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追放された英雄は、公爵令嬢の処刑を命じられる
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「あなたはクビです、クリス」
「はぁ」
王女の言葉に、そんな気の抜けた返事しか、俺はできなかった。現実感があまりない。
目の前のマグノリア王国第三王女ルシア・マグノリアの顔をまじまじと見つめる。が、彼女は本気で俺を宮廷魔導師団副団長の地位から追い払うつもりのようだった。
ここは王都にある宮廷魔導師団の本部の団長室だった。豪華な赤い椅子に、ルシアは腰掛けている。その背後には、宮廷魔導師団の幹部が並んでいた。
ルシアはすらりとした長身の美しい少女だ。赤く長い髪をかき上げ、同じく赤色の勝ち気そうな瞳が輝いている。ただ美しいだけの王女ではない。17歳ながら、宮廷魔導師団の団長であった。
それはルシアの天才的な魔法の才能によるものだった。王女という身分が物を言ったことと、戦争で他の魔導師が大量に死んだこともあるが、ルシアは極めて優秀な黒魔術師であることに疑いはない。
俺はそんなルシアを支え、マグノリア王国宮廷魔導師団の副団長を務めていた。二十代前半にして、ここまで上り詰めたのは、幸運と……戦争のなせるわざだった。
大陸暦3946年。世界大戦の終結から1年が経った。カレンデュラ帝国がプランタ大陸全域への覇権確立を狙って起こしたこの戦争は、帝国の完敗に終わった。反カレンデュラ帝国の連合軍が帝都カレンを占領し、旧帝国を分割統治している。
そして、マグノリア王国は連合軍の中核国の一つで、プランタ大陸西部にある大国だった。多くの犠牲を出し、戦争は終わった。これで平和が戻るはずだった。
客観的に見ても、マグノリア王国の勝利に、俺も少なからず貢献したと思う。白魔導師のクリス・マーロウといえば、戦争七英雄の一人に数えられている。
少なくとも、無能を理由に宮廷魔導師団の副団長をクビになることはないはずだった。
だが……。
「クリス・マーロウ。あなたを宮廷魔導師団副団長の地位から解き、宮廷からも追放します」
「どうして私が追放なのでしょう?」
「思い当たる節があるでしょう?」
ルシアは真紅の瞳で俺をにらみつける。
「なんのことだか、さっぱり……」
「とぼけないでください。あなたが国王陛下に不信感を持っていることは、周知の事実です」
俺は心のなかで舌打ちをした。誰かが告げ口をしたのか。
戦争が終わり、平和が戻るはずだった。だが、現実にはそうはならなかった。マグノリアの国王陛下は、かつて慈悲深い名君と呼ばれていた。カレンデュラ帝国の野望を打ち砕くため、連合軍を組織したはずだった。
ところが、戦争が終わってみると、国王は旧帝国の領域に圧政を敷き、理由をつけて周辺の小国を侵略し始めた。歯向かう者には容赦ない攻撃を加え、そのために使われたのが宮廷魔導師団だった。
連合軍に加わっていた東方の大国アルストロメリア共和国は、マグノリア王国を名指しで非難し、緊張が高まっている。
大戦の終わりは、新たな勢力闘争の始まりに過ぎなかった。
先日も、俺は宮廷魔導師団を率い、セントポーリア公国の首都を陥落させた。それは戦争と呼べるようなものではなく、一方的な虐殺だった。
国王に仕える宮廷魔導師としては、命令に従うしかない。しかし、そこに正義があるとは、まったく思えなかった。俺は本音を何人かの宮廷に仕える人間に漏らした。彼らは信頼できる仲間だと思っていたが、そのうちの誰かが、国王に「クリス・マーロウに反逆の意志あり」と進言したんだろう。
であれば、俺は処刑されてもおかしくないが……。
ルシアはため息をついた。
「あなたが反逆者になるとは思っていません。これまでの功績を思えば、あなたほどの忠臣はいないのですから。ですが、王室に不信感を持つものを、宮廷魔導師団の一員としておけないのも事実」
「だから、追放ですか」
ルシアはうなずいた。彼女の背後にいる幹部の何人かは無表情だった。たとえ、俺の追放に反対だったとしても、この状況では何も言い出せないだろう。自分が反逆の疑いをかけられかねない。
逆に、数人の幹部は露骨に喜色を浮かべていた。彼ら彼女らは俺と対立関係にあった連中だ。その代表が、召喚士シェイクだった。俺より少し年上の貴族だ。
彼は有能だが、酷薄な性格で、残忍に人を殺すことを好んだ。
俺は苦笑した。命をかけて戦争を戦ってきた結果、クビにされるとは報われないものだと思う。
ルシアは、一瞬、赤い瞳を揺らした。
「私個人としては、あなたの追放を残念に思っているのです」
ルシアはまっすぐに俺を見つめ、俺も彼女の瞳を見つめ返した。ルシアは寂しそうな表情を浮かべていたが、すぐにその表情を消した。
そして、赤い宝石が先端に輝く魔法杖を握ると、その杖で床をどんと叩いた。
「クリス、あなたには新たな任務を与えます。それをもって、国王陛下への忠誠を証明しなさい。そうすれば、復帰の道もあるでしょう」
「どのようなご命令でしょうか」
「一人の大罪人を始末してほしいのです」
「大罪人?」
「アルカディア公爵の娘ソフィア。我が兄である王太子エドワードの元婚約者ですよ」
<あとがき>
主人公を大好きな少女たちとのラブコメ&ファンタジーです! よろしければ「お気に入り登録」いただければ嬉しいです!
「はぁ」
王女の言葉に、そんな気の抜けた返事しか、俺はできなかった。現実感があまりない。
目の前のマグノリア王国第三王女ルシア・マグノリアの顔をまじまじと見つめる。が、彼女は本気で俺を宮廷魔導師団副団長の地位から追い払うつもりのようだった。
ここは王都にある宮廷魔導師団の本部の団長室だった。豪華な赤い椅子に、ルシアは腰掛けている。その背後には、宮廷魔導師団の幹部が並んでいた。
ルシアはすらりとした長身の美しい少女だ。赤く長い髪をかき上げ、同じく赤色の勝ち気そうな瞳が輝いている。ただ美しいだけの王女ではない。17歳ながら、宮廷魔導師団の団長であった。
それはルシアの天才的な魔法の才能によるものだった。王女という身分が物を言ったことと、戦争で他の魔導師が大量に死んだこともあるが、ルシアは極めて優秀な黒魔術師であることに疑いはない。
俺はそんなルシアを支え、マグノリア王国宮廷魔導師団の副団長を務めていた。二十代前半にして、ここまで上り詰めたのは、幸運と……戦争のなせるわざだった。
大陸暦3946年。世界大戦の終結から1年が経った。カレンデュラ帝国がプランタ大陸全域への覇権確立を狙って起こしたこの戦争は、帝国の完敗に終わった。反カレンデュラ帝国の連合軍が帝都カレンを占領し、旧帝国を分割統治している。
そして、マグノリア王国は連合軍の中核国の一つで、プランタ大陸西部にある大国だった。多くの犠牲を出し、戦争は終わった。これで平和が戻るはずだった。
客観的に見ても、マグノリア王国の勝利に、俺も少なからず貢献したと思う。白魔導師のクリス・マーロウといえば、戦争七英雄の一人に数えられている。
少なくとも、無能を理由に宮廷魔導師団の副団長をクビになることはないはずだった。
だが……。
「クリス・マーロウ。あなたを宮廷魔導師団副団長の地位から解き、宮廷からも追放します」
「どうして私が追放なのでしょう?」
「思い当たる節があるでしょう?」
ルシアは真紅の瞳で俺をにらみつける。
「なんのことだか、さっぱり……」
「とぼけないでください。あなたが国王陛下に不信感を持っていることは、周知の事実です」
俺は心のなかで舌打ちをした。誰かが告げ口をしたのか。
戦争が終わり、平和が戻るはずだった。だが、現実にはそうはならなかった。マグノリアの国王陛下は、かつて慈悲深い名君と呼ばれていた。カレンデュラ帝国の野望を打ち砕くため、連合軍を組織したはずだった。
ところが、戦争が終わってみると、国王は旧帝国の領域に圧政を敷き、理由をつけて周辺の小国を侵略し始めた。歯向かう者には容赦ない攻撃を加え、そのために使われたのが宮廷魔導師団だった。
連合軍に加わっていた東方の大国アルストロメリア共和国は、マグノリア王国を名指しで非難し、緊張が高まっている。
大戦の終わりは、新たな勢力闘争の始まりに過ぎなかった。
先日も、俺は宮廷魔導師団を率い、セントポーリア公国の首都を陥落させた。それは戦争と呼べるようなものではなく、一方的な虐殺だった。
国王に仕える宮廷魔導師としては、命令に従うしかない。しかし、そこに正義があるとは、まったく思えなかった。俺は本音を何人かの宮廷に仕える人間に漏らした。彼らは信頼できる仲間だと思っていたが、そのうちの誰かが、国王に「クリス・マーロウに反逆の意志あり」と進言したんだろう。
であれば、俺は処刑されてもおかしくないが……。
ルシアはため息をついた。
「あなたが反逆者になるとは思っていません。これまでの功績を思えば、あなたほどの忠臣はいないのですから。ですが、王室に不信感を持つものを、宮廷魔導師団の一員としておけないのも事実」
「だから、追放ですか」
ルシアはうなずいた。彼女の背後にいる幹部の何人かは無表情だった。たとえ、俺の追放に反対だったとしても、この状況では何も言い出せないだろう。自分が反逆の疑いをかけられかねない。
逆に、数人の幹部は露骨に喜色を浮かべていた。彼ら彼女らは俺と対立関係にあった連中だ。その代表が、召喚士シェイクだった。俺より少し年上の貴族だ。
彼は有能だが、酷薄な性格で、残忍に人を殺すことを好んだ。
俺は苦笑した。命をかけて戦争を戦ってきた結果、クビにされるとは報われないものだと思う。
ルシアは、一瞬、赤い瞳を揺らした。
「私個人としては、あなたの追放を残念に思っているのです」
ルシアはまっすぐに俺を見つめ、俺も彼女の瞳を見つめ返した。ルシアは寂しそうな表情を浮かべていたが、すぐにその表情を消した。
そして、赤い宝石が先端に輝く魔法杖を握ると、その杖で床をどんと叩いた。
「クリス、あなたには新たな任務を与えます。それをもって、国王陛下への忠誠を証明しなさい。そうすれば、復帰の道もあるでしょう」
「どのようなご命令でしょうか」
「一人の大罪人を始末してほしいのです」
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「アルカディア公爵の娘ソフィア。我が兄である王太子エドワードの元婚約者ですよ」
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