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5話 神頼み
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憎しみと怒りと蔑みと――様々な感情が入り混じった顔に思わず笑いそうになる。
よくここまで嫌えたものだ。セリーヌに何を吹き込まれたかはしらないが、たったそれだけで子供の頃からの思い出を覆し、一緒にいるという約束を反故にするとは、怒りを通り越して呆れてしまう。
「お前がそこまで低俗なことを言うとはな」
落とされるため息に、ため息をつきたいのはこちらだという言葉を飲みこむ。
無実であると、セリーヌが嘘をついているだけだと訴えても、彼は信じはしないだろう。もしも信じてくれるのなら、私は今ここにいない。
彼のことを知り、恋心すら抱いていたクラリスが見限ったのだから、期待するだけ無駄だ。
「あら、私の何をご存じだとおっしゃるのかしら」
「昔はもっとかわいげがあったものを……嫉妬がここまで人を醜くするとはな」
シリルはそう言うと、やれやれと肩をすくめた。
さて、この場合醜いのは誰なのか。死を選んだクラリスではないのは確かだ。では私かと聞かれると悩ましい。
美しい自覚はないが、だからといって嫉妬した覚えはない。私が醜いのだとしたら、それはきっと自前だろう。
「だって、これほどまでにお慕いしているシリル様がつれないんですもの。嫉妬のひとつやふたつ、してもしかたないのではないでしょうか」
「お前が羨んだのはセリーヌのほうが魔力適正が高かったからだろう。問題をすり替えるな」
魔力適正は、魔力がどのぐらいあるか、どんな属性に合っているかを数値化したものだ。
一般的に、光属性が扱える人は希少だと言われている。光属性が使えるか、あるいは使える属性が多いくて、なおかつ魔力量が多ければ多いほど、数値が高くなる。
さて、自らの魔力適正を自慢げにしていたセリーヌはどのぐらいなのか、探りを入れてみるとしよう。
「でも、数値なんてただの目安でしょう? 実際に扱えるかとはまた別の話ではありませんか」
「お前は目も当てられないほどだったのだろう。扱う以前の者が言ったところで負け犬の遠吠えにしか聞こえん」
「そもそも、シリル様はセリーヌの魔力適正がどんなものかご存じでいらっしゃるの? まさか、数値が高いという話だけを聞いておっしゃっているのではありませんよね」
「当たり前だろう。風属性の高魔力……お前が羨むには十分すぎる」
なるほど。風属性は希少とは言い難いが、魔力量が多いのなら、自慢してもおかしくはない。
羨ましいかと聞かれたら、まったく羨ましくないが。
「でも、風属性だなんて風を吹かせるしか能がないではありませんか」
「勉強すら怠っているとはな、嘆かわしい。最近では遠くのものを運んだり、浮かばせたりする術式も増えている。風を吹かせるだけが風属性ではない」
魔力適正については貴族ならば知っていて当然の知識として教えられたが、そこまでは聞いていなかった。
これは勉強不足というよりは、内容の偏りと記憶がないことが原因だろう。
そのどちらも私が選んだ結果ではない。教育スケジュールを組んだ父と、クラリスを追い詰めた環境のせいだ。
「それにしても、シリル様はずいぶんとセリーヌに肩入れしていらっしゃるのね」
「お前に嫌がらせを受けているのだから、肩入れして当然だろう」
「ですが、今のありようを見たら周りはどう思うかを考えたことがありますか? アヒレス候のことではありませんよ。私の父の親戚は……何も言わないかもしれませんが、母の実家はどうでしょう。大切な孫娘の婚約者がほかに現を抜かしているだなんて知ったら、黙ってはいない……とは思いませんの」
もしも実母の親戚が全滅していたら、私の言葉はおかしなものになる。
誰かひとりぐらい生きていることを祈ろう。
よくここまで嫌えたものだ。セリーヌに何を吹き込まれたかはしらないが、たったそれだけで子供の頃からの思い出を覆し、一緒にいるという約束を反故にするとは、怒りを通り越して呆れてしまう。
「お前がそこまで低俗なことを言うとはな」
落とされるため息に、ため息をつきたいのはこちらだという言葉を飲みこむ。
無実であると、セリーヌが嘘をついているだけだと訴えても、彼は信じはしないだろう。もしも信じてくれるのなら、私は今ここにいない。
彼のことを知り、恋心すら抱いていたクラリスが見限ったのだから、期待するだけ無駄だ。
「あら、私の何をご存じだとおっしゃるのかしら」
「昔はもっとかわいげがあったものを……嫉妬がここまで人を醜くするとはな」
シリルはそう言うと、やれやれと肩をすくめた。
さて、この場合醜いのは誰なのか。死を選んだクラリスではないのは確かだ。では私かと聞かれると悩ましい。
美しい自覚はないが、だからといって嫉妬した覚えはない。私が醜いのだとしたら、それはきっと自前だろう。
「だって、これほどまでにお慕いしているシリル様がつれないんですもの。嫉妬のひとつやふたつ、してもしかたないのではないでしょうか」
「お前が羨んだのはセリーヌのほうが魔力適正が高かったからだろう。問題をすり替えるな」
魔力適正は、魔力がどのぐらいあるか、どんな属性に合っているかを数値化したものだ。
一般的に、光属性が扱える人は希少だと言われている。光属性が使えるか、あるいは使える属性が多いくて、なおかつ魔力量が多ければ多いほど、数値が高くなる。
さて、自らの魔力適正を自慢げにしていたセリーヌはどのぐらいなのか、探りを入れてみるとしよう。
「でも、数値なんてただの目安でしょう? 実際に扱えるかとはまた別の話ではありませんか」
「お前は目も当てられないほどだったのだろう。扱う以前の者が言ったところで負け犬の遠吠えにしか聞こえん」
「そもそも、シリル様はセリーヌの魔力適正がどんなものかご存じでいらっしゃるの? まさか、数値が高いという話だけを聞いておっしゃっているのではありませんよね」
「当たり前だろう。風属性の高魔力……お前が羨むには十分すぎる」
なるほど。風属性は希少とは言い難いが、魔力量が多いのなら、自慢してもおかしくはない。
羨ましいかと聞かれたら、まったく羨ましくないが。
「でも、風属性だなんて風を吹かせるしか能がないではありませんか」
「勉強すら怠っているとはな、嘆かわしい。最近では遠くのものを運んだり、浮かばせたりする術式も増えている。風を吹かせるだけが風属性ではない」
魔力適正については貴族ならば知っていて当然の知識として教えられたが、そこまでは聞いていなかった。
これは勉強不足というよりは、内容の偏りと記憶がないことが原因だろう。
そのどちらも私が選んだ結果ではない。教育スケジュールを組んだ父と、クラリスを追い詰めた環境のせいだ。
「それにしても、シリル様はずいぶんとセリーヌに肩入れしていらっしゃるのね」
「お前に嫌がらせを受けているのだから、肩入れして当然だろう」
「ですが、今のありようを見たら周りはどう思うかを考えたことがありますか? アヒレス候のことではありませんよ。私の父の親戚は……何も言わないかもしれませんが、母の実家はどうでしょう。大切な孫娘の婚約者がほかに現を抜かしているだなんて知ったら、黙ってはいない……とは思いませんの」
もしも実母の親戚が全滅していたら、私の言葉はおかしなものになる。
誰かひとりぐらい生きていることを祈ろう。
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