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全ての生命へ
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ふわふわとまどろむ意識の中、大樹の核はたゆたう。
様々な、生き物の意識が見える。
永く、永く、生きてきた。親である樹の記憶も、子の義務として受け取りながら、大樹は深く、深く、大地に根ざし、ゆっくりと、ゆっくりと、大地と共に生きてきた。
記憶の、はるか彼方。この意識が、まだ矮小な器の中にあったころ。
器を棄て、若枝として大地に根ざした頃。
十分成長したとして、親から大地を通して記憶を受け取り始めた頃。
様々な記憶と共に、生きてきた。
ーーもう、わたしは、いきられない。
親からの意識が途切れ途切れに聞こえる。
――ありがとう。
彼らは、永いときを生きた。親と子と言う関係を越え、同種としての意識が強い。
――お前も、疲れたら、休むといい――
いたわりの言葉を最後に、親からの意識は途絶えた。これから、ゆっくりと、意識を手放し、大地へと還って行くのだろう。
悲しみはない。悠久の時を生きた彼らに、死の悲しみなど存在しない。あるのは、存在への感謝と、いたわりのみ。
――これで、わたしだけとなるのか。
自分と言う存在がどういう責務を帯び、どんな役割をこなしてきたか。それを深く知るものは、最早ほとんど居ない。
――もう増幅すべき魔素もないーー
精霊の訪れは、とうとう無かった。世界は、緩やかに、その魔力を失っていった。
世界樹たる二柱は、魔素の消滅が緩やかになるよう、ひたすら魔素自体を増幅した。存在数はどんどん減ってゆく中、少しずつ、少しずつ。
そうしている間に、この世界に生きる生き物が魔素の無い環境に慣れるよう。ゆっくりと、その進化を促した。
そうして、魔法は再び、その存在を消失した。
耳長族はいずこかへと去り。小人族は大地の奥へと消え。水霊族は存在を薄くしていき。火龍族はすべて絶えた。飛翼族は、人の姿を失い、鳥となった。
魔法は、御伽噺の中へと、再びその姿をくらました。
しかし、今でも…魔法は、存在する。
限りなく薄くなった魔素。なぜか、それを先祖がえりとして多く所持する個体が、時折誕生する。
そんな生命をいとおしく思いながら、大樹は今日も、大地に根を張る。
そんな大樹の元に、今年もまた、渡り鳥が近づいている。
北の高山地帯から、若鳥たちが、魂に刻まれた記憶を頼りに。
魔法の無い世の中。それでも、大地には命がしっかりと根付き、命をつなぎ続けている――
様々な、生き物の意識が見える。
永く、永く、生きてきた。親である樹の記憶も、子の義務として受け取りながら、大樹は深く、深く、大地に根ざし、ゆっくりと、ゆっくりと、大地と共に生きてきた。
記憶の、はるか彼方。この意識が、まだ矮小な器の中にあったころ。
器を棄て、若枝として大地に根ざした頃。
十分成長したとして、親から大地を通して記憶を受け取り始めた頃。
様々な記憶と共に、生きてきた。
ーーもう、わたしは、いきられない。
親からの意識が途切れ途切れに聞こえる。
――ありがとう。
彼らは、永いときを生きた。親と子と言う関係を越え、同種としての意識が強い。
――お前も、疲れたら、休むといい――
いたわりの言葉を最後に、親からの意識は途絶えた。これから、ゆっくりと、意識を手放し、大地へと還って行くのだろう。
悲しみはない。悠久の時を生きた彼らに、死の悲しみなど存在しない。あるのは、存在への感謝と、いたわりのみ。
――これで、わたしだけとなるのか。
自分と言う存在がどういう責務を帯び、どんな役割をこなしてきたか。それを深く知るものは、最早ほとんど居ない。
――もう増幅すべき魔素もないーー
精霊の訪れは、とうとう無かった。世界は、緩やかに、その魔力を失っていった。
世界樹たる二柱は、魔素の消滅が緩やかになるよう、ひたすら魔素自体を増幅した。存在数はどんどん減ってゆく中、少しずつ、少しずつ。
そうしている間に、この世界に生きる生き物が魔素の無い環境に慣れるよう。ゆっくりと、その進化を促した。
そうして、魔法は再び、その存在を消失した。
耳長族はいずこかへと去り。小人族は大地の奥へと消え。水霊族は存在を薄くしていき。火龍族はすべて絶えた。飛翼族は、人の姿を失い、鳥となった。
魔法は、御伽噺の中へと、再びその姿をくらました。
しかし、今でも…魔法は、存在する。
限りなく薄くなった魔素。なぜか、それを先祖がえりとして多く所持する個体が、時折誕生する。
そんな生命をいとおしく思いながら、大樹は今日も、大地に根を張る。
そんな大樹の元に、今年もまた、渡り鳥が近づいている。
北の高山地帯から、若鳥たちが、魂に刻まれた記憶を頼りに。
魔法の無い世の中。それでも、大地には命がしっかりと根付き、命をつなぎ続けている――
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