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3話 クラリスという少女

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 こんやくしゃのしりるさまにあいました。
 とてもやさしそうで、どきどきします。

 お母さまが神さまのところに行ってしまいました。

 シリル様がしんぱいして会いにきてくれました。
 自分はずっといっしょにいると約束してくれました。

 お父さまがあたらしいお母さまを連れてきました。
 私に妹ができました。同じ年だけど、私のほうがすこし早く生まれたらしいです。

 セリーヌといっしょに遊ぼうと思ったら怒られました。
 体が弱いから元気には遊べないらしいです。

 シリル様と一緒にいるとどきどきして、どうすればいいかわからなくなります。
 もしかしたらこれが恋というものなのでしょうか。

 お継母様と一緒に来たメイドがセリーヌが異母妹だと教えてくれました。
 私は本当はいらないのだと、言っていました。曾祖父の約束以外なんの役にも立たないと言って笑っていました。

 セリーヌと一緒に魔力適性試験を受けました。
 さすがは自慢の娘だと、お父様がセリーヌを褒めていました。私の結果はどうでもいいようです。

 私の試験結果は悪かったそうで、お父様に怒られました。
 でも私の結果票は捨てたはずなのに、どうやって知ったのでしょう。捨てたのに気づいて拾ってくれたのなら嬉しいです。
 
 忙しいとかでシリル様との約束がキャンセルになりました。
 次お会いできる日が楽しみです。

 今日もシリル様とは会えませんでした。いつ頃落ち着くのでしょう。

 今日もシリル様は忙しいようです。

 シリル様を街中で見かけました。セリーヌと一緒にいて、とても楽しそうでした。

 定期日以外で会うのはやめようとシリル様に言われました。
 連絡も極力控えてほしいそうです。

 どうやら私はシリル様と結婚すると、曾祖父の遺産がもらえることになっているようです。
 だからシリル様はセリーヌと親しそうでも、私との婚約を継続しているのでしょうか。

 シリル様は本当は私と婚約していたくないのだと話してくれました。
 私のような性根の悪い娘はどうしても嫌らしいです。

 今日もシリル様は機嫌が悪そうでした。私と会えたのが嫌なのでしょう。
 いかに私の性格が悪いか語り、曾祖父の約束がなければとぼやいていました。
 約束とは、遺産のことでしょうか。遺産が手に入ったら、私はいらなくなるのかもしれません。


 ベッドの隙間に隠されていた日記。一日にほんの数行だけ書いているだけの簡潔なもの。
 その中から関係ありそうなものだけ拾っていく。

 幼い頃からはじまった日記は最初はつたなく、最近に近づけば近づくほどにじみ、ぼやけている。
 どうしてなのかは、考えるまでもない。

「曾祖父の遺産が彼らの手に渡るぐらいなら、いっそのこと……」

 そして最後の文字を読む。
 どうしても婚約を解消したくなった理由はきっと、この曾祖父の遺産とやらだろう。
 クラリスがシリルと結婚し、もしもクラリスが亡くなれば遺産はシリルのものになる。そしてシリルとセリーヌが結婚すれば――だからクラリスは自らの死を望んだのだろう。
 彼らに一矢報いるために。

「……だけど、失敗したのね」

 その結果は、私がよく知っている。
 記憶を失って、シリルとの婚約だけは継続できるように取り繕わされ、今に至る。

「一緒にいるって約束してくれたのに」

 日記の中にある文章をなぞりながら声に出す。にじんだ文字は、クラリスの無念の表れだろう。
 最初は仲よい婚約者だったことは簡単に読み取れる。そして、段々と冷たくされていくのも。

 いったいどれほどの悲しみがクラリスを襲ったのか。
 どれだけ理不尽を強いられたのか。
 悩み苦しみ嘆いたのか。

 胸の中に表現し難い感情が生まれる。
 この日記を読んで懐かしさを覚えたわけでもなければ、抱いた悲しみや苦しみを思い出したわけでもない。

 何も思い出せないけど、どうしようもないやるせなさと腹立たしさを感じる。

「クラリスはきっと、優しい子だったのね」

 誰かを傷つけることができないぐらい、優しかったのだろう。
 やり返すよりも死を選ぶぐらい、心が弱っていたのだろう。

「だけど私は、そこまで優しくないみたい」

 一矢どころか十矢ぐらい報いてやろうじゃないか。
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