたいわんちゃんのことをお調べいたしますね。

部門を越えての調査になりますので、少々お待ちいただけたら幸いでございます。

…お客様?くれぐれも、気の早い真似はなさらないよう、ご忠告申し上げます。

私どもは、お客様とお知り合いになることを大変名誉なことと存じております。

ですから、全力で事に当たりますので、お任せください。

なあに、長くはお待たせいたしません。

夜がゆっくりお休みになられませんようでしたら、こちらで安眠サービスをさせていただきます。

…悲しみは、悪いことではございません。ですが、過ぎたる悲しみは…お客様の大事なわんちゃんに、悪い影響を及ぼしかねないということを、どうかお心にとどめおいてくださいませ。

…以前、飼い犬の死を認められなかったヒトの魂が、悪霊になってしまいまして。

其れを鎮めんと、輪廻の輪に入りかけていた犬の魂が主を救わんとして、魂ごと消滅してしまったことがあったのです。

なくなったわんちゃんを思うならば、飼い主であるお客様も、どうかご自愛くださいませ。



・・・・・・


変な夢を見た。

電話で…どこかと電話してた。

知らない人と話していたはずなんだけど、すごく親身になってくれてたから、思わず泣き出していた。

俺と一緒に育った、ラブラドールのランディ。人懐こくて、でも、いたずら好きで。
 
面倒見のいいやつだった。人嫌いで、引きこもりがちな俺の、一番の友達。

いつもいっしょだった。死ぬなんて、信じられなかった。

この間まで、元気だったじゃないか。

病気だったなんて、聞いてないよ。なんで、隠してたんだよ。

俺とお前の仲じゃないか。一緒に育った、兄弟じゃないか…

一緒に写った写真を握り締め、いつの間にか寝ていたようで、そんなときにあいつの話をしてしまった。

電話先の人は、ゆっくり、ゆっくりと話してくれた。

夢なのに、何でだろう?話はわかりやすかったし、とにかく、しばらく待ってくれってことはよくわかった。

朝日を感じて、目を覚ましたとき、まぶたははれていたが、不思議と悲しみは、少しつらくない程度になっていた。

夢のはずなのに、とにかく、待たなければいけない、ちゃんとしないといけないってことはわかっていた。

高校に行く準備をする。ここ数日、悲しくって行けてなかったしな…親も心配するだろう。

今日は、登校中に見かける散歩中の犬たちを見ても、心が騒がなかった。

夢の効果なんだろうか。

ランディ、おれ、がんばってみる。お前にもう一度会うために。


・・・・・・・・


お客様、突然の無礼お許しくださいませ。

先日当方が承りました件が、解決のめどがつきましたので…

お客様のほうも、少し落ち着かれたようで。こちらとしても安心いたしました。

お客様がお探しで居られました『ランディ』君の魂なのですが…

実はもう別の肉体を得て転生しておられたようなのです。

それで、こちらのほうで接触を図らせていただきまして。

ご自身に前世の記憶のほうがなかったご様子ですので…魂の記録で、当時の彼の心境を構築いたしまして。

おそらく、でございますが、記録から観るに、ランディ君のほうも、来世はお客様と共に在りたいと…

そう思われておられたようですけれども、基本的に転生というものはランダム、あまり当人の希望は受け入れずに、みな平等に行われるのが常でございますので…

彼はすでに別の生を歩んでおります。

物理的にもかなり距離のある地域にお住まいのようでして…はい、海外ですね。

お客様は現在学生でいらっしゃる。

該当地域は…あまり、日本の方が居られない地域でございまして。治安もさほどよろしくないところです。

彼自身も、あのままですと然程長生きできるような状況にないですね…

お客様が向かわれるころにはおそらく彼はない。


…そうです、そこで、こちらのご提案になります。

こちらの案、かなりリスクが高く、代償となるものがかなりつらいものになります。

とりあえず内容だけをご説明いたします。

元・ランディ君とお客様。お二人の転生がほぼ同時になされるよう、輪廻に干渉いたします。

本来ですとかなり外法になりますので…通常ではお勧めいたしませんが…

お客様方の絆がこちらが思う以上にお強いようですので、ハイリスクを承知でご提案いたしております。

この事案自体は、実行可能です。

ですが、代償がございます。

お客様の現在の寿命をかなり削ります。その上、強制力を利用したということで、数世代にわたり、転生先の種族が固定されます。

おそらく、数世代先も、人間やほかの種族になることはかなわないでしょう。

…これは結構たいていの魂が嫌がるものなのでございますよ。

それでも、ご契約なさいますか?

…当方、悪魔の類ではございませんよ、悪魔も多少おりますがね。神々の眷属も多数所属しております。

…邪神もおおうございますが。いえいえこちらの話です。

わたくしどもは、契約を重視いたします。容易に結んだりはいたしません。その代わり、必ず、遵守いたします。

ことのはというものは、それほどの効力があるのでございますよ。

…お心は決まりましたか。

…はい。では、ご了承いただけたということですね。『転生先固定』、承りました。

…最後に、少しだけ、これはこちらの独り言でございますよ、お客様。ええ、わたくしのひとりごとでございます。

削られる寿命は基本的に天命の三分の二です。お客様の本来の天命は、84だったように、思います…

…残り少ない人生、後悔のないように、お生きなさいませ。よい、人生を。

本日はけもけもネットワークのご利用、まことにありがとうございました。



・・・・・・・・・・・

朝日に照らされ、夢の内容を思い返す。

一番に思ったのは、やってしまった、という感情だった。

電話先で最後にもたらされた情報をぼんやりと反芻する。

本当に…向こうの厚意だったんだろうな。残りの人生がどれくらいか、なんてわざわざ教えてくれるなんて。

あの夢は、きっと現実になる。

そう思えたのは、顔を洗おうと姿見を見た、その瞬間だった。

昨日までなかった、黒いあざ。首元に、それがあったからだ。薄くだが、浮かんでいる其れは、本来ただのほくろなどではありえない形状だった。うっすらだったけど、首周りに一本線だったから…

「生首みたいだな」

もしくは、犬の首輪かな。俺は今高校二年…あと十年もないのか。

悪魔の契約だったかな。

でも、どうでもよかった。もともと感情の薄い人間だった。親も、なんだかあっさりしていたし。それなりに心配はしているんだろうが、それより自分たちの仕事のほうが好きな人たちだった。

日中家に独りになるからって、ぽいっとつれてきたのがランディだったから。

これなら寂しくないだろうって。なんでももので解決する人たちだ。

そんなものにつられたのは数年だけ。それからは、空虚なものだった。

ランディだけが、家族ってものを教えてくれた。

そのランディは、もういない。だから、いいんだ。

早く会いに行きたいよ、ランディ。それまでは、ちゃんと人として生きるから。



・・・・・・

「…ラン…、ランディ、ほら、おきろよ!」

…むう、なあに?ごしゅじんさま。ぼく、まだ、ねむいのに。

いつもの寝床で丸くなっていると、ふいに、あったかくって、くすぐったい感触がする。

このにおいは。おにいちゃんだ。

「ソラ!お願いだよ、ランディ起こしてくれよ…母さんに怒られちゃうよ」

わふ、とおにいちゃんのとくいげなへんじが聞こえる。おにいちゃんは、ソラっていう。

つよくって、やさしくって、かしこい、ぼくのじまんのおにいちゃんだ。

ぼくら、ママがいないから…おさんのときに、しんじゃったんだって、ごしゅじんさまが言ってた。

だけど、ママはきんじょのにんきものだったみたいで、みんなやさしくしてくれたんだ。

だからみんなだいすきだ。でも、いちばんはおにいちゃん!と、ごしゅじんさま。

ふつうはごしゅじんさまがいちばん!ってこがおおいんだけど、ぼくは、ちょっと、へんなの。

おにいちゃんがいちばんすき!

へんなのかなあっておにいちゃんにきいたら、

「ぼくもランディがいちばんすきだから、おあいこだね!」

って、ぺろぺろなめてくれたから、いいかなっておもってる。

でも、ちゃんと、ごしゅじんさまも、だいすきだよ。

ごしゅじんさま、ちょっとぼうっとしてるけど、ぼくらのことだいすきだっていつもいってくれるし、
おさんぽもまいにちしてくれる!

しつけっていってなにかおぼえなきゃいけないときはきびしいけど、ちゃんとできたらほめてくれるよ。

いまはだいがくせいなんだって。もうすぐしゃかいじんになるんだぞ、ってこのあいだはなしてくれた。

しゃかいじんってなにかな?えらいのかな?

ちゃんとおうちでまってるから、おもしろいおはなしあったらまたはなしてほしいな!



・・・・・・・・

ご主人様が就職して、僕らも少し賢くなった。

お兄ちゃんとはいつも一緒だ。そこは譲れない。

僕らを引き取りたいって人はちらほらいたみたいだけど、僕とおにいちゃんはいっしょがいいから、一緒じゃなきゃやだなあって思ってたら、ご主人様やお母さんがわかってくれてたみたいで、断ってくれた。

毎日大変だぞー、平社員はつらいぞーって、ぼくらをわしわしなでてくれていたご主人様。

そのうち、なんだかほっぺをまっかにして、

「ヤバイ、好きな人できたかも」

ってぶつぶついうようになった。病気?ってほっぺたぺろぺろしたら、ちがうよーってお兄ちゃんが言う。

「多分好きな女の子じゃないのかな」

って微かに笑うお兄ちゃんは、相変わらず、物知りだ。

そのうち、その女の人のことをご主人様は良くお話しするようになった。

その人は年上で、一人で暮らしてて、猫を飼っていて、ほんわかして優しい雰囲気の人なんだそうだ。

癒し系なんだよ、って顔真っ赤にして僕の顔をぐりぐりしてたけど、癒し系ってなにかな?

「僕にとってはランディがそうだねえ」

っておにいちゃんは僕をなめるんだけど。何だろう、いいものかな?

ご主人様は勇気を出してゲットしたぞ!って猫の写真を見せてくれたけど、そこは女の人の写真じゃないの?

お兄ちゃんに聞くと、

「少しずつ頑張るつもりなんだよ、ご主人様は。応援してあげようよ」

ってご主人様に尻尾を振っていた。

うまくいくのかなー、あかちゃんできるかなー?ってお兄ちゃんに言ったら、

「人はめんどくさいから、もうちょっとかかると思うよ」

って言ってた。人ってめんどくさいんだね。好きなら一緒にいれば良いのに。

…そう思ってたら、ご主人様、その女の人と結婚?するんだって!

ご主人様がうれしそうだったので、よかったねえ、よかったねえ、って尻尾を振ってたら、

僕らも連れて行きたいんだって!だから、おくさん?お兄ちゃんがそう呼べって言うんだけど、その奥さんと、猫さんとまずは顔合わせだってことで、奥さんがかごに猫を入れてうちに来た。

真っ黒ネコさんだ。片目つぶれてて、少しおっかないなって思って遠めに見てたら、向こうのほうからよってきた。

お兄ちゃんの横で固まってたら、ネコさんはまず、お兄さんに鼻をつけて挨拶した。

「『キー』だ。よろしく頼む。ご主人からおおよその話は聞いている。わからないことが多々あると思うがそこは容赦してくれ。多分そちらのほうが年上だろう」

…この黒猫さん、えらくおちついてる?と思ってたら、お兄ちゃんもあいさつしてた。

「『ソラ』です。横にいるのが弟の『ランディ』です。年長ではありますが、おそらく同郷ですね?弟は違うのですが、素直ないい子なのでよろしくお願いします」

…うわー、問題なくやっていけそうだ。お兄ちゃんもキーさんも大人で賢い。すごいな。

キーさんは、あいている綺麗な翠の目をこちらに向けて、笑ったように見えた。

「俺はあんたらの邪魔はしない。何か不便があったら言ってくれ。とにかく、ご主人たちの結んだ縁だ。仲良くしようぜ」

…ぼくは、いいお兄ちゃんにめぐまれているようだ。キー兄さんは、見た目はおっかないけど、面倒見のいい、優しい猫でした。

奥様の前では、でろでろに甘えてるんだけど…ご主人様には、ちょっと冷たい?

「自分のご主人取られたみたいでちょっと嫉妬してるんだよ、ちゃんと認めてるから多めに見てくれよ」

って、尻尾を床にたたきつけながら、そっぽ向いて話してた。

ぼくは、今も、幸せです。

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