ナイフが朱に染まる

白河甚平@壺

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(第13話)マコトと禁断のキスをしてしまった……誰かに見られてしまったような気がする。

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あれから一週間が経つが、伊藤はとうとう会社に顔を見せなかった。
警察にはもちろん、マコトが伊藤に強姦されそうになった事と、脅迫状が扉の前に置かれていたことを電話で話をした。
今、容疑者になっている伊藤の追跡をしていると警察から聞いている。
会社への報告だが、これはよく考えてみたことなのだが、
やはり、伊藤がどう行動にでるかが分からなかったので止めておくことにした。
こっそり、伊藤から取り上げたスマホの中身を自宅で見てみた。
すると、マコト以外の女にも暴力と強姦をしている動画や写真を見つけた。
弱みにつけこむ材料なのか、ある女子社員が店で万引きをしている動画や麻薬を吸っている動画も入っている。
僕は確認がしたくて中を覗いてみたのだが、あまりにも残酷で卑劣なやり方に反吐が出そうだった。
マコトの動画だけはこっそり削除をして、電源を落とした。
僕は大きな溜息をついて頭を掻いて顔を何度も擦った。
これも、警察に提出しようと考えている。




あれからマコトと毎日、駅で待ち合わせをして一緒に出社と退社をしている。
プロジェクトは一緒なので会社が終わる時間帯も一緒だから困ることはない。
マコトは満面の笑みで僕に寄り添って歩くようになった。


「もう少し離れて歩けよ。せめて会社の前だけは」


僕は時々、困った顔でマコトに言う。


「えへへ。だって、毎日一緒に行きも帰りもできるなんてすっごく嬉しいもんっ」


マコトはスキップしながら歌うように僕に言う。


「ははは。しょうがないなあ」


コメカミを掻いた。
僕も正直、マコトとこうして一緒にいられるだけでも嬉しい。
脅迫されているから、というのはただの口実にしか過ぎない。
社内恋愛も禁止だし、ましてや僕にはミネ子ちゃんという契りを交わしたヒトがいる。
僕たちが愛することは決して許されない。
だから、せめて、こうして行きと帰りだけでも一緒に居られるなんてこれほどに幸せなことはない。




日が暮れ、外も寒くなった。風が頬に刺さる様だ。
いつもなら帰りは駅前で彼女と別れるのだが寒さのせいか、今日に限って急に人恋しい気持ちになってきた。


「なあ。電車もすぐに来ないし、近くの喫茶店でお茶をしないか?」


僕はマコトの顔色を伺いながら聞いた。
彼女は白い息を吐き出して、パア、と花が咲いたように喜んだ。
お互いに軽やかな足どりで古めかしい喫茶店に入る。
客はどうやら僕たちだけで、窓の外も暗く人気がない。
ひっそりとした一番奥のテーブルに座り、マコトと一緒にホットコーヒーを飲んだ。


「ねぇ、先輩…この間の居酒屋の続きをしません?」


ドキン。
コーヒーカップの金縁に口紅の跡をつけたマコトが、トロンとした目で見つめてきた。
僕は生唾を呑み、胸を弾ませた。
彼女の柔らかい手の上に力強く重ねる。
僕はすくりと腰を浮かせてマコトの隣の席にまで移動した。
マコトは頬を赤らせて、甘い吐息をもらす。


「マコト………」
僕はキリリとした目でじっと彼女を捕らえた。
マコトは唇をしっとり濡らし、そっと瞳を閉じる。
彼女の小さな鼻が可愛らしい。
僕は彼女を壁にもたれさせ、瞼と鼻と唇の順にキスを落としていった。
マコトもその度にビクンとさせ、喘いでみせる。
なんて柔らかくて甘い唇なんだ…。
まるで極上のスイーツを食べているようだ…。
さっき飲んだほろ苦いコーヒーの味と、甘い唾液の味がねっとりと舌に絡んでくる。


「はぁ…あん………スケオ先輩………」
彼女は身を悶えさせ、鼻息を荒げて僕の指を絡めてきた。
僕は周りのことが気になり、一瞬唇を離した。
マコトの栗色の髪が乱れ、桃色の頬をさせて瞳を濡らし、唇から糸を引いてた。
僕は一気に体が灼熱してきた。
客は僕たちしかいない。
年老いた店主は幸い隅のカウンターでウトウトしてしまっている。
僕たちはもう一度唇を重ねて再開をした。
この時、誰かに見られたような気がした。
僕は全く気付かずに、二人の禁断の時間に酔いしれて戯れ落ちてしまった。





(つづく)
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