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目的の店につき、葵は早速カートを取り出し、当たり前のように背後にいた裕貴に押し付けて彼を売り場へと追い立てる。
「今日はせっかくの荷物もちがいるし、重いものから行くわよ」
葵はにっこり微笑んで、先行していくのをカートを押す裕貴に合わせて加奈子は後ろからついて歩く。
「葵姉さん、アンタに猫かぶるのやめたのね。…何かあったの?」
「ん~、そうだなあ…無害と思って放置してた近所の坊主が大事な妹に手を出そうとしてきたから本性出してきたって感じだけどな」
まさかお前以上に曲者とは思わなかったぞ、と裕貴はげんなりしながら葵を見失わないようにカートを押す。そんな裕貴を横目で眺め、小さな子供たちにぶつからないように気をつけながら、加奈子は少々理解できないと口を尖らせた。
「そんなもんかしら?まぁ私恋愛なんてする積もりも無かったしあんたは圏外だったけど」
「…地味に男のプライド打ち砕く台詞選ぶのやめてくれよ…」
加奈子は子供と手をつないで笑いながら店内を歩く親子連れを遠目に眺めて、少しだけ目を細めた。
「…やっぱり、葵姉さんが結婚して、子供が生まれたからかなあ。朱里ちゃんの買い物とか付き合うとね、幸せそうな人を見るのよね。…実際本当はどうなんだって思うこともあるけどさ、子供たちは正直だからさ…」
彼女の目線の向こうには、はしゃぎ過ぎたのか親に捕まっておでこ同士をくっつけられて視線を外せず、親に間近で怒られて涙目の男の子がいた。何度か母親におでこを合わせられ、とうとうしゃくりあげたころ、後ろから彼の妹と思しき女の子を抱いた父親が現れ、母親に経緯を聞いて、父親は代わりに男の子に何かを言い聞かせている。そのうち、男の子は涙をとめて、父親の代わりに娘を抱いていた母親にぺこりと頭を下げた。母親は一度だけ大きな息を吐いて、彼の頭を一度ゆっくりとなでると、娘を父親に託し、男の子と手をつないで売り場を歩いていった。その間加奈子がずっと売り場の隅でそれを見ていたので、裕貴も彼女に合わせて邪魔にならない位置でその親子のやり取りを眺める。
「…幸せそうだね」
「…そうだな」
母親に許してもらって、先程まで泣いていた男の子は輝くばかりの笑顔で、母親に手を引かれて、一生懸命母親に話しかけている。彼の母は、穏やかな顔で彼の話を聞いているようだ。そんな彼らを、後ろから父親がゆっくりと娘を抱いて歩いていく。
「嫌が上でもこんな場面を見る機会があって。自分の見ている世界が狭かったなあって思ったんだよね…」
「…子供、嫌いだったのか?」
加奈子は基本インドア派だったから、あまり外には出なかった。それゆえ、こういう話をする機会も無かったわけだが。
「…いや、どうでもない、が一番かな。やっぱり泣かれるとうるさいなって思うし、でも笑ったりしているのを見るのは好き」
「それって普通じゃないかねぇ…だれだって、子供が泣き叫んでるのを見るのはキツいぞ」
「…葵姉さんも、そうなんだって言ってた」
「意外だな。好きですよ~って言いそうだと思ってたけど」
裕貴がそうもらすと、加奈子が首を横に振って答えた。
「『煩いガキは嫌い、おとなしくて礼儀正しい子は可愛い』って」
「…正直だな…」
やはり今までの葵は相当の猫をかぶっていたのだと、裕貴は戦慄した。
そんな裕貴を見て加奈子は笑う。
「姉さんはかなり私に感性が近いよ。…あ、姉さん呼んでるね…」
スマホがメール着信を告げ、加奈子は裕貴を彼女が待つ売り場へと先導し始めた。
「『重いもの沢山買いたいから早く来なさい荷物持ち』だってさ」
「やっぱりお前の姉さん怖いわ…」
お前たち姉妹はそっくりだな、と裕貴は茶化すように笑いかけると、加奈子は一瞬虚をつかれた顔をして、安堵の表情を浮かべた。
「姉さんは私の憧れだから、似ているって言われるのは嬉しいかなあ」
「血のつながりがあろうと無かろうと。ずっと一緒に暮らしていれば、色々似て来るもんだって」
そういって裕貴は歯を見せて笑いかけた。
「お前たち姉妹は、不器用だけど情が深い。俺はそう思うけどな」
本当に、そっくりだからなあ。そういいながら、裕貴は加奈子の背中を軽く押して、一度だけ加奈子の頭を優しく撫でた。
「今日はせっかくの荷物もちがいるし、重いものから行くわよ」
葵はにっこり微笑んで、先行していくのをカートを押す裕貴に合わせて加奈子は後ろからついて歩く。
「葵姉さん、アンタに猫かぶるのやめたのね。…何かあったの?」
「ん~、そうだなあ…無害と思って放置してた近所の坊主が大事な妹に手を出そうとしてきたから本性出してきたって感じだけどな」
まさかお前以上に曲者とは思わなかったぞ、と裕貴はげんなりしながら葵を見失わないようにカートを押す。そんな裕貴を横目で眺め、小さな子供たちにぶつからないように気をつけながら、加奈子は少々理解できないと口を尖らせた。
「そんなもんかしら?まぁ私恋愛なんてする積もりも無かったしあんたは圏外だったけど」
「…地味に男のプライド打ち砕く台詞選ぶのやめてくれよ…」
加奈子は子供と手をつないで笑いながら店内を歩く親子連れを遠目に眺めて、少しだけ目を細めた。
「…やっぱり、葵姉さんが結婚して、子供が生まれたからかなあ。朱里ちゃんの買い物とか付き合うとね、幸せそうな人を見るのよね。…実際本当はどうなんだって思うこともあるけどさ、子供たちは正直だからさ…」
彼女の目線の向こうには、はしゃぎ過ぎたのか親に捕まっておでこ同士をくっつけられて視線を外せず、親に間近で怒られて涙目の男の子がいた。何度か母親におでこを合わせられ、とうとうしゃくりあげたころ、後ろから彼の妹と思しき女の子を抱いた父親が現れ、母親に経緯を聞いて、父親は代わりに男の子に何かを言い聞かせている。そのうち、男の子は涙をとめて、父親の代わりに娘を抱いていた母親にぺこりと頭を下げた。母親は一度だけ大きな息を吐いて、彼の頭を一度ゆっくりとなでると、娘を父親に託し、男の子と手をつないで売り場を歩いていった。その間加奈子がずっと売り場の隅でそれを見ていたので、裕貴も彼女に合わせて邪魔にならない位置でその親子のやり取りを眺める。
「…幸せそうだね」
「…そうだな」
母親に許してもらって、先程まで泣いていた男の子は輝くばかりの笑顔で、母親に手を引かれて、一生懸命母親に話しかけている。彼の母は、穏やかな顔で彼の話を聞いているようだ。そんな彼らを、後ろから父親がゆっくりと娘を抱いて歩いていく。
「嫌が上でもこんな場面を見る機会があって。自分の見ている世界が狭かったなあって思ったんだよね…」
「…子供、嫌いだったのか?」
加奈子は基本インドア派だったから、あまり外には出なかった。それゆえ、こういう話をする機会も無かったわけだが。
「…いや、どうでもない、が一番かな。やっぱり泣かれるとうるさいなって思うし、でも笑ったりしているのを見るのは好き」
「それって普通じゃないかねぇ…だれだって、子供が泣き叫んでるのを見るのはキツいぞ」
「…葵姉さんも、そうなんだって言ってた」
「意外だな。好きですよ~って言いそうだと思ってたけど」
裕貴がそうもらすと、加奈子が首を横に振って答えた。
「『煩いガキは嫌い、おとなしくて礼儀正しい子は可愛い』って」
「…正直だな…」
やはり今までの葵は相当の猫をかぶっていたのだと、裕貴は戦慄した。
そんな裕貴を見て加奈子は笑う。
「姉さんはかなり私に感性が近いよ。…あ、姉さん呼んでるね…」
スマホがメール着信を告げ、加奈子は裕貴を彼女が待つ売り場へと先導し始めた。
「『重いもの沢山買いたいから早く来なさい荷物持ち』だってさ」
「やっぱりお前の姉さん怖いわ…」
お前たち姉妹はそっくりだな、と裕貴は茶化すように笑いかけると、加奈子は一瞬虚をつかれた顔をして、安堵の表情を浮かべた。
「姉さんは私の憧れだから、似ているって言われるのは嬉しいかなあ」
「血のつながりがあろうと無かろうと。ずっと一緒に暮らしていれば、色々似て来るもんだって」
そういって裕貴は歯を見せて笑いかけた。
「お前たち姉妹は、不器用だけど情が深い。俺はそう思うけどな」
本当に、そっくりだからなあ。そういいながら、裕貴は加奈子の背中を軽く押して、一度だけ加奈子の頭を優しく撫でた。
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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