そのポーター、実はダンジョンマスターにつき

G.G

文字の大きさ
上 下
16 / 32

第十五話 ダンジョン突入③

しおりを挟む
ここで再度確認しておこう。
自動生成させたモンスターはダンジョンマスターの制御下にない。生成にダンジョンマスターの条件付けが入ってないからだ。
だから僕がモンスターを倒す条件は通常の冒険者と変わらない。
たった一つ、ダンジョンマスターはダンジョン内では死なない。らしい。

本当かどうか、試すのは怖すぎるので、チュートリアル先生の言葉を信じることにしていた。
まさか本当にそれが試される場面が来ようとは。

慎重に二十階層へ降りると、しばらく歩くまでトロールには遭遇しなかった。
二十階層は見渡す限り平原が広がり、見通しは良かった。それが油断だった。

トロールがいきなりポップしたのだ。それも隊列の真ん中で!
「GROOOOOOOOOO!」
咆哮とともにその丸太のような腕を振り回す。

真ん中に居た騎士二人が吹き飛ばされた。何度か地面をバウンドして止まった時は既に肉片になっていた。
「隊列換え!前衛はトロールを囲め!中衛、後衛はトロールから離れろ!」
アルシオの声が響き渡る。
呆然としていた冒険者たちが素早く動き出した。

僕とターニャもトロールから距離を取ろうとしたが、一瞬遅かった。
トロールの巨大な拳骨が目端に映る。刹那、本能的にターニャを突き飛ばす。
間髪を入れずもの凄い衝撃を感じた。
偽装スライムが無ければ、僕はあの気の毒な騎士さんと同じ運命を辿ったかもしれない。
それでも意識は完全に飛んだ。


気がつくと、僕はターニャの腕の中にいた。
「アッシュ!良かったあ、生きてた。大丈夫?馬鹿なんだから、もう」ターニャは涙声。
周りを見回すと戦闘はまだ続いていた。
「ターニャ、僕どれくらい寝てた?」
「小半時(三十分)くらい……って、心臓止まってたのよ。でも、カティが」
「え?カティはねぐらだろ?」
「声がしたの。アッシュはまだ死んでない、待ってれば心臓が動き出すって。それまで守ってって」

僕は思わず体中を撫で回した。痛いところがない。
「はあ?」でも、何でカティ?
「擬態、解けてるわよ」ターニャがそっと耳打ちした。
トロールの打撃は擬態スライムも破壊してしまうのか。その上で僕の心臓を止めるまでの威力があるのか。いや、ただのトロールじゃない。トロールキングだ。階層ボスだ。
このままじゃ危ない。何よりターニャの命が掛かっている。
もうためらってる場合じゃない。

冒険者達で無傷の物は誰も居なかった。半数は地面に伏せている。
薄い膜が覆って居るのは、アルシオの防御魔法だろう。
いつのまにかトロールは二体になっていて、状況は絶望的。

―――チュートリアル先生、ダンジョンの壁は動かせるかい?
―――可能です。
―――あのデカ物の周りを壁で遮断して閉じこめてくれ。
―――了解。
―――あと、擬態スライムを一体頼む。やられちまった。
―――では、強化版を召還します。

すぐに地響きとともにダンジョンの地面がせり上がり、トロール達を取り囲んだ。
トロールの姿が見えなくなると、アルシオ達がへたへたと地面に座り込む。
「どうなってるんだ?」
「助かったのかよ」
「いや、油断するな、今のうちにけがの手当を」アルシオはさすがの指揮を執る。

僕はダンジョンの目を通して、壁に閉じこめられたトロールを確認する。
本当にタフな奴らだ。ダンジョンの壁を殴って少しずつ削り取っている。
だめだ、放っておけない。
どうしてやろうか。手段はいくらかある。

ダンジョン管理を使うとどこかへ転移させる罠が使える。
時空制御を使うと、時間を戻してポップ前の状態、つまり消滅させることができる。
また、空間をずらして断裂することも可能。ただし、どれもやったことはない。
一応、スキルの性質からできるだろう、という程度の物だ。
トロールは壁に閉じこめられて皆からは見えない。ちょうど良い機会だ試してみよう。
ダンジョンマスター死なない試験も出来ちゃった事だしな。

まずは擬態スライムを付け直す。
それからごめんよ、ターニャ。いかにも介抱されてますってカモフラージュしとく。
こうして無詠唱でスキル発動すれば誰にも分からないだろう。僕は気持ちいいし。

まず時間逆行だが、少し戻すとダメージを貰ってない状態になることに気づいた。
元気づいたトロールがいつ壁を壊すか分からないので中止。
ダンジョン管理で転移罠をセットしようとしたが、飛び先がランダムなので壁から近くに出してしまえばもっと危険になってしまうので中止。

結局、時空制御で断裁することに。
ただ、このスキル、座標の設定が難しい上、動く相手だと難易度が跳ね上がる。
何度も座標をはずしたけど、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるで、ついに捉えた。
空間のずれた断面がトロールの体の位置に出現する。そして存在を空間ごと分離する。

ズバッ!ザクッ!ドシャ!

トロールの復元力は馬鹿にならないので、念入りに細切れにする。
ターニャを狙ったんだぞ。許してやるもんか!
そうしているうちに意識が朦朧としていつのまにか気を失っていたらしい。
ほんの数分らしいが、どうやら魔力切れらしく体の力が入らない。
時空制御のスキルも魔力を使うんだな。気をつけよう。
「アッシュ、死に戻ったばかりなんだから無理しちゃだめよ」
ターニャは僕が何かをしていたのに気づいたらしい。

「アッシュは大丈夫なのか?」アルシオが声をかけてきた。
どうやら一段落したんだな。
「僕は大丈夫です。どうなってますか?」
「壁が消えたら中のトロールが細切れになってたよ」
「ダンジョンの罠ですかねえ」ほのめかせてミスリードを誘う。
「どうだろうね。もし俺たちがあの壁に囲まれてたらと思うとぞっとするよ」

うん、どうやら時空制御の発動には気付かれなかったようだ。
僕はまだ子供のポーターで、そのためにだけマジックバッグを使ってるって事になってるからね。

「みんな、どうやらあの二体は階層ボスだったみたいだな。入り口への転移陣が開いてる。一休みして食事にしよう。適宜、傷の手当てしといてくれ」
そう言って、セルシオは座り込んで大きくため息をついた。死者が出てしまったんだ。リーダーとしては気が重いこったろう。

入り口への転移陣が開いたのはとてもラッキーだ。十日以上かけて戻らなくて済む。
宝箱も出た。魔法の鎧甲に魔法剣セット。国宝級だろう。これは領主へ献上することになっている。
怪我の手当も終え、死者の弔い――と言っても黙祷して亜空間に入れて持ち帰る準備――をするとまずは食事だ。全員、戦闘で腹ぺこになってる。
最後なので手持ちの酒も出した。そこでやっと笑い声が上がった。
犠牲者が出たとは言え、大きな成果を持ち帰れるんだ。笑顔が出たっておかしかないだろう。

疲れているが他のトロールが現れないとも限らないので、野営はせず転移陣で帰ることにした。
ギルドまで帰って解散だ。
僕たちポーターは余った資材をギルドに返し、報酬を貰って終了。
アルシオさん達はギルドマスターへの報告があるらしい。休みなしでご苦労様。

さて、僕も帰ったら一仕事ある。
カティが何をしたか確かめなくっちゃ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷
ファンタジー
目覚めるとそこは異世界で、俺は道端でお布団にくるまっていた 思わぬ″状態″で、異世界転生してしまった俺こと倉井礼二。 だがしかし! そう、俺には″お布団″がある。 いや、お布団″しか″ねーじゃん! と思っていたら、とあるスキルと組み合わせる事で とんだチートアイテムになると気づき、 しかも一緒に寝た相手にもその効果が発生すると判明してしまい…。 スキル次第で何者にでもなれる世界で、 ファンタジー好きの”元おじさん”が、 ①個性的な住人たちと紡ぐ平穏(?)な日々 ②生活費の為に、お仕事を頑張る日々 ③お布団と睡眠スキルを駆使して経験値稼ぎの日々 ④たしなむ程度の冒険者としての日々 ⑤元おじさんの成長 等を綴っていきます。 そんな物語です。 (※カクヨムにて重複掲載中です)

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...