そのポーター、実はダンジョンマスターにつき

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第二十三話 ミスリル採集ミッション

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いよいよダンジョンに入る。大人数なので目立つのなんの。
そんな目線は何なの。
例によって途中の戦闘は極力回避。
まっしぐらに二十階層を目指す。
十階層までは前と同じ二日で通過。ボスは瞬殺。凄いな、A級。

さすがにそれ以降はさくさくとは行かずとも、それでも順調に進む。できるだけ無駄な戦闘は避ける。魔導師達が探知魔法を使ったおかげだ。
おかげでダンジョンの目を知られずに済む。
今回は僕やターニャの出番はあまりない。

カティとは毎日連絡を取り合っている。
――カティ、今日はどうだった?
――うん、また来たよ、汚いおっちゃん達。でもガンマが追っ払っちゃった。
また僕とターニャの居留守狙いか。ほんと、懲りないな。
――そいでね、アリーシェがあんまり殺すの良くないって。
おお、常識の先生、仕事をしてくれる。
最近、カティもミルカも容赦が無くなってたからな。殺人鬼を育てるつもりは無い。

十八階層で初めて弩の出番が来た。オーガジェネラル。強い。
魔導師達の火力にボロボロになりながらも、大剣とハルバートに渡り合う。
「弩三機準備!」アルシオの声が響き渡る。
さっと騎士さん達の手が上がる。
僕は駆け回って、手を上げた騎士さん達の前に弩を出す。
二人がしゃがんで弩の下の突起を支え、一人が照準を付ける。

「前衛、下がれ!弩発射!」
号令と共に、ゴウ、と音を立てて矢が飛んだ。
見事、三本の矢はオーガジェネラルの体に突き立つ。いや、貫通してる。
オーガジェネラル、堪らず膝をつく。
すかさず、前衛が一斉攻撃をかけた。
打つ、突く、ぶった切る、滅多打ちだ。うわあ……
最後にハルバートの一閃がオーガジェネラルの首を飛ばした。

「ふむ。前哨戦としてはまあまあかな」アルシオが呟く。
「前哨戦?」
「目的はミスリル。厄介なのはトロールだからね。ここのダンマスは意地が悪い」
いえいえいえ、そんな。あくまでもデフォルト設定。僕のせいじゃありません、てば。

打ち終わった弩には新しく矢が装填される。横に付いているクランクをぐるぐる回して弦を引くようになってる。ちょっと時間がかかるな。三十秒ってところか。
ああ、そうか。速射性に問題があるから、余分に装填済みの弩を用意しているわけか。
「装填しっぱなしで良いんですか?弦が緩んだりしません?」
「普通はね。でも、君のマジックバッグは時間停止出来るんだろ。だからこその運用さ」

なるほど、アルシオが僕にこだわった訳だ。
打ち出した矢を回収し、装填済みの弩を亜空間に収納する。
その日はここで野営。魔導師達は野営地に強力な結界を貼る。

翌日は十九階層。
出会うミノタウロスを危なげなく倒していく。
強力な前衛と魔導師達の魔法で安定した戦いっぷりだ。僕の出番は無かった。
二十階層の入り口に到達した後、野営地で一日の休息を取る。

翌朝、朝食を終えて、アルシオが皆を集めた。
「諸君、いよいよ最下層だ。ここで三グループに分ける。一グループに三機、弩を配置する。魔導師パーティは一人ずつ僕のパーティー寄越してくれ。ここのトロールはいきなり間近に出現する。真ん中に出現されたグループはまず逃げろ。他のグループは射線を確保次第攻撃。細切れになっても油断するな。トロールの復元力は半端じゃない。最後は焼き尽くせ」
おーっ、と歓声が上がる。

アルシオの指示に従い、僕は各グループに弩と矢を配って歩いた。
なるほど、ここからはその都度じゃ無く、あらかじめ弩を持って歩くのか。
魔導師達が全員に体力強化と防御魔法を掛けて廻る。
僕は念のため擬態スライムの防御力を最大に上げた。もちろん、ターニャもだ。
いくら死に戻れるからって、死ぬのは怖いし、痛い。

全員、ぞろぞろと階層の入り口に入っていく。
見渡す限りの平原。各グループは三角の頂点になるよう、二十歩ほどの距離を取って進んだ。
ミスリルは平原に露出しているらしい。
それを誰かが見つけた。

と、その時。
「トロールが出たぞ!真ん中だ!弩射て!」アルシオが叫んだ。
各グループの描く三角形の真ん中。つまり、僕達とは少し距離がある。
すかさず各グループから一射ずつ矢が放たれ、トロールに突き刺さる。
トロールはどのグループを襲おうか、途惑っているようだ。

「魔法!」アルシオの指示が飛ぶ。
ん?魔法が放たれない。
と首を傾げていると、突き刺さった矢が大爆発を起こした。
矢が刺さっていた部分が吹き飛んで穴になっている。
さすがのトロールも足取りがおぼつかない。

「弩射て!」
次の矢が三本。これも命中。
「魔法!」
大爆発。
トロールの上体が千切れて落ちた。

前衛が一斉に突っ込む。
抵抗できないがまだ生きているトロールを滅多打ち。
文字通り細切れにしていく。
それでも肉片は蠢いて完全に死んではいない。なんてタフなんだ。
すると、前衛の人達が筒状の物を放り投げて戻ってくる。
あれって、魔石を詰めた筒?

「魔法!」
筒がボンと音を立てて火焔が広がる。それがどんどん広がってトロールの残骸を覆い尽くした。
しばらく燃え続けていた火は、やがて所々で収まり始め、最後には黒い地面だけになって燃え尽きた。
アルシオはその燃え後を調べて廻り、ぐんと拳を振り上げて叫んだ。
「討伐完了!」
うおーっ、と歓声が上がる。

矢にも魔石が組み込んであったのか。そしてそれらを爆発させる魔法は目に見えないらしい。
その後、ミスリル採取に入った。三角の陣形はそのまま。
防御魔法と体力強化のおかげで、もしトロールが現れても大丈夫らしい。
結界は中に出現されると意味が無いので不採用とのこと。
僕は三つのグループを駆け回ってミスリルを受け取り、亜空間に収容する。

その日は後二回トロールが現れ、同様の方法で討伐した。
今回はけが人も出ていない。アルシオの作戦勝ちだ。
「もしかして、この階層はわざと集団の真ん中にトロールを出現させるんじゃないかと思ってね。何か手を打たれるんじゃないかと思ってたんだが、案外抜けてるよね、ここのダンマス」
抜けてません!これがデフォルトなんですう。

野営は十九階層に戻ってやる事になった。二十階層で寝てる間にポップされたら、ね。
翌日もミスリル採取。
トロールは五体出た。うち一回は二体同時。
その翌日もミスリル採取。どんだけ採るんだよ。もう何トンにもなるんじゃないか?
そして二体トロールが現れた後、トロールキングが出た。

さすがにトロールキングは強い。
矢は五十本以上使った。
穴だらけになりながらも近寄って来ようとするので、足を集中的に狙い、動けなくしてからハリネズミのように矢を突き立て、大爆発を起こしてやっと細切れに出来た。
爆風で何人かがすっ転んだほどの規模だった。

「では転移陣が出たところで凱旋しようじゃないか」
なんだ、トロールキングが出るのを待っていたのか。
ミスリルを欲張ってたのかと思ったぞ。
ちゃんとトロールキングを倒す算段があったんだな。

今回は死者ゼロ。大成功じゃないか!
アルシオに畏敬の念を覚えたのはこれが初めてだ。
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