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第二十六話 新しい環境に戸惑う
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アルシオの紹介が終わると、僕達はどっと人並みに囲まれた。
次々に飛んでくる質問。
僕とターニャはダンジョンについてとか、誘拐団襲撃についてとか矢継ぎ早に聞かれた。
他のファミリアでも冒険者が何人もいて、声を掛けてくる。
思いがけない成り行きに、ターニャはしどろもどろになりつつも何とか受け答え。
カティは僕にぴったりくっついて離れない。
オルトとアリーシェはやはり食堂について色々聞かれているみたいだ。
戸惑いの表情を見せながらも、笑顔を貼り付けて対応。オルト、成長したな。
案外元気なのはミルカとダインとクエンタ。同じような子供達と何を話しているのやら。
時々笑い声が巻き起こる。うまくやってるらしい。
ヤンニシャリラは年頃の少年達に囲まれている。
時折、気弱そうな視線を向けてくるけど、僕達も対応に大わらわだ。許せ。
怒濤の時間も終わりを告げる時が来る。
僕達は控え室に戻るなり、全員がへたり込んだ。
「……こ、怖かった」ヤンニシャリラが突っ伏したまま漏らす。
うーん、異性に免疫がないからなあ。
「疲れたよう」ミルカは大の字。
「一番はしゃいでいたからね」クエンタが揶揄う。
「訳わかんなかったよう、あのおばさん達」こぼすダイン。
ダインはおばさん、お姉さん方に人気あるからなあ。
「何か収穫があったみたいだね」ターニャがオルトに声を掛けた。
「うーん、何人かに招待された。こちらにも訪問したいって。ターニャは?」
「結構冒険者が居てね。参考になった。パーティー勧誘もあったよ」
「丁重にお断りしたけどね。おや」
気がつくと、カティが僕のお腹を枕にぐっすりお休み。
「あらあらよっぽど疲れたのね。まあ、ミルカも」アリーシャが微笑む。
ミルカは大の字で寝息を立てていた。はや。
ダインもクエンタもあくびをこいている。
年少組にはちょっときつかったかな。
でも、無事乗り切れたようでほっとする。
「おーい、生きてるか?って、何だよこの惨状」
アルシオがドアを開けて声を掛けてきた。
「……もう食べられない……」ダインも落ちたか。
「少しここで休憩していて良いかしら」アリーシェがお願いする。
「うーん、よし、馬車を出そう。着替える元気、なさそうだからねえ」
お言葉に甘えることにした。
翌日から通常運転。と思いきや、二人の教師が朝から来ていた。
午前の特訓はまだまだ続くらしい。さすがに夜は無しだ。
実際、まだ皆ぎこちない。ずっと孤立に近い状態で育ってきたんだ。
短期間の特訓ぐらいで身につくものじゃない。まだまだ付け焼き刃。
店の給仕ぐらいなら誤魔化せるが、これからファミリア同士や一般市民とのお付き合いも発生する。アルシオ絡みで貴族との接触もあるかもしれない。
まずはお披露目会で招待されたり、訪問を受ける日取りを決めなければならない。
皆で相談した。そこで、定休日を設ける事にした。よそのファミリアへ招待されて行く時は、定休日にする。もちろん、相手方と連絡を取り合って相談の上、日にちを決める。
訪問を受ける時も定休日。一階の一室を客間にしてそこでお客を迎える事にした。
二階のベッドルームには外部の人間は誰も入れない。そこは極秘スペースだ。
日常が回り始めた。
朝食が済むとお勉強と言う名の特訓。早めの昼食を終えると店を開く。
僕とターニャはダンジョンへ。夕食を食べると自由時間だ。大抵は本を読む。皆がだ。
居住部分に図書室を拡張し、大量の本を購入してあるからね。
この世界、娯楽なんてない。だから本は貴重な娯楽でもあるんだ。
食堂は昼食時と夕食時の間、少し暇になる。
この時、年少組とアリーシェは交代でブートキャンプに潜る。
そして休日もファミリアとの交流に関わらない者はやはりブートキャンプ。
そうこうしているうちに年少組にお友達ができた。最初はファミリアの家族、徐々に一般家庭の家族へと交流が広がる。
僕とターニャはオークと鎧猪を狩りまくっている。一部は食材として、残りはギルドへ。
ギルド売却は四~五日に一度まとめて行う。だって、九階層、十階層を毎日往復するなんて、普通の冒険者には出来ないからね。僕達はゲートルームから直行できる。
冒険者ギルドでは声を掛けられる事が多くなった。
ターニャは臨時でも良いからパーティーに参加した方が良いと勧められた。チーム戦に慣れておいた方が良いからだそうだ。
うーん、それもそうだ。僕と二人だけでは戦いのバリーエーションが増えない。
「ターニャ、オークキングを倒そう」ある日、ターニャにそう持ちかけた。
「え、どうして?前に倒してるじゃない」
「今度はバフをかけないでやるんだ。防御は上げておくけどね」
ターニャはちょっと考えてニヤッと笑った。
「うん、そろそろ頃合いか」
そう、頃合いだった。
オークキングとの戦いはほぼ前回通り。ただし、バフ無しで。
僕はパンチの直撃を食らわなくなったし、ターニャの一撃も強くなった。
倒し終わってもへたり込んだりしない。駆け寄ってハイタッチ!
オークキングをギルドに持ち込んだら大騒ぎになった。
十階層時代はほんのごく希にしか持ち込まれていない。
ダンジョン拡張後は外部から来たC級、B級のパーティーばかりだったからだ。
それが地元のベテラン、C級ターニャがソロで狩った(ほんとは僕も居るんだけど)。
それが驚きを呼んだ。
でも、これでやっと塩漬けのオークキングを買い取りに出せる。
そう、最近外部からやって来る冒険者が増えた。特に上級冒険者。
それによってアンザックも変わりつつある。
以前は初級ダンジョンという事でせいぜいC級止まり。
それがアルシオ達の調査結果が広まり、ミスリル採取の報告が知られると一気に上級冒険者が押しかけてきたのだ。
元々、ダンジョンを中心に無秩序に広がっていったアンザックは、不法なバラック建てが多く、住民もきちんと管理されていたとは言いがたい。代官の手抜きもあって無法地帯になっていた。
それがA級、B級が来るようになると、今の安宿では泊まってくれなくなった。
これまでの不法バラックは強制撤去され、新しく小ぎれいな宿が建ち並ぶ。そのための職人が増え、高級素材を狙って大商人が乗り込み始め、従業員の家が新築され、と領主館を中心として町並みがどんどん変貌していく。
それは拠点周りにも及び始め、近所では新築の槌音が響く。
ある日、隣の家から引っ越しの挨拶が来た。
もちろん、橋の下の塒でそんな事があるはずもなく、オルトはどうして良いか分からない。完全に挙動不審に陥った。アリーシェが急いで応対を代わる。
夕食時その話が出ると皆困惑の表情を見せた。
「外は敵ばっかりじゃないの?」ダインが率直な疑問を口にする。
そう、今までは外敵に神経を尖らし、そうすることで生きてきたんだ。
でもこれからは違う。少しずつ認識を改めていかなければならない。
「敵と味方を見分けないといけなくなるね」
「なんか難しそう」
ダンジョン拡張の影響がこうまで大きくなるとは。え?僕のせい?う~~ん……
次々に飛んでくる質問。
僕とターニャはダンジョンについてとか、誘拐団襲撃についてとか矢継ぎ早に聞かれた。
他のファミリアでも冒険者が何人もいて、声を掛けてくる。
思いがけない成り行きに、ターニャはしどろもどろになりつつも何とか受け答え。
カティは僕にぴったりくっついて離れない。
オルトとアリーシェはやはり食堂について色々聞かれているみたいだ。
戸惑いの表情を見せながらも、笑顔を貼り付けて対応。オルト、成長したな。
案外元気なのはミルカとダインとクエンタ。同じような子供達と何を話しているのやら。
時々笑い声が巻き起こる。うまくやってるらしい。
ヤンニシャリラは年頃の少年達に囲まれている。
時折、気弱そうな視線を向けてくるけど、僕達も対応に大わらわだ。許せ。
怒濤の時間も終わりを告げる時が来る。
僕達は控え室に戻るなり、全員がへたり込んだ。
「……こ、怖かった」ヤンニシャリラが突っ伏したまま漏らす。
うーん、異性に免疫がないからなあ。
「疲れたよう」ミルカは大の字。
「一番はしゃいでいたからね」クエンタが揶揄う。
「訳わかんなかったよう、あのおばさん達」こぼすダイン。
ダインはおばさん、お姉さん方に人気あるからなあ。
「何か収穫があったみたいだね」ターニャがオルトに声を掛けた。
「うーん、何人かに招待された。こちらにも訪問したいって。ターニャは?」
「結構冒険者が居てね。参考になった。パーティー勧誘もあったよ」
「丁重にお断りしたけどね。おや」
気がつくと、カティが僕のお腹を枕にぐっすりお休み。
「あらあらよっぽど疲れたのね。まあ、ミルカも」アリーシャが微笑む。
ミルカは大の字で寝息を立てていた。はや。
ダインもクエンタもあくびをこいている。
年少組にはちょっときつかったかな。
でも、無事乗り切れたようでほっとする。
「おーい、生きてるか?って、何だよこの惨状」
アルシオがドアを開けて声を掛けてきた。
「……もう食べられない……」ダインも落ちたか。
「少しここで休憩していて良いかしら」アリーシェがお願いする。
「うーん、よし、馬車を出そう。着替える元気、なさそうだからねえ」
お言葉に甘えることにした。
翌日から通常運転。と思いきや、二人の教師が朝から来ていた。
午前の特訓はまだまだ続くらしい。さすがに夜は無しだ。
実際、まだ皆ぎこちない。ずっと孤立に近い状態で育ってきたんだ。
短期間の特訓ぐらいで身につくものじゃない。まだまだ付け焼き刃。
店の給仕ぐらいなら誤魔化せるが、これからファミリア同士や一般市民とのお付き合いも発生する。アルシオ絡みで貴族との接触もあるかもしれない。
まずはお披露目会で招待されたり、訪問を受ける日取りを決めなければならない。
皆で相談した。そこで、定休日を設ける事にした。よそのファミリアへ招待されて行く時は、定休日にする。もちろん、相手方と連絡を取り合って相談の上、日にちを決める。
訪問を受ける時も定休日。一階の一室を客間にしてそこでお客を迎える事にした。
二階のベッドルームには外部の人間は誰も入れない。そこは極秘スペースだ。
日常が回り始めた。
朝食が済むとお勉強と言う名の特訓。早めの昼食を終えると店を開く。
僕とターニャはダンジョンへ。夕食を食べると自由時間だ。大抵は本を読む。皆がだ。
居住部分に図書室を拡張し、大量の本を購入してあるからね。
この世界、娯楽なんてない。だから本は貴重な娯楽でもあるんだ。
食堂は昼食時と夕食時の間、少し暇になる。
この時、年少組とアリーシェは交代でブートキャンプに潜る。
そして休日もファミリアとの交流に関わらない者はやはりブートキャンプ。
そうこうしているうちに年少組にお友達ができた。最初はファミリアの家族、徐々に一般家庭の家族へと交流が広がる。
僕とターニャはオークと鎧猪を狩りまくっている。一部は食材として、残りはギルドへ。
ギルド売却は四~五日に一度まとめて行う。だって、九階層、十階層を毎日往復するなんて、普通の冒険者には出来ないからね。僕達はゲートルームから直行できる。
冒険者ギルドでは声を掛けられる事が多くなった。
ターニャは臨時でも良いからパーティーに参加した方が良いと勧められた。チーム戦に慣れておいた方が良いからだそうだ。
うーん、それもそうだ。僕と二人だけでは戦いのバリーエーションが増えない。
「ターニャ、オークキングを倒そう」ある日、ターニャにそう持ちかけた。
「え、どうして?前に倒してるじゃない」
「今度はバフをかけないでやるんだ。防御は上げておくけどね」
ターニャはちょっと考えてニヤッと笑った。
「うん、そろそろ頃合いか」
そう、頃合いだった。
オークキングとの戦いはほぼ前回通り。ただし、バフ無しで。
僕はパンチの直撃を食らわなくなったし、ターニャの一撃も強くなった。
倒し終わってもへたり込んだりしない。駆け寄ってハイタッチ!
オークキングをギルドに持ち込んだら大騒ぎになった。
十階層時代はほんのごく希にしか持ち込まれていない。
ダンジョン拡張後は外部から来たC級、B級のパーティーばかりだったからだ。
それが地元のベテラン、C級ターニャがソロで狩った(ほんとは僕も居るんだけど)。
それが驚きを呼んだ。
でも、これでやっと塩漬けのオークキングを買い取りに出せる。
そう、最近外部からやって来る冒険者が増えた。特に上級冒険者。
それによってアンザックも変わりつつある。
以前は初級ダンジョンという事でせいぜいC級止まり。
それがアルシオ達の調査結果が広まり、ミスリル採取の報告が知られると一気に上級冒険者が押しかけてきたのだ。
元々、ダンジョンを中心に無秩序に広がっていったアンザックは、不法なバラック建てが多く、住民もきちんと管理されていたとは言いがたい。代官の手抜きもあって無法地帯になっていた。
それがA級、B級が来るようになると、今の安宿では泊まってくれなくなった。
これまでの不法バラックは強制撤去され、新しく小ぎれいな宿が建ち並ぶ。そのための職人が増え、高級素材を狙って大商人が乗り込み始め、従業員の家が新築され、と領主館を中心として町並みがどんどん変貌していく。
それは拠点周りにも及び始め、近所では新築の槌音が響く。
ある日、隣の家から引っ越しの挨拶が来た。
もちろん、橋の下の塒でそんな事があるはずもなく、オルトはどうして良いか分からない。完全に挙動不審に陥った。アリーシェが急いで応対を代わる。
夕食時その話が出ると皆困惑の表情を見せた。
「外は敵ばっかりじゃないの?」ダインが率直な疑問を口にする。
そう、今までは外敵に神経を尖らし、そうすることで生きてきたんだ。
でもこれからは違う。少しずつ認識を改めていかなければならない。
「敵と味方を見分けないといけなくなるね」
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