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御伽噺の中へ
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昔々、あるところに。
とある大陸に、大きな木が二本、たっていました。
ひとつは、その大陸の中央部の大森林の奥に。もうひとつは、大陸の端の、砂漠の真ん中に。
その二つの木は、親子だといわれています。
どちらが親で、どちらが子供なのかは、もはや誰にもわかりません。
ですが、その二つの木の間には、大きな絆があるといわれています。
それは、その二つの木の間を、渡っていく渡り鳥が居るのです。彼らは、北端の雪深い高山で、子育てをし、大陸中央部の大きな木で孵った雛を育て、成人の儀式として砂漠の大樹まで飛ぶのです。それらを完遂して初めて、彼らは一人前の鳥として認められ、番となることを許されるのだとか。
ほかにも、論拠はありまして。
あの樹の周りに生えている植物が、かなりの距離を隔てているにもかかわらず、かなり種類が重複していること。大陸の端の樹は、特に周辺は広大な砂漠地帯であり、生物が移動するには過酷な地帯であります。それなのに、生息する生き物は似通っている。神秘ですね。
昔、昔に砂漠の回りは大きな人間の文明が有ったとも、大陸最大級の火山周辺には巨大な生き物が生息していた形跡があるとも、現在は干上がってしまった元湖の周辺には何らかの文明が存在した遺跡が有るとも…この大陸には知的好奇心が擽られる非常に面白い逸話や史跡が多いので、学者達も毎日研究に余念がないのですよ。
…だって、遺跡から発掘される遺物が用途がわからなくって面白いんですよ!そんな妙なものが、ある時代の地層から突然現れて、徐々になくなっていくのです。なぜ、これらが急に現れ、その数を減らしていったのか。研究のし甲斐があると思いませんか?
わたしは、こういったわからないものを見ると興奮が抑えきれませんでしてね…逃げた元嫁よりもっともっと魅力的で!遺物にまみれて死ねたらいいなあと常に思っているのですよ!
…あ、君、引いたでしょ。わかってくれないんだよなあ。何で皆この歴史のロマンに理解を示さないんだか。
まあいいです、歴史と言うものはーー
------------------------------------------------------------
「ダルトン教授は今日も変態だったね」
「あんなんだから奥様に逃げられたというのに。懲りてないよね…」
「むしろ奥様のほうが酷いと思っているでしょうね」
「…否定は出来ないわね…」
歴史マニアと評されるダルトン教授の授業から解放された学生達は、ひそひそと囁きあいながら講堂を後にする。
リネージュ女学院。大陸の中で一番の女学院だ。大陸中の女性達の憧れ。ここを巣立った女性達は、大陸中の学府や、国政、研究に携わるチケットを手に出来るとあって、その人気はとどまることを知らない。
女性が学問を志す、それ自体にまだ忌避感を持つ環境である中、『女性にも学びの場を』と掲げた初代校長の理念に基づき、学生達は毎日研鑽を積んでいる。
「リネアー!」
制服に身を包んで先程の教授の噂話に花を咲かせていた三人の娘達に、駆け寄ってくる少女が居た。
「どうしたの、ポリーナ?」
息をきらしてやってきた少女に、黒髪の少女が問いかける。
「…う、うん。あの、さ…あさっての天気、わかる?」
「…ん~…曇り?かな?」
「本当?私、信じて良い?」
「…多分?」
首をかしげながら答えたリネアに、ポリーナと呼ばれた少女は破顔した。
「よかったー!明後日、中央庭園に皆でスケッチ行く予定だったの!薄曇ならきっと大丈夫よね!ありがと!」
じゃあねー!といって嵐のように去っていった少女の背中を、三人の娘達は顔を見合わせて苦笑した。
「ポリーナは相変わらず、絵を描くのが好きねえ」
「まぁ実際、絵を描いて身を立てようって言うんだからその情熱は凄いわ」
「リネアの天気予報は当たるからねぇ」
百発百中!そういって指を立てる友人に、リネアは笑った。
「でも、なんで天気なんてわかるの、リネア?」
そう問いかけられたリネアは、一瞬瞳を見開いて思案すると、しばし唸りながら思案して、ポツリとこぼした。
「…勘、だなあ」
「勘かあ」
そう、といってリネアは頷く。
「なんだろう…こう、背中がぞわってするのよ。それでわかるの」
「なにそれこわい」
両腕で自身を抱きこんで白目で今にも退いていきそうな友人の姿に、リネアは笑って手を振った。
「冗談よ、冗談!」
なーんだ、とあからさまにほっとする友人を見て、リネアは内心穏やかではない。
(肩甲骨の辺りに、翼が生えているような感じがして、そこが震えてわかるなんて誰にもいえないわよね。…へんな人扱いされちゃうでしょうし)
「そういえば、ポリーナのスケッチ大会は、明後日なのね」
わざとらしくならないように声をあげて、リネアは話題を変える事にした。友人の一人が微笑む。
「私、あの子の絵好きだから、完成品が楽しみだわ」
とくに、植物の写生は凄いわよね。今にも、絵の中から香りが漂ってきそうで!
そういって友人はポケットから小さなロケットペンダントを出した。ぱかりとふたを開けると、そこには朝露に濡れた薔薇が一輪、描かれている。
「あの子が描く花の絵は特に好きで…これ、描いてもらったの。気持ちがふさぎこんだときにこれを眺めていると、元気が湧いてくる気がするの」
「そうね、ポリーナの絵は不思議ねえ。魔法みたい!」
魔法!御伽噺で描かれる不思議な超常現象。 思春期の乙女達は、きゃらきゃらと笑いながら渡り廊下を渡っていった。
とある大陸に、大きな木が二本、たっていました。
ひとつは、その大陸の中央部の大森林の奥に。もうひとつは、大陸の端の、砂漠の真ん中に。
その二つの木は、親子だといわれています。
どちらが親で、どちらが子供なのかは、もはや誰にもわかりません。
ですが、その二つの木の間には、大きな絆があるといわれています。
それは、その二つの木の間を、渡っていく渡り鳥が居るのです。彼らは、北端の雪深い高山で、子育てをし、大陸中央部の大きな木で孵った雛を育て、成人の儀式として砂漠の大樹まで飛ぶのです。それらを完遂して初めて、彼らは一人前の鳥として認められ、番となることを許されるのだとか。
ほかにも、論拠はありまして。
あの樹の周りに生えている植物が、かなりの距離を隔てているにもかかわらず、かなり種類が重複していること。大陸の端の樹は、特に周辺は広大な砂漠地帯であり、生物が移動するには過酷な地帯であります。それなのに、生息する生き物は似通っている。神秘ですね。
昔、昔に砂漠の回りは大きな人間の文明が有ったとも、大陸最大級の火山周辺には巨大な生き物が生息していた形跡があるとも、現在は干上がってしまった元湖の周辺には何らかの文明が存在した遺跡が有るとも…この大陸には知的好奇心が擽られる非常に面白い逸話や史跡が多いので、学者達も毎日研究に余念がないのですよ。
…だって、遺跡から発掘される遺物が用途がわからなくって面白いんですよ!そんな妙なものが、ある時代の地層から突然現れて、徐々になくなっていくのです。なぜ、これらが急に現れ、その数を減らしていったのか。研究のし甲斐があると思いませんか?
わたしは、こういったわからないものを見ると興奮が抑えきれませんでしてね…逃げた元嫁よりもっともっと魅力的で!遺物にまみれて死ねたらいいなあと常に思っているのですよ!
…あ、君、引いたでしょ。わかってくれないんだよなあ。何で皆この歴史のロマンに理解を示さないんだか。
まあいいです、歴史と言うものはーー
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「ダルトン教授は今日も変態だったね」
「あんなんだから奥様に逃げられたというのに。懲りてないよね…」
「むしろ奥様のほうが酷いと思っているでしょうね」
「…否定は出来ないわね…」
歴史マニアと評されるダルトン教授の授業から解放された学生達は、ひそひそと囁きあいながら講堂を後にする。
リネージュ女学院。大陸の中で一番の女学院だ。大陸中の女性達の憧れ。ここを巣立った女性達は、大陸中の学府や、国政、研究に携わるチケットを手に出来るとあって、その人気はとどまることを知らない。
女性が学問を志す、それ自体にまだ忌避感を持つ環境である中、『女性にも学びの場を』と掲げた初代校長の理念に基づき、学生達は毎日研鑽を積んでいる。
「リネアー!」
制服に身を包んで先程の教授の噂話に花を咲かせていた三人の娘達に、駆け寄ってくる少女が居た。
「どうしたの、ポリーナ?」
息をきらしてやってきた少女に、黒髪の少女が問いかける。
「…う、うん。あの、さ…あさっての天気、わかる?」
「…ん~…曇り?かな?」
「本当?私、信じて良い?」
「…多分?」
首をかしげながら答えたリネアに、ポリーナと呼ばれた少女は破顔した。
「よかったー!明後日、中央庭園に皆でスケッチ行く予定だったの!薄曇ならきっと大丈夫よね!ありがと!」
じゃあねー!といって嵐のように去っていった少女の背中を、三人の娘達は顔を見合わせて苦笑した。
「ポリーナは相変わらず、絵を描くのが好きねえ」
「まぁ実際、絵を描いて身を立てようって言うんだからその情熱は凄いわ」
「リネアの天気予報は当たるからねぇ」
百発百中!そういって指を立てる友人に、リネアは笑った。
「でも、なんで天気なんてわかるの、リネア?」
そう問いかけられたリネアは、一瞬瞳を見開いて思案すると、しばし唸りながら思案して、ポツリとこぼした。
「…勘、だなあ」
「勘かあ」
そう、といってリネアは頷く。
「なんだろう…こう、背中がぞわってするのよ。それでわかるの」
「なにそれこわい」
両腕で自身を抱きこんで白目で今にも退いていきそうな友人の姿に、リネアは笑って手を振った。
「冗談よ、冗談!」
なーんだ、とあからさまにほっとする友人を見て、リネアは内心穏やかではない。
(肩甲骨の辺りに、翼が生えているような感じがして、そこが震えてわかるなんて誰にもいえないわよね。…へんな人扱いされちゃうでしょうし)
「そういえば、ポリーナのスケッチ大会は、明後日なのね」
わざとらしくならないように声をあげて、リネアは話題を変える事にした。友人の一人が微笑む。
「私、あの子の絵好きだから、完成品が楽しみだわ」
とくに、植物の写生は凄いわよね。今にも、絵の中から香りが漂ってきそうで!
そういって友人はポケットから小さなロケットペンダントを出した。ぱかりとふたを開けると、そこには朝露に濡れた薔薇が一輪、描かれている。
「あの子が描く花の絵は特に好きで…これ、描いてもらったの。気持ちがふさぎこんだときにこれを眺めていると、元気が湧いてくる気がするの」
「そうね、ポリーナの絵は不思議ねえ。魔法みたい!」
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