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しおりを挟む「うぅ~~~…」
カナは、裕貴に頭を撫でられたことが不満なようで、口を軽くとがらせながら、頭上の裕貴の手をピシッと払いのけた。
「ひろちゃんひどい。わたし、そんなに子供じゃないのに」
ぶっすーと顰め面をして、上目遣いに眺めてくる顔を見て、裕貴は思わず噴出した。
「そういうとこだよ。俺らくらいの年になると、そういう顔はやらないんだ。だから思わずなあ…」
カナに先程激しく抗議されたにもかかわらず、裕貴は懲りずにカナの頭を撫で始めた。気分はすでに保護者である。
「俺、一番下だったから、こういうことやりたかったんだよなあ…思い出させてくれてありがとう、カナ」
慈愛の表情で自分を見下ろす裕貴を見て、カナは再び裕貴の手を払いのけ、いよいよ顔を赤くして怒り始めた。
「もー!!わたしはひろちゃんのいもうとじゃないの!!」
「でもお前、加奈子の妹なんだろう?」
「ぐううっ」
わかりやすく言葉に詰まるカナをみて、裕貴は懲りずにカナの頭を優しくなでる。
「俺、加奈子と同い年だしな。だから俺のことはおにいちゃんと呼んでくれて良いんだぞ?」
「ぜええ~~~ったい!よばない!!」
カナは頬をぷーっと膨らませて、裕貴から視線をそらした。
「ははは、俺、いつも加奈子に言い負かされてばっかりだったから。同じ顔したお前に言い返せるのがかなり嬉しいみたいだ」
笑いをこらえながら自分の頭を優しくなでる裕貴を半目で見やり、カナはご立腹だ。
「加奈子ちゃんに絶対!言いつけるんだから!絶対今度ひろちゃんを言い負かしてねって言ってやる!」
「おーおー、楽しみにしてるよ。ちゃんと加奈子に自分で伝えるんだぞ?」
「言われなくても!…え?」
カナがそれを言いきって、ぽかんとした顔をして自分を見上げるのを見て、裕貴はとうとう声を上げて笑い始めた。
「どうやって伝えるかは知らんが、頑張ってくれ、カナ」
幼馴染に嵌められたのに気づき、カナはいよいよ爆発しそうな勢いである。
「ひどいひろちゃん!私が加奈子ちゃんにおはなしできないの知ってていったわね!?性格悪い!意地悪!」
「いやー、俺をからかう加奈子の気持ちが少しわかったわ。これ面白いんだな」
「ひろちゃんサイテー!」
ぷんぷん怒るカナをどうどうと宥めながら、裕貴は久々にすっきりとした笑いを浮かべた。
「なあ、カナ」
「なあにっ!」
わかり易く怒りの表情で、それでいてちゃんとこちらを見てくれる優しい幼馴染を眺めつつ、裕貴はぽつりとこぼした。
「そんな感じで良いんだよ。加奈子にも、そんな感じで接してやってくれ。お前たちは、お互いに遠慮しすぎなんだ。もう少し、相手に怒ったりしてもいいと思うぞ」
ぐぅっと言葉に詰まったカナに、裕貴はなおも語りかける。
「もっと加奈子と仲良くなりたいんだろう?…俺は、友達ってのは、もう少しぶっちゃけて話していいと思うがな。お前たちの関係は遠慮しすぎて、お互いが何を考えてるかわからないんじゃないか?俺だって、兄貴とは喧嘩するし、殴り合いもけっこうやったぞ」
さっぱり、勝てなかったけどな!
裕貴はすがすがしい笑顔を浮かべた。
「いっつも負けてばっかりだったけど。それでも、喧嘩して少しずつ歩み寄れたと思うしな。わりと年の差あったし…」
たまには、ぶつからないとわかるもんもわからないと思うぞ。
裕貴はふくれっつらのまま、俯いてしまったカナの頭を撫でた。
「直接話せないのなら、俺が間に入って、お前たちの意思を伝えるよ。…なんだその顔は?わざわざ嘘なんか伝えないぞ。嘘を伝えて、後で加奈子にひどい目に合わされたくないからな」
お前たちのねえちゃんは…怖いからなあ。
裕貴は遠い目になった。
カナは、手を払いのける気力も無いのか、裕貴に頭をおとなしく撫でられながら、ぽつりとつぶやいた。
「…だいじょうぶ、かなあ」
「大丈夫だよ。加奈子は、お前たちのことをとても大事に思っているから」
「加奈子ちゃん、怒らないかな?傷つかないかな?」
裕貴を見上げるカナの瞳の色は、不安に揺れている。それを和らげるべく、裕貴ははっきりと頷いて見せた。
「むしろ、今の状態のほうが心配すると思うぞ。ちょっとくらい、わがままになって良いんだよ」
妹なんだから。ゆっくり、優しく声を掛けながら、裕貴はカナの頭を優しくなでた。
カナは、俯いたまま、考え込んでいた。
裕貴の手を払いのけようとすることは、もうしなかった。
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