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再び二人に戻った客室内で、加奈子はデザートを眺めつつ、向かいの裕貴に声を掛けた。

「溶けちゃうし、食べようよ」

裕貴は、戸惑いつつも、首肯した。

「ん~、比べちゃいけないのくらいわかるけど、やっぱちゃんとしたお店のスイーツは美味しいねぇ」

加奈子はティラミスをほお張り幸せそうに顔を緩ませている。

歳相応な無邪気な様子に、裕貴は気づかぬうちに強張っていた肩の力を抜いた。

「そりゃそうだろ、そうじゃなきゃなあ」

「やっぱりチーズ系は美味しいな~、甘すぎず、濃厚なチーズの風味とココアのほのかな苦味がたまらないわ~」

「お前本当、チーズ系なんでも好きだよなぁ…」

加奈子はティラミスを制覇し、他のケーキにすでにフォークを進めている。彼女は先程からデザートプレートしか眼中にないようだ。

「ん、好きだね。『生まれたときから』好きだなぁ…カナとかぁちゃんは、こういうシャーベットのほうが好きみたいだけど」

せっかく和んでいたと思っていたのに、裕貴はぴたりとフォークの手を止めた。先程から加奈子からもたらされる暴露話は、裕貴には話を理解するのに精一杯だ。それを知っていて、加奈子は話をやめない。

「こうなったら、一通りは話そうと思ってね。…ついていけてる?」

「とりあえずは頭の中で整理中だ。正直ついていけていない…」

皿に視線を落としたまま、裕貴はうめいている。

そんな姿を見て、加奈子はさも愉快だといわんばかりに笑った。

「あはは!そりゃ、仕返しだからね。幼馴染と侮って肉体関係迫るなんて、ふつうは絶縁モノだよ?」

「~っ、そこはもう、本当に悪かったよ…」

勘弁してくれ。スイーツの味もわからなくなってるんだ。裕貴は、ちまちまと皿の上を菓子を口に詰め込みながら、うめいていた。

幼馴染が頭を抱えてうめく様子を、加奈子は意地の悪い微笑で見守る。

「そうそう、悩みたまえ。若者は悩むのが仕事だよ」

「…おまえなあ、お前だって若いだろうが…」

「千代ちゃんが、後悔のない様に生きなさいって、いつも言ってるからかなぁ。千代ちゃん可愛いし、カッコイイし、ホントイケメンなのよ。私が嫁にほしかったわ…」

「お前が言うとなんだか冗談に聞こえないからやめてくれ…」

せめてこれ食べ終わるまでは、少しくらいこれを堪能させてくれ。

裕貴の嘆願に、加奈子は大笑いしながら、了承した。高くつくよ、と紅茶を飲みながら。



「よい出会いを、ありがとうございました。また、お越しください。…次は、千代おばあちゃんも、是非に」

結局しっかりと食後のお茶まで頂いて、加奈子はおまけにメインがお魚のもあるといいとか、デザートは選択制にすると良いとか、しっかりがっつり注文をつけ、店主はそれをニコニコとメモしながら聞いていた。

「聞きしに勝る利発なお嬢さんですね。ぜひとも、またお越しください」

「ティラミスおいしかったです。できたら、サラダにカプレーゼがあるといいなぁ…チーズが好きなんですよ」

「彩りもよいですしね。あれは。了解いたしました。ぜひとも検討させていただきますよ」

結局店主は通常のランチプレート料金しか取らなかった。非常に儲けさせてもらった気分で、裕貴は複雑であった。

加奈子はさっさと会計を済ませると、裕貴に預けていた日傘をさっさと裕貴から奪い取り、ごちそうさまでしたー!と軽い調子で店を後にした。

「あっ、すみません、あいつあんなやつで。ちょ、加奈子!」

裕貴は慌てて自分の分の会計を済ませると、店主にぺこりと頭を下げて追いかけた。

ランチタイムで、店は繁盛している。こんな店に来ることは、もう数年はなさそうだなあと、裕貴はそのときはそう思っていた。

店主は微笑みながら二人を見送ると、颯爽と店内に戻っていった。

「若いというのは、いいものですねぇ…」

そう、つぶやきながら。





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