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6話

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 ばたばたと騒がしい音が廊下に響く。そして勢いよく開かれた扉に、ラファエルは眉をひそめた。
 城に勤めている者は教育が行き届いている。だというのに、朝から騒々しくするなんて、あってはならないことだ。
 侍従に身支度を整えられながらため息を落とし、注意しようと思い――

「へ、陛下……! クリスティーナ様が……!」

 ラファエルの妻――王妃であるクリスティーナの名を呼ぶのは、彼女の側仕えである侍女。その顔は血の気が失せたように青白い。
 慌てふためいた様子に、ラファエルの眉間に深い皺が刻まれた。

「クリスティーナが何かしたのか」

 慎ましい生活を心がけていたが、ここ最近は豪遊が目立つと――宝石をたびたび購入しているのだと、困り果てた顔で注文書を持ってきた文官がいたことを思い出す。
 ほかにも、気に食わないからとメイドに手を上げたという話を耳にしたこともあった。

 今度は侍女の手に負えないことでもしでかしたか。そんな思いで、ため息を吐き出す。

「い、いえ、そういうわけでは……」
「……どうかされたの?」

 王妃の部屋と続いている寝室からアラベラが出てくる。寝衣のままでいる彼女に、ラファエルは苦笑し肩をすくめた。

「まだそんな恰好で……人前には着替えてから出るものだよ」
「いいじゃない。疲れてるんだもの。それで……何かあったの?」

 アラベラの緑色の目が侍女に向く。侍女は体を震わせながら視線をさまよわせ、ゆっくりと口を開いた。

「クリスティーナ様が……ベッドで……」
「だから、なんだ。早くしてくれるかな」

 このあとはあちらこちらから送られてきた書類を処理し、議会に顔を出し、王都の視察も控えている。
 余計な時間を割く暇はないと、苛立ちを隠さずにラファエルが言うと、侍女は怯えたような目でラファエルと、彼に寄り添うアラベラを見上げた。

「お、お亡くなりに……なっています」

 一瞬、何を言われたのかわからず、ラファエルは瞬きを繰り返した。
 それから、厳しい目を侍女に向ける。

「……何を、言っているんだ」

 聞き間違いか、あるいは言い間違いか。
 ラファエルの藍色の瞳が揺れ、アラベラがそっと彼の腕に手を添えた。労わるような、心配そうな目を向けるアラベラに、ラファエルは小さく息を吐く。
 そして気を取り直したようにもう一度、侍女を見る。

「クリスティーナが亡くなったと聞こえたが……そんな予兆はなかったはずだよ。病ではないと、本人も言っていたし――」

 だから、何かの間違いだろう。そういうラファエルに、侍女は小さく首を横に振った。

「クリスティーナ様は……自ら、毒を飲まれました」
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