素直になれない番たち

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あいつが私に残した傷は、肉体的なものじゃない。
精神的なものだったのだ。

「あいつは、女は嫌いだったんだ。抱くのも嫌だったらしいよ？女は低級だ、男のために存在するだけの処理道具だそうだ」

「虫酸が走るな」

さっき真っ赤な顔で混乱してたとは思えない切り替え、こやつ、できるなぁ。

「あんたはききたくないかもしれないが…一応、処女、なんですよ？私は」

「は…？」

「あいつが私にやったのはどちらかというと精神的な呪詛でね」

あーチーズ美味しい。皿の中のおかずはこれで終わりだ。美味しかった。また買ってきてもらおうかな？

「男は醜悪な生き物だ、こんな目に遭いたくなかったら媚を売らずに一人寂しく死ね、と」

裕貴の顔が一瞬で般若のような顔になった。まぁ、男ってひとくくりにされたくはないよね。あいつと一緒のカテゴリーとか。私も嫌だわ。

「私がさせられたのはあいつのオナニーのお手伝いでね」

そう、肉体的には多少殴られたりはしたんだけど。本番はされなかった。ただ、性器をむき出しにして触らせられたりした。さすがに、幼かった私にはきつかった。

「ぶっかけられて、「これでお前は汚い女だな」って笑われたんだよね…」

「…殺してやる」

「大丈夫、もうしんでますよー」

なんの知識もない段階で、性行為の生々しさを見せつけられて、私は男性恐怖症になってしまったんだ。

「あいつが、ずっと監視してたのはわかってたから…どうせ三次元男子には興味なくしてたし、あいつが私が独り身でいるのを見て、満足してるなら、他に被害者も出なくていいかと思ってたんだけど」

「…そのことは、おじさん達は」

「話してはいないけど薄々は感づいてる感じだったね。向こうは全く動いてこないし、私はそれで満足している感じだったから、あえて様子見していたみたいだ」

事実、腐女子であることになんの後悔もなかったし、子供どころか結婚もいらねぇやと思ってたんだけど。

「あいつが死んで、呪詛を守り続ける必要がなくなったのと、姉さんとこに朱里ちゃんが産まれてきて」

「ああ」

そう、朱里ちゃん。姉さんと悟義兄さんのところに産まれ出でた天使。可愛い。姪って可愛い。神の子は当然ながら天使でした。

「私も、普通に、女の子みたいになってみたいと思ったんだ」

「…」

「人並みに…ノーマルカップルやってみたいなぁって。見るだけじゃなくて、体験してみたいって」

「でも、人間不信結構長いから、もしかしたら無理かもしれないし」

「そしたら、あんたがさいてーな申し出してきたから」

「先程は申し訳ありませんでした！」

はは。裕貴、私もひどいやつだから。あんたばかりが土下座しなくてもいいんだよ？

「あんたは、童貞卒業したい。私は、恋人お試し体験がしたい。ほら、お互いウィンウィンじゃない？」

「…それは」

「この場合、セフレなのか？でも、私、ふつーに食べ歩きとか買い物とかしたいんだよね。ネタにもなりそうだし！」

「…カナ」

「うまくいかなくても、お互い恨みっこなしで。お互い身勝手な願いなのはわかっているしね。ふふ、ついでにあんたの体つきとか見させてね！リアル男子の体は見たことがないからさ！」

「一応、処女ですけど…かなり、耳年増なんで…良かったら、付き合っていただけますか…？ふつつかものですが、よろしくお願いします」

とりあえず、挨拶しよう。

三つ指ついて、深々と頭を下げる。

「あなたの童貞と、私の処女。お互い、捧げましょう？」

ふふ。等価交換になるかは、わからないけど。少し、人を好きになりたい。そう思ったんだ。