ナイフが朱に染まる

白河甚平@壺

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(第23話)僕は二人の女を不幸にした。責任は僕が全部取るよ。さよなら。ミネ子。マコト。

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「いやぁああああああ!」
マコトは自分の体を庇うように身をよじらす。
彼女の首に深くナイフが刺さる筈だった。
おかしい。何か温かいものが覆いかぶさっている。
そう思ったマコトは、刺さった感触も痛みも感じないので
うっすらと目を開けてみる。


「スケオ先輩……っ」
「うぅ……」
前のめりに倒れこむ僕をマコトがしっかり受け止めてくれた。
僕はあの時、咄嗟に駆けつけてマコトを覆い被さるようにして守ったんだ。
そして、背中にミネ子のナイフが突き刺さってしまった。


「マコト……よかった。怪我がなくて……」
鈍い痛みが走ってくるが背中が温かい。
血がどんどん抜けていき意識が遠のきそうだ。


「いやあああああ!スケオ先輩!死んじゃいやぁああああ!」
マコトは僕を必死に抱いて泣き叫んでくれる。
頬に熱い雨がポタポタ当たってきた。


「スケオくん……そんな……」
ミネ子の手は震えていた。
彼女の足はガクガクと鳴って膝が折れてしまう。


「僕の…せいだ…。
僕のせいで…二人を…不幸に…させてしまった……」

「ダメ!何もしゃべらないで!」
マコトが泣き腫らした顔で首を横に振った。
僕はこの上なく最高な気分になっていた。
これでいい。
僕は二人の女性を不幸にしてしまった。
全部愚かな僕のせいだ。


「すまなかったな……マ…コト……ミネ…子………
どうか………ゆる……し」
二人に微笑んでみせた。
声も視界も掠れていき、だんだん心地よい気持ちになっていった。


「そんなあ……いやよ……スケオくんが死ぬなんてぇえええええええ!
アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ミネ子は頭を両手で押さえて発狂をした。
そして、ベルトに挟んでたナイフを持って
狂ったようにマコトを襲おうとした。


その時、銃声があたりに轟いた。


「そこまでだ!武器を捨てて両手をあげろ!」


馬車の陰からゆらりと立ち上がる。
なんと、新川刑事は生きていた。
僕の視界はボヤけてはいるが、
彼の頭から血を流して息を荒くさせていることが分かった。
彼は血が入ってしまったせいか左目だけを閉じている。
両手で握りしめた銃の先から煙が出ていた。
苦悶に満ちたミネ子の腕から血が流れ落ちる。
無数のパトカーのサイレンが聞こえてきた。
マコトの助けてぇ!、助けてぇ!、と張り避けるような声までは聞こえたが
それから先は眠るように僕の意識が飛んでいってしまっていた―――。




(つづく)
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