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「はいはい、よく迷わずにこれましたね、いらっしゃい。スリッパないからそのままどうぞ」

「…おじゃまします」

スーパーのビニール袋を二つほど受け取りながら、私は裕貴を迎え入れた。なに買ってきたのかなぁ。

「…はい、これ」


「ありがとう。…お!私の好物が入ってるじゃん!なかなか気が利くね、ひろさんは」

いやぁ、好物ばかりで嬉しい。前菜にうってつけな生ハム、最近ブームな柔らかい水牛チーズ。好きなメーカーだしなかなかいけている。付け合わせにどうぞとばかりにトマトも入ってるし。

メインは唐揚げか!口休めに酢の物…このスーパー袋からするとこのスーパーの酢の物は甘すぎず好みなんだよなぁ。

パックご飯までついてるや~。あら、デザートまで!

「ありがと~、いやはや、好きなものばかりで嬉しい。」

裕貴は玄関先でスーパー袋をにまにまと検分する私の無礼にも動じず、立ったまま苦笑いしている。まあ慣れてるしね。私が気まぐれで無礼なやつだってことは、コイツにはばれている。

「うん、いい旦那様になれるよひろくんは!」

「ブハッ」

こうやって、いじめてみると、予想通りの反応返してくれるから好きよ、裕貴さんや。

「可愛い旦那様で嫁は嬉しいわ~、どうかそのままの君でいてね☆」

「☆℃♀℃¥#~~…」

ふふ、可愛いこと。

裕貴は、照れ隠しとばかりにうつ向いたまま、小声でまたお邪魔しますと呟きながらズカズカと部屋に入っていった。

わざわざちゃんと断り入れてくれるところも、真面目で好感度高いと思うよ。

好きになる女性が悉くアレなのがなけりゃあなぁ、すぐにでも幸せな家庭持てるだろうに…

天は二物を与えず、なのかしらねぇ…


裕貴のあとについて部屋に戻ると、やはり立ち木が一本ありました。

「やっぱり引く?」

かちこちにかたまっていた裕貴が、ギギギ、と油の切れたぜんまい人形のようにこちらを振り向いた。

「いや、お前の趣味は知ってた、から…」

「量が多いって?」

なんとも言えない表情のまま、首をたてに降るぜんまい人形が面白い。本当に反応が面白いわ、いちいち。

「これじつは、姉さんのも預かっててさ」

「葵姉ちゃんの!?」

「上手でしょ?隠蔽。でもこれ、悟義兄さんも知ってるんだよ。知らないのたぶんあんただけだったはず」

「嘘だろ!?まさか親父たちも…!?」


あんたホントに知らされてなかったんだね…

そんなに目を点にしなくてもさぁ…まあこいつわりと潔癖だしなぁ。

「拓海兄ちゃんも知ってるよ」

「はあぁっ!?」

両親はおそらく、私の精神安定のために必要と判断して、理解してくれたんだと思う。拓海兄さんは…どうも姉さんがばらしたっぽいんだよなぁ…その辺教えてくれないからわからないけど。悟義兄さんは姉さん命のストーカーみたいなもんだから、姉さんに関わるものはすべて把握しないと気がすまないらしいし。

まああの夫婦は…幸せみたいだから…私がいうことはなにもないわ…

遠い目になった私をみて、裕貴はなにかを察したようで、急におとなしくなった。

「世の中にはさ…知らない方がいいこともあるんだよ、タブチ君…」

「お、おう…」

君だけは、一般人でいてほしい。清らかな君でいてくれ…たぶん私ら全員の総意だよ…女の趣味最悪だけどね…


スーパーの袋をリビングの机におき、適当なクッションを裕貴に投げ渡してから、私は壁際の本棚に簡易のカーテンを取り付けた。まぁ急な来客用に、いつも用意してるからね。

「慣れてるな」

裕貴が私の手つきを見て頷いている。あんた私の小姑かよ。

「奇襲には常に備えてんのよ」


「キャラ保つのも大変だなぁ、お前の場合。本性とかけ離れすぎだろ…」

「かけ離れてる方が演じてるときやりがい感じるし、楽しいよ?違う人格って感じでさ」

「あぁ、ペルソナとかいうやつか?」

「そうそう、あんたちゃんと授業きいてんのね」

この間の選択の講義は楽しかった。心理学入門みたいなものだったけど。なんというか所謂厨二心をくすぐられるやつで。あいつも選択してたみたいだから聞いてるか不安だったけど、まあ杞憂だったみたいね。

「あーいうのゲームやアニメで使われるような設定っぽかったからな」

だよねぇ。オタク的に外せないわあんな美味しい設定。

「…お前の知識には恐れ入るがな…なんだよ、拷問とか紐の結び方とか、人体の不思議とか、怖いタイトルがそんなにあるんだよ …」

「知識は人を裏切らないからね。創作にいかせるからいくらあっても困るものじゃないわよ?」

そんなひきつったかおしなくてもいいのになぁ。残念

「じゃまずは食べましょうか。話すことあるし、腹ごしらえしましょう」

「あ、あぁ…」

「そんなエロい話じゃないよ?期待した?」

「ん、んなわけないだろ…っ」

いちいち可愛い。なにこのりんごちゃん。

「あまり楽しい話じゃないんだ。人に聞かれたくなかったしね」

裕貴の動きが止まった。察しがいいね。君は。たまに、こちらも辛くなるよ。

「私が昔受けた恥辱の関係でね。追加の情報があったのよ」

「…どういう、話だ」

裕貴の声が震えている。怒る必要なんてないのに。私の周りは、みんな、優しい。こんな自分には、もったいないくらいに。

「あいつ、死んだよ」

「…っ!!」

「正確には、無理心中。母親に、刺し殺されたんだってさ」

あんなに慕っていたお母様に殺されるなんてね。皮肉なことだね…
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