何だこのクソゲーは!?

ねこセンサー

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こんばんは。

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…私の寝起きは素晴らしく良い。判をついたように、同じ時間に起きる。…そのはずなのに、今朝の情景は私が見たことのない風景だった。

質素ながら暖かな木目のベッド、女の子らしい可愛らしいデザインのテーブルや椅子…優しい色彩に満ちていたはずの、私の自室は。

日の光の差さない、闇に覆われた漆黒の色調になっていた。天蓋のついた漆黒のベッド、全てが宵闇にまぎれてしまう色彩。どこか冷たく、恐ろしく感じる。…でも、どうしてだろう、私にはこの暗闇が恐ろしく好ましく思えた。

するりとベッドから降り、立ち上がって周囲を見回す。申し訳程度に壁にかけられている蝋燭は、不思議なことに蒼くささやかな炎をともらせている。壁際の大きなガラス張りの窓から覗くのは、漆黒の闇。空に瞬く星。日の光の差さない、穏やかな闇夜が周囲に広がっていた。

そして、ガラス張りの窓に映る人物の顔は。

「…人間、ではないのね…」

そっと頬に指を滑らせる。ガラスに映った人物は、同じように頬に指を滑らせる。彼女の指は病的なまでに白く、細い。爪の色は暖かな桜色ではなく、くすんだような闇の色。顔色も、生気のない雪のような白さ。その中にあって、双眸だけが血の様に真っ赤に染まっていた。髪色は爪と同じ闇色で、真っ直ぐに伸びて腰まで伸びている。

「…ふふ、よくあるイメージどおりなのね」

私はガラス窓に映る人間に対し笑い掛けた。

…ああ、わたしはもうこの世界にはいらないのかもしれない。



思索の海に沈みかかっていると、部下が自分を呼ぶ声が脳裏に響く。

『魔王様、虫けらどもがこちらにやってきております』

「…良い。我が自ら叩き潰してくれる」

『了解いたしました』

…ならば、しっかりと役割を果たすまで。

この世界が私を要らぬというならば。しっかりと、最後まで演じて見せましょう。

この世界に生れ落ちて幾星霜。見守り続けた者として、最期までこの命をつかいましょう。

念じて戦闘用の鎧を纏い、私は最後の舞台へと向かう。

世界平和のために、斃される魔王として。最後の舞台は、これ以上になく豪華なものだから。



勇者の剣を右手の剣で真正面から受け止め、左手で火炎魔法を放ち勇者の背後から詠唱に入る魔法使いを妨害する。

その隙に槍で打ち込んでくる騎士には、直前でくるりと素早くかわして脚を浮かして壁に向かって蹴り飛ばす。

結界を張ろうとする僧侶には、一瞬威圧を飛ばして牽制。

「ふ、この程度で我に勝とうと思うとは…片腹痛いわ!」

ああ、楽しい。私は最高の舞台で演じている。

口では強がってはいるけれど、彼らと私の実力は拮抗している。それに、魔王たる私はたった一人で、この四人に勝たねばならないのだ。チームワークもしっかりとできている彼らと、たった一人で私は渡り合わねばならない。

…長期戦に持ち込まれたら、勝てるわけがない。

ああ、いい。今、私の命は最高に輝いている…!!

勇者が、魔法使いが、騎士が、僧侶が、私を強く睨んでいる。

”私”を――見てくれている。その事実に、高揚する。

「さあ、愉しませてくれよ…!!」

愉悦のあまりに口の端が上がるのを止められない。さあ、殺せ。――世界のために。
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