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(第17話)私はジェシカ。ナイフ投げが下手くそな伊藤に教えているけど、彼の色気に負けちゃいそう…
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夜の港は不気味な雰囲気を醸し出している。
あちらこちらにコンテナが無造作に積み上げられ、あたりは薄暗い。
私と伊藤は人気のない倉庫の中にいた。
外から汽笛が鳴り響いた。
腕につけているティファニーの金の時計を見る。
丁度針は0時を指していた。
蛍光灯の下にずっといたので目がチカチカしてきた。
キラリとナイフが光り、ヒュンッと目の前を横切るのが見えた。
飛んで行った先を見遣る。
コンテナに立てかけた大き目の板にナイフが突き刺さった……
――が、赤ペンキで書いた的から大きく外れており、1本は板の端に刺さって残りの2本はコンテナの隅の方まで飛んで落ちてしまっていた。
「ヤッタ!板に刺さったぜ」
パチンと指を鳴らしてはしゃぐ伊藤。
「なにいってるの。的から外れてるじゃないの。
まったく、どこ狙っているのよ。下手くそ!」
イライラした私はナイフを拾いにいき、伊藤に渡した。
「んなこと言うけどよー。ナイフ投げなんかした事ねーんだよ。
サーカスじゃあるまいし」
口を尖がらせた男は伊藤という。
茶髪で黒いシャツを着ている。
元ヤンキーあがりで非常に柄が悪い。
私のことを女だと舐めてかかり、教えてもまともに聞いてくれない。
「アナタがちゃんと的を見て投げないからよ。
投げ方も教えたとおりにしてないじゃない」
「そんなこと言うけどよ。こんなの突然言われても出来ないんだって。
それにいつもなら遊園地でするだろ?
場所だって違うじゃねーか」
子供のように、だだをこねる伊藤を見て溜息をついた。
「いつもと同じ場所でナイフ投げの練習をしたら怪しまれるからよ。
だから、人気のないこの港の倉庫で練習しているじゃないのよ。
ブーブー言ってないでホラ、今お手本を見せるから
ちゃんと見ておくのよ?」
ツカツカと的から10メートル離れて向き直った。
ケースからナイフを3本手に取る。
レザーハンドルのドイツ製のスローイングナイフ10本。
私が12歳の誕生日に父がプレゼントしてくれたものだ。
二本の指で刃の背を挟み、ブーツの爪先と目線をまっすぐにして狙いを定める。
前足をだして腕を振りおろしナイフを真っすぐに投げた。
思ったとおり、スカンと真ん中に命中した。
この感覚、懐かしい。
父とよく庭で練習をした頃を思い出す。
何回投げても木に当たらない私はよく膨れたものだ。
『いいかい?お父さんの言うとおりに投げるんだよ』
父が隣にきてくれてナイフの持ち方から教えてくれた。
投げ方もそう。振り下ろし方も丁寧に教えてくれた。
お父さんっ子だった私はますます父が大好きになった。
こうして投げていると、まるで父が隣で一緒に投げてくれているように思う。
まだ手に持っている2本のナイフを投げ飛ばした。
思ったとおり、全て真ん中に集中して刺さった。
こういうのも集中力がかなりいるものだ。
どっと汗が吹き出てくる。
額の汗を拭っていると、脇から拍手の音が聞こえてきた。
「ひゅう~。さすが姐御だぜ!」
おどけた声で伊藤は言った。
「姐御は止して。ねぇ、ちゃんと見てた?今度はアナタがするのよ」
「へいへい。任せとけ。今度こそ決めてやるさ」
ウィンクを投げた伊藤はケースからナイフを3本取った。
彼はナイフを二本の指で挟み、ヨッ、と言って真っすぐに投げ飛ばしてみた。
1本目、2本目のナイフは的から大きく外れたところに刺さった。
私は深く溜息をついた。
すると、3本目を投げた彼は見事真ん中に命中をさせた。
私は心底この男を嫌っているが、今回だけは少し見直した。
「すごいじゃない!やればできるじゃない」
思わず拍手をしてしまった。
伊藤はこちらを見てニヤリと笑う。
頬にキスをすると、彼は鼻と口元がすぐに緩んだ。
「うえへへへ。嬉しいけどよ。“此処”にキスしてくれよぉ」
さっき言ったことは撤回するわ……。
一瞬で軽蔑してしまった。
彼はそそり立った自分の股間に指さして来たのだ。
「笑えないわ。ナイフで切っちゃうわよ」
氷のような眼差しで彼を見た。
「ウヒー!怖い!ますます興奮しちゃう!
痺れちゃったぜ!」
伊藤はおどけて見せた。
スキップしながら向こうへ歩き、的から3本ナイフを抜きとる。
駆け足でこちらに戻り、くるりと背中を向けてナイフを投げて見せた。
驚いた。
3本とも見事に命中した。
「すごいじゃない!全部命中したわね!上達したじゃないの!」
私は目を皿のようにしてパチパチと手を叩いた。
「へへへ。アンタに教わると俺はどんどん犯罪のテクニシャンになっていく気がするぜ。
なあ。何の恨みがあってスケオを殺すのかわかんねーけどよ。
もっと俺とビッグなことをして人生を謳歌しようぜ。
海外でスパイをするとかっ。
世界的な犯罪をするとかっ」
伊藤は犬のように私に付きまとってくる。
彼にもこんなキラキラとした目をするんだなあと見てて思った。
「オホホホ。何をいってるのよ。
スケオを殺すことがまず先よ。もしかして怖気づいたの?」
私は歩いてコンテナに背をもたれた。
「とんでもねーよ!俺を見くびっちゃ困る。
元ヤンキーのリーダーで日本一強い男だ。
人を殴る、蹴るは平気だし、女と子供にも容赦しねーよ。
俺もアンタと同じ冷酷な男なんだぜ?」
「まあ。私が冷酷な女だなんて、酷い言い草ね」
私がムスッとしていると慌てるように伊藤は
私の隣にペターっとくっつくようにしてコンテナにもたれた。
「イヤイヤ。要はアンタと俺は、相性がぴったりだってことだ。
ナア。名前をいい加減に教えてくれよ。これじゃあやりにくいぜ」
伊藤は横から私のサングラスをとった。
彼は一瞬私の顔をみて硬直した。
冷汗がタラリと垂れる。あぁ。もうこれまでか。
「綺麗な瞳だ……宝石かエメラルドみたいだ」
彼は吸い込まれるような目で見つめてくる。
あぁ……よかった。
念には念を入れよで、コンタクトもしてきた。
顔がばれてしまったら今までの努力が水の泡になる。
「オホホ。秘密ということになっているけど、まあいいわ。
アナタが好きな名前で呼んでくれたらいいわ」
冷汗がどっと流れ落ちる。
できるだけ表情に出さないようにした。
「へへへ。本名は明かさないってことだな?まあいい。
じゃあ、ジェシカなんてーのはどうだ?」
「ジェシカ?素敵な名前だけど、なんでその名前なのよ」
「俺の愛車のベンツの名前なんだ。まあ、無免許だが」
伊藤は何を思ってか、褒めていないのに頭を掻いて照れている。
「ジェシカ……俺はオマエに一生ついていくことにしたんだ。
俺とジェシカのコンビで世界的な有名人になりたい。
俺はオマエにゾッコンだ。一生大切にする」
伊藤は急にシリアスな顔になって私の影になった。
コンテナに両手を置いた彼はのしかかるような恰好をした。
思わず背筋からゾクゾクしてくる。
「なあ。頼むよ。俺はジェシカが恋しい……俺のものにしたい」
伊藤は強引に迫ってくる。
よく見ると彼はハンサムな上に今まで女を垂らしこむだけある良い男ぶりを見せつけてきた。
私は彼の色気に負けそうで喘いでしまう。
「ジェシカ……今すっげー可愛い顔をしてるぜ。
なあ。ジェシカ。俺はオマエのすべてが見たい」
ドキン。
伊藤がハスキーな声で迫ってくる。
ライダースーツの胸元が苦しく感じてきた。
もう、ダメ。
骨抜きにされそう。
私の体が灼熱してきた。
「ジェシカ……あぁ。ジェシカ……」
伊藤は目をギラギラとさせ、私の首すじに顔を埋めてきた。
あぁ……もうダメ。脳が蕩けちゃいそう……。
甘い吐息を漏らしてしまった。
伊藤は私の反応が嬉しかったか、耳元にタバコ臭い息を吐きかけてくる。
彼は私の首筋から肩にかけて犬のように舐めて噛みついた。
「ハァ…ああん」
感じてしまった。
思わず身震いをしてしまう。
そして彼はニヤリとさせ右手で私のライダースーツのチャックを下ろした。
あぁ……私の豊満な胸が露わになってしまった。
思わず顔が熱くなってしまう。
「なんて綺麗な肌をしてるんだ。雪のように真っ白だぜ」
彼の瞳は魅入られていた。
甘えるように彼は胸を揉みしだき、強引に私の股を割って足を入れてきた。
もう、何が何だか分からなくなってきた。
脳から足の指先まで麻痺してしまった気分だ。
(ダメ……私には心から決めた男がいるのよ)
私は理性のストッパーがぶっ飛ばないように必死に守る。
彼はそんな私の気持ちを無視して今度は、もう、待ちきれんばかりに自分のベルトを外そうとする。
その時、港の汽笛が鳴り響いた。
やっと我に返り、伊藤を跳ね除けることに成功した。
伊藤は唾を口から溢れ出して向かいのコンテナにぶち当たった。
危ないところだった…。
私はお腹まで下ろされたチャックを戻し、乱れた髪を手で整えた。
「じぇっ、ジェシカ?……なんでだよう。俺が嫌いなのかあ?!」
痛てて、と言って伊藤は情けない顔をして見上げてくる。
こんな獣(けだもの)と一緒に行動したくないが、
伊藤は、居なくてはならないポジションになっている。
「オホホホ。嫌いじゃないわ。
ただ、良い事をするのは今回のが無事終わってからね」
彼に手を貸してあげた。
苦笑いをして伊藤は私の手をつかみ、体を起こす。
「フイー。盗む価値のある女だぜ。
いつか、ジェシカのハートをこの手でつかんで見せる」
伊藤は腕まくりをしてまたナイフ投げに専念した。
(12月24日まであと一週間……急いで準備しなくては)
愛する男を想い浮かべると、急に胸を締め付けられた。
早く決着をつけないと。
愛する男は私がいるというのに、別の女を選んでしまった。
喫茶店でみたあの濃厚なキスシーン。
思い出しただけでムカムカしてくる。
私の愛する男はただ一人、西城助男しかいない。
あのマコトという女、助男くんを横取りしやがって。泥棒猫め。
二人とも絶対に許せない。
私はコンテナから離れ、伊藤のナイフ投げの指導に当たった。
できるだけ彼を思い出さないように指導に打ち込み続けた。
伊藤と私は汗だくになる。
腕がブラブラになってコンテナにもたれてへたり込んでしまった。
「見ろよ……」
伊藤の視線の先を見る。
倉庫の出口から朝日が差し込んだ。その光景に驚く。
港の海に映ったオレンジとコバルトブルーのグラデーションがキラキラ光っている。
「綺麗……」
私は一瞬だけ復讐を忘れてしばらく伊藤と二人で景色を眺めていた。
(つづく)
あちらこちらにコンテナが無造作に積み上げられ、あたりは薄暗い。
私と伊藤は人気のない倉庫の中にいた。
外から汽笛が鳴り響いた。
腕につけているティファニーの金の時計を見る。
丁度針は0時を指していた。
蛍光灯の下にずっといたので目がチカチカしてきた。
キラリとナイフが光り、ヒュンッと目の前を横切るのが見えた。
飛んで行った先を見遣る。
コンテナに立てかけた大き目の板にナイフが突き刺さった……
――が、赤ペンキで書いた的から大きく外れており、1本は板の端に刺さって残りの2本はコンテナの隅の方まで飛んで落ちてしまっていた。
「ヤッタ!板に刺さったぜ」
パチンと指を鳴らしてはしゃぐ伊藤。
「なにいってるの。的から外れてるじゃないの。
まったく、どこ狙っているのよ。下手くそ!」
イライラした私はナイフを拾いにいき、伊藤に渡した。
「んなこと言うけどよー。ナイフ投げなんかした事ねーんだよ。
サーカスじゃあるまいし」
口を尖がらせた男は伊藤という。
茶髪で黒いシャツを着ている。
元ヤンキーあがりで非常に柄が悪い。
私のことを女だと舐めてかかり、教えてもまともに聞いてくれない。
「アナタがちゃんと的を見て投げないからよ。
投げ方も教えたとおりにしてないじゃない」
「そんなこと言うけどよ。こんなの突然言われても出来ないんだって。
それにいつもなら遊園地でするだろ?
場所だって違うじゃねーか」
子供のように、だだをこねる伊藤を見て溜息をついた。
「いつもと同じ場所でナイフ投げの練習をしたら怪しまれるからよ。
だから、人気のないこの港の倉庫で練習しているじゃないのよ。
ブーブー言ってないでホラ、今お手本を見せるから
ちゃんと見ておくのよ?」
ツカツカと的から10メートル離れて向き直った。
ケースからナイフを3本手に取る。
レザーハンドルのドイツ製のスローイングナイフ10本。
私が12歳の誕生日に父がプレゼントしてくれたものだ。
二本の指で刃の背を挟み、ブーツの爪先と目線をまっすぐにして狙いを定める。
前足をだして腕を振りおろしナイフを真っすぐに投げた。
思ったとおり、スカンと真ん中に命中した。
この感覚、懐かしい。
父とよく庭で練習をした頃を思い出す。
何回投げても木に当たらない私はよく膨れたものだ。
『いいかい?お父さんの言うとおりに投げるんだよ』
父が隣にきてくれてナイフの持ち方から教えてくれた。
投げ方もそう。振り下ろし方も丁寧に教えてくれた。
お父さんっ子だった私はますます父が大好きになった。
こうして投げていると、まるで父が隣で一緒に投げてくれているように思う。
まだ手に持っている2本のナイフを投げ飛ばした。
思ったとおり、全て真ん中に集中して刺さった。
こういうのも集中力がかなりいるものだ。
どっと汗が吹き出てくる。
額の汗を拭っていると、脇から拍手の音が聞こえてきた。
「ひゅう~。さすが姐御だぜ!」
おどけた声で伊藤は言った。
「姐御は止して。ねぇ、ちゃんと見てた?今度はアナタがするのよ」
「へいへい。任せとけ。今度こそ決めてやるさ」
ウィンクを投げた伊藤はケースからナイフを3本取った。
彼はナイフを二本の指で挟み、ヨッ、と言って真っすぐに投げ飛ばしてみた。
1本目、2本目のナイフは的から大きく外れたところに刺さった。
私は深く溜息をついた。
すると、3本目を投げた彼は見事真ん中に命中をさせた。
私は心底この男を嫌っているが、今回だけは少し見直した。
「すごいじゃない!やればできるじゃない」
思わず拍手をしてしまった。
伊藤はこちらを見てニヤリと笑う。
頬にキスをすると、彼は鼻と口元がすぐに緩んだ。
「うえへへへ。嬉しいけどよ。“此処”にキスしてくれよぉ」
さっき言ったことは撤回するわ……。
一瞬で軽蔑してしまった。
彼はそそり立った自分の股間に指さして来たのだ。
「笑えないわ。ナイフで切っちゃうわよ」
氷のような眼差しで彼を見た。
「ウヒー!怖い!ますます興奮しちゃう!
痺れちゃったぜ!」
伊藤はおどけて見せた。
スキップしながら向こうへ歩き、的から3本ナイフを抜きとる。
駆け足でこちらに戻り、くるりと背中を向けてナイフを投げて見せた。
驚いた。
3本とも見事に命中した。
「すごいじゃない!全部命中したわね!上達したじゃないの!」
私は目を皿のようにしてパチパチと手を叩いた。
「へへへ。アンタに教わると俺はどんどん犯罪のテクニシャンになっていく気がするぜ。
なあ。何の恨みがあってスケオを殺すのかわかんねーけどよ。
もっと俺とビッグなことをして人生を謳歌しようぜ。
海外でスパイをするとかっ。
世界的な犯罪をするとかっ」
伊藤は犬のように私に付きまとってくる。
彼にもこんなキラキラとした目をするんだなあと見てて思った。
「オホホホ。何をいってるのよ。
スケオを殺すことがまず先よ。もしかして怖気づいたの?」
私は歩いてコンテナに背をもたれた。
「とんでもねーよ!俺を見くびっちゃ困る。
元ヤンキーのリーダーで日本一強い男だ。
人を殴る、蹴るは平気だし、女と子供にも容赦しねーよ。
俺もアンタと同じ冷酷な男なんだぜ?」
「まあ。私が冷酷な女だなんて、酷い言い草ね」
私がムスッとしていると慌てるように伊藤は
私の隣にペターっとくっつくようにしてコンテナにもたれた。
「イヤイヤ。要はアンタと俺は、相性がぴったりだってことだ。
ナア。名前をいい加減に教えてくれよ。これじゃあやりにくいぜ」
伊藤は横から私のサングラスをとった。
彼は一瞬私の顔をみて硬直した。
冷汗がタラリと垂れる。あぁ。もうこれまでか。
「綺麗な瞳だ……宝石かエメラルドみたいだ」
彼は吸い込まれるような目で見つめてくる。
あぁ……よかった。
念には念を入れよで、コンタクトもしてきた。
顔がばれてしまったら今までの努力が水の泡になる。
「オホホ。秘密ということになっているけど、まあいいわ。
アナタが好きな名前で呼んでくれたらいいわ」
冷汗がどっと流れ落ちる。
できるだけ表情に出さないようにした。
「へへへ。本名は明かさないってことだな?まあいい。
じゃあ、ジェシカなんてーのはどうだ?」
「ジェシカ?素敵な名前だけど、なんでその名前なのよ」
「俺の愛車のベンツの名前なんだ。まあ、無免許だが」
伊藤は何を思ってか、褒めていないのに頭を掻いて照れている。
「ジェシカ……俺はオマエに一生ついていくことにしたんだ。
俺とジェシカのコンビで世界的な有名人になりたい。
俺はオマエにゾッコンだ。一生大切にする」
伊藤は急にシリアスな顔になって私の影になった。
コンテナに両手を置いた彼はのしかかるような恰好をした。
思わず背筋からゾクゾクしてくる。
「なあ。頼むよ。俺はジェシカが恋しい……俺のものにしたい」
伊藤は強引に迫ってくる。
よく見ると彼はハンサムな上に今まで女を垂らしこむだけある良い男ぶりを見せつけてきた。
私は彼の色気に負けそうで喘いでしまう。
「ジェシカ……今すっげー可愛い顔をしてるぜ。
なあ。ジェシカ。俺はオマエのすべてが見たい」
ドキン。
伊藤がハスキーな声で迫ってくる。
ライダースーツの胸元が苦しく感じてきた。
もう、ダメ。
骨抜きにされそう。
私の体が灼熱してきた。
「ジェシカ……あぁ。ジェシカ……」
伊藤は目をギラギラとさせ、私の首すじに顔を埋めてきた。
あぁ……もうダメ。脳が蕩けちゃいそう……。
甘い吐息を漏らしてしまった。
伊藤は私の反応が嬉しかったか、耳元にタバコ臭い息を吐きかけてくる。
彼は私の首筋から肩にかけて犬のように舐めて噛みついた。
「ハァ…ああん」
感じてしまった。
思わず身震いをしてしまう。
そして彼はニヤリとさせ右手で私のライダースーツのチャックを下ろした。
あぁ……私の豊満な胸が露わになってしまった。
思わず顔が熱くなってしまう。
「なんて綺麗な肌をしてるんだ。雪のように真っ白だぜ」
彼の瞳は魅入られていた。
甘えるように彼は胸を揉みしだき、強引に私の股を割って足を入れてきた。
もう、何が何だか分からなくなってきた。
脳から足の指先まで麻痺してしまった気分だ。
(ダメ……私には心から決めた男がいるのよ)
私は理性のストッパーがぶっ飛ばないように必死に守る。
彼はそんな私の気持ちを無視して今度は、もう、待ちきれんばかりに自分のベルトを外そうとする。
その時、港の汽笛が鳴り響いた。
やっと我に返り、伊藤を跳ね除けることに成功した。
伊藤は唾を口から溢れ出して向かいのコンテナにぶち当たった。
危ないところだった…。
私はお腹まで下ろされたチャックを戻し、乱れた髪を手で整えた。
「じぇっ、ジェシカ?……なんでだよう。俺が嫌いなのかあ?!」
痛てて、と言って伊藤は情けない顔をして見上げてくる。
こんな獣(けだもの)と一緒に行動したくないが、
伊藤は、居なくてはならないポジションになっている。
「オホホホ。嫌いじゃないわ。
ただ、良い事をするのは今回のが無事終わってからね」
彼に手を貸してあげた。
苦笑いをして伊藤は私の手をつかみ、体を起こす。
「フイー。盗む価値のある女だぜ。
いつか、ジェシカのハートをこの手でつかんで見せる」
伊藤は腕まくりをしてまたナイフ投げに専念した。
(12月24日まであと一週間……急いで準備しなくては)
愛する男を想い浮かべると、急に胸を締め付けられた。
早く決着をつけないと。
愛する男は私がいるというのに、別の女を選んでしまった。
喫茶店でみたあの濃厚なキスシーン。
思い出しただけでムカムカしてくる。
私の愛する男はただ一人、西城助男しかいない。
あのマコトという女、助男くんを横取りしやがって。泥棒猫め。
二人とも絶対に許せない。
私はコンテナから離れ、伊藤のナイフ投げの指導に当たった。
できるだけ彼を思い出さないように指導に打ち込み続けた。
伊藤と私は汗だくになる。
腕がブラブラになってコンテナにもたれてへたり込んでしまった。
「見ろよ……」
伊藤の視線の先を見る。
倉庫の出口から朝日が差し込んだ。その光景に驚く。
港の海に映ったオレンジとコバルトブルーのグラデーションがキラキラ光っている。
「綺麗……」
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