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2章、聖なる花冠(ローゼンクランツ)へ…
34話、盟はなりや?
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ローゼリアの領都ローゼンハーフェンは、聖皇女ユーリアの行幸を前に喜びと期待に満ち溢れていた。街の各所には色鮮やかな聖教旗が掲げられ、聖皇女が通ると思われる港の広場や街路には、既に老若男女を問わず多くの人々が集まっていて、到着を今か今かと待ちわびている。
集まった人々の中には花びらの入った籠を持つ者がチラホラとおり、聖皇女ユーリアが花びらを舞うなか歩む姿が想像できた。
セイクリッド・シュマリナ教国の頂点に君臨する聖皇女は、この大陸で最も篤く信仰されているシュマリナ聖教の頂点でもある。そんな聖皇女が本国ではない、隣国である帝国のいち地方都市を訪れるなどそうある事ではないし、もちろんローゼリア家の歴史において初めての事でもあった。
「聖皇女様は、いつ頃到着されるの?」
幼い子供が母親に尋ねる。
「もうすぐよ。ほら、あそこにお船が見えるでしょう?」
母親は我が子を抱え上げ、港の沖合を進む一隻の船を指さした。
「わぁ、綺麗なお船」
沖合には、煌びやかな装飾の施された立派な白い船が浮かんで見える。その白い船はゆっくりと港に近づいて、やがて接弦した。
船からは次々と人々が降りて来る。
そして遂に、白く荘厳なる装いの美しい女性が姿を現した。
その美しい顔一杯に、民衆を慈しむ優しい笑みを浮かべて。
「「「聖皇女様だ!」」」
「「「聖皇女様!」」」
港に集まった人々は大歓声を上げて、聖皇女ユーリアを出迎える。
見返りを求める事無く、ただ慈悲と愛を是と教え説くシュマリナ聖教を信じる者は多い。それはここ、ローゼンハーフェンにおいても例外ではなかった。そこへ聖皇女が姿を現すとなれば、民衆の熱気と興奮はいかばかりであったか、推して知るべしである。
聖皇女ユーリアは船から降りると、彼女ら一行の為に敷かれた赤い絨毯の上をゆっくりと歩き始める。そんな彼女を守るように、白く厳かな甲冑を身にまとった騎士数名が周りに付き従っていた。
石畳を鮮やかに飾る赤い絨毯はいつしか途切れ、ユーリアがその足を初めてローゼリアの地へ付けし時2人は出会う。
白い法衣ドレスに赤い髪の対比が美しい女性と、白銀の髪を風になびかせ蒼い瞳の美しい青年が見合う姿は、まるで1枚の宗教画のようだ。
「ローゼリア領主アレクシスと申します。聖皇女聖下、ようこそ我がローゼリアへ。遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
アレクシスは恭しく頭を下げ、ユーリアに挨拶をする。
するとユーリアは、優しい笑みを浮かべながらアレクシスを見つめこう言った。
「私はセイクリッド・シュマリナ教国の第12代聖皇女ユーリアと申します。皆様の温かい歓迎心より感謝いたします。アレクシス様にお会いできることを、心待ちにしておりましたのよ」と。
ここに2人は邂逅を果たす。
ユーリアは後世の歴史家をして、この者らがいなければ後のアレクシス・ロゼリア・フォン・ローゼンクランツの治世は無かったかも知れないと言われし者の1人であり、ユーリア・ド・クリスティアーニ・ディ・マリア本人が晩年語る『あの方を御支えするために私はこの世に生を受けたのです』そんな2人が出会った瞬間だった。
◆◆
遠路はるばる我がローゼリアへとお越し下さった、聖皇女様の一行を労う数々の歓迎の式典が終わり、私はいま領主屋敷の応接室にいた。ユリシスから聞いた話では、今から聖皇女様直々に神の使徒かどうかの見極めが始まるらしい。
正直に言ってしまうと、私は信仰心が篤い方ではないと思う。むしろ前世も今世も散々であったから、神なぞこれっぽっちも信じてはいなかったのだ。
そんな私は今世に再び生を得て、異能を授かった事でどうにかやっと人並の信心を持ちえたと言うところか……、そんな程度で神の使徒や御使いなどに認定されても良いものであろうか。
そんな私の思いとは裏腹に準備は着々と進み、応接室に残るは私と手紙を出したユリシス、そして私の希望でツェツィーリアに同席を願い、そこに聖皇女様とダリオ枢機卿を加えた5人を残すのみである。
「では改めましてユリシスさん、頂いたお手紙の内容は本当でしょうか?」
「はい聖皇女様、手紙に記した内容は全て本当の事です」
「アレクシス様が、黄金の光に包まれて蘇ったというのは確かですか?」
「はい、我が主は毒により、私が駆け付けた時既に明日をも知れぬ状態でした。懸命の治療も甲斐なく御身いよいよ天に召されようという時、奇跡は起きたのです」
ユリシスがチラと聖皇女様に目線をやると、彼女は頷き「続けて」とお応えになる。
「その黄金の光の中にはうっすらと、羽のようなものも見えました。その神々しく神聖なる光が消失した時、主様は目を覚まされたのです。そして、お体をあれほど蝕んでいた毒は完全に消失しておりました」
「──ほかにも何かありましたら教えてください」
「はい、では……。これは偶然知ることが出来たのですが、女神様の奇跡のあとより主様の体には聖紋が発現しております。そして、女神様より不思議な御力を授かりました」
「聖紋と……御力まで? そ、それはまさしく聖人ではないですか……」
聖紋と異能については手紙には記していなかった。
突然これを聞いた聖皇女様は大層驚いて、その瞳は大きく見開かれ、口元はわずかに開いたまま言葉が続かないようだった。
その隙に、私は同席している彼女に目をやった。
私と彼女が一緒になる事はもうない。私の本当の家族となれば彼女を死が襲うかもしれないから……、だから断った。
それなのに、私の中の彼女は一向に小さくなる事がない、消えてくれない。
そして弱い私は、ツェツィーリアを完全に断ち切る事が出来ないんだ。だから今日呼んでしまった。私の秘密を彼女にも知って欲しくて……。
そんなツェツィーリアは、私の視線に気づくと『アナタが何者であっても、私の想いは変りません』とでも言うように、驚きの表情を浮かべる事なく優しく微笑んだのだった。
君は、驚かないのか……?
どうして……。
「──その聖紋、見せて頂く事は可能でしょうか?」
この場は私とツェツィーリアだけがいる訳では無い。
聖皇女様の一言が、私を現実世界へと連れ戻す。
「主様、お見せしても構いませんか?」
私はコクリと頷き起ちあがる。
するとユリシスが私の側へと寄り、私の上着の留をはずし一枚一枚丁寧に脱がせていく。みるみると私の上半身が露になり白日の元へ晒されると、聖皇女様と枢機卿猊下が思わず感嘆の声をあげた。
「何ということでしょう。本当に聖紋ではないですか」
「は、初めて見ましたぞ……」
「聖皇女様、宜しければ背を見ていただけますか?」
「こ、これは……」「なっ……」
あの日、私の背に書かれた神聖文字を読んだユリシスは、その内容に感極まり落涙していたことを思い出す。聖皇女様はこれを見てどんな反応を示すのだろうか……。
「──唱えよ、さすれば道は開かれん。愛と慈悲をもって導く……ものなり……と書か、れて……います」
ユーリアは力なく、床に膝を着くように落ちた。
そしてユリシスの時と同じように、震える手で口元を覆い嗚咽を漏らす。その肩は小さく震え、涙はまるで透き通る水晶玉が砕け散るかのように、頬を伝い、顎の先から滴り落ちている。
「主様、お力を今こそ」
「いまここでか?」
「はい」
ユリシスはここで異能の力を使い、普通の者が知りえない聖皇女様の情報が何か得られれば、それを聖皇女様へ示すべきだと言うのである。
私は異能を以て彼女を視た。
[ユーリア・ド・クリスティアーニ・ディ・マリア、女、25歳]
[LV14、統88+7、武39、政86、知85、魅95]
[その他、ヴィヴィアーナ・ディマリア(本名)]
彼女の名であるユーリアは恐らく聖皇女名のようなモノで、ヴィヴィアーナが本当の名のようだった。
「ヴィヴィアーナ・ディマリア様それでは汚れてしまいます。さぁお立ち下さい」
「! ど、どうしてその名を?」
力なく地へ座した聖皇女にお立ち頂こうと、私は手を差し伸べる。
ユーリアはその手を掴みはするが、その美しい顔は再び驚きで固まっていた。
◇◇
「アレクシス様、貴方の背には愛と慈悲をもって導く者と書かれています。それは我らが聖教の一番大事な教えでもあります。この後どうされるおつもりでしょうか? お考えを私どもにお聞かせ頂けないでしょうか」
出会った頃よりも強く、熱い眼差しで私を見つめる聖皇女様がそこにいた。
「聖皇女様、私の父は弟と叔父により騙し討ちされ、戦場でその命を儚く散らせました。同じ戦場に在った私が今あるのは、ただ幸運と、命を賭して守ってくれた皆のお陰なのです。そして正室であった母は側妃に殺められました事ご存知ですか?」
「いえ、アレクシス様がそんな苦難の道を歩まれていたなんて……、私どもは存じませんでした。お許しください」
「皆さんの預かり知らぬ所で起きた事ですから……、続けますね?」
「はい、お願い致します」
「そこにいるツェツィーリアは、私に残された最後の身内です」
「まぁ、そうだったのですね。ツェツィーリア様、後ほど改めてご挨拶させて下さい」
「ご丁寧に有難うございます。ですが、私の事はお気になさらないで下さい」
2人の軽い会話が終わった頃合いを見て私は続ける。シュマリナ教国と我がローゼリアが手を携える事が出来るかどうか、ここが最後の勝負所だと思えたからだ。
「彼女の父と、彼女が治めたローゼンヌは我がローゼリアの隣にありました。叔父は穏やかな方で民を安んじ、その治世は身内の贔屓目があったとしても間違いなく良いモノでした。ですが、そんな彼女と彼女の父はいま我がローゼリアにいます。帝国摂政の悪意に、野望に圧し潰されそうになっていたのです」
ふぅ、息継ぎに数呼吸したのち、私は聖皇女様を強く見つめ夢を語る。
「聖皇女様、私の夢は簡単です。 親が子を殺し子も親を殺す、人を妬み嫉んでは果てに騙して奪う。こんなおろかで醜い事を人は何百年続けるのですか? 私はそれを終わらせたいのです。だから国を統べるのです。統べた暁には我が国の子供達全員に等しく教育を与えようと思っています。上も下も変わらねば人は変りません」
「それが、アレクシス様の夢ですか……、それには御国の摂政殿が邪魔なのですね?」
「我がローゼリアには幸い優秀なものが大勢おりますが、それでも、我々だけでは勝てないのです。それほどに奴の力は強大なのです」
「わかりました。詳細はまた後程として、我がシュマリナ教国はアレクシス様のお手伝いをさせて頂く事を誓います。貴方様が変わらず愛と慈悲を持って人々を導く間、我々の方からお側を離れる事は致しません」
「ほ、本当ですか? 聖皇女様!」
「はい、ですが、そのアレクシス様?」
「なんでしょうか?」
「私の事は今後ユーリアとお呼びください。敬称は不要です」
かくして聖皇女様直々の使徒判定は終わりを向かえ、ここにローゼリアとシュマリナ教国の盟はなった。この戦乱の時代にそぐわぬ強く固く結ばれた2国はアレクシスとユーリアの命ある限り別たれる事は無い。
集まった人々の中には花びらの入った籠を持つ者がチラホラとおり、聖皇女ユーリアが花びらを舞うなか歩む姿が想像できた。
セイクリッド・シュマリナ教国の頂点に君臨する聖皇女は、この大陸で最も篤く信仰されているシュマリナ聖教の頂点でもある。そんな聖皇女が本国ではない、隣国である帝国のいち地方都市を訪れるなどそうある事ではないし、もちろんローゼリア家の歴史において初めての事でもあった。
「聖皇女様は、いつ頃到着されるの?」
幼い子供が母親に尋ねる。
「もうすぐよ。ほら、あそこにお船が見えるでしょう?」
母親は我が子を抱え上げ、港の沖合を進む一隻の船を指さした。
「わぁ、綺麗なお船」
沖合には、煌びやかな装飾の施された立派な白い船が浮かんで見える。その白い船はゆっくりと港に近づいて、やがて接弦した。
船からは次々と人々が降りて来る。
そして遂に、白く荘厳なる装いの美しい女性が姿を現した。
その美しい顔一杯に、民衆を慈しむ優しい笑みを浮かべて。
「「「聖皇女様だ!」」」
「「「聖皇女様!」」」
港に集まった人々は大歓声を上げて、聖皇女ユーリアを出迎える。
見返りを求める事無く、ただ慈悲と愛を是と教え説くシュマリナ聖教を信じる者は多い。それはここ、ローゼンハーフェンにおいても例外ではなかった。そこへ聖皇女が姿を現すとなれば、民衆の熱気と興奮はいかばかりであったか、推して知るべしである。
聖皇女ユーリアは船から降りると、彼女ら一行の為に敷かれた赤い絨毯の上をゆっくりと歩き始める。そんな彼女を守るように、白く厳かな甲冑を身にまとった騎士数名が周りに付き従っていた。
石畳を鮮やかに飾る赤い絨毯はいつしか途切れ、ユーリアがその足を初めてローゼリアの地へ付けし時2人は出会う。
白い法衣ドレスに赤い髪の対比が美しい女性と、白銀の髪を風になびかせ蒼い瞳の美しい青年が見合う姿は、まるで1枚の宗教画のようだ。
「ローゼリア領主アレクシスと申します。聖皇女聖下、ようこそ我がローゼリアへ。遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
アレクシスは恭しく頭を下げ、ユーリアに挨拶をする。
するとユーリアは、優しい笑みを浮かべながらアレクシスを見つめこう言った。
「私はセイクリッド・シュマリナ教国の第12代聖皇女ユーリアと申します。皆様の温かい歓迎心より感謝いたします。アレクシス様にお会いできることを、心待ちにしておりましたのよ」と。
ここに2人は邂逅を果たす。
ユーリアは後世の歴史家をして、この者らがいなければ後のアレクシス・ロゼリア・フォン・ローゼンクランツの治世は無かったかも知れないと言われし者の1人であり、ユーリア・ド・クリスティアーニ・ディ・マリア本人が晩年語る『あの方を御支えするために私はこの世に生を受けたのです』そんな2人が出会った瞬間だった。
◆◆
遠路はるばる我がローゼリアへとお越し下さった、聖皇女様の一行を労う数々の歓迎の式典が終わり、私はいま領主屋敷の応接室にいた。ユリシスから聞いた話では、今から聖皇女様直々に神の使徒かどうかの見極めが始まるらしい。
正直に言ってしまうと、私は信仰心が篤い方ではないと思う。むしろ前世も今世も散々であったから、神なぞこれっぽっちも信じてはいなかったのだ。
そんな私は今世に再び生を得て、異能を授かった事でどうにかやっと人並の信心を持ちえたと言うところか……、そんな程度で神の使徒や御使いなどに認定されても良いものであろうか。
そんな私の思いとは裏腹に準備は着々と進み、応接室に残るは私と手紙を出したユリシス、そして私の希望でツェツィーリアに同席を願い、そこに聖皇女様とダリオ枢機卿を加えた5人を残すのみである。
「では改めましてユリシスさん、頂いたお手紙の内容は本当でしょうか?」
「はい聖皇女様、手紙に記した内容は全て本当の事です」
「アレクシス様が、黄金の光に包まれて蘇ったというのは確かですか?」
「はい、我が主は毒により、私が駆け付けた時既に明日をも知れぬ状態でした。懸命の治療も甲斐なく御身いよいよ天に召されようという時、奇跡は起きたのです」
ユリシスがチラと聖皇女様に目線をやると、彼女は頷き「続けて」とお応えになる。
「その黄金の光の中にはうっすらと、羽のようなものも見えました。その神々しく神聖なる光が消失した時、主様は目を覚まされたのです。そして、お体をあれほど蝕んでいた毒は完全に消失しておりました」
「──ほかにも何かありましたら教えてください」
「はい、では……。これは偶然知ることが出来たのですが、女神様の奇跡のあとより主様の体には聖紋が発現しております。そして、女神様より不思議な御力を授かりました」
「聖紋と……御力まで? そ、それはまさしく聖人ではないですか……」
聖紋と異能については手紙には記していなかった。
突然これを聞いた聖皇女様は大層驚いて、その瞳は大きく見開かれ、口元はわずかに開いたまま言葉が続かないようだった。
その隙に、私は同席している彼女に目をやった。
私と彼女が一緒になる事はもうない。私の本当の家族となれば彼女を死が襲うかもしれないから……、だから断った。
それなのに、私の中の彼女は一向に小さくなる事がない、消えてくれない。
そして弱い私は、ツェツィーリアを完全に断ち切る事が出来ないんだ。だから今日呼んでしまった。私の秘密を彼女にも知って欲しくて……。
そんなツェツィーリアは、私の視線に気づくと『アナタが何者であっても、私の想いは変りません』とでも言うように、驚きの表情を浮かべる事なく優しく微笑んだのだった。
君は、驚かないのか……?
どうして……。
「──その聖紋、見せて頂く事は可能でしょうか?」
この場は私とツェツィーリアだけがいる訳では無い。
聖皇女様の一言が、私を現実世界へと連れ戻す。
「主様、お見せしても構いませんか?」
私はコクリと頷き起ちあがる。
するとユリシスが私の側へと寄り、私の上着の留をはずし一枚一枚丁寧に脱がせていく。みるみると私の上半身が露になり白日の元へ晒されると、聖皇女様と枢機卿猊下が思わず感嘆の声をあげた。
「何ということでしょう。本当に聖紋ではないですか」
「は、初めて見ましたぞ……」
「聖皇女様、宜しければ背を見ていただけますか?」
「こ、これは……」「なっ……」
あの日、私の背に書かれた神聖文字を読んだユリシスは、その内容に感極まり落涙していたことを思い出す。聖皇女様はこれを見てどんな反応を示すのだろうか……。
「──唱えよ、さすれば道は開かれん。愛と慈悲をもって導く……ものなり……と書か、れて……います」
ユーリアは力なく、床に膝を着くように落ちた。
そしてユリシスの時と同じように、震える手で口元を覆い嗚咽を漏らす。その肩は小さく震え、涙はまるで透き通る水晶玉が砕け散るかのように、頬を伝い、顎の先から滴り落ちている。
「主様、お力を今こそ」
「いまここでか?」
「はい」
ユリシスはここで異能の力を使い、普通の者が知りえない聖皇女様の情報が何か得られれば、それを聖皇女様へ示すべきだと言うのである。
私は異能を以て彼女を視た。
[ユーリア・ド・クリスティアーニ・ディ・マリア、女、25歳]
[LV14、統88+7、武39、政86、知85、魅95]
[その他、ヴィヴィアーナ・ディマリア(本名)]
彼女の名であるユーリアは恐らく聖皇女名のようなモノで、ヴィヴィアーナが本当の名のようだった。
「ヴィヴィアーナ・ディマリア様それでは汚れてしまいます。さぁお立ち下さい」
「! ど、どうしてその名を?」
力なく地へ座した聖皇女にお立ち頂こうと、私は手を差し伸べる。
ユーリアはその手を掴みはするが、その美しい顔は再び驚きで固まっていた。
◇◇
「アレクシス様、貴方の背には愛と慈悲をもって導く者と書かれています。それは我らが聖教の一番大事な教えでもあります。この後どうされるおつもりでしょうか? お考えを私どもにお聞かせ頂けないでしょうか」
出会った頃よりも強く、熱い眼差しで私を見つめる聖皇女様がそこにいた。
「聖皇女様、私の父は弟と叔父により騙し討ちされ、戦場でその命を儚く散らせました。同じ戦場に在った私が今あるのは、ただ幸運と、命を賭して守ってくれた皆のお陰なのです。そして正室であった母は側妃に殺められました事ご存知ですか?」
「いえ、アレクシス様がそんな苦難の道を歩まれていたなんて……、私どもは存じませんでした。お許しください」
「皆さんの預かり知らぬ所で起きた事ですから……、続けますね?」
「はい、お願い致します」
「そこにいるツェツィーリアは、私に残された最後の身内です」
「まぁ、そうだったのですね。ツェツィーリア様、後ほど改めてご挨拶させて下さい」
「ご丁寧に有難うございます。ですが、私の事はお気になさらないで下さい」
2人の軽い会話が終わった頃合いを見て私は続ける。シュマリナ教国と我がローゼリアが手を携える事が出来るかどうか、ここが最後の勝負所だと思えたからだ。
「彼女の父と、彼女が治めたローゼンヌは我がローゼリアの隣にありました。叔父は穏やかな方で民を安んじ、その治世は身内の贔屓目があったとしても間違いなく良いモノでした。ですが、そんな彼女と彼女の父はいま我がローゼリアにいます。帝国摂政の悪意に、野望に圧し潰されそうになっていたのです」
ふぅ、息継ぎに数呼吸したのち、私は聖皇女様を強く見つめ夢を語る。
「聖皇女様、私の夢は簡単です。 親が子を殺し子も親を殺す、人を妬み嫉んでは果てに騙して奪う。こんなおろかで醜い事を人は何百年続けるのですか? 私はそれを終わらせたいのです。だから国を統べるのです。統べた暁には我が国の子供達全員に等しく教育を与えようと思っています。上も下も変わらねば人は変りません」
「それが、アレクシス様の夢ですか……、それには御国の摂政殿が邪魔なのですね?」
「我がローゼリアには幸い優秀なものが大勢おりますが、それでも、我々だけでは勝てないのです。それほどに奴の力は強大なのです」
「わかりました。詳細はまた後程として、我がシュマリナ教国はアレクシス様のお手伝いをさせて頂く事を誓います。貴方様が変わらず愛と慈悲を持って人々を導く間、我々の方からお側を離れる事は致しません」
「ほ、本当ですか? 聖皇女様!」
「はい、ですが、そのアレクシス様?」
「なんでしょうか?」
「私の事は今後ユーリアとお呼びください。敬称は不要です」
かくして聖皇女様直々の使徒判定は終わりを向かえ、ここにローゼリアとシュマリナ教国の盟はなった。この戦乱の時代にそぐわぬ強く固く結ばれた2国はアレクシスとユーリアの命ある限り別たれる事は無い。
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