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協力の条件
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俺は公爵令嬢ソフィアに突きつけた銃を下ろした。
「君を殺しはしないよ」
それが俺の結論だった。意外そうにソフィアは青い目を見開く。
もちろんソフィアを見逃して、俺が国王のもとへ戻れば、当然、裏切り者として処刑されるだろう。
ただ、無実のソフィアをここで殺しても、事態は変わらない。そうしたところで、すでに王太子殿下は俺を殺すつもりなのだから。
もしソフィアが実際に国を裏切っていたのであれば、彼女を殺してから王女ルシアに今後のことを相談するという選択肢もあった。
けれど、ソフィアとアルカディア公爵家は無実だった。わかったことはマグノリア王室は真っ黒だということだ。ルシア個人は昔からの仲間で、信頼できる少女だけれど、彼女の力をもってしても、俺の排除という結論を覆せるとは思えない。
ルシアには悪いが……もはや王都に戻ることはできないだろう。
まあ、すべての事情を差し置いても、もっと大事なことがある。
俺には、何も悪いことをしていない少女を殺したりできない。それが、クレハの目の前なら、なおさらだ。
であれば、できることは一つ。
マグノリア王国からの逃亡だ。
「ソフィア・アルカディア、俺と手を組むつもりはある?」
「どういうこと?」
俺は経緯を説明した。すでに俺は宮廷魔導師団を追放されたこと、王太子に命を狙われていること。
ソフィアは息を呑み、その美しい青い瞳で俺を見つめた。
「本当の……ことなのね」
「嘘をつく理由はないよ。俺はもうマグノリア王室に味方するつもりはない」
ソフィアも少し考え、そのとおりだと思ったらしい。
「つまり、あなたの立場は私とそう変わらないのね。でも、あなたは私に何を求めるの?」
「君はアルストロメリア共和国とつながりがあるんだよね?」
「ええ。最終的にはアルストロメリアに亡命するつもりだったけれど……」
「それはいい。俺とクレハも共和国に亡命するから、それが実現するように口添えしてほしい。代わりに、俺は君をマグノリア王国の追手から守ることができると思う」
「取引ってわけね」
ソフィアはベッドから体を起こす。金色の長い髪がふわりと揺れる。ほっそりとした白い腕が月明かりに照らされている。
「悪くない案だと思うわ。けれど、あなたは私を信用できる?」
真摯な声で、ソフィアは俺に問いかけた。
俺はクレハと顔を見合わせた。クレハは銀色の目で俺を見つめる。そして、うなずいた。
俺はソフィアの銃を、彼女に返した。ソフィアは驚いた様子で、それを受け取る。
取り上げた銃器を返したのは、彼女を信用しているという証だ。俺は彼女を殺せる状況を作り、その上で、武器を返した。
危険はあるが、互いの信用を示すための手段だ。
「俺は君を信用する。代わりに、君も俺たちを信用してほしい」
「義兄さんは……信頼できる人ですよ」
小声で、クレハがソフィアに対して言う。クレハはぎゅっと俺の服の裾をつまみ、俺の陰に隠れていた。
そんな俺たちを見て、ソフィアはくすっと、子どものように笑った。
「わかったわ。あなたの妹さんの言葉に免じて、信じてあげる」
「それはなにより」
俺は肩をすくめて、微笑んだ。ソフィアは銃をドレスのスカートの中へと隠した。足のあたりにホルダーをつけて隠しているらしい。白くほっそりとした脚が見えて、どきりとする。
そして、ソフィアは俺の額に指を突きつけた。
「ただし、協力するにあたって、条件があるわ」
「条件? 俺が君にできることがあるなら、なるべく受け入れるよ」
「その『君』っていう呼び方、なんとなく気に入らないわ」
「へ?」
「ソフィアって名前で呼んでね。それが協力の条件」
ソフィアはいたずらっぽく青い瞳を輝かせた。
俺はあっけに取られ、それから微笑んだ。考えてみれば、ソフィアも17歳の少女で、しっかりしているように見えて、子どもっぽいところがあるのかもしれない。
「ああ、わかったよ。ソフィア」
「それでいいの」
ソフィアはつんと俺の額を指先でつつくと、あどけないとすらいえる、綺麗な笑顔を見せた。
そして、俺にささやく。
「ありがとう、助けてくれて」
<あとがき>
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「君を殺しはしないよ」
それが俺の結論だった。意外そうにソフィアは青い目を見開く。
もちろんソフィアを見逃して、俺が国王のもとへ戻れば、当然、裏切り者として処刑されるだろう。
ただ、無実のソフィアをここで殺しても、事態は変わらない。そうしたところで、すでに王太子殿下は俺を殺すつもりなのだから。
もしソフィアが実際に国を裏切っていたのであれば、彼女を殺してから王女ルシアに今後のことを相談するという選択肢もあった。
けれど、ソフィアとアルカディア公爵家は無実だった。わかったことはマグノリア王室は真っ黒だということだ。ルシア個人は昔からの仲間で、信頼できる少女だけれど、彼女の力をもってしても、俺の排除という結論を覆せるとは思えない。
ルシアには悪いが……もはや王都に戻ることはできないだろう。
まあ、すべての事情を差し置いても、もっと大事なことがある。
俺には、何も悪いことをしていない少女を殺したりできない。それが、クレハの目の前なら、なおさらだ。
であれば、できることは一つ。
マグノリア王国からの逃亡だ。
「ソフィア・アルカディア、俺と手を組むつもりはある?」
「どういうこと?」
俺は経緯を説明した。すでに俺は宮廷魔導師団を追放されたこと、王太子に命を狙われていること。
ソフィアは息を呑み、その美しい青い瞳で俺を見つめた。
「本当の……ことなのね」
「嘘をつく理由はないよ。俺はもうマグノリア王室に味方するつもりはない」
ソフィアも少し考え、そのとおりだと思ったらしい。
「つまり、あなたの立場は私とそう変わらないのね。でも、あなたは私に何を求めるの?」
「君はアルストロメリア共和国とつながりがあるんだよね?」
「ええ。最終的にはアルストロメリアに亡命するつもりだったけれど……」
「それはいい。俺とクレハも共和国に亡命するから、それが実現するように口添えしてほしい。代わりに、俺は君をマグノリア王国の追手から守ることができると思う」
「取引ってわけね」
ソフィアはベッドから体を起こす。金色の長い髪がふわりと揺れる。ほっそりとした白い腕が月明かりに照らされている。
「悪くない案だと思うわ。けれど、あなたは私を信用できる?」
真摯な声で、ソフィアは俺に問いかけた。
俺はクレハと顔を見合わせた。クレハは銀色の目で俺を見つめる。そして、うなずいた。
俺はソフィアの銃を、彼女に返した。ソフィアは驚いた様子で、それを受け取る。
取り上げた銃器を返したのは、彼女を信用しているという証だ。俺は彼女を殺せる状況を作り、その上で、武器を返した。
危険はあるが、互いの信用を示すための手段だ。
「俺は君を信用する。代わりに、君も俺たちを信用してほしい」
「義兄さんは……信頼できる人ですよ」
小声で、クレハがソフィアに対して言う。クレハはぎゅっと俺の服の裾をつまみ、俺の陰に隠れていた。
そんな俺たちを見て、ソフィアはくすっと、子どものように笑った。
「わかったわ。あなたの妹さんの言葉に免じて、信じてあげる」
「それはなにより」
俺は肩をすくめて、微笑んだ。ソフィアは銃をドレスのスカートの中へと隠した。足のあたりにホルダーをつけて隠しているらしい。白くほっそりとした脚が見えて、どきりとする。
そして、ソフィアは俺の額に指を突きつけた。
「ただし、協力するにあたって、条件があるわ」
「条件? 俺が君にできることがあるなら、なるべく受け入れるよ」
「その『君』っていう呼び方、なんとなく気に入らないわ」
「へ?」
「ソフィアって名前で呼んでね。それが協力の条件」
ソフィアはいたずらっぽく青い瞳を輝かせた。
俺はあっけに取られ、それから微笑んだ。考えてみれば、ソフィアも17歳の少女で、しっかりしているように見えて、子どもっぽいところがあるのかもしれない。
「ああ、わかったよ。ソフィア」
「それでいいの」
ソフィアはつんと俺の額を指先でつつくと、あどけないとすらいえる、綺麗な笑顔を見せた。
そして、俺にささやく。
「ありがとう、助けてくれて」
<あとがき>
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