そのポーター、実はダンジョンマスターにつき

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第二十八話 暗殺者の影

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遺体を亜空間に収容し、ショックで身動きも出来ない女性をターニャが負ぶい、ダンジョンを出て冒険者ギルドへ向かう。窓口で状況を説明すると奥の庭に案内され、そこに遺体を並べた。
襲撃を受けたのはEランク冒険者パーティーで、結成一年目だという。
襲撃したのはC級D級がメンバーのパーティー。
何かと評判の悪い連中だったが、表だった問題は起こしていなかったので放置されていた。

ダンジョンの中は完全な無法地帯だ。
犯罪を起こしても官憲の目は届かない。
ダンジョンで死亡すると、ほぼ一日で死体はダンジョンに吸収される。証拠は残らない。
パーティーの行方不明事件は頻発しているが、誰にも手が付けられない状況だ。
犯罪の犠牲になったのか、モンスターに倒されたのかも分からない。
そこは強さだけが頼りの無情な世界だ。

今回は狩りの帰りに、たまたま僕達が現場に遭遇した事にする。
助けた女性は一日経ってやっと喋れるようになった。でも襲われた事は覚えていても、僕達が助けに入った状況は恐慌状態で覚えていないらしい。好都合だ。雪鼬の事は説明が難しい。
これで女性は僕達の手を離れギルドに任せる。
後はオーク十二体を買い取りに出し、帰るだけだ。

カティはショックを受けていた。
結局、女性がピーされるところを見てしまった。その後も。
そしてターニャの最後の言葉も聞いたはずだ。
「あたいはもっと酷い目にあったんだ」
カティは以前、ターニャが傷だらけで戻って来た姿を見ている。
もう何があったか察しているだろう。

その夜、カティが僕のベッドに潜り込んできた。
もう十二歳なんだから、そろそろ止めさせないとな。胸も育ち始めているし。
「今日の事か?もう忘れなさい。あと、映像は誰にも見せないように」
「うん。ターニャからは何も聞いてないの?」
「ターニャは話さない。僕も聞かない。カティも聞いちゃ駄目だ」
カティは難しい顔をしてしばらく考えていたが。
「うん。分かった」
そう言ってしがみついてきた。少し震えている。
彼女が眠るまで、ずっと背中をとんとんして上げた。

翌日からダンジョンの中を少し監視する事にした。カティも協力してくれる。
僕自身、望んでダンジョンマスターになった訳じゃないから、管理なんて興味ない。
だから放置してきた。面倒なだけだからだ。
でも、僕のダンジョンの中で犯罪行為をやられるとなると、気が収まらない。
汚物を擦り付けられたように不愉快だ。

監視自体は割合面白かった。
冒険者ギルドでよく会う連中が戦っている。
戦い方は様々で、やはり連携できるパーティーは強い。
ギルドで大口叩いてるくせに弱い奴。笑える。
今のところ十四階層までは突破できているようだ。
その先が難しい。一パーティーじゃ駄目だろう。クランを組まないと。

「ねえ、アッシュ。この人達なにしているの?」
ある日、カティが言い出した。
「んん?何か変?」
「二層と三層の出入り口の近くでずっと動かないの」
なるほど。枝分かれした洞窟の行き止まりになっている当たりで六人が集まっている。
そこからは出入り口が見える。

狩りに行くわけでも採取するわけでもない。襲ってくるゴブリンや雷狼を倒しているだけだ。
腕は良い。C級かB級だろう。三日ぐらいで半数が交代するようだ。
少し離れた所で同じようなのが十五人。
おそらく少人数の方が出入口の監視、大勢の方が実働隊みたいな感じかな。
何を監視しているのだろう。

普段はうるさいので止めている音声を出す。
話し声がくっきり聞こえる。
『本当にターゲットは昨日入ったのか?』
『間違いない。茶髪の子供と栗毛の女だ』
『髪色を変えてないか?銀髪灰眼に戻しているとか』
んんんん?それ、もしかして僕達?

僕達なら一階層からブートキャンプに入るので、そこは通らないよ。
しかし、ついに来たか、ガザ侯爵の手先。
最近目立ってたからなあ。覚悟の上だけど。
僕達二人では分が悪いな。B級C級が二十人。それに交代要員も居るし。
よし、マーキングして追尾しよう。

数日かけて調べた結果、交代要員は町の宿に分宿しているようだ。
総勢五十人。
こりゃ一度に来られると敵わないかな。
それにいくら強化したとしても、雷狼と雪鼬では分が悪い。

そこで新しい従魔を召喚する事にした。
十四階層の大蜂。ついでに蜜も貯めて貰おう。
そしてブートキャンプを大拡充して十四階層の花畑を作成。
大蜂専用ゲートルームを追加して、一度に大量の大蜂を喚べるようにした。
これで僕が喚べば、大蜂はゲートルームから指定した場所に移動できる。
もちろん、ダンジョンマスター謹製カスタマイズ。

―――――――――――――――――――――――
名前:*
種類:大蜂(アッシュの従魔)
体力:350
攻撃:570
敏速:350
防御:280
器用:110
知性:100
魔力:100
スキル:毒針LV6・隠密lv8・言語理解lv2
―――――――――――――――――――――――

体長は十四層のより小さくした。隠密性を上げるためだ。
これを五十匹。一匹でもおそらくB級じゃ歯が立たないだろう。
なお、こいつらはギルドに従魔登録しない。あくまでも隠密行動に使う。
過剰防衛だって?
敵さん、どんな手を使ってくるか分からないじゃないか。

準備が整ったところで、ターニャと二人で二層へ向かう。
あらかじめ、二層の出入り口の近く上方の天井に、こっそり大蜂をとまらせておいた。
そして彼らの前に姿を現す。本当に攻めてくるか確かめるためだ。
来た、五人の男達がわらわら現れて僕達を取り囲む。
ん?一人はどうした。ああ、十五人を呼びに行ったのか。

五人の男達は無言で小太刀を引き抜き、一斉に襲ってくる。
刃先が濡れているのは毒か。こいつらマジモンの暗殺者だ。
不意を打たれたら、やられていたかもしれない。
でも大蜂には攻撃されたら即反撃と指示してある。
一瞬の急降下。五匹の蜂が男達を瞬殺する。

残り十六人が現れた。倒れている五人を見て一瞬立ち止まったが、すぐに包囲網を敷く。
敏速のスキルも高そうだな。雷狼と雪鼬じゃ突破されてやられてた。
だが、小太刀を抜いた途端、大蜂の襲撃を受ける。
本当に目に見えない。ブンという音がすると、もう大蜂が背中に毒針を突き刺している。

死体は大蜂達に運ばせ、彼らが潜んでいた枝分かれの行き止まりに集めた。
これで一日経てばダンジョンに吸収されて何も残らない。
僕達は一旦戻ってコンソールの前に座る。
何をするかって?大蜂たちをマーキングした男達に送りつけ、始末してしまうんだ。
地表といえどダンジョン領域だよ。いきなり壁から現れ消えていく大蜂を躱しようもない。
僕はディスプレーを見ながら淡々と作業?を続けた。

これで諦めてくれたら特に何もしない。
また暗殺者を送り込むなら反撃するまでだ。
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