ナイフが朱に染まる

白河甚平@壺

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(第20話)マコトが大ピンチ!殺されそうになってる。僕は苦し紛れに究極の言葉を言った。

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「………っ! ………っ!」

悲鳴が耳に入った。
声のする方へと僕はまっしぐらに走る。


「マコトー!今助けにいくからな!」


口を塞がれたマコトの顔がひょこっと見えた。
僕を見て彼女は安堵の笑みを浮かべる。
あともう少しで辿り着こうとした矢先に、
ナイフが僕の足元に突き刺さった。


「動くな。それ以上近づけばこの子を殺すよ」


馬車の中にサングラスの女が隠れていた。
女は下着姿のマコトを抱き上げて首にナイフを突き立てる。
キラリと光るナイフを見てマコトは顔を強張らせた。


「おい!何が望みなんだ。彼女を離せ」
一歩足を進み出た。

「オホホ。動くなと言ったハズよ?こうしてやる……っ」


ほくそ笑んだ女はマコトの首にナイフをめり込ませる。
そこから血がツツーと糸のように流れ落ちた。
縄に縛り上げられたマコトは必至に身をくねらせる。
僕は慌てて女の止めに入った。


「やめろ!マコトとオマエに何の関係があるんだよ!
なんでこんなことをするんだよ」

「ホホホ。何を言ってるの。関係の大アリよ。
この女はワタシの最愛の人を盗んだ泥棒猫よ。
今苦しむところをとくと見るがいい」


女は冷酷な表情を浮かべてマコトの白いレースのキャミソールに手をかける。
僕は息をのんだ。
女はナイフを彼女の胸の谷間に突っ込み、一気に切り裂いた。
胸を露わにされたマコトの苦しむ顔が見える。


「おい!何をする!やめろ!やめてくれ!」


僕の叫びを無視して女はマコトの髪をひっつかみ猫撫で声で問いかける。


「ネェ?そのピチピチの肌で彼を誘惑したのかい?
人様のものを獲るなんて悪い子だねぇ?」


女はマコトの胸の谷間にナイフの先を当てる。
イヤイヤとマコトは首を横に振って泣き喚いた。


「もうやめろよ!やめてくれよ!分かったよ。僕が悪かったよ。
ミネ子ちゃん!」


僕がそう叫ぶと女の手の動きが止まった。
マコトは必死に喘いで逃げようとするが、
ナイフを持った女の手がダラリと垂れると安堵をさせた。


「やっぱり……どうりで分からない事があったよ。
ミネ子ちゃん。キミは僕たちに嫉妬をしてこんな馬鹿げたことをしでかしたんだね」


僕はそろーり、と一歩ずつ進みだす。


「う、動くなといったハズよ!この子を殺すよ!」
狼狽えた女はナイフを振り上げてまたマコトの胸にめり込ませた。
マコトは必死の形相で抵抗をする。


「へへへ……マコっちゃん。うるせーんだよ。いい子で寝んねしてな」


ゆらりと馬の影から伊藤が現れた。
額から血を流して不気味な笑いを浮かべている。
俊敏でマコトのミゾオチを拳で殴り気絶をさせた。


「ヘヘヘ。あっけねーな。こんな女、もう襲う価値もねーよ。
ナァ?ジェシカ?はやいとこナイフで殺してずらかろうぜ」


伊藤が女に顎でいった。
なんだと?目を皿のようにして伊藤に聞いた。


「ジェシカだと?何を言っている?彼女は藤ミネ子というんだ」

伊藤は僕の方に振り向いた。

「ハ!?おい!マジかよ!藤社長の令嬢じゃねーかよ!?」

伊藤は頭を押さえて驚愕をした。
すると彼は体をひねったまま、凄まじい形相になり、彼はどーっ、と前に倒れこんだ。
彼の背中に鈍く光ったナイフが突き立てられていた。


「スケオくんも憎いけど、もっとあんたの事が憎かった…」

淡々とした女はサングラスとカツラをとってみせた。
黒々とした長い髪が風にゆられる。
前髪から長い睫毛に縁どられた銀河の瞳をのぞかせる。


「そう。私はフジテクノコーポレーションの社長の娘よ」




(つづく)
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