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22話

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 ルシアンの後ろを歩きながら、ラファエルはクリスティーナと会ったらまずは何を言うかを考えていた。
 馬鹿なことを考えるなと言うべきか、もう二度と自分のそばから離れるなと言うべきか、いらないことで神経をすり減らせるなと言うべきか。

(それと、ルシアンと会うなと言うべきだな)

 ルシアンがクリスティーナに恋情を抱いているのであれば、公的な場以外で顔を合わせるべきではない。それにどうやったのかは知らないが、クリスティーナをラファエルのもとから連れ出したのはルシアンだ。
 もう二度と、同じことをさせるつもりはない。

「あちらにいますが……けっして近づかないように」

 ぴたりとルシアンの足が止まる。
 なおも高圧的なルシアンの言葉にラファエルは不快感を隠さずに眉をひそめて、示されたほうを見る。

 色とりどりの花が咲き誇る庭園に、穏やかに笑うクリスティーナと侍女がいる。彼女たちの声までは聞こえないが、おそらくはたわいない話でもしているのだろう。侍女もクリスティーナも柔らかな顔をしていた。

 だが、それを見たラファエルの眉間に、よりいっそうの皺が刻まれる。

「あれは、いったい……どういうことだ」

 まばゆい金色の髪に、優しげな緑色の瞳。白い肌もラファエルの記憶にあるものと数寸変わらない。
 だが、侍女はクリスティーナの隣ではなく、後ろを歩いていた。彼女の座る車輪つきの椅子を押しながら。

「彼女が飲んだ薬は体の動きを止めるものです。一時的なものとはいえ……正常な動きをやめた体は、たとえ機能を取り戻したとしても、元と同じにまで回復することはありませんでした。……ですが運が悪ければ命を落とす危険もあったことを思えば、まだいいほうでしょう」
「あ、あれで、まだいいほう、だと……なぜ、そんな危険なものを」
「ただの毒だと……命を止めるものだと思って、彼女は飲んだのですよ。危険なものであると承知で……それほど、彼女は傷つき、苦しんでいました」

 彼女が生きていたのであれば、飲んだのは毒ではなかったと安堵しかけていた心に、ルシアンの言葉が突き刺さる。
 だがすぐに、毒を飲んだのは彼女の気性が荒くなり、無理に痩せようとして精神的に衰弱していたからだと思い出し――だが、その報告したのは不正を働いていた侍女であることも思い出し、頭の中がまとまらない。

「彼女は生きることを望んでいませんでした。だから最初はひどく混乱していて……最近になって笑えるようになったのです。ようやく取り戻せた笑顔を、兄上はまた取り上げるのですか」
「だが、それでも僕は……僕が守れば、きっと」

 眠るように死んでいたときとは違う。何かの拍子にまた目を開けるのではないかと、なじんだ声で名前を呼んでくれるのではないかと思えるような顔とは違う。どこか夢を見ているような葬儀とも違う。
 話し、笑い、動いているからこそ、前と同じように歩いてはいないクリスティーナの姿から目が離せない。

 頬を撫でる風がこれが現実であることを伝えてくる。昔のように笑う彼女が、これまでとの対比を浮き上がらせる。

「もうやめましょう、兄上。彼女はもうあなたの求める完璧な王妃ではいられません。いやそもそも、最初から完璧な王妃なんて、どこにもいないんです。彼女はただ愛した人のために頑張ろうと努力して、心ない言葉に傷つくような、どこにでもいる女性なんです」

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